久保敬元校長の文書訓告取り消しを求める応援団(ガッツせんべい応援団)

久保敬さんの「文書訓告取消を求める人権侵害救済申立」を応援します!

ドイツ報告⑥ 社会の壁にぶつかっている若者にとって、安心できる居場所を提供する活動

2023-11-04 14:54:37 | 辻野けんまより

ドイツ報告⑥

ドイツ滞在の最終盤に入り南部ルードヴィクスブルク市およびアスペルク市での調査へ。2015年のいわゆるシリア危機以来、同地で難民調査を続けてきました。アスペルク市で難民支援を最前線で続けてきたGerlinde Bäßler氏とソーシャルワーカーのPaolo Ricciardi氏のご協力により、市役所、難民宿泊所などを訪問。市長および秩序局長にお会いし、難民支援政策から行政上の手続き、現状などをお聞きしました。かつて仮設テントだった難民宿泊所は居住環境の整備が進み施設も新設されていました(写真)。

その後、支援活動の現場を参観。自転車工房Rad & Tatでは職業訓練と自転車提供の両面から活動されていました。社会事業・移動ユースワーク(Mobile Jugendarbeit)のルードヴィクスブルク市の活動場所では、社会の壁にぶつかっている若者にとって、安心できる居場所を提供する活動がなされていました。

なお、難民調査とは別に就学義務との関わりで、アスペルク市の警察署でインタビューをさせていただきました。学校との連携は、交通安全教育および予防教育(ドラッグ、暴力、ネット犯罪など)が中心で、実態として警察が不登校などに関わることはほとんどないようです。歴史の教訓から権力が分散されてきたことと市民に近い警察が目指されてきたこと、しかし治安をめぐって市民との距離の持ち方が難しいこと等を話してくださいました。

この地での調査の結びに、親交のあるルードヴィクスブルク教育大学のUlrich Iberer氏(教育経営学)と会い、ドイツ社会のことや教育のこと、今回の調査のことなどを約4時間ほど意見交換しました。ドイツらしく散歩(Spaziergang)しながら思考を整理することができました。

(画像)新設の難民宿泊所

(画像)アスペルク市のシャイク秩序局長、ベスラー氏、ソーシャルワーカーのリカルディ氏に新設中の難民宿泊所を案内いただきました。

 


ドイツ報告⑤ 社会が人間を中心と周縁のどちらかに押しやるという構造こそが、克服されるべきという視点

2023-11-04 14:48:21 | 辻野けんまより

ドイツ報告⑤


デュイスブルク=エッセン大学を訪問。科研プロジェクトの共同研究者ベティーナ・アムライン氏と研究協議を行いました。インクルーシブ教育の気鋭の研究者で、前任のビーレフェルト大学から異動し1年目という新鮮な目で大学を紹介してくれました。工業で知られるルール地方にエッセン市は位置し、人種背景の多様性や経済的な脆弱性などの地域性があるとのことです。学生は困難にも負けないスピリッツを持っているとのことで、そのような大学でインクルーシブ教育の研究ができることを喜んでおられました。

狭義のインクルージョンの対象が社会の中でいわゆるハンディを負った人たちであるとすれば、広義の対象は人にハンディを感じさせる社会構造そのものだと考えておられます。社会が人間を中心と周縁のどちらかに押しやるという構造こそが、克服されるべきという視点が、私たちの科研プロジェクトで共通関心となっています。

アムライン氏はこの3月~4月に日本に滞在されて、滞在中に元大阪市立木川南小学校の校長をされていた久保敬先生ともジョイントセミナーを開催しました。久保先生の教育観に共感されたからでした。テスト中心の教育政策や競争主義の教育政策は、正に人を周縁化させる構造を強化させるからです。

なお、写真はデュイスブルク=エッセン大学と街並みです。教師教育センターのある棟(ビル)でも資料くことができました。また、ここでも学生自治会(AStA)の事務所で学生さんがインタビューに協力してくださいました。許諾いただき写真を掲載します。

 


ドイツ報告④:100万人以上の難民の方々を受け入れてきたドイツ

2023-11-02 13:04:16 | 辻野けんまより

ドイツ報告④

 ビーレフェルト大学を訪問。難民の方をドイツの学校の教壇に立てるようにするプログラム「Lehrkräfte PLUS(レーアクレフテプルス)」について追跡調査を実施。2015年のシリア難民危機を契機に州政府・関係省庁と連携してビーレフェルト大学で同プログラムが始動。難民としてドイツに入国された方々が現在までに、すでに300名以上かのプログラムを修了者しドイツ国内の学校で正規の教員として活躍している。このプログラムの立役者レナーテ・シュスラー博士とチームの研究者たちと研究交流を続けてきましたが、現状について詳しく教えていただきました。

