日程:2018年8月16日(木)-19日(日) 両夜行三泊四日
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
参考:「チャレンジ!アルパインクライミング」廣川健太郎・著ほか
さて今回は夏のアルパインとしては定番中の定番で、夏の剱。
パートナーは毎度のヒロイ嬢。(^^;)
剱はGWも含めて私はこれまで何回か登っているが、彼女はこれまで計画があったものの、いずれも縁無くまだ登っていないらしい。
山の好みもどちらかというとミーハーではなく渋好みの彼女だが、まぁアルパイン指向なら一回ぐらいはグラビア・ルートを登っておくのもいいでしょうということで企画。
当初は私の学生山岳部時代からの友人であり「剱人」とも呼ばれるチョモランマ山本氏をお招きしてコラボ企画を考えていたのだが、当の本人はアプローチにやたら小窓尾根に固執してくる始末。 小窓尾根? だって今、夏でしょ? 絶対、藪でしょ? これまで八千mをいくつも登っているのに相変わらず「やっぱり藪が好き!」的な彼とは、山に対する傾向と対策があまりにも違うので、結局コラボは見送り。(だからぁ、オレは藪が好きではないと言ってるでしょ。) 結局、二人で行くことになり、15日、横浜から夜行高速バスで一路、冨山へ。 一日目(8/16)天候: 行程:冨山5:30~6:40-室堂ターミナル9:40~14:20-雷鳥沢16:00(テント泊)
朝、冨山駅着。一時間ほど待って予約しておいた直行バスで登山口の室堂へ。 今回、初日の天気予報があまりよろしくない。市街地ではそれでも曇りでこりゃ何とかなるかなと楽観視していたのだが、バスが室堂に近づくにつれ霧が濃くなり、しまいにはバスが大きく揺さぶられるほど風が強くなる。
外は嵐、でも相方は元気。頼りになります。
とてもすぐに出発する天気ではなく、しばらく室堂のバスターミナル内で待機。
しかし昼になって落ち着くどころか風と雨はますますピークとなり、嵐の様相。
他の大勢の登山客と共にベンチに座って、相方が買ってきたホタルイカのおつまみなどポリポリ食べながら時間を潰すが、一向に好転の兆しがない。
まさか、今日はこのままここで停滞?
念のためターミナルの係員に確認すると、火器を使われては困るのでここは夜間は寝泊まりできないとのこと。うーん、立ち退きですか!
いつまでもここでウダウダしていても始まらないので、14時には雨具を着て渋々出発。
幸い風は治まったが、景色など何も見えない灰色の世界で気分はブルー。
とりあえず少し先の雷鳥沢へ。
行程を考えると少しでも先に進めたく、できれば別山乗越まで行きたかったが、相方が小屋に電話すると「ダメ」とは言わないものの(この悪天の中、夕方に来られてもねぇ・・・)的オーラが感じられたらしく、しかたなく雨の雷鳥沢でテント泊。
ラジオで天気予報を聞くと、冨山に現在大雨警報、雨は明日昼まで残るとのこと。
今回、テントは20年来使っている自分のゴアライズ(アライテント)にしたが、フライ無しではさすがに縫い目からポタポタ雨漏りがしてきて、気が気じゃない。
何とも初日から惨めな展開となったが、相方がまったく凹むことなく、元気なことだけが救いである。
********************************************************************************************************************************************
二日目(8/17)天候:
行程:雷鳥沢5:30-別山乗越7:00-剱沢-長次郎谷出合9:30-某所BC11:20-六峰Cフェース剣稜会ルート13:00~頭まで約2h-BC泊18:20
夜半、トイレに一度起きると空は満点の星。その後、再び曇るが、朝には東の空から待望の朝陽が。
今日の午前中まで雨を覚悟し、完全に全体計画の縮小を考えていたが、何とか挽回できそうだ。
テントを撤収。濡れて重くなったフル装備を担いで、まずは別山乗越へ。 途中で昨日、室堂ターミナルにいたチョイ太め韓国山ガール(?)四人組がいたので、英語でご挨拶。Have fun,Japanese mountain.
