
「なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一」
内容
これでなっとく、偏微分方程式の解き方! とにかく複雑な偏微分方程式の世界に、絶妙のわかりやすさで切り込む本。応用に役立つ3種類の方程式、放物型・双曲型・楕円型をこれでもかと解説した決定版だ!(2005年12月刊行)
著者
斎藤恭一:1953年生まれ。早稲田大学応用化学科卒業。東京大学大学院化学工学専攻修了。工学博士。東京大学工学部助手、講師、助教授を経て、現在千葉大学工学部共生応用化学科教授。(参考:斎藤先生のプロフィール・ページ)
本書は6年半前に読んで記事にしたのだが、今回もう一度読んでて紹介することにした。(なので理系書籍レビュー記事の数にはすでにカウントされているので+1はしない。)
本書は熱伝導の例を中心にテーマに偏微分方程式の立て方、解き方をくどいほど詳しく、くだけた文章とイラストで解説した入門書である。
このタイミングで改めて紹介したのには次のような理由があった。
- 6年半前は「レビュー記事で本を紹介する」という意識でブログを書いていなかったので、しっかり紹介しておきたかったこと。
- この本は主に熱伝導をテーマに偏微分方程式を立てて解くという、現在関心を持っている内容であること。
- ひとつ前の記事で紹介した「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」は敷居が高い。同じテーマで、かつ入門者向けの本書を紹介したいと思ったこと。
- 「数式入りの本を楽しめるようになりたい人のために。」というテーマで大村平先生の本を4冊紹介してきたが、本書は4冊目の「改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」を読んだ方が次に読むのにちょうどよいため。本書は大村先生の本と同じく、いやそれ以上に「くだけたスタイル」で書かれた本だ。
「改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」では変数が1つの微分方程式(常微分方程式)をラプラス変換を使って解く方法が説明されていた。今回紹介する「なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一」では2変数の微分方程式(偏微分方程式)が解説されているのだ。方程式を解くためのラプラス変換も2変数のものが必要になる。2変数のラプラス変換は入門者用の本では極めて珍しい。
全体的な流れは次のようなものだ。
第1章:準備に時間がかかる偏微分方程式
第1章は偏微分方程式を作る前に理解しておかなければならいことを学ぶ段階だ。本書では熱伝導以外に物質の拡散や運動量の拡散など「流束」として扱える対象についても熱伝導を含めてすべて「流束」として扱い、同じタイプの方程式で扱えることが解説される。
本書では全体を通じて「マヘモ」と呼ばれるキーワードが紹介されるが、「マ」、「へ」、「モ」はそれぞれ次のような意味に対応している。
「マ」:Mass(質量)のこと。つまり物質の拡散を表すスカラー値をとる流束。
「へ」:Heat(熱)のこと。つまり熱の伝達を表すスカラー値をとる流束。
「モ」:Momentum(運動量)のこと。つまり運動量の伝達を表すベクトル値をとる流束。
「マ」としてはコーヒーやコーヒーゼリーに拡散するミルクを例に、
「ヘ」としてはお尻に伝わるホッカイロの熱を例に、
「モ」としては池の中を泳ぐたくさんのナマズを例にとって説明している。
また、流束には熱伝導のように「ジワジワ」伝わるものと対流のように物質の移動を伴いながら「ドヤドヤ」と伝わるものがあり、偏微分方程式は両方とも考慮してたてるのが本書でのやり方だ。
全流束=ジワジワ流束+ドヤドヤ流束
専門用語で言えばジワジワ流束は「拡散流束」、ドヤドヤ流束は「対流流束」のことだ。
これらの流束が入ったり出たりする微小体積を考えて方程式をたてる意味を説明する。座標系としては3次元の直角座標、円柱座標、球座標の3つを紹介する。
また「マ」、「へ」、「モ」の流束がそれぞれ濃度勾配、温度勾配、粘度勾配に比例するという「拡散に関するフィックの法則」、「熱伝導に関するフーリエの法則」、「粘性に関するニュートンの法則」が基本原理として紹介される。
