筆者は、よく「ネトウヨ」とか「右翼」と言われてきた側の人間です。しかし、今回の自民党による改憲発議には断固反対します。それは何も私がいきなり「ネトウヨ」や「右翼」から転向したとかそういう話ではありません。
あくまで「パヨク」などを使う「ネトウヨ」のままですが、改憲に強く反対します。その理由は、大きく分けて4つあります。
1 自衛隊明記の改憲には意味がない(裏があると思われてもしょうがない)
2 緊急事態条項は必要ない(かつて提案された法律で十分対応可能)
3 参議院の合区解消・教育環境の充実に憲法改正は必要ない(さらなる改善が必要となった際に法律の改正で済まなくなる)
4 「憲法改正、憲法改正」と言っても本質的な議論はおざなりにされたまま
●自衛隊明記の改憲には意味がない
改憲に反対する一つ目の理由は自衛隊明記の改憲には意味がないことです。現状、自衛隊は交戦権と戦力を持たない行政機関とされており、これは国防軍としては異例の位置づけです。
この異例の位置づけを「通常の交戦権と戦力を持つ軍隊にしよう」というのが古くからの自主憲法制定論の主張だったわけですが、自衛隊明記にそのような効果は存在しません。違憲という指摘ができなくなったところで、見た目はよくなるかもしれませんが、「平和主義に反する」という別の形で批判されるだけでしょうし、何の意味もありません。
むしろ、交戦権と戦力は持たないけど武器だけ強い組織(=国際法の制限を受けない、軍隊と異なり不法な暴力への転用が容易)として強化し、何かしたいのではないか、と裏を勘ぐりたくなってしまいます。さすがにありえないと思いますが、そもそも意味がないですから。
●緊急事態条項は必要ない
緊急事態条項は必要ないというと、右翼らしくない気もしますが、本当に必要ないんですよ。なぜなら、現状の災害対策基本法などでも基本的人権の制約を伴う緊急措置は可能だからです。
しかし、災害対策基本法や、警察法(あまり知られていないかもしれない。)、武力攻撃事態法などバラバラでは分かりにくいという意見もあります。同じことを考えた人が昔居たようで、「非常事態対処基本法案」という法案が出されたことがありました。
この法律は既存の緊急事態対処法の一本化を目指すもので、「直接侵略又は間接侵略、テロリストによる大規模な攻撃、大規模な災害又は騒乱等が発生し、かつ、これにより、国民の生命、身体若しくは財産に重大な被害が生じ、若しくは生じるおそれが生じ、又は国民生活との関連性が高い物資若しくは国民経済上重要な物資が欠乏し、その結果、国民生活及び国民経済に極めて重大な影響が及ぶおそれが生じ、通常の危機管理体制によっては適切に対処することが困難な事態」に、閣議を経て内閣総理大臣が非常事態を布告(宣言)できるとしています。
また、非常事態の布告については事前に国会の承認が必要とし、特に緊急の必要のある場合は先に布告し、直ちに国会の承認を求めるものとしています。ちゃんと国会の承認を得られなければ解除されているとも規定しています。
さらに、六十日ごとに国会に報告する必要があるとし、非常事態における対処と濫用の監視がセットになっている、優れた法案だと思います。当時、この法案に「憲法違反だ」という指摘は全くなく、『日本国憲法』とも合致した法案だといえます。
それくらべて、自民党の緊急事態条項案は、緊急事態における内閣の権限や濫用の監視がお粗末で、しかも非常事態は災害時や感染症拡大時のみ(逆に国民への被害はほとんど想定しない)というもはや頭おかしいことをし始めていて、「非常事態対処基本法」でも制定する方が、いや、現状維持のままの方がよっぽど効果的で、しかも安全(濫用の心配なし)だと思います。
●参議院の合区解消・教育環境の充実に憲法改正は必要ない
これについては、言わなくても分かるでしょう。『日本国憲法』のどこに参議院の合区を求めたり、教育環境の充実を妨げたりする条文があるのでしょうか。見えないものが見える危ない人たち以外は、必要ないと分かると思います。
●「憲法改正、憲法改正」と言っても本質的な議論はおざなりにされたまま
私が一番問題に感じているのは、この部分です。改憲、改憲、ばっかりで本質的な議論が全くされていません。何よりも「『日本国憲法』は本当に憲法として有効に成立したといえるか」という議論が足りません。
こんなこと言うと驚かれますが、安心してください。形式的な話なので。例えば、戦後80年間の行為が全て否定されたりするなんてことはあり得ません。仮に無効だとしても、それは建前の話です。現実問題としては有効です。
建前としては無効だったら、形式的には「改憲」ではなく自主憲法制定とか大日本帝国憲法の改正(形式だけですよ。)にした方がすっきりするよね、ぐらいの話です。しかし、諸外国との関係ではこの建前が結構重要だったりするので(日本がちゃんとした国どうか見られる材料になる)、国内的にはあまり意味のない話だからといって無視してはいけません。
『日本国憲法』も、「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」としています。国際関係をもっと大事にしましょう。
戦後初めての改憲ですし、それもGHQ製疑惑のある憲法でやるのですから、あとあとGHQ製であることが判明した場合などに「日本人は占領者に作られた憲法でも改憲して一生使い続ける野蛮な民族だ」という誤解を与えかねません。
GHQ製であるという立場でも、日本製であるという立場でも、はたまた別の立場でも、この議論はしっかりとしておくべきです。独立国の憲法は、その国の国民の自由意思によって作られなければならない、という原則も忘れてはなりません。