とね日記

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曲線と曲面の微分幾何(改訂版): 小林昭七著

2010年01月31日 17時35分26秒 | 物理学、数学
曲線と曲面の微分幾何(改訂版): 小林昭七著」(Kindle版

内容:
Gauss-Bonnetの定理のように、美しく深みのある幾何を理解してもらうために、微積分の初歩と2次3次の行列を知っていれば容易に読み進めるように解説。
1995年の改訂では、「極小曲面」の章を新設し、第2章にでてくる例を詳しく調べることに重点をおき、図の改良にも工夫をした。
1995年9月刊行(改訂)、208ページ

著者について:
小林 昭七(こばやし しょうしち): ウィキペディア
1932年1月4日 - 2012年8月29日:山梨県出身。1953年に東京大学理学部数学科を卒業。1956年、ワシントン大学で博士号を取得。論文は(Theory of Connections)。日本の数学者。カリフォルニア大学バークレー校名誉教授。研究領域は、リーマン多様体、複素多様体およびリー群。小林久志 (計算機科学者)は弟の一人。

小林先生の著書: Amazonで検索


微分形式」と呼ばれる微分幾何学で使う計算方法を直観的に学べるのがこの本の特色だ。既に多様体上の微分形式として「多様体の基礎」という本で一般的な形で学んでいたが、自分の中では幾何的なイメージと微分形式がしっくり結びついて理解できていなかった。その点2次元の曲面論に範囲を絞って微分幾何学を展開する本書はそれを身近なものにするにはうってつけだった。増補された第5章の極小曲面についての章を除き、楽に読み進むことができた。

章立てはこのとおり。

目次 (章タイトル)  → 詳細目次
1.平面上の曲線,空間内の曲線
2.空間内の曲面の小域的理論
3.曲面上の幾何
4.Gauss‐Bonnetの定理
5.極小曲面

第1章と第2章では曲面の曲率にKであらわされる「ガウス曲率」とHであらわされる「平均曲率」があることからはじまり、曲線や曲面論が詳しく説明される。第3章では、第一基本形式(つまりガウス曲率による形式)だけを使うリーマン計量を用いた内容が展開され、共変微分や測地線が説明される。

第4章では、本書の目的でもある「Gauss-Bonnetの定理」が詳しく解説されている。この定理は、ガウスが測地線で囲まれた曲面に関して発表した公式を、ボンネが測地線以外の曲線で囲まれた曲面の場合に拡張したものだ。またこの章ではベクトル解析では証明が煩雑な「ストークスの定理」も微分形式を使ってシンプルかつエレガントな証明が紹介されている。

参照:ストークスの定理の証明(「物理のかぎしっぽ」より)

ベクトル解析による証明:
http://hooktail.sub.jp/vectoranalysis/StokesTheorem/

微分形式による証明:
http://hooktail.sub.jp/differentialforms/DiffFormsStokesTheorem/

第5章の極小曲面は少し程度が高く浅読みするにとどめてしまった。(反省)

全体的なレベルは多次元の微分幾何を扱う「多様体の基礎」より易しい。大学教養課程の微積分と線形代数の知識があればきちんと理解しながら読み進められるだろう。

微分形式については「T_NAKAの阿房ブログ」に詳しく紹介されているので参考にしていただきたい。
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_17.html
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_19.html
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_20.html
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_21.html
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_26.html
http://teenaka.at.webry.info/200701/article_27.html

本書の「あとがき」では17世紀にニュートンやホイゲンスによって始められた微分幾何学という分野がその後どのように発展し現代に至ったかを4ページに渡って紹介している。微分幾何学をはじめて勉強する者にとっては大いに参考になるだろう。この「あとがき」は読み飛ばしてはならない。

本書の正誤表や目次は出版社のページでご覧いただきたい。

曲線と曲面の微分幾何(改訂版)
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1091-2.htm


小林先生はより発展的な『接続の微分幾何とゲージ理論』という名著もお書きになっている。合わせてお読みになるとよいだろう。

曲線と曲面の微分幾何(改訂版): 小林昭七著」(Kindle版
接続の微分幾何とゲージ理論: 小林昭七著」(Kindle版
 


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曲線と曲面の微分幾何(改訂版): 小林昭七著」(Kindle版


◎ 索引 (pdfファイル
◎ 正誤表 (pdfファイル

詳細目次  →『曲線と曲面の微分幾何(改訂版)』 目次
まえがき/旧版まえがき (pdfファイル

1.平面上の曲線,空間内の曲線
 1.1 曲線の概念
 1.2 平面曲線
 1.3 平面曲線に関する大域的結果
 1.4 空間曲線
 1.5 空間曲線に関する大域的結果