第2章:つくるのがおもしろい偏微分方程式
第1章で紹介した「マ」、「へ」、「モ」のそれぞれについてたてた方程式が、実は同じ「放物型」の偏微分方程式になることが第2章で順を追って説明される。その過程で単位を揃えるための「無次元化」という強力な方法が紹介される。
しかし方程式をたてただけでは解くことができない。解くためには時間についての初期条件、空間についての境界条件が必要になる。
偏微分方程式、初期条件、境界条件を練習する例として冷奴やキュウリ、スイカを冷蔵庫で冷やすというモデルで説明が行われる。冷奴は直角座標、キュウリは円柱座標、スイカは球座標を使うケースだ。熱伝導では典型的なモデルである。
第3章:つくるのがたいへんな偏微分方程式
第2章で紹介した冷奴やキュウリ、スイカの例は熱が外部に漏れ出すことがないシンプルなものだ。この章では現実に即して、より複雑で一般的なケースで偏微分方程式をたてる。次のような流れだ。
1)把手のついた中華鍋の例:鍋を熱すると熱は把手に伝わるが把手の側面から熱が空気に逃げるケース。
2)サイコロ・キャラメルの例:直角座標での熱の収支の一般式をたてる。
3)楕円型偏微分方程式の紹介。
4)バウムクーヘンの例:円柱座標での熱の収支の一般式をたてる。
5)双曲型偏微分方程式の紹介。
6)弦の振動現象が双曲型偏微分方程式であらわされることを説明する。
第4章:ふしぎに解けていく偏微分方程式
第3章までにたてた2変数の放物型偏微分方程式をラプラス変換という魔法のような方法を使って解いていくのがこの章だ。本書は全体的に興味深いが、特に山場となるのが第4章と第5章である。
1変数のラプラス変換では表の世界の関数 f(t) をラプラス変換すると裏の世界の関数 F(s) になり、与えられた微分方程式を裏の世界で代数的に解いてから表の世界の関数にラプラス逆変換する。つまり次のような流れになる。
f(t) ⇒ F(s) ⇒ f(t)
2変数のラプラス変換では表の関数を f(t,z) とし、これをtについてラプラス変換して裏の世界の関数 U(s,z) を得、さらにzについてラプラス変換して「裏裏の世界」の関数 V(s,σ) を得る。与えられた微分方程式を裏裏の世界の表現にしてから代数的に解き、その解をsとσについて2回ラプラス逆変換して表の世界の表現に戻せば最終的な解が得られる。全体は次のような流れになる。
f(t,z) ⇒ U(s,z) ⇒ V(s,σ) ⇒ U(s,z) ⇒ f(t,z)
2変数ラプラス変換の問題をたとえて言うならば次のようになるだろう。
現実世界の問題を眠ることで夢の中の世界の問題に変換し、その夢の中でさらに眠って「夢の中の夢の中の世界」の問題に変換する。その世界でその問題は簡単に解くことができ、解いた結果を「夢の中の世界」の問題の解へ、そして「現実世界」の問題の解へと2回逆変換すれば自然に現実問題での答が得られていることになる。
この手順が解説されているのは本書の第4章だ。
なおラプラス変換については次のようなページでイメージをつかむことができる。
ラプラス変換とは何か
http://www.jeea.or.jp/course/contents/01131/
初心者用ラプラス変換解説
http://www.ice.tohtech.ac.jp/~nakagawa/laplacetrans/Laplace1.htm
第5章:解をグラフで味わう偏微分方程式
この章では解を求めるだけでなく、結果の数値を吟味したり解のグラフを見ることで形によって異なる熱の伝わり方の違いを確認する。次のような例で解説が行われる。
1)プリンの表面に塗るカラメルがプリン内部に浸透する経過を計算する。
2)キュウリとスイカを冷やして、何分で冷えるか計算する。
3)キュウリとスイカについて時間によって変わる温度分布をグラフで確認する。
4)第3章で紹介した熱した中華鍋の把手の時間経過に従った温度分布を確認する。
5)放熱フィンの効率を計算する。
