20代半ばのある年。その年の秋も例年以上に台風が多い年でした。
その頃ひとりで電車に乗ってぷらっと出かけるのが好きだった私は、大好きな作家のエッセーに書かれていた風景を実際に肌で感じたいと思い、身延線に乗って一泊二日の小旅行に出かけました。
山あいの小さな宿に泊まって翌日の朝、色々と細かい気づかいをしてくださった宿のご主人が、朝食を運んできながら、、
「台風が近づいて今日の午後には大荒れになるらしい。おそらく身延線も運休になると思うから、駅まで車で送っていくので早めに発った方がいいですよ。」
と言ってくださいました。
ご主人の言葉以上に台風の到来は早く、車に乗った時にはすでに激しい雨になり、身延線に乗ったものの身延駅までたどり着いたところで運休になってしまいました。
その日のうちにどうしても家に戻りたかった私は、大混雑の中駅員さんを見つけて状況を伺うと、引き返して甲府まで行く電車は走っているとのこと。
ずいぶん遠回りになるけれど東京まで回って帰るしかないのかな、、、と考えていると、いきなり、まったく見知らぬ50代くらいの女性が、
「あなた、私と一緒にいらっしゃい。」とぐいぐいと私の手を引っ張って走り出しました。
わっ、きっと何かの勘違い。人違いですよ!と思いましたが、いきなり引っ張られたために言いだすこともできずに、そのまま一緒に走ることになってしまいました。
状況がわかったのは駅の外に出て1台のタクシーの前まできた時でした。
「あなた、富士に行きたいんでしょ?富士まで走ってくれるという運転手さんをみつけたから、私たちと一緒に乗って!」
と言ってくれたのです。
すさまじい強風と豪雨。横を流れる富士川も怖ろしいくらいに荒れ狂っている、
そんな状況の中、何とか富士駅までたどりつくと、富士駅の周りも人でごった返していました。
「ありがとうございました。お金を、、」と言いかけると、
「私たち夫婦は、このまま清水まで行くので、じゃあね!」
と言いながら、その女性の後姿はすぐに人混みの中に紛れて行ってしまいました。
こんなに親切にしてもらったのにお礼もろくに言えず、お金も払わなかった。
せめて手に持っていた家へのお土産を差し上げるくらいのお礼はできたのではないか…。
そんな話を母にしながらその日は眠ったせいか、翌朝夢を観ました。
「お礼はその人・本人にしなくても、他の人にすれば良いんだよ。受けた親切を他の人に返すことで、めぐりめぐってその人のところに返っていくから。」
夢の中で誰かにそう言われました。
それから何十年か経った今でもその時のことを思い出し、あの時のお礼をわたしは返すことができたのだろうか、、、
ふとそんなことを考えることがあります。
その頃ひとりで電車に乗ってぷらっと出かけるのが好きだった私は、大好きな作家のエッセーに書かれていた風景を実際に肌で感じたいと思い、身延線に乗って一泊二日の小旅行に出かけました。
山あいの小さな宿に泊まって翌日の朝、色々と細かい気づかいをしてくださった宿のご主人が、朝食を運んできながら、、
「台風が近づいて今日の午後には大荒れになるらしい。おそらく身延線も運休になると思うから、駅まで車で送っていくので早めに発った方がいいですよ。」
と言ってくださいました。
ご主人の言葉以上に台風の到来は早く、車に乗った時にはすでに激しい雨になり、身延線に乗ったものの身延駅までたどり着いたところで運休になってしまいました。
その日のうちにどうしても家に戻りたかった私は、大混雑の中駅員さんを見つけて状況を伺うと、引き返して甲府まで行く電車は走っているとのこと。
ずいぶん遠回りになるけれど東京まで回って帰るしかないのかな、、、と考えていると、いきなり、まったく見知らぬ50代くらいの女性が、
「あなた、私と一緒にいらっしゃい。」とぐいぐいと私の手を引っ張って走り出しました。
わっ、きっと何かの勘違い。人違いですよ!と思いましたが、いきなり引っ張られたために言いだすこともできずに、そのまま一緒に走ることになってしまいました。
状況がわかったのは駅の外に出て1台のタクシーの前まできた時でした。
「あなた、富士に行きたいんでしょ?富士まで走ってくれるという運転手さんをみつけたから、私たちと一緒に乗って!」
と言ってくれたのです。
すさまじい強風と豪雨。横を流れる富士川も怖ろしいくらいに荒れ狂っている、
そんな状況の中、何とか富士駅までたどりつくと、富士駅の周りも人でごった返していました。
「ありがとうございました。お金を、、」と言いかけると、
「私たち夫婦は、このまま清水まで行くので、じゃあね!」
と言いながら、その女性の後姿はすぐに人混みの中に紛れて行ってしまいました。
こんなに親切にしてもらったのにお礼もろくに言えず、お金も払わなかった。
せめて手に持っていた家へのお土産を差し上げるくらいのお礼はできたのではないか…。
そんな話を母にしながらその日は眠ったせいか、翌朝夢を観ました。
「お礼はその人・本人にしなくても、他の人にすれば良いんだよ。受けた親切を他の人に返すことで、めぐりめぐってその人のところに返っていくから。」
夢の中で誰かにそう言われました。
それから何十年か経った今でもその時のことを思い出し、あの時のお礼をわたしは返すことができたのだろうか、、、
ふとそんなことを考えることがあります。