43.五大改革
東久邇宮内閣の総辞職を受けて、10月9日幣原喜重郎内閣が成立した。
10月11日、マッカーサーは新任挨拶のために総司令部を訪れた幣原首相と会談し、五項目からなる指示・実施することを要求した。
いわゆる五大改革指令である。
その内容は、①女性の解放②労働組合結成の促進③自由主義教育の実施④圧制的諸制度の撤廃⑤経済の民主化の5つである。
43.1.幣原喜重郎内閣
幣原喜重郎内閣の成立
東久邇宮内閣の総辞職を受けて、10月9日幣原喜重郎内閣が成立した。
<幣原喜重郎>
主な閣僚
内閣総理大臣:幣原喜重郎(第一、二復員大臣兼務)
外務大臣:吉田茂
陸軍大臣:下村定(12月1日陸軍省廃止に伴い免)
海軍大臣:米内光政(12月1日海軍省廃止に伴い免)
大蔵大臣:渋沢敬三(祖父は渋沢栄一)
幣原内閣では、前内閣(東久邇宮内閣)がその実行を断念した「人権指令」を遂行し、共産党員など政治犯約3,000人を釈放、治安維持法など15の法律・法令を廃止した。
10月11日には幣原の訪問を受けたダグラス・マッカーサーにより五大改革と憲法の自由主義化が示唆され、これを実行していく。
また幣原内閣は憲法改正に取り組んだ。
衆議院解散
また、終戦から4ヶ月後の12月18日に戦後初めての衆議院解散をした。
(注:解散日は昭和20年12月18日であるが、総選挙の公示日は昭和21年3月11日、投票日は4月10日だった。
これは、GHQが幣原内閣の改革の取り組みが消極的だとして、年内のうちの財閥解体などの急進的な改革や戦犯逮捕、終戦後初の総選挙の期日延期などを指示した、ためである)
昭和21年(1946年)1月4日には公職追放令が発布され、これにより内閣自体の総辞職の危機を迎えたが、1月13日に一部の閣僚を入れ替えることにより内閣は存続し、総選挙の時期も3月15日以降の実施の許可をGHQより得た。
この間に内大臣府が廃止され、また陸軍省と海軍省の両省が廃止されて、これらを改組して第一復員省と第二復員省が新たに設置されている。
総選挙と総辞職
戦後初の衆議院議員総選挙かつ日本において女性参政権が容認されて初の男女普通選挙として4月10日に第22回衆議院議員総選挙が実施されたが、単独で過半数を制した政党は出なかった。
日本進歩党に幣原が入党することにより内閣を存続させる動きもあったが、他の政党の猛反発を受けて倒閣運動にまで発展し、閣内からも離反者が出た幣原内閣は5月22日に総辞職をした。
当初、後任の首相には鳩山一郎が就任する予定だったが、公職追放の対象となり不可能となった代わりに、吉田茂外相に白羽の矢が立ち第1次吉田内閣が成立した。
43.2.幣原首相・マッカーサー会談と五大改革指令
10月11日、マッカーサーは新任挨拶のために総司令部を訪れた幣原首相と会談し、五項目からなる指示・実施することを要求した。
いわゆる五大改革指令である。
その内容は、①女性の解放②労働組合結成の促進③自由主義教育の実施④圧制的諸制度の撤廃⑤経済の民主化の5つである。
<特記>
①女性の開放
因みに、主要国で女性が参政権を獲得した時期は次の通りである。
英・米・独は1918年から1年間隔で女性の参政権を認めており、仏はそれらから25年遅れで参政権を認めている。
英国:1918年(大正7年)、独国:1919年(大正8年)、米国:1920年(大正9年)、仏国:1944年(昭和19年)
②経済の民主化
経済の民主化のために行った大きな改革は財閥解体と農地改革であった。
財閥解体により証券の民主化が進み近代的な資本主義になった、といわれている。
また、農地改革により多くの小作農が土地を持つことができた。
しかし、米国においても資本の集中や土地の寡占化は起こっており、自国のことはさておいて、一種の社会実験を日本で行ったように思えるのである。
この、一見公平と思える農地改革も農地が細分化され、転売制限を設けなかったため、十数年後には、農業の効率悪化、地価の高騰などの弊害が出てくる。
それは農地が細分化されたため、本格的な農家が育ちにくく、食料自給率低下の原因の一つになった。
また農地の転売制限を設けなかったため、高度経済成長下の住宅ブームで地価が高騰し土地を手に入れることが容易でなくなった、ことである。
43.3.会談記録
会談では、先ずマッカーサーが、これから日本が行うべき、五つの改革を述べた。
それを受けて、幣原がマッカーサーの意見に対し答えた。
43.3.1.マッカーサー意見
十月十一日幣原首相に対し表明せる「マッカーサー」意見
「ポツダム」宣言の実現に当りては日本国民が数世紀に亘り隷属せしめられたる伝統的社会秩序は是正せらるるを要す。
右は疑いもなく憲法の自由主義化を包含すべし。
日本国民は其の心理を事実上奴隷化する日常生活に関しての有らゆる形式に於ける政府の秘密審問より解放せられ思想、言論及信教の自由を抑圧する有らゆる形式の統制より解放せられざるべからず能率化の名を籍り又は其の必要を理由として為さるる国民の組織化は政府お如何なる名に於て為さるるものも一切廃止せらるるを要す。
斯る諸要求の履行及諸目的の実現の為日本の社会制度に対する下記の諸改革日本社会に同化し得る限り出来得る限り速に実行することを期待す
1、参政権の賦与に依り日本の婦人を解放すること(女性の開放)
婦人も国家の一員として各家庭の福祉に役立つべき新しき政治の概を齎すべし
2、労働組合の組織奨励(労働組合結成の促進)
以て労働に威厳を賦与し労働者階級が搾取と濫用より己れを擁護し生活程度を向上させる為大なる発言権を与えるべし。之と共に現存する幼年労働の悪弊を是正する為必要なる措置を採ること
3、学校をより自由主義的なる教育の為開校すること(自由主義教育の実施)
以て国民が事実に基礎付けられたる知識に依り自身の将来の発展を形成することを得政府が国民の主人にあらずして使用人たるの制度を理解することに依り解答するを得べし
4、国民を秘密の審問の濫用に依り絶えず恐怖を与うる組織を撤廃すること(圧制的諸制度の撤廃)
故に専制的恣意的且不正なる手段より国民を守る正義の制度を以て之に代える
5、日本の経済制度を民主主義化し(経済の民主化)
以て所得並に生産及商業手段の所有権を広く分配することを保障する方法を発達せしむることに依り独占的産業支配を是正すること
(国民の住宅、食糧、衣料の問題)
刻下の行政部面に就ては国民の住宅、食糧、衣料の問題に関し政府が力強く且迅速なる行動に出て疫病、疾病、飢餓其他重大なる社会的政局を防止することを希望す。
今冬は危機たるべく来るべき困難克服の道は総ての人々を有効なる仕事に就業せしむるの他なし
幣原総理がマッカーサーに答えた内容は次回に記す。
<続く>