一時間半ほどで別山乗越に着。小休止後、剱沢へと下降。 昨日の荒天が嘘のように晴れ渡り、回りの景色は完全に夏山JOY。 正面に剱が大きい。
剱沢小屋を過ぎ、沢沿いの道を進むとやがて雪渓。途中からアイゼンを履き、入口に大岩のある平蔵谷を過ぎ、長次郎谷出合へ。
別山乗越から長次郎谷出合までは下りなので楽だが、ここから再び登り返し。この登って下って、また登っての繰り返しこそ、まさに「剱」である。
豊富に雪を残す長次郎谷に入って、辛い登りが続く。
相方はこういう時、無心の境地でいるらしいが、自分は心の中で1から10まで数えながら足を運んだりすることが多い。
しかし、それも辛くなると1から8、1から4・・・と次第にリズムが短くなり、終いには「辛抱、我慢。シンボウ、ガマン・・・。」と相撲部屋のような呪文を唱えることにしている。
長次郎谷を行く。
途中で上部から二人組が下りてきたので、情報収集。
下にベースを張ってAフェースの魚津高ルートを登ったが、クラックがびしょ濡れで怖かったとのこと。Cフェースは大丈夫そうだ。
休憩を入れつつ、それでも昼前に長次郎谷の某所(と敢えて伏せておくけど、わかりますよね。)に到着。
既に先客の一張があったが、昨夜もここで泊まったらしく、全装備が所狭しと干してあった。
皆さん、お馴染みのテン場。
重荷のため、ここまででもけっこう疲れて、相方の出方次第では午後はこのままマッタリかなぁと思いつつ、「六峰フェース、どうする?」と探りを入れると「行きます!」と二つ返事。 正直、ここでヘタれた返事をされるとこちらのモチも若干下がってしまうが(笑)、相方のヒロイさんはそういう後ろ向きのところがまったく無いので、こちらとしても心強い。
軽く腹に詰めたら、そのまま軽装でCフェースへ向かう。
2012年に剣稜会ルートを登った時は、取付きに雪のブロックが残っていて出だしでシャワークライムを強いられたが、今回はまったくドライ。
偵察に来ていたS大山岳部の若いニイちゃんらに挨拶してから、相方からスタート。そのままツルベで登る。
剣稜会ルート自体、特に今さらルート説明など不要なので、詳細は省略。(単なるレポの手抜き?)
3ピッチ目、本来は正面左寄りのスッキリ岩の繋がった部分を登るのだが、リードの相方はそのまま残置少なめの直上ラインを選んでしまう。
まぁ、この程度ならいくらでも途中で軌道修正できるので敢えて黙って見ることにした。何事も経験、ノープロブレムです。
それでもよくカタログで使われる剣稜会ルートのベストショット・ポイントで写真を撮り、残りの簡単なピッチを登ると六峰頂上。
振り返ると長次郎谷を続々と登ってくる他パーティーの姿があり、BCにはいつの間にかテントが増えつつあった。
小休止後、同ルートを懸垂下降。
しかし、昨年の八ヶ岳大同心で薄々わかっていたことだが、今回持ってきたロープ二本が何とも相性が悪く、やたら絡まってしまう。
また、これもわかっていたことだが、このルートの懸垂下降はヘタに延ばすと、回収時にロープがスタックしやすく、自分たちも一回登り返しを強いられた。
結局、登りよりも下りの方が時間がかかったんじゃないかと思えたが、何とか明るいうちにBC着。
デザートは「あんきも」w
テントもウェアもきれいに乾き、美味い夕飯を終えたらさっさと寝る。今夜は快適!