また、同大学の学生自治会(AStA)の本部でもヒアリングさせていただくことができました。ドイツの大学は学費無償ですが、州政府では学費導入の議論が常にあり、学生たち(大学教員たちもですが)それに抗しているとのことでした。この日の最後に大学附属実験学校を訪問し、アネッテ・テキストア教授にインタビューさせていただきました。教授は学校の先生方と共同研究をしてこられましたが、今日の若手教員や教員志望学生が仕事に大きな不安や負担感を抱えている状況などをお話しくださいました。

 本日考えさせられたことは、2015年以降だけでも100万人以上の難民の方々を受け入れてきたドイツにおいて、生活面でドイツ社会に少しづつ根付きつつ表舞台で活躍する段階に入っているということでした。

日本ではそもそも難民受け入れ自体がほぼ皆無という政策下で、定住されている移民の方々さえも活躍しにくい社会があります。日本の学校の正規教員となれるような時代はいつ訪れるのかと考えさせられます。

なお、ビーレフェルト調査より、群馬大学の高橋望先生が参加くださっています。くわえて、日本留学経験のある同大学の現役学生で教員志望者でもある方が、インタビューに参加してくださいました。そのおかげで、自分だけで調査するときには分からない多くの発見がありました。

 


ドイツ報告③ なぜ学校で学ぶ意義があるのか

2023-10-29 15:48:08 | 辻野けんまより

ドイツ報告③


ハンブルクにて教育支援センターの訪問調査と研究会報告を行いました。

センターのミッションは様々な状況にある子どもや家庭の支援で、主には心理・特別支援教育の専門家が担うカウンセリング部門と教員が担う教育部門があります。不登校の背景が様々である点は日本とも通底していますが、ハンブルクでは公的に設置された支援機関がかなり整備されてきている印象を受けました。逆に、日本ではパブリックな自治体の支援センターだけでなく、プライベートなフリースクールまで多様な機会があることは、ドイツの人たちには珍しく映るようです。ハンブルクは都市州(日本の政令指定都市に近いイメージ)ですが、市内各区域にセンターが設置されているため、地域性の異なる2つのセンターを訪問させていただきました。

その後、ドイツ各地から研究者が集い、スウェーデンおよび私たち日本からの参加者を加えて研究会が二日間開催されました。安原先生に加えて東京外国語大学の布川あゆみ先生との3名で共同発表をしました。日本の不登校、フリースクール、居場所づくり、就学義務の特性などに焦点をあてた内容です。

ドイツでは手厚い支援の反面で不登校が就学義務の履行違反になるなど厳格な法適用がなされていますが、日本では進級や卒業などが教育的にも法的にも「正当に」行われてきている、という特性がドイツとの比較から浮かび上がります。フリースクールなどはドイツでは認められていないため非常に関心を持っていただきましたが、公的支援がなければ、「利用料が払えない貧困家庭はどうなるのか」といった質問も寄せられました。

プライベートな支援に公行政が依存するのではなく、就学義務を課している国家みずからが、まずもって「なぜ学校で学ぶ意義があるのか」に責任をもって応答してほしいと思います。そして、その意義とは「愛国心」や「公共心」などの国家に都合の良い目的ではなく、一人ひとりの子どもの人生にとっての中身が説明される必要があります。さらに言えば、意義が説明しきれない部分も当然に出てくるはずですので、それほどに広がってしまった就学の義務については適正な射程に収める必要があるかもしれません。


ドイツ報告② 国家の人間管理装置の恐ろしさ

2023-10-27 14:59:37 | 辻野けんまより

ドイツ報告②

ベルリンから北部のロストックへ移動。旧東ドイツ地域にあたるメクレンブルク=フォアポンメルン州の都市です。ここではロストック大学国家保安省シュタージ博物館などを訪問しました。歴史写真家Gerhard Weber氏が第二次大戦で崩壊した町並みから東ドイツ時代の町並みまでの写真と対比しながら町案内をしてくださいました。共同研究者のギゼラ・シュルツェ教授(オルデンブルク大学)が、東ドイツ時代の生活やシュタージに拘留された経験などを話してくださいました。その後、シュタージ博物館を訪問し「あらゆる手を使って人間性を崩壊させる」「罰と見返りの操作により情報提供者に仕立てていく」という国家の統治を目の当たりにしました。強制収容所にも通じる国家の人間管理装置の恐ろしさを実感します

その後、ロストック大学では州教員組合(GEW)代表および州父母会代表へのインタビューを行いました。教育政策形成過程への教育参加や教師教育改革、教育上の自由、法的係争などを教えていただきました。教員組合からは法務担当の方も参加くださり、あらためてドイツ社会における教育と法、権利の密接な関係を感じることができました。

他に、1419年から続くロストック大学の歴史ガイドなども専門の方から受けることができました。インタビューにも協力していただいたギゼラ・シュルツェ氏やロストック大学教員のマイク・ヴァルム氏がドイツ料理のレストランまでご一緒くださり感謝に堪えません。また、ロストック調査からは獨協大学の安原陽平先生(教育法学)がご参加くださっており、非常に心強いです