弁理士近藤充紀のちまちま中間手続21
拒絶理由 3回目(審査官交代)
本願請求項1~8係る発明における加硫促進剤、受酸剤、加硫剤等は、引用文献1~7にも記載されているように、エピハロヒドリンゴムの加硫系を構成するに当たって通常使用されている公知のものを採用したものにすぎないし、請求項9に係る発明は、請求項1~8に係る加硫用ゴム組成物を単に加硫したものにすぎない。また、本願請求項1~3に記載のような有機亜鉛化合物を用いたことにより、逆に加硫遅延作用が得られ、これにより・・・防止及び貯蔵安定性が得られたことが本願明細書の記載、特にその実施例から確認することができない(なお、引用文献5~7は、第1回目の拒絶理由通知書に挙げたものと同じ文献である)。
意見書
本願組成物の(b)成分、すなわち2-メルカプトベンズイミダゾール、ジチオカルバミン酸類、キサントゲン酸類およびチオフェノール類の亜鉛塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機亜鉛化合物は、加硫促進作用を有するものとして本願出願前から当業者間で良く知られた化合物である。
ところが、本願(b)成分の有機亜鉛化合物は、実際にこれを用いた実験で初めてわかったことであるが、加硫を遅らせる働きをする。すなわち、本願有機亜鉛化合物は、本願明細書の段落・・・にあるように、加硫遅延作用を発現し、それによって・・・防止効果および貯蔵安定効果をもたらすのである。
このような有機亜鉛化合物の作用は、一般的な加硫促進作用とは全く逆の作用であり、本願出願時において、加硫促進作用が予定される有機亜鉛化合物がこのような加硫促進とは逆の作用を有することは知られておらず、到底予想することはできない。
したがって、本願請求項1のように特定有機亜鉛化合物を貯蔵安定性のために使用することは引用文献の記載からは決して容易に想到できるものではない。
本願実施例の組成物において、有機亜鉛化合物として2-メルカプトベンズイミダゾール亜鉛の外に、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛および2-ベンズアミドチオフェノール亜鉛を用いた組成物について性能試験を行った(実験成績証明書の実験・・・)。その結果、これらの組成物では、本願(b)成分を含まない本願比較例の組成物および実験成績証明書の実験1、6~11の組成物に比べ、初期の・・・タイム(t5)が長いことから、加硫遅延効果が高くしたがって初期安定性がよいことが分かり、また、初期から湿熱保存3日後の・・・が小さいことから、貯蔵安定性が良いことがわかった。
よって、本願発明の効果は引用文献1からは到底予測できるものではない。
引用文献1~7には確かに、本願の加硫促進剤、受酸剤、加硫剤等が記載されている。しかし、上記のようにニッケル塩を含まない加硫用ゴム組成物において、エピハロヒドリン系ゴム配合物の加硫が速くなり、かつ保存中に加硫が進行して粘度が上昇するなど貯蔵安定性の課題を解決しようという問題意識は、そもそも、引用文献1~7のどれにも存在しない。
したがって、これら引用文献から本願発明の課題を推考することは、到底不可能である。
引用文献1の発明は、エピクロロヒドリン系重合体ゴムとアクリロニトリルブタジエンゴムとのブレンドゴム加硫用組成物において、有害な鉛化合物を含まない共加硫可能なブレンドゴム加硫用組成物を提供することを課題としたものであり、そもそも本願発明とは課題を全く異にするものである。
よって、同引用文献から本願課題を推考することは到底不可能である。
加えて、同引用文献の段落[0024]には加硫促進剤としてジチオカルバミン酸亜鉛が例示されているが、これは同段落に羅列されている多数の加硫促進剤の1つとして挙げられているに過ぎず、これを用いた実施例はない。
同引用文献の実施例7では促進剤としてジエチルジチオカルバミン酸テルルを含む組成物について性能試験が行われている。そこで、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛を含む補正後の本願実施例2の組成物においてジメチルジチオカルバミン酸亜鉛の代わりにジエチ ルジチオカルバミン酸テルルを用いた組成物について性能試験を行った(実験成績証明書の実験9)。また、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛を含む補正後の本願実施例4の組成物においてジブチルジチオカルバミン酸亜鉛の代わりにジブルジチオカルバミン酸テルルを用いた組成物についても性能試験を行った(実験成績証明書の実験10)。その結果、2-メルカプトベンズイミダゾール、ジチオカルバミン酸類、キサントゲン酸類、チオフェノール類の亜鉛塩を用いた本願組成物(補正後の本願実施例1~13および実験成績証明書の実験2~5)では、ジチオカルバミン酸テルルを用いた組成物に比べ、格段に加硫遅延作用が得られ、これにより・・・防止および貯蔵安定性の効果が得られることがわかった。
よって、同引用文献から本願発明の構成および効果を予測することは到底不可能である 。
引用文献2の発明は、耐アルコール混合ガソリン性を改良した耐油性エピクロロヒドリンゴム組成物を提供することを課題としたものであり、これも本願発明とは課題を全く異にするものである。
よって、同引用文献から本願課題を推考することは到底不可能である。
また、引用文献2には、本願(b)成分、すなわち2-メルカプトベンズイミダゾール、ジチオカルバミン酸類、キサントゲン酸類およびチオフェノール類の亜鉛塩からなる群より選択される少なくとも一種の有機亜鉛化合物は、記載も示唆もない。
よって、同引用文献から本願発明の構成および効果を予測することは到底不可能である。
引用文献3~省略
したがって、スコーチ防止および貯蔵安定性のために本願特定の有機亜鉛化合物を用いるという技術思想は、引用文献には全く見受けられず、本願請求項1による効果は全く予測できない。
よって、引用文献1~7のいずれにも本願発明の課題、構成および効果を伺わせるような記載はなく、引用文献1~7を組み合わせても本願請求項1およびこれを引用する請求項2~9の発明の構成および効果を推考することは到底不可能である。
特許査定
本願発明で用いた剤を用いた場合の作用と、従来から知られている同一の剤の作用とが全く異なる。
こちらにしても審査官にしても扱い難い件ではあったが、3回にわたる拒絶理由、3回目に、さらに上級と思われる審査官が登場してきた。
作用が違う点を実験証明書を退出することまでして主張して登録になる。
粗製物は多成分なので、どれかが、同一の剤の作用を全く異なる作用に導いたのではないかと推測している。