「このちょうちょ、飛ばないの。」
朝、母の言葉。
見ると、ふせたザルの中に、白い蝶が居た。
「え?蝶を摑まえたの?」
「だって、じっとしてるのよ。飛んで行かないの。」
確かに、葉っぱにしがみついている蝶をザルから出しても、そのまま動かない。
よく見ると、翅の先が曲がっている。
「怪我してるのかな?死んじゃうのかな?寒いだけかしら?」
母が心配そうに覗いた。
揺すってみると、少し羽ばたいた。
葉っぱから床に逃げたけど、飛ぶと言うより落ちる感じ。
体を支えるバランスも悪そう。
葉っぱを差し出すと、また しがみ付いた。
「お日様に当てたら元気になるかもよ。」
外に出ると、まだひんやりとした空気だったけど、お日様の光が庭に差し始めている。
三つ葉の森に葉っぱを差し出すと、よちよち歩きで移動するだけ。
翅をばたつかせても飛び上がれない。
曲がった翅のせいかな?
いいよ、飛べないならここに居たらいい。
ネットで調べて、エサを用意してあげよう。
この小さな庭で、一緒に暮らそう。
しばらく見ていると、羽をばたつかせる回数が増えて、少しづつ移動するようになった。
地面すれすれを1m位這うように飛んで、優雅な舞い、とはほど遠い。
辿り着いたのは、去年挿し木で根付いたラベンダー。
翅の曲がり方、分かるでしょうか?先が開いています。
ラベンダーと蝶の風景は、とても綺麗。
じっくり写真でも撮らせてもらおう!・・・と思ったら、また移動。
おお、ブレブレ!
その時、強い風が吹いた!
蝶はふわりと舞いあがり、一瞬で空に舞った。
風が止んでも、上へ上へと飛んで行く蝶。
そうして、隣のアパートの屋根の向こうに消えてしまった。
ははは・・・、あの子、私から逃げたのね!
一緒に暮らそう・・・や~だよっ!
そりゃ、そうだ。
こんな所にうずくまって生きて行くなんて、イヤに決まってる。
風をきっかけに、自由を得た蝶。
私にも、風は吹くかな?
って言うかさぁ・・・母さん。
もしかして、あの子・・・まだ寝てた、だけじゃないの???
ま、良い観察ができたから、いいか・・・
もう少し、このままで居てくれたら・・・ピントが・・・残念・・・