KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

穂高滝谷・出合から四尾根

2019年09月15日 | アルパイン(無雪期)
日程:2019年9月13日(金)午後~15日(日)
天候:三日間とも
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
一日目 鍋平P13:40-新穂高-蒲田川右俣林道-滝谷避難小屋17:15
 
 さて今回は、出合からの滝谷。昨年7月に挑んだものの条件が悪く、途中敗退したルートのリベンジである。
 まぁリベンジといっても、時期が落ち着いて条件さえ整ってくれたら自分たちにも登れるはずと、それほどの気負いは無い。
 
 まずは準備面。前回学習した点として、今回は二人ともウェアと靴を沢仕様にした。
 前回は最初の雄滝までもけっこう徒渉があり、そのたびに登山靴を脱いだり履いたりしたが、最初から沢靴であればそのまま徒渉ができる。
 かつて登った一ノ倉沢本谷と同様、この滝谷もラバーソールの沢靴の方が効率的だ。
 
 また、ここ数年の記録では温暖化の影響か、9月ともなるとアイゼンは不要に思われたが、直前になってガイドで「ギリギリボーイズ」の佐藤裕介氏のHPを見て思い直し、保険として軽アイゼンを持つ。
 あとは食料も含めて軽量化を図り、私が36L、弟子のヒロイは28Lのザックに納めることができた。
 
 三連休の渋滞を懸念して一日前に年休を取り、金曜朝に小田原発。
 午後1時頃に新穂高へ着くが、平日だというのに既に駐車場は満杯!しかたなく手前に戻って昨年同様、鍋平Pに停める。
 年金登山者が多いのか、それとも働き方改革で休みが取りやすくなったのか。最近は平日でも登山口の駐車場確保がまず第一の関門である。
 
 林道を進み、夕暮れ前には滝谷避難小屋へ。
 本日は先客無く、この時点では我々のみ。遠慮なく小屋内に荷物を広げる。
 遺体が一時安置されることから怖がる人もいるが、小屋内は綺麗に整頓されており避難小屋としては快適である。(ただしネズミは住んでいる。)
 
 
途中見かけた巨大キノコ(左)と滝谷避難小屋(右)
 
 水汲みに沢へ下りていくと、滝谷出合から稜線までクッキリと見え、しばし観察。
 しかし、雄滝の上を見て愕然とする!めっちゃ雪渓が残っているじゃないか!
 アイゼンは持ってきたものの、私は8本爪、弟子は4本爪の気休め程度。前爪無しであの雪渓を越えられるだろうか。早くも「敗退」の二文字が頭をよぎる。
 とにかく明日行ける所まで行ってみるしかない。
 
 その夜の夕食は、前祝いとして猪肉のジンギスカンでスタミナを付ける。
 夜になって単独のおじさんがやってきて、この日の小屋は三人のみの静かな夜だった。

 
夕暮れの滝谷(左)と「猪ジンギスカン(略してシシジン)」(右)
 
 
二日目 滝谷避難小屋5:12-雄滝5:45~7:40-無名の滝8:00-滑り滝9:00~10:40-合流点12:40-スノーコル14:20
 
 朝3時半起床。簡単な朝食を済ませ、薄明るくなった5時過ぎに出発。
 木橋を渡って右岸から歩き始めるが、最初の雄滝まで30分ほどで到着してしまった。
 前回は水量が多く、ここまで来るのに何回も徒渉し、けっこう時間がかかったのに・・・。

 
 
 雄滝の巻きは前回登った滝寄りのカンテではなく、今回はネットでよく見るブロック状の岩が連なっている凹角ラインへ。
 一見、簡単そうに見えるが、取り付くと意外と悪い、というか登りにくい。手頃なホールドが無く、ザックの重さで後ろにひっくり返りそうだ。
 しばし躊躇した後、空身で突破。
 置いてきたザックはロープに結び、弟子には一緒にフォローしてもらう。

 
 
 そのまま木登りピッチをツルベで登り、雌滝が望める小尾根の頭に出た後、今度は右手の雄滝落口へ向かって草付きトラバース。
 前回はこのトラバースも湿った草付きで滑らないようけっこう気を揉んだように覚えているが、今回は踏み跡も明瞭で特に問題無くスタスタ歩けてしまった。
 思ったよりも早い時間に雄滝を越えて一安心。さらにその上で懸念していた雪渓が実は白い岩肌だったことがわかり、これはラッキー!
 今回一番の不安材料は落石と雪渓のブロック崩壊だったが、雪が無ければかなり有利に事が進む。

 
 
 しかし、やはり甘かった。その一段上の「無名の滝」で巨大なスノーブリッジが出現。
 本流をアーチ状に跨いでいて今にも崩れ落ちそうだが、幸い雪に厚みがあり、ここは素早く潜って突破する。
 ホッとしたのも束の間、その後、別の箇所で雪渓の一部が大崩壊。物凄い破壊音が響き渡る。やはり滝谷は怖ろしい。

 
 
 