********************************************************************************************************************************************
三日目(8/18)天候: 行程:起床3:00-BC発4:30-池ノ谷乗越5:40-三ノ窓6:30-チンネ取付き7:40-核心「鼻」11:00-チンネの頭13:30~50-BC着16:30
朝、起きると満天の星。
昨日、明るいうちに長次郎谷上部を見たところ雪渓の状態がはっきりせず、ヘタすると先月の滝谷のような例もあるから、多少時間がかかっても五・六のコルから八ッ峰上半部のアプローチで行こうかと考えていた。
しかし、今見ると既にヘッデンを点けた2パーティーがそのまま長次郎谷の右俣を詰め、池ノ谷乗越へ上がろうとしている。
既に起き出した隣のテントの人と話してみると、たぶん長次郎谷は行けるんじゃないかとのこと。時間短縮のため、その方向で行くことにする。
隣のテント組は今日下山してしまうそうで、「良かったら。」とスーパードライのロング缶を置いていってくれた。ありがたや~。
軽く朝食をとって出発。
長次郎谷上部は案ずるより行くが易し。途中、雪渓が切れるが特に問題なく池ノ谷乗越まで上がることができた。
今回、軽量化のためアイゼンも8本爪にしようか迷ったが、やはり二人とも12本爪にしておいて正解。
さて、ここから三ノ窓まで悪名高き池ノ谷ガリーの下り。
相変わらずの悪いガレ。落石を受けないようお互いの間隔を詰めてソロリソロリと下るが、以前何回かに較べれば比較的今回ガレの崩れはおとなしかったような?
三ノ窓でトイレ休憩。ここからチンネ取付きへのトラバースでもまだ雪が残っている。
既に先に長次郎谷を登っていた二組がチンネの左稜線を登っている。
さぁ、いよいよだ。
相方からのスタートでチンネ左稜線に取り付く。このルートも超人気で、今さらルート説明など不要なので、詳細は省略。(単なるレポの手抜き?)
1ピッチ目、今回は意外とイヤらしく感じ、2ピッチ目は自分がロープを伸ばす。
テラスでフォローの相方をビレイしていると、それを完全にロックオンする形で後続のリードが付いてきた。
正直、煽られるのは好きではない。幸い、今日は崩れようのない上天気だし、写真を撮りながらのんびり登りたいので、ここで先を譲ることにする。
と思ったら、登ってきたのは旧知の仲、以前某山岳会で一緒で今はプロガイドをやっているK山くんだった。
いやぁ、ごぶさた!どおりで速いはずだ。
今日は女性二人をガイドとのこと。
しかし、この女性クライアント二名も自分と同じかそれ以上の歳と見受けられるが、おそらくK山ガイドの常連さんで手慣れているのだろう。スピード、体力とも実にお見事。今日は剣山荘からの往復で午前2時スタートというから凄い。
K山パーティーを見送り、我々も再開。
自分はここで気を抜いてまたまたビレイデバイスを落とすというヘマを犯してしまったが、こんなこともあろうかとアルパインの時は予備を持ってきているので問題無し。(とは言うものの反省しきり。)
浮石のある簡単なルンゼを越えると、後は開けたフェースとリッジが続く。
岩は乾き、フリクションはバチ効きで至極快適なクライミングが数ピッチ続く。
そして、いよいよ核心の「鼻」(Ⅴ級)である。
自分は以前GWにリードで登っているので、ここはもちろん相方に任せる。
もはやフリーでは10cのリード、さらには「なんちゃってイレブン(笑)」も数本登っている彼女なら何ら問題ないでしょう。
核心の「鼻」。夏ならA0しないのがお約束。
出だしのカンテ、そこからフェースへの乗り込み、さらに小ハングとソツなくこなす。
そして青い空をバックに登っていく彼女をビレイしながら、自分は漫画「オンサイト!」の、あの場面を思い出していた。 主人公の麻耶が羽ばたくように登っていく姿を見て、ビレイする先生が思わず涙ぐむシーン。あのシーン、いいよなぁ。 今だと、あの先生の気持ちがよくわかる。
クライミングを始めた頃を思い出させるいい作品。必読です!
