前回の「植物知識」に続いて牧野さん。「バナナの皮」についての記述は重複していましたが、他は初読みと思われます。
「植物に感謝せよ」では次のように書かれています。
「人間は生きているから食物をとらねばならぬ、人間は裸だから衣物を着けねばならぬ。人間は雨風を防ぎ寒暑をしのがねばならぬから家を建てねばならぬのでそこで始めて人間と植物との間に交渉があらねばならぬ必要が生じてくる。
右のように植物と人生とはじつに離すことのできぬ密接な関係に置かれてある。人間は四囲の植物を征服していると言うだろうがまたこれと反対に植物は人間を征服しているといえる。そこで面白いことは植物は人間が居なくても少しも構わずに生活するが人間は植物がなくては生活できぬことである。そうすると植物と人間とを比べると人間の方が植物より弱虫であるといえよう。つまり人間は植物に向こうてオジギせねばならぬ立場にある。衣食住は人間の必要欠くべからざるものだが、その人間の要求を満足させてくれるものは植物である。人間は植物を神様だと崇拝し礼拝しそれに感謝の真心を捧ぐべきである」
こんなにもはっきりと植物愛を語る人を他に知りません。でも、確かにそう。植物がなければ、人は呼吸すらできなくなってしまいます。
身近に植物があれば落ち着く。それは人の本能と言えるのかもしれません。
その植物のことを知ることがその人の人としての幅になるような気もします。人と植物は切っても切り離せませんから。
様々な植物のことが語られています。松竹梅、椿、山茶花、スミレ、カキツバタ、浮き草、蓮、菊、イチョウ、ススキ、富士山の植物などなど。
表題の「花はなぜ匂うか」。それは虫に花粉を運んでもらうためです。そのために様々な色も花は身につけます。風を頼りにする花は、匂わなければ目立ちもしません。
意外に知らなかったのは「浮き草」。浮き草はどうやって増えているのか?
分裂を繰り返していました。
では、浮き草は冬どうしているのでしょう?
寒くなると、浮き草は沈むのだそうです。水中でじっと耐え忍び、春になるとガスを出してまた浮き上がってくる。なんてしたたかなのでしょう。
松がなぜめでたいのか?
生命力が強いからです。津波でも生き延びた松があることは有名になりました。
そして菊。私は「菊田」なのでどうしても意識してしまいます。
菊は、花の中でも上等なのだそうです。どうしてでしょうか?
実は、菊の花。花びらの内側部分に花がぎっしりと詰まっています。小さな花々が寄り集まって一つの大きな丸い花を作っています。そうすることで、虫が来たら一斉に受粉できるようになっていました。効率的に種ができるように進化していました。
まだまだ無数に、植物の数ほど「へえ」があります。その一つ一つを知っていくことが楽しくないはずがありません。人の抱える孤独も植物と戯れていればいつの間にか消えてしまいます。ヘッセもガーデニングが趣味でした。
やっぱり、植物に感謝しかないですね。
牧野富太郎 著/平凡社/2016
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