 そして滑(ナメ)り滝。
 ここはネットの記録でも楽に通過できる時とイヤらしい時があるようだ。
 大まかに三段に分かれるが、まず一段目は左岸から。
 スラブをラバーソールの沢靴でペタペタ行くが、水流沿いは黒ヌメがテカテカ光り、いかにも滑りそう。
 自然と乾いた上へ上へと追いやられてしまう。
 残置ハーケンは疎らにあるが、どれもこれも年数が経ち、半ば浮いているものばかり。強めにテンションかけたらポロッと抜けてしまいそうだ。
 けっこうランナウトしつつ、適当な所で自分のハーケンを一本ガッチリと打ち足し、ピッチを切る。

 続く二段目。けっこう岩が立ってきて、またホールドも逆層気味。
 弟子が自信ないようなので、ここも自分がリードする。
 A0も使って一段上がり、その後、水平トラバースだが、途中でランナーが取れない。ここはリードもフォローも絶対に落ちれないところだ。
 グレード的にはせいぜいⅢ+~Ⅳ級だが、気持ち的にはルート中、一番シビレた。

 
 
 続く三段目は水流渡って右岸側。
 乾いているが、思ったより立っている。爪先に余裕のある沢靴なので、慎重に登った。
 とりあえず、これで下部の核心は全て越えたはず。しかし逆に、ここまで来るともはや退却不可能となる。
 振り向くと、いつの間にか後続パーティーが一組近づいてきていた。

 

 その先はしばらくゴルジュ状の小滝が続く。
 そして、また雪渓。中央の割れ目をそのまま上まで抜けれたら良かったが、さすがにそれは無理だった。
 左右どちらかの雪渓に上がる際、自分は最初傾斜が緩い左側を選ぼうとしたら、弟子が右側を主張。
 上がってみたら自分が行こうとした左側の雪渓は先端が船の舳先状になっており、行き詰まりになっていた。
 雪渓の急な個所はまず8本爪アイゼンの自分が登り、その後、バイルをロワーダウンして交替で使い回した。

 
 
 雪渓がようやく切れた辺りが合流点。
 複数のガレ沢と支尾根が複雑に入り込んできて悪天の時などわかりにくいだろうが、今日は良い天気。
 B沢の巨大CSを目印にトポとGPSアプリで照合し、ドンピシャでC沢に入る。
 最後の水場で各自3Lほど水を汲み、この先、またしばらく小滝が続く。ガレは多少安定してきたが、延々と続く「岩の墓場」は体力的にキツい。
 
 太腿が悲鳴を上げる頃、ようやくスノーコルへ上がるトラバース道を確認。(ケルン2つあり)
 疲れているが時刻はまだ午後2時過ぎ。自分としては一日で稜線に抜けられると見込んでいたが、下部で時間がかかり、この先継続するには微妙な時刻だ。
 急ぐ計画でもないので、今日はここまで。スノーコルでビバークとする。

 
 
 ツェルトを張っていると、しばらく間が開いたと思っていた後続のお二人が到着。
 てっきり男二人だと思ったら、先ほどの滑り滝をリードしていた赤ジャケットは何と女性。あの「山登魂」と聞いて、なるほど強いなと納得する。
 
 二人は今回アイゼンを持たず、我々が行った左岸寄りの雪渓は右岸のA沢寄りを登ったとか。それぞれ興味深く情報交換する。
 申し訳ないがスノーコルは我々のツェルトだけでほぼ一杯なので、二人はさらに上のテン場へ向かっていった。
 
 夕方、ブロッケンが現れる。
 どちらかというと不吉な前兆だが、ここまで来たら後は四尾根を残すのみ。午後になると滝谷特有のガスが湧くが、幸い天気の崩れは無さそうだ。
 けっこう疲れたので、早めに就寝。今回は軽量化のため防寒着にシュラカバーのみだが、心配していた寒さはなく、思いのほか良く眠れた。
 
 
三日目 スノーコル5:30-四尾根Cカンテ8:00-ツルム9:30-終了点11:30-涸沢岳13:20-穂高岳山荘13:40-白出沢-新穂高18:20
 
 本日も晴れ。夜中トイレに起きると月明りで回りの岩壁が幻想的に浮かび上がり、我ながら凄い所にいるよなぁと実感した。
 
 簡単な朝食を摂り、出発。
 既に山登魂の二人はCカンテまで登っている。気合入ってるなぁ。
 本日はクライミングシューズに履き替え、まずは簡単なリッジをコンテで登っていく。
 途中、やはり快適なビバークサイトがあり、先の二人はここに泊まったのだろう。
 そのすぐ先が四尾根の取付きとなる。
 
 最初の2~3ピッチを交互に登る。せいぜいⅢ級程度で易しいが、浮石が多く、短めにピッチを切る。

 
 
 Aカンテは自分、Bカンテは弟子がリード。
 どちらも傾斜は寝ているが、Bカンテは部分的にホールド乏しく、ややトリッキー。
 だが、ふだん一癖も二癖もあるジム課題を登っているだけに、弟子はソツなくこなす。

  
 
 リッジを少し下って、Cカンテは自分がリード。
 先のA、Bカンテより傾斜は立ってくるが、ホールドはあり快適。

 
 続いて、落ちてきそうなピナクルへ向かって登るルンゼは、弟子がリード。浮石多く、やや気を遣う。

 
 
 ピナクルからツルムへ続く凹角フェースは自分がリード。トポではⅢ+となっているが、