本書では熱伝導の方程式をラプラス変換を使って解き、「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」ではフーリエ級数やフーリエ変換を使って解いている。熱伝導現象の物理的性質と解き方の間には何の関連もない。与えられた微分方程式を解く方法がいくつかある中で2つ紹介されたというだけである。
このように本書は熱伝導、伝熱学の入門書を兼ねた偏微分方程式への入門書なのだ。肩ひじ張らずに手軽に読めるところがよい。
くだらな過ぎる駄洒落があちこちに目立ち、さらに駄洒落にもイラストがついているという強烈に個性豊かな本だが、その点を差し引いても十分お勧めできる一冊である。
応援クリックをお願いします!このブログのランキングはこれらのサイトで確認できます。


「なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一」

まえがき
プロローグ:ちっとも変じゃない偏微分方程式
第1章:準備に時間がかかる偏微分方程式
- 偏微分方程式をたてるモチベーション
-- 天気予報に偏微分方程式が活躍している
-- 現実世界を支配している「場」
- 偏微分方程式をつくる基本原理
-- おもしろくない偏微分方程式をつくる
-- 私のお小遣いは500円だった
-- 洗面台での水収支
- 座標系、微小空間、そして微分
-- 「座標は与えるものであって、与えられるものではない」
-- 三者三様の微小体積の求め方
-- 割り算の分母を縮めれば微分に行き着く
- 基本アイテムは流束
-- 私たちの周りは流束だらけ
-- ベクトルとスカラーの区別
- ドヤドヤ流束の表現術
-- 3つのドヤドヤ流束を式にしよう
-- 本当はベクトルにしないといけない
- マヘモのジワジワ流束と勾配三人衆
-- マヘモのジワジワ流束も式にしよう
-- ジワジワ流束の中身
-- 物理的直観からのジワジワ流束の定式化
-- やはりジワジワ流束もベクトルだ
-- 比例定数の正体
- この章のまとめ
第2章:つくるのがおもしろい偏微分方程式
- 「○○な△△に、突然、□□」現象
-- マヘモがジワジワ移動する
--「○○な△△に、突然、□□」って何なのか
- 単純化して本質を抽き出すモデリング
-- コンピュータ任せではつまらない
- 放物型偏微分方程式の誕生
-- ふたたび、「炒りたまご消して出る」
-- マヘモの形がビシっとそろう
- 時間なら初期条件、空間なら境界条件、ただそれだけ
-- 数学用語なんて怖くない
-- 実際の状況から初期条件と境界条件を決める
- 無次元化とアナロジー
-- 無次元化とは「基準値との比」で表すこと
-- 「そうよ、マヘモは似ている」
- キュウリとスイカを冷蔵庫で冷やす
-- キュウリは細長し、スイカは丸し
-- 細長いキュウリの冷え方
-- まん丸いスイカの冷え方
- この章のまとめ
第3章:つくるのがたいへんな偏微分方程式
- 「消」がゼロでない収支式
-- より現実に近づきたい
-- 中華料理屋で「入溜消出」
- 直角座標での収支の一般式
-- サイコロキャラメルの中の収支
-- 式の見かけをスッキリさせる秘策--内積とナブラ
-- ナブラの使い方教えます
-- 熱の運動量の一般式はアナロジーから作る
-- 「楕円型偏微分方程式」の登場
- 円柱座標での収支の一般式
-- 微小バウムクーヘンで「入溜消出」
-- ふたたび定常状態を表してみよう
- 双曲型偏微分方程式
-- 放物線、楕円があれば双曲線もある
-- 「逆」微分コンシャス
- この章のまとめ
第4章:ふしぎに解けていく偏微分方程式
- 偏微分方程式の解法の分類
-- 紙とエンピツと忍耐
- ラプラス変換表をつくる
-- 役に立つ数学もある
-- ラプラス変換の定義
-- ラプラス・セブン
- 放物型偏微分方程式をラプラス変換法で解く
-- 放物型偏微分方程式のおさらい
-- ラプラス変換/逆変換のはるかなる旅路
-- もう1つの境界条件にチャレンジ
- 常微分方程式をラプラス変換法で解く
-- 定常→非定常→つぎの定常
-- いわゆる常微分方程式をつくる
-- ラプラス変換の再登場
- この章のまとめ
第5章:解をグラフで味わう偏微分方程式
- プリンカラメルのしみ込み
-- 高級プリンの味の秘訣
-- 誤差関数をグラフにする
-- さて、拡散係数はいくつ?
