鹿の前足二本と鹿のレバーをスモークした。
前足には豪塩といって塩にほんの少しの三温糖とセージとオールスパイスを加えたものを丁寧に刷り込む、そしてまぶす。これの天地を変えながら3日間漬け込む(腿なら一週間~十日)かなりキツイ塩漬けである。分量なんて関係ない、塩抜きをキチンとやればそれでよいのだ。とにかく塩をたっぷりとまぶすことだ。
何故それほどキツイ塩漬けにするのか、それは浸透圧によって血液や不純物を外に出すのである。もちろん殺菌もある。昨今流行の燻製ゴッコではほんの気持ち、表面程度しか漬け込みをしない人が多いようだが嘆かわしいことだ、燻製の本質を分かっていない。まぁゴッコだから致し方ないのだが。
鹿のレバーはソミュール液に漬け込んだ。これは濃塩分の漬け汁である。このソミュールをいちいち、水がどのくらいだから、塩はいくらなどと計算して塩分濃度何%と計算している人もいるようだ。教本には一応の目安で書いているのであって、その素材や質(主に脂分)などで濃度は変えるべきである。と私は思う。塩抜きの時間にしてもしかり、教本どおりではいけない、その素材の脂分によっても違うし、塩抜きに使う水の温度によってもかなりの差がでる。まず指で押さえて弾力をみる。そして端っこを切り取り火を通して舌で味わうのが一番だ。経験と勘がたよりである。沢山の失敗をするがいい。失敗によって知識は技能に変わる。
脂分の多い素材は失敗しにくいが鹿や老鶏など脂の少ない素材はかなり慎重にやらねば必ず失敗する。第一に気をつけねばならぬことはしっかり塩抜きをすること、脂分がないと直接舌に塩分がさわるのだ。第二に煙を控えること。これも脂分が煙のタール分を抑えるので脂分がないと苦味を感じる。第三にできるだけ大きなスモーカーで燻製をすることだ。
燻製はきめられた温度を維持することがとても重要なことの一つであるが、熱源と素材 の距離があれば失敗も少なくなるし、上品な出来上がりとなる。これはけむりが素材の周りをゆっくりとおよげるからだ。避けたいのは小さなスモーカーにぎゅうぎゅうに素材を詰め込むことである。最重要なのは煙の量に気を配らねばならないということだ。燻製とはただの煙まぶしではない。空間の狭い密室で煙をもうもうと充満させれば表面にタール分が付き、苦くて下品な仕上がりとなる。燻製とは煙の魔術である。温度や漬け込みはその魔術をおこなうための条件なのである。
だからその生贄(素材)によって煙の量や質を選ばねばならない。鹿や淡白な魚などは少な目の煙をまるでワルツのようにくゆらせたい。猪や牛、豚、羊はロックやサンバのように賑やかにやるのがいいだろう。煙ももっと多めがいい。だが気をつけねばならぬことは煙を溜め込まないということだ。絶えず煙を外に逃がしてやる。温度を維持するように煙の量も一定にしてやることだ。密閉したままでやるとだんだん煙が充満し、煙の密度が濃くなってくる。これでは燻製とは呼べない。煙の魔術からもほど遠くなる。
ジャーキーの場合は窓を大きく開け煙と一緒に風が起こるようにしてやると水分が飛ばされ味が肉の中にギュッと閉じ込められる。燻製は簡単なようでなかなか奥が深い。燻製はだれにでもできるであろうが、上品で上等な燻製を作るには経験と素材と技術とそれなりのスモーカーが必要なのである。だが、難しく考えないで楽しくやって欲しい。燻製ゴッコでも良いのだ。自分か美味いと思えばそれでよいのだ。味覚は千差万別である。
燻製は男の遊びだ。「ワイルドに繊細に」楽しみたいものである。
※以上の講釈は知ったかぶりのオヤジの独断と偏見にまみれている。ご用心あれ。
おっと、調子に乗って独りよがりでほざいてしまった。反省しつつ振り出しに戻ろう。
鹿の前足は超レアに仕上がった。しっとりした生肉のようで、生肉ほど水っぽくない。塩分もしっかり抜いてある。福岡市内から久しぶりに遊びに来た友人(大学の先生で飲み食べ道楽)に一本お土産にあげた。鹿のレバーの燻製をスライスして味見させたら絶賛してくれた。実は鹿のレバーの燻製は3年ぶりだが前回は気に入らないできだったので今回は慎重にやったのだ。
柔らかくジューシーでクセもない。ライ麦パンに乗せて食うとビールが美味いだろうなぁ。表面をそげば簡単に裏ごしできる。レバーペーストにしてセロリの溝に詰めてかじろうか。
誰かこういうの好きなヤツが来ないかなぁ。大盤振る舞いしてやるのだが、、、、、、。
こんな美味い酒の肴があるというのに、只今、新たな願掛けのため31日まで4日間の断酒中。トホホなのだ。今日も夜が長いぞ~!