恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

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夏の幻影

2015-08-11 10:49:48 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

新しいお話はupしないと言いながら、今の時期にふさわしい短編が出来たのでupします。

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珍しく一護から電話が入った。


一護『マスター、今いいか?』

譲二「ああ、いいよ。どうした?」

一護『今度の15日だけど、久しぶりにみんなでクロフネに集まって、同窓会でもしようかって話になってるんだ』

譲二「ああ、そうらしいね。ハルからメールを貰ったよ」

一護『理人のヤツも帰って来るって言うし、全員揃うのは滅多にないからな』

譲二「そう言えばそうだね。俺もみんなに会いたいよ」

一護『だけど、マスターは大丈夫なのか?』

譲二「俺? 」

一護『ちょうどお盆休みの頃だし、マスターも実家に帰ったり、墓参りとかもあるだろ?』

譲二「そうだな。でも、実家には合間で顔を見せればいいし、墓参りも朝早く済ませるから大丈夫だよ」

一護『すまない。用があったら、途中で抜けてくれても構わないから…』

譲二「ハハ、そんなことに気を使わなくても大丈夫だよ。俺はみんなに会ったほうが元気がでるからね。一護も店の方は順調なのか?」


その後、しばらく一護の新しい店の話で盛りあがって電話を切った。


(そうかあいつら全員揃うのか…)

(これはメニューも考えて、腕によりをかけないといけないな…)


(それにしても、一護があんなに気遣いできるようになったとは…)


高校時代のちょっと拗ねたような不機嫌な一護を思い浮かべる。

元々感の鋭いヤツだから、俺が疲れたり元気が無い時はすぐに見透かされたものだった。

だが、いつも斜に構えているから、今日のように気遣いを素直に口に出してくれたことはあまりない。

(一護は苦労人だからな…。俺も年を取るわけだ)


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最後に残ったお客さんの会計を済ませて、ほっと一息ついた。

日差しも陰って、うだるような暑さも少し和らいでいる。



(そろそろ、看板を入れてcloseの札を掛けてくるか…。)



店の前を箒で掃いて店内に入ってくるとコーヒーの香りがした。


(あれ? 俺、コーヒーを淹れっぱなしにでもしてたかな?)


カウンターに近づくと、セッティングされたカップに淹れたてのコーヒーが入っていた。

譲二「?!」


厨房には人影があった。


???「譲二くん…。疲れたろう? 久しぶりにコーヒーを淹れたから飲んでくれないか?」


声の主がカウンターの向こうから顔を覗かせる。

細身で銀髪、髪と同じ色の顎鬚を蓄え、眼鏡の奥には優しい瞳が覗いている…。

先代マスターの浦賀さんだ…。


譲二「…マスター…?」

先代マスター「久しぶりだねぇ…」

譲二「はい…」


マスターは昔と同じ優しい笑顔で頷いた。


先代マスター「コーヒー、早く飲まないと冷めちゃうよ」

譲二「はい…」


俺はカウンターに座るとコーヒーを一口飲んだ。


(あ、これは…紛れも無く、先代のコーヒーだ…)


俺が真似しても真似しても、あと少しどこか違う懐かしい味だ。


譲二「このコーヒーの味、ずっと出したかったのにとうとう再現できないままです…」

先代マスター「そんなことないよ。お客さんはみんな譲二くんのコーヒーを飲むと『昔ながらのクロフネの味だね』って言ってくれてるじゃないか?」

譲二「いや、それでも、マスターのコーヒーとは何かが違うんです」


マスターはちょっとはにかんだように笑った。


先代マスター「私のコーヒーはそんな凄いもんじゃないけどね。譲二くんのコーヒーも以前よりますます美味しくなってると思うよ」

譲二「飲んでくださったんですか?」

先代マスター「そうだね…。時々はね」

譲二「ありがとうございます」

先代マスター「それにしても、本当に頑張ってくれてるよ。私が死んだ後もクロフネを昔のままで維持してくれて…。嬉しいもんだよ。帰ってきた時に昔のままのクロフネが見られるのは…」

譲二「マスター…」

先代マスター「あ…、もう無くなっちゃったね。おかわりはどうかな?」

譲二「はい、お願いします…」


二杯目のコーヒーを飲みながら、しばしの沈黙が訪れた。


譲二「マスター…。俺なんかがクロフネの後を継いで良かったんでしょうか?」

先代マスター「なんだね? 急に」

譲二「マスターには実の息子さんがいらっしゃることを聞きました。
それなのにアカの他人の俺なんかがクロフネのマスターの座におさまってて果たしていいんだろうかと…そう、時々思うんです」

先代マスター「譲二くんはね」

譲二「はい…」

先代マスター「私とは血のつながりはないけど、私の息子みたいなもんだよ。
中学生の頃からずっと譲二くんを見てきて、この子ならクロフネも任せられるって思ったんだ」

譲二「ありがとうございます…そう言っていただけると…嬉しいです」

先代マスター「だからね。譲二くんは立派な私の跡継ぎなんだよ」


そう言って微笑んだマスターの姿が少し薄くなった気がした。


先代マスター「さあ…名残惜しいけど、そろそろ行かないとね」

譲二「え? まだ、しばらくいてくださいよ…」

先代マスター「私ももう少し居たいところだけど、こっちにいる間に会いたい人がまだいてね」

譲二「そ、そうですね。すみません…」

先代マスター「また、来年も来るよ…」


マスターは笑顔を残すと厨房の影の方に滑るように寄っていった。

その姿は半分透けている…。


譲二「マスター…」


不思議と全然怖くなかった…。

まだ残るコーヒーの香りに包まれて、俺はしばらくそこで佇んでいた。


怪談in吉祥寺恋色デイズ:1人目

2015-08-11 06:51:30 | 吉祥寺恋色デイズ

 