2.空間内の曲面の小域的理論
 2.1 空間内の曲面の概念
 2.2 基本形式と曲率
 2.3 実例について基本形式,曲率の計算
 2.4 正規直交標構を使う方法
 2.5 2変数の外微分形式
 2.6 外微分形式を使う方法

3.曲面上の幾何
 3.1 曲面上のRiemann計量
 3.2 曲面の構造方程式
 3.3 ベクトル場
 3.4 共変微分と平行移動
 3.5 測地線
 3.6 最短線としての測地線

4.Gauss‐Bonnetの定理
 4.1 外微分形式の積分
 4.2 Gauss‐Bonnetの定理(領域の場合)
 4.3 Gauss‐Bonnetの定理(閉曲面の場合)

5.極小曲面
 5.1 平均曲率と極小曲面
 5.2 極小曲面の例
 5.3 等温座標系
 5.4 Weierstrass‐Enneperの表現
 5.5 随伴極小曲面
 5.6 極小曲面の曲率
 5.7 Gaussの球面表示

補遺
問題解答
あとがき (pdfファイル
索引 (pdfファイル
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懐かしい本 (271828)
2010-02-01 18:53:19
とねさん はじめまして

この本はとても懐かしい本です。今から20年位まえに旧版を購入しました。ハードカバーで極小曲面の章はまだありません。

大学では文科系だったのですが、ちょっと頑張って読んで滑り台の設計に生かしました。工学的利用です。
返信する
271828さんへ (とね)
2010-02-01 19:09:09
はじめまして。コメントいただきありがとうございました。ニックネームの「271828」というのを見てにんまりしてしまいました。(笑)

ブログを拝見させていただきましたが今でも数学への想いは続いていらっしゃるのですね。記事の雰囲気から察するに僕より少し先輩のような気がしました。プロフィールの写真が幼少期のものを使っていらっしゃるのも僕と同じですね。

この本も思い出の1冊でいらっしゃるとか。確かにこれはいい本ですよね。ネット検索してみると2003年ごろにこの本で読書会を開いていたグループもあったようです。

ブログを拝見させていただいたところ、設計士さんでいらっしゃるようですね。あちこちの公園の遊具が幾何的な観点から紹介されていてとても興味がわきました。これから折にふれて読ませていただきます。
返信する
接続の微分幾何 (千京夕夏)
2010-02-03 20:32:37
小林先生の「接続の」は、院生の最初の頃読んでました。でも、結局ものにならなかったのですが(^^;

その頃、ちょうど帰国された小林先生の「接続の」を元にした集中抗議が津田塾であって参加したのはいい思い出です。

「接続の」にサインもしてもらいました。
津田や東京女子大の数学の院生と知り合えたのも大きなポイントでした(^^;

ゲージ理論というから、物理理論との関連に興味があったのですが、小林先生いわく「物理のゲージ理論は詳しくない」とのことでした。
返信する
千京夕夏さんへ (とね)
2010-02-03 21:22:37
お久しぶりです。お元気ですか?
なんとサイン入りの「接続の~」をお持ちなのですね!羨ましい。。。

この本に取り掛かるのはもう少し先になりそうですが、今年は数学を中心に読み進めることにしましたのでできれば年内に読みたいですね。と言いつつ1冊読む間に2冊くらい買ってしまう状態なのでなかなか憧れの本にたどり着けません。(笑)

今年もよろしくお願いします。
返信する
Unknown (ひろゆき)
2012-09-03 10:23:11
こんにちは!最近意味不明な鼻水に悩まされています_| ̄|○

小林昭七先生が亡くなられたようですね。

非常に残念です。
返信する
ひろゆきさんへ (とね)
2012-09-03 13:14:21
ひろゆきさんへ

鼻風邪(?)お大事になさってください。長引いているなら病院に行ったほうがいいですよ。

> 小林昭七先生が亡くなられたようですね。

そうなのですか!知りませんでした。ニュースの訃報記事チェックしてみましたが、まだニュースとして配信されていないようです。現在80歳でいらっしゃるわけですね。訃報が本当だとしたら残念なことです。
返信する
ひろゆきさんへ (とね)
2012-09-03 13:33:55
小林昭七先生がお亡くなりになったというのは、どうやら本当のことのようですね。こういう記事を見つけました。急なことだったようで残念です。

http://latimer-sagamore.blogspot.jp/2012/09/2.html

ご冥福をお祈りいたします。
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