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才能なんて曖昧な言葉に振り回される貴方に (シグルイ 書評)

2006年05月02日 21時50分46秒 | レビュー
シグルイ 6 (6)

秋田書店

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「覚悟のススメ」という漫画のタイトルを、
皆さんは聞いたことがあるだろうか。

十数年前に、週刊少年チャンピオンにて
連載されていた漫画で、作者の名は山口貴由

実に、実に! 多くの固定ファンを持つ
漫画家として名を馳せている。

氏の描かれる漫画は、台詞回しからコマ割り、
キャラのディティールに至るまで、
氏の持つ独特のセンスによって生み出されている。

決して描写力が抜きん出て優れているとは言えないまでも
「表現しようと」試みた跡が氏の漫画の随所に残っており、
そのアクの強さに一目見ただけで拒否反応を起こす読者も少なくない。

そんな、氏がチャンピオンレッド誌上で連載している
「シグルイ」最新6巻が、この度発売された。

古来より、素晴らしい作品には必ず異常なものが
含まれていると批評家は口にした。

だがしかし、異常なものが含まれているものが
必ずしも素晴らしい作品かというと、
勿論そうではない。

「シグルイ」は異常なものの塊で出来ている……と、
言ったら言い過ぎになるだろうか。
いいや、私はそうは思わない。

この漫画の至るところに、
およそ禁忌とされしエロス・グロテスク・同性愛……
そういった表現がちりばめられている。

氏が「ベルセルク」の連載するヤングアニマル誌上で
「蛮勇引力」を連載していた折、目次の作者コメントで
以下のような発言をしていたのを私は未だに覚えている。

「他人(ひと)の為と書いて偽(いつわり)と読む。
 俺は自分の為に漫画を描く」

大きな誤解を招く弊害を、承知で書いた文章だと直感した。

おそらく、氏は読者からの抗議や批判など殆ど意に介さないのではあるまいか。

編集者やその他スタッフと関わるとはいえ、
どの漫画家も基本的に孤独な作業を強いられる。

ファンレターを励みにしている作家も多く居るのは
異論の余地はあるまい。

だとすれば、氏の持つ漫画家としての特性たるや
「才能」「天賦の才」「天然」そんな陳腐な言葉で
片付けられるものではないと、私には思えてならない。

漫画界の重鎮・本宮ひろ志が自らをして「天然まんが家」

呼んでいるが、そのようなチャチで矮小で排他的な単語で
片付けられるものではないのではないか。

独特のセンスは確かに、固定ファンを生み出す武器になる。
だが、それが受け入れられなければ例外なく業界を追われることとなる。

多くの固定ファンを持つ氏だが、
氏の漫画は「うけつけない」という読者はファンの数倍は
存在しているのではないかと私は思う。
ただ「声が聞こえてこない」だけで、存在しているのだと思う。

その危うさたるや、出版社側から見れば諸刃の刃に他ならない。
新人の頃などハイリスクローリターンである。

だがそれでも、氏は漫画を描きつづけているし
氏が原稿を「おとした」のを私は見たことがない。

もしそれが氏の演出でなく「自分のために書く」=
「自分が最初のファンとして描かれている」ことの証明になるとすれば、
自己満足で終わっていない氏の漫画はやはり凄い。

皆さんがどちらになるのかは、どれでもいい……
著書を手に取り20ページも読めば分かるだろう。

だが、これだけは言っておく。
試してみる価値は、あるぜ。

一月後にDVD発売みたいですね (ロード・オブ・ウォー レビュー)

2006年05月02日 06時55分15秒 | レビュー
ロード・オブ・ウォー

日活

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感想!
いいもの観させてもらいました。

でも、カップルで気まぐれに劇場入って
観るタイプのものじゃないです。

予告編を観た方はご存知だと思うのですが、
一見、非常にゴキゲンな感じの
映画にみえます。

武器商人であるニコラス・ケイジが
相手を選ばず武器を売り捌く。
それが女・子供・難民であっても。

ところが、この作品……蓋をあけてみれば
エンターテイメント色の強い問題作ではなく
メッセージ性の色濃い問題提起作でした。

テンポよく話が展開し、
ニコラス・ケイジが人間を人間とも思わない
武器商人を演じて「人生サイコー!」みたいな
ご機嫌な映画になってるのかと思ってたのに。

冒頭のクレジットの部分から重いです。

一発の銃弾に取り付けられたカメラが
工場で作られるところから始まり、
人の手に渡り銃に装填され、
撃ちだされて少年の頭に到達する……。

そして本編開始。

淡々としたニコラス・ケイジの語りが
エピソードとエピソードを繋ぎます。

時にはドキュメンタリーにも似た重い
空気、生活感が支配するエピソードもあり……。

終わってみて、自分自身に問うてみました。
『感想は?』
直ぐには言葉がでてきませんでした。

強い感情に衝き動かされるわけでもなく、
通ぶった映画好きの言葉が出てくるわけでもない。

それでも、今いちど自分に問うとしたら。
「もっと爽快な感じの問題作にした方が
 良かったんじゃないかな」