これは昨年の8月にupしたお話の再掲です。
去年からブログに来てくださっている方、もう読んだよ~って方はごめんなさい。
新規のお話はしばらくお休みしますね。

 

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暑い夏が続きますね。
そろそろ身体もこの暑さに疲れて来る頃です。
そんなあなたに、気分だけでも涼しさを味わってもらおうと怪談話を企画しました。


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1人目 初音理人

理人「じゃあ、まず僕の話からだね」

竜蔵「うんと、怖いのを話せよ」

理人「まかしといて」


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『こんな暗い晩』

 六部とは、六十六部の略で、六十六回写経した法華経を持って六十六箇所の霊場をめぐり、一部ずつ奉納して回る巡礼僧のこと。


 むかしむかし、ある寒い秋の日のことだった。

 しょぼしょぼと雨の降る、夕暮れ時に、村の貧しい百姓家の戸をほとほとと叩くものがある。

 おかみさんは「今時誰だろう?」と思いながらも戸を開けた。

 そこには雨でびっしょりと濡れた旅の六部が立っていた。

 「旅のものですが、泊まるところがなくて困っています。一晩泊めてもらえませんか?」

 「まあまあ、お坊さま。それはお困りでしょう」

 その家の夫婦は親切に六部を迎え入れた。

 「貧しい百姓の家なので、大したものもございませんが」

 夫婦は有り合わせの芋やら野菜やらを鍋に炊いて、精一杯六部をもてなした。

 囲炉裏で暖まるうちに、六部の着物も乾いて来て、あるじは「さぞお疲れのことでしょう」とただ一つある座敷に布団を敷いて、六部を通した。

 あるじが夜中にふと目を覚ますと、六部の寝ている部屋から、チャリーン、チャリーンと音がする。

 そっと、障子ににじり寄って、障子の破れ目からこっそり除いてみた。

 …そうしたら、六部が銭を数えていたそうな。それもただの銭ではない。小判がピカピカと、何枚も光っていた。
 それを見たあるじは邪な心を抱いた。

(ずいぶん持っとるもんじゃ。あれだけあれば、一生楽に暮らせるじゃろう)

 あるじはその六部の金が欲しくて欲しくてたまらなくなった。

 そして、あるじは六部を殺すと、家の外に六部を引きずって行った。
 外は、冷たい雨が相変わらずしょぼしょぼと降っている。あるじは雨に濡れながら庭に大きな穴を掘ると、六部をその中に埋めた。
 雨のしずくを滴らせながら、穴を掘るあるじの顔はまるで、鬼のようだったと。



 翌朝、あるじは起きて来たおかみさんに、「あのお坊さまは朝早く旅に出られた」と嘘をついた。


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 さて、六部から盗んだ金を元手にして、あるじは金貸しを始めた。
 人に金を貸しては儲け、その金で田畑や山も買いあさった。

 そうこうするうちに、あるじはそこらでは並ぶものもない旦那さんになった。

 金もあり、地所もあり、何もいうことがなかった。
 ただ一つ足りないのは、子供の無いことだった。

 毎日、欲しいなあと思い暮らしていると、何と、子供が出来たんだそうな。 
 それも男の子だった。ようやく出来た跡取りを旦那さんは可愛いがって、それはそれは大事に育てた。
 ところが、その子は3つになっても4つになっても、モノを言わない。

 旦那さんはそれでもその子を可愛がって育てたんだと。

 その日もしょぼしょぼと陰気な雨が降っていたそうな。
 晩方になるともう真っ黒な闇夜で、鼻を撫でられても分からないくらいだった。
 
 旦那さんが子供を寝かそうとすると
「おとう、小便」
と、男の子がはじめてしゃべった。
 旦那さんはよろこんで、
「おう、口をきいた。よしよし、すぐにさせてやろう」

 旦那さんは男の子をだきかかえて、かわや(便所)へ連れて行った。
 そして、小便をさせようとした時だった。

「おとう、こんな暗い晩のことだったなあ…」
 男の子が大人のような声でいって、ゆっくりと振り返った。

「お、お前は…あっ!」
 男の子の顔を見た旦那さんは、びっくりして口をパクパクさせるだけだった。
 真っ暗闇の中、男の子の顔だけが青く光り、旦那さんを見てニタニタと笑った。

「おとうがわしを殺したのも、こんな暗い晩のことだったなあ。」

 そう言った顔はあのときの六部の顔にそっくりだった。

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一護「ふぅ。次は俺だな」

剛史「その前に時短肝試し…」

理人「それも僕からいくの?」

春樹「そうなるね」

理人「じゃあ、行ってくる。二階のトイレだね?」

譲二「あ、りっちゃん、これ」

俺は懐中電灯をりっちゃんに渡した。

理人「え?電気つけちゃダメなの?」

剛史「暗い中でしないと肝試しにならない」

一護「お前、怖いのか?」

理人「怖くないよ!じゃあ、行ってくる」

りっちゃんの後ろ姿は二階へと続く暗闇に消えた。

2人目へつづく