最初は南アの日向八丁尾根から甲斐駒などを考えていたが、事前の天気予報ではこの週末は天気は良くても標高の高い所では風速20m/s以上の強風が吹き荒れるとか。
ちなみに自分が山へ行く時の目安として「風速17m/s以上からは台風」という概念があり、それならばと計画したのが(新潟側の)大源太山。
標高1,600m弱ながら「上越のマッターホルン」などと呼ばれ、以前から行ってみたいと思っていた山だ。幸い天気も落ち着いていそう。
大源太山の積雪期のルートとしては、弥助尾根、葡萄尾根、コブ岩尾根などがあるが、今回選んだのは葡萄尾根。
ネットで記録を見るとコブ岩尾根が一番ハードなようだが、葡萄尾根もこの時期に単独で登っている人はそういないようで、パーティーによってはロープ必須などと書いてある。
少々不安だが、ありきたりの所ではつまらないし、行ってみなけりゃわからない。とりあえず今回は偵察のつもり、ダメ元で行ってみることにした。
天候:
行程:旭原9:00-葡萄尾根-大栗ノ頭14:30-コルの天場15:10
一人なのでなるべく高速代を安くしようと、圏央道でなく第三京浜~環八経由で関越道に入るが、やはり少し渋滞に掴まる。
今冬の初めはどこの山も雪が少なく一時はどうなることかと思ったが、谷川岳方面はけっこう真っ白でまだまだ雪山が楽しめる。
ネットのレポでも確認していたが、この時期、ちょうど大源太山の登山口の所まで道路が除雪され、そこで通行止めとなっている。
散歩していた地元の人に聞いたら、ここなら道路脇に駐車してOKとのこと。
四方山話をしながら支度をして、山へ入る。
誰もいない真っ白なゴルフ場の中を、正面に大源太山を見ながら一人突っ切っていく。
初めての場所だが、今日は絶好の天気で間違えようがない。
樹林帯の尾根をタラタラと登っていく。
数日前も雪が降ったようだが、小動物以外のトレースは一切無し。
せいぜいスネ辺りの積雪だが、この時期の雪は重く、晴天ということもあり、あっという間に汗ダクになる。
ここから尾根は直角に左へ曲がり、下り気味にきれいな雪尾根が続いた後、主稜線に突き上げている。
地形的には昨年登った仙ノ倉山北尾根と似たイメージだ。
ラッセルというほどではないが、それでも一人でトレースを刻んでいくのはしんどく、20歩歩いては息を整えるという辛抱我慢の登りが続く。
少し進んで大栗の頭(1,458m)に立つ。
ペースが良ければ天気がいい今日中に頂上を越えて弥助尾根の途中で幕とも都合の良い考えでいたが、さすがにそれは甘かった。
この下りでは部分的に後ろ向きになるような急な傾斜に加え、雪庇や隠れたクレバスがいたる所にあり、慎重に歩を進める。
上から見た通りそこは平坦で最高のテン場だった。まだ15時で少し早いが、この先、大源太の頂上までが今回の核心部であり、今日はここまでとする。
ほとんど整地することなく、アライの「RIZE1」を設営。結局、今日はアイゼンは履かずにここまで来れた。
斜陽に輝く大源太山はコルから見上げると二つの岩峰が丁度鬼の角のように聳えて、なかなか威圧的だ。はたして自分一人で行けるのか。
単独の場合、とにかく引き際が肝心。その判断だけはミスらないようにしたい。後は成せば成るだ。
夕方になると雲が広がり、明日の天気が少し心配になったが、その夜は風もなく静かに眠れた。
天候:一時
行程:テン場6:00-最初の岩峰-二つ目の岩峰-大源太山頂9:00~20-弥助尾根-林道徒渉点-旭原14:40
外を見ると昨日の好天と打って変わってどんよりした曇り空。
それでも雲の切れ間から朝陽が顔を出し、少し元気になる。
今日は朝一から核心部。メット、ハーネス、アイゼンを着け、気合を入れ臨む。
まずは最初の岩峰へ。
昨夜、テントの外で何やら気配がしたが、テントの周りにはやはり小動物の新しいトレースがあり、山頂の方へ続いていた。
トレースは危うい雪庇ギリギリの所へ向かっており、それに騙されないよう安全ラインを取る。
尾根は一部キノコ雪のようになっており、一見大丈夫そうなスノーリッジが実はフェイクで、なるべく右側のブッシュラインを目印に進んでいく。
幸い雪質も良くブッシュもホールドとして使えるのでそれほど不安はないが、上部に行くと傾斜は50度、足元はスッパリ数百mは切れ落ちており、絶対に落ちれないところだ。
自分としては次の岩峰の方がより核心と思っていたが、多くのパーティーがロープを使った方が良いと言っているのはこの最初の岩峰のようだ。
それでも先月の一ノ倉沢の一・二ノ沢中間稜の余韻が残っているため、自分なら大丈夫との思いがあった。
ここまで来ると、退却も簡単にはできない。振り返りつつ覚悟を決めて最後の砦のような次の岩峰へ進む。
ブッシュで手掛かり豊富そうだが、さすがに正面の壁に一人で突っ込むのはちょっとリスキー。ここは無理せず、セオリーどおり岩壁の裾を右に巻いていく。
湯沢の町は近いが、それでも見渡す山々の中で今いるのはおそらく自分一人。どんよりした曇り空も相まってちょっと隔絶した雰囲気を味わった。
それでも何回かハマリかけ、一回は落ちたら自力で上がれないような大穴を踏み抜き、ヒヤッとした。
天気が悪くホワイトアウトになったりしたら弥助尾根もなかなか厳しく一人だと怖いと思う。
幸い視界は利き、地形もとてもはっきりしているので尾根通しに忠実に下り、沢沿いの林道に出る。
たった二日間、わずか1,600mの低山ながら、それなりの体力と緊張感を要し、やり切った感あり。
どちらも今は亡きタケちゃんとこっち方面の沢へ行った帰りはよく寄った思い出の場所。あの頃を想いながら山行を締め括った。