- キュウリとスイカの冷やし
-- もろキュウまだ、急いでよ
-- 酔って絡んでくるお客の頭を冷やす
- 中華の把手でのジワジワ
-- 把手の定常状態
-- 偏微分 v.s. 重積分
- この章のまとめ
べんりな付録:
付録1:本書で使用したギリシャ文字の一覧
付録2:微分と積分の公式
付録3:様々な座標でのナブラとラプラシアンの公式
付録4:三角関数と双曲線関数
付録5:ラプラス変換の基本
付録6:少し高度なラプラス変換表
付録7:ラプラス逆変換表
参考書の紹介
おわりに
なっとくする偏微分方程式ワールド
索引
内容
これでなっとく、偏微分方程式の解き方! とにかく複雑な偏微分方程式の世界に、絶妙のわかりやすさで切り込む本。応用に役立つ3種類の方程式、放物型・双曲型・楕円型をこれでもかと解説した決定版だ!(2005年12月刊行)
著者
斎藤恭一:1953年生まれ。早稲田大学応用化学科卒業。東京大学大学院化学工学専攻修了。工学博士。東京大学工学部助手、講師、助教授を経て、現在千葉大学工学部共生応用化学科教授。(参考:斎藤先生のプロフィール・ページ)
本書は6年半前に読んで記事にしたのだが、今回もう一度読んでて紹介することにした。(なので理系書籍レビュー記事の数にはすでにカウントされているので+1はしない。)
本書は熱伝導の例を中心にテーマに偏微分方程式の立て方、解き方をくどいほど詳しく、くだけた文章とイラストで解説した入門書である。
このタイミングで改めて紹介したのには次のような理由があった。
- 6年半前は「レビュー記事で本を紹介する」という意識でブログを書いていなかったので、しっかり紹介しておきたかったこと。
- この本は主に熱伝導をテーマに偏微分方程式を立てて解くという、現在関心を持っている内容であること。
- ひとつ前の記事で紹介した「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」は敷居が高い。同じテーマで、かつ入門者向けの本書を紹介したいと思ったこと。
- 「数式入りの本を楽しめるようになりたい人のために。」というテーマで大村平先生の本を4冊紹介してきたが、本書は4冊目の「改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」を読んだ方が次に読むのにちょうどよいため。本書は大村先生の本と同じく、いやそれ以上に「くだけたスタイル」で書かれた本だ。
「改訂版 微積分のはなし〈下〉:大村平」では変数が1つの微分方程式(常微分方程式)をラプラス変換を使って解く方法が説明されていた。今回紹介する「なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一」では2変数の微分方程式(偏微分方程式)が解説されているのだ。方程式を解くためのラプラス変換も2変数のものが必要になる。2変数のラプラス変換は入門者用の本では極めて珍しい。
全体的な流れは次のようなものだ。
第1章:準備に時間がかかる偏微分方程式
第1章は偏微分方程式を作る前に理解しておかなければならいことを学ぶ段階だ。本書では熱伝導以外に物質の拡散や運動量の拡散など「流束」として扱える対象についても熱伝導を含めてすべて「流束」として扱い、同じタイプの方程式で扱えることが解説される。
本書では全体を通じて「マヘモ」と呼ばれるキーワードが紹介されるが、「マ」、「へ」、「モ」はそれぞれ次のような意味に対応している。
「マ」:Mass(質量)のこと。つまり物質の拡散を表すスカラー値をとる流束。
