明治元年(1868年)、宮城県石巻市に生まれた安田恭輔がエスキモーのフランク安田となり、新天地を見出すまでの実話に基づいた物語。
医師の家に生まれ、本人も医師になるつもりでいたのに両親は恭輔が15歳のときに他界。
進学が絶たれ、外国航路の見習い船員となり、結婚を意識していたお相手の親にも拒絶され、アメリカへ。
密漁船の監視をする巡視船に乗り換え、下積みをする中信頼を得ていくが、氷で行く手を阻まれ、食料が不自然に減っていると知れたとき、差別に基づいて責任を負わされる。
彼は極寒のアラスカを一人で歩く。補給基地に救助を求めるため。
船に残ってもリンチが待っている。だから行くしかなかった。
もうだめかというとき、エスキモーが助けてくれた。
無事に窮地は免れた。しかし彼は船に戻れない。現地に残ることになった。
エスキモーたちと生活を共にする。クジラやアザラシを捕った。
しかし白人の密漁船が乱獲を繰り返す。食べられる動物はいなくなる。
おまけに疫病も流行る。エスキモーたちは絶滅の危機に瀕した。
そこへ金鉱探しの白人が来る。新天地探しを兼ねて、安田は食料確保の役目を引き受け、金探しに出る。
果たしてその金は見つかった。鉱山としての経営も順調に進められた。
しかしまだ問題が。その新天地はインディアン居住地の隣だった。
インディアンの首長との交渉はこの作品の山場の一つです。
こんな波乱に富んだフランク安田の生涯が描かれています。
作者の新田次郎が、どうしても書きたかった人物と言われています。
本当に人生はどこでどう変わっていくかわからない。
わからないときこそ、歴史上の人物の生涯を描いた小説を読むと少し距離ができて見えてくるというか。
自分の人生が相対化されて楽になるというか。
新田次郎の奥様の藤原ていさんの満州引き揚げ体験記『流れる星は生きている』を読んだ後だと、このご夫婦に通底しているものがあると感じられる。
それは生きる誠実さ。
華々しくはないかもしれない。でも、使い切れない情報が高速で飛び交う今、足元を見つめ直すには最適の一冊なのではないでしょうか。
新田次郎著/新潮文庫/1980
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