さらに快適なリッジが続く。
出だしでは浮石に敏感だった彼女も後半になるにつれ大胆になり、(自分もだけど)飛ばせるところはランナウトのまま思い切り飛ばす。
お約束の「チャレンジアルパイン」撮影ポイント、さらにチンネの頭でもスタンディングポジションでミッション完了。
実に快適なクライミングJoyでした。
チャレンジ!アルパイン
チンネに立つ
靴を履き替え、池ノ谷ガリーへ懸垂、そして登り返し。 さらに長次郎谷を下ってBC着。岩と雪に囲まれたこのロケーションで飲むビールは最高! さらに相方が完登祝いのため持ってきた蜜豆などいただくと、後はまったり。
今年の夏は海外の山へ行けなかったが、十分満足だ。
********************************************************************************************************************************************
四日目(8/19)天候:晴れ
行程:BC5:30-池ノ谷乗越6:25-北方稜線(の一部)-剱本峰8:30~9:10-前剱下(事故救助応援)-剣山荘-室堂ターミナル16:45
さて、いよいよ最終日。
事前の天気予報では今日はやや曇りがちのはずだったが、フタを開けてみればイイ天気。
食料は確実に減ったはずだが、やはり最終日のフル装備はそれなりに辛い。
チンネに向かう多くのパーティーの最後尾から長次郎谷を詰める。
池ノ谷乗越で一休み後、北方稜線を剱本峰へと向かう。
一応バリエーションルートと言いながら踏跡明瞭、特に心配することはなかったが、気を抜いたせいか途中で二回ほどルートミスをし、懸垂も一回。
それでも思ったより早く剱岳頂上に着。 多くの登山客に加えて、どうやらNHKの「百名山」ロケをやっているようで、頂上は過密状態。 しばらく休んで回りの景色を楽しんだが、いよいよ足の踏み場も無くなり「日曜日の高尾山」状態になってきたところで、我々も山頂を後にする。
相方にとっては念願の剱岳のはずだったが、昨日のチンネに較べれば感激はあまりなかった様子。 頂上から見る富山平野と富山湾も「何だか丹沢の塔ノ岳から見る湘南の景色と大して変わらない。」とのこと。(全国の剱ファンの方、ごめんなさい!)
あとはゆっくり下って今日中に神奈川まで帰るはずだったのだが・・・。
カニの横バイなどの鎖場を過ぎ、前剱を越した辺りの斜面でやや渋滞気味。
適当に追い越したり立ち止まったりして進んでいると、突然上から「ラクっ!!」の声。
すぐに振り返って身構えたが、何と落ちてきたのは岩ではなく、人だった!
後ろを歩いていた相方とちょうど同じラインで、反射的に「避けろ!」と叫んだつもりだが、よく覚えていない。
それはもう転がってきたというより完全に宙を舞っており、斜面に落下後、何回も岩に頭を強打し、転がり続けた後にようやく止まった。
実際、周辺の岩は血まみれで、完全に逝ったと思ったが、その後、奇跡的に意識を回復。
幸い前剱にいた富山県警山岳警備隊がすぐに合流してくれたが、ヘリ到着まで一時間余。成り行き上、我々もその場を立ち去れずできるだけの手伝いをすることになった。
これ以上の事故の詳細は省くが、とにかく誰も「もらい事故」にならなかったし、ヘリで運んでもらえたのは不幸中の幸いだった。(その後、当人がどうなったかは不明。)
剱は現在、一般ルートでもほぼ95%以上が自主的にヘルメットを着用しているが、この人に限って被っていなかったのが悔やまれる。
結局、この一件で予想外のタイムロス。 室堂発の最終バスに間に合わせたいため、最後は決死のタイムトライアルとなる。 ラスト、室堂ターミナルへの登り返しでは疲労と息切れで一気に石段を登れず、息も絶え絶え。
いくら自分より若いとはいえ、相方もこの大学山岳部並みのハードワークはさぞかしキツかっただろう。よく頑張った。 そして最後も相方のファインプレイで、何とかその夜の高速バスをゲット!予備日の20日朝に新宿経由で無事に帰ってきた。
初日は嵐、間の二日間は最高の天気、そして最終日はとんだアクシデントと、またしても中身の濃い四日間になってしまったが、まぁこれもひと夏の思い出ということで、記憶に留めておきたい。
「試練と憧れ」それが剱。お疲れさまでした。