「へ」:Heat(熱)のこと。つまり熱の伝達を表すスカラー値をとる流束。
「モ」:Momentum(運動量)のこと。つまり運動量の伝達を表すベクトル値をとる流束。
「マ」としてはコーヒーやコーヒーゼリーに拡散するミルクを例に、
「ヘ」としてはお尻に伝わるホッカイロの熱を例に、
「モ」としては池の中を泳ぐたくさんのナマズを例にとって説明している。
また、流束には熱伝導のように「ジワジワ」伝わるものと対流のように物質の移動を伴いながら「ドヤドヤ」と伝わるものがあり、偏微分方程式は両方とも考慮してたてるのが本書でのやり方だ。
全流束=ジワジワ流束+ドヤドヤ流束
専門用語で言えばジワジワ流束は「拡散流束」、ドヤドヤ流束は「対流流束」のことだ。
これらの流束が入ったり出たりする微小体積を考えて方程式をたてる意味を説明する。座標系としては3次元の直角座標、円柱座標、球座標の3つを紹介する。
また「マ」、「へ」、「モ」の流束がそれぞれ濃度勾配、温度勾配、粘度勾配に比例するという「拡散に関するフィックの法則」、「熱伝導に関するフーリエの法則」、「粘性に関するニュートンの法則」が基本原理として紹介される。
第2章:つくるのがおもしろい偏微分方程式
第1章で紹介した「マ」、「へ」、「モ」のそれぞれについてたてた方程式が、実は同じ「放物型」の偏微分方程式になることが第2章で順を追って説明される。その過程で単位を揃えるための「無次元化」という強力な方法が紹介される。
しかし方程式をたてただけでは解くことができない。解くためには時間についての初期条件、空間についての境界条件が必要になる。
偏微分方程式、初期条件、境界条件を練習する例として冷奴やキュウリ、スイカを冷蔵庫で冷やすというモデルで説明が行われる。冷奴は直角座標、キュウリは円柱座標、スイカは球座標を使うケースだ。熱伝導では典型的なモデルである。
第3章:つくるのがたいへんな偏微分方程式
第2章で紹介した冷奴やキュウリ、スイカの例は熱が外部に漏れ出すことがないシンプルなものだ。この章では現実に即して、より複雑で一般的なケースで偏微分方程式をたてる。次のような流れだ。
1)把手のついた中華鍋の例:鍋を熱すると熱は把手に伝わるが把手の側面から熱が空気に逃げるケース。
2)サイコロ・キャラメルの例:直角座標での熱の収支の一般式をたてる。
3)楕円型偏微分方程式の紹介。
4)バウムクーヘンの例:円柱座標での熱の収支の一般式をたてる。
5)双曲型偏微分方程式の紹介。
6)弦の振動現象が双曲型偏微分方程式であらわされることを説明する。
第4章:ふしぎに解けていく偏微分方程式
第3章までにたてた2変数の放物型偏微分方程式をラプラス変換という魔法のような方法を使って解いていくのがこの章だ。本書は全体的に興味深いが、特に山場となるのが第4章と第5章である。
1変数のラプラス変換では表の世界の関数 f(t) をラプラス変換すると裏の世界の関数 F(s) になり、与えられた微分方程式を裏の世界で代数的に解いてから表の世界の関数にラプラス逆変換する。つまり次のような流れになる。
f(t) ⇒ F(s) ⇒ f(t)
2変数のラプラス変換では表の関数を f(t,z) とし、これをtについてラプラス変換して裏の世界の関数 U(s,z) を得、さらにzについてラプラス変換して「裏裏の世界」の関数 V(s,σ) を得る。与えられた微分方程式を裏裏の世界の表現にしてから代数的に解き、その解をsとσについて2回ラプラス逆変換して表の世界の表現に戻せば最終的な解が得られる。全体は次のような流れになる。
f(t,z) ⇒ U(s,z) ⇒ V(s,σ) ⇒ U(s,z) ⇒ f(t,z)
2変数ラプラス変換の問題をたとえて言うならば次のようになるだろう。
現実世界の問題を眠ることで夢の中の世界の問題に変換し、その夢の中でさらに眠って「夢の中の夢の中の世界」の問題に変換する。その世界でその問題は簡単に解くことができ、解いた結果を「夢の中の世界」の問題の解へ、そして「現実世界」の問題の解へと2回逆変換すれば自然に現実問題での答が得られていることになる。
この手順が解説されているのは本書の第4章だ。
なおラプラス変換については次のようなページでイメージをつかむことができる。
ラプラス変換とは何か
http://www.jeea.or.jp/course/contents/01131/
初心者用ラプラス変換解説
http://www.ice.tohtech.ac.jp/~nakagawa/laplacetrans/Laplace1.htm
第5章:解をグラフで味わう偏微分方程式
この章では解を求めるだけでなく、結果の数値を吟味したり解のグラフを見ることで形によって異なる熱の伝わり方の違いを確認する。次のような例で解説が行われる。
1)プリンの表面に塗るカラメルがプリン内部に浸透する経過を計算する。
2)キュウリとスイカを冷やして、何分で冷えるか計算する。
3)キュウリとスイカについて時間によって変わる温度分布をグラフで確認する。
4)第3章で紹介した熱した中華鍋の把手の時間経過に従った温度分布を確認する。
5)放熱フィンの効率を計算する。
本書では熱伝導の方程式をラプラス変換を使って解き、「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」ではフーリエ級数やフーリエ変換を使って解いている。熱伝導現象の物理的性質と解き方の間には何の関連もない。与えられた微分方程式を解く方法がいくつかある中で2つ紹介されたというだけである。
このように本書は熱伝導、伝熱学の入門書を兼ねた偏微分方程式への入門書なのだ。肩ひじ張らずに手軽に読めるところがよい。
くだらな過ぎる駄洒落があちこちに目立ち、さらに駄洒落にもイラストがついているという強烈に個性豊かな本だが、その点を差し引いても十分お勧めできる一冊である。
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「なっとくする偏微分方程式:斎藤恭一」

まえがき
プロローグ:ちっとも変じゃない偏微分方程式
第1章:準備に時間がかかる偏微分方程式
- 偏微分方程式をたてるモチベーション
-- 天気予報に偏微分方程式が活躍している
-- 現実世界を支配している「場」
- 偏微分方程式をつくる基本原理
-- おもしろくない偏微分方程式をつくる
-- 私のお小遣いは500円だった
-- 洗面台での水収支
- 座標系、微小空間、そして微分
-- 「座標は与えるものであって、与えられるものではない」
-- 三者三様の微小体積の求め方
-- 割り算の分母を縮めれば微分に行き着く
- 基本アイテムは流束
-- 私たちの周りは流束だらけ
-- ベクトルとスカラーの区別
- ドヤドヤ流束の表現術
-- 3つのドヤドヤ流束を式にしよう
-- 本当はベクトルにしないといけない
- マヘモのジワジワ流束と勾配三人衆
-- マヘモのジワジワ流束も式にしよう
-- ジワジワ流束の中身
-- 物理的直観からのジワジワ流束の定式化
-- やはりジワジワ流束もベクトルだ
-- 比例定数の正体
- この章のまとめ
第2章:つくるのがおもしろい偏微分方程式
- 「○○な△△に、突然、□□」現象
-- マヘモがジワジワ移動する
--「○○な△△に、突然、□□」って何なのか
- 単純化して本質を抽き出すモデリング
-- コンピュータ任せではつまらない
- 放物型偏微分方程式の誕生
-- ふたたび、「炒りたまご消して出る」
-- マヘモの形がビシっとそろう
- 時間なら初期条件、空間なら境界条件、ただそれだけ
-- 数学用語なんて怖くない
-- 実際の状況から初期条件と境界条件を決める
- 無次元化とアナロジー
-- 無次元化とは「基準値との比」で表すこと
-- 「そうよ、マヘモは似ている」
- キュウリとスイカを冷蔵庫で冷やす
-- キュウリは細長し、スイカは丸し
-- 細長いキュウリの冷え方
-- まん丸いスイカの冷え方
- この章のまとめ
第3章:つくるのがたいへんな偏微分方程式
- 「消」がゼロでない収支式
-- より現実に近づきたい
-- 中華料理屋で「入溜消出」
- 直角座標での収支の一般式
-- サイコロキャラメルの中の収支
-- 式の見かけをスッキリさせる秘策--内積とナブラ
-- ナブラの使い方教えます
-- 熱の運動量の一般式はアナロジーから作る
-- 「楕円型偏微分方程式」の登場
- 円柱座標での収支の一般式
-- 微小バウムクーヘンで「入溜消出」
-- ふたたび定常状態を表してみよう
- 双曲型偏微分方程式
-- 放物線、楕円があれば双曲線もある
-- 「逆」微分コンシャス
- この章のまとめ
第4章:ふしぎに解けていく偏微分方程式
- 偏微分方程式の解法の分類
-- 紙とエンピツと忍耐
- ラプラス変換表をつくる
-- 役に立つ数学もある
-- ラプラス変換の定義
-- ラプラス・セブン
- 放物型偏微分方程式をラプラス変換法で解く
-- 放物型偏微分方程式のおさらい
-- ラプラス変換/逆変換のはるかなる旅路
-- もう1つの境界条件にチャレンジ
- 常微分方程式をラプラス変換法で解く
-- 定常→非定常→つぎの定常
-- いわゆる常微分方程式をつくる
-- ラプラス変換の再登場
- この章のまとめ
第5章:解をグラフで味わう偏微分方程式
- プリンカラメルのしみ込み
-- 高級プリンの味の秘訣
-- 誤差関数をグラフにする
-- さて、拡散係数はいくつ?
- キュウリとスイカの冷やし
-- もろキュウまだ、急いでよ
-- 酔って絡んでくるお客の頭を冷やす
- 中華の把手でのジワジワ
-- 把手の定常状態
-- 偏微分 v.s. 重積分
- この章のまとめ
べんりな付録:
付録1:本書で使用したギリシャ文字の一覧
付録2:微分と積分の公式
付録3:様々な座標でのナブラとラプラシアンの公式
付録4:三角関数と双曲線関数
付録5:ラプラス変換の基本
付録6:少し高度なラプラス変換表
付録7:ラプラス逆変換表
参考書の紹介
おわりに
なっとくする偏微分方程式ワールド
索引
笹塚在住+フランス語学習と留学経験者ということで、親近感と興奮でコメントしてしまいました。
私も、現在彼氏の家である笹塚に住んでいて、大学時代からずっとフランス語を勉強しています!!
仏文を卒業して、その後ずっと日仏学院で勉強していました(現在は諸事情で中断中です)。
学生時代は、アンジェに留学もしていました。
しかも、プチロワイヤルは私も、学生時代利用していて、著書の先生の授業も受けていました!!
しかも、紹介されているダイヤモンドさんは、この家から徒歩10秒くらいの超近所。
そして、ものすごく気になっていた「chez elles」さんとご友人ということでさらにびっくり!!
失礼ながら、なぜこのような街の小さな化粧品屋さんで「clio blue」を直で取り扱っているのか??と思っていました。
冷やかしで、お店に行ってしまいました。
ここのご主人は、もしかしてフランス語のできる方なのか??と聞きたいけど聞けないと思ってました。
最近、フランス語勉強してなかったので、そろそろ真剣に再開しようかなあとブログ読んで思いました。
長文失礼しました。
はじめまして。
小難しい理数系ブログにコメントいただき、ありがとうございます。(笹塚にお住まいというだけで親近感が沸きますね。)
大学時代の僕はアテネフランセに通っていました。社会人になってからも通っていましたから足掛け7年というところでしたね。短期留学は2度パリでホームステイしていました。
シェゼルの店長はフランス語はできません。お店の会計を任されている方がフランス留学されていた人で、その方のつてで「clio blue」を取り扱うことになったそうですよ。僕は化粧品のことはよくわかりませんが、人気がある商品なのだそうですね。
ダイヤモンドではブログの記事に書いたとおり「笹塚ぽてと」が好きです。あと、家族の誕生日のときなどにケーキを買っています。笹塚はよく歩いていますのでひろこさんともすれ違っているかもしれませんね。
プチロワイヤルの著者の先生の授業をとられていたということは、上智大ご出身なのかと想像しています。僕は飯田橋の理科大卒です。
ひとつ前の記事で紹介した「熱の解析的理論:ジョゼフ・フーリエ著、ガストン・ダルブー編纂」の原書は200年前にフランスの数学者によって書かれた本です。文学や哲学だけでなくフランスは有名な数学者を数多く輩出しました。そのことだけでもフランス語を学んだ者にとってはうれしくなりますね。僕のブログでは次のような記事でフランスの数学者のことが紹介されています。
ブルバキ―数学者達の秘密結社:モーリス マシャル
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/6b9c135cfe8159f8ecf0531fe3c4c297
数学原論: ニコラ・ブルバキ (Nicolas Bourbaki)
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/fd922f0b1d9f25ce7162704e2dacdee4
ラプラスの天体力学論 全5巻
http://blog.goo.ne.jp/ktonegaw/e/30668400c987d01a10d9dfc865288816
僕のブログはほとんど理数系の大学生、社会人向けの記事ばかりですが、折に触れてフランス語系の記事も書いていきます。これからもよろしくお願いします!
あ、そうそう。坂の途中のガレット屋さんのご夫妻も僕の友達ですよ。(笑)
とねさん、コメント返していただいてありがとうございます
私も、とねさんとはすれ違っているのではないかと思っています。
ガレット屋さんもお友達なのですね
あそこは、まだ行った事ないんですよね。
飯田橋のブリュターニュはよく行ってました
あ、理科大のご出身なんですね。昔の職場の先輩が理科大卒の才女でした!
もしかして、神楽坂にもお詳しいのかな??
それでは、日仏はご近所ですね。
私は、大学で4年間とその後7年くらい日仏で勉強してました。
大学は、自分は白百合です。
先生は、上智の教授だった気がします。講師できていた方です。アテネでも教えていたはずです。
ダイヤモンドさんは、全部美味しかったです。
夏に出てたグレープフルーツのゼリーがかなり好きでした!!!
今後ともよろしくお願いします
白百合大学卒の方でしたか。仏文学科ありましたね。僕がアテネで同じクラスの女の子にも白百合の学生がいました。千葉県の稲毛海岸から仙川まで長距離通学していましたよ。
神楽坂には詳しいですけど、それは昔の神楽坂のことでしたし。。。(笑)確か2年前に再開発してがらりと変わってしまいましたね。大学時代によく通った喫茶店やレストランも無くなってしまっていると思います。テレビドラマ「拝啓父上様」を収録していたころがぎりぎり最後の良き神楽坂ではないでしょうか。
日仏学院は大学の近くでした。懐かしいです。たしか敷地内は大使館と同じ扱いで「フランス領」でしたね。飯田橋駅の駅の広告に「一歩入れば、そこはもうフランス」のようなキャッチコピーが書いてあったのを覚えています。治外法権だから犯罪者が敷地内に逃げ込んでも警察は入れないというようなことも聞いたことがあります。
> 今後ともよろしくお願いします
こちらこそ、よろしくお願いします。
ありがとうございます
コメント公開が遅れてしまい、失礼しました。
微分を習い始める高校時代には、それが将来どのように役立つかわからないで学んでいる学生がほとんどですね。
「関数接合論」というキーワードで検索してみましたが、どうも見当たりません。インターネット上あるいは発売されている書籍にこの理論について書かれているものはありますでしょうか?
今年もよろしくお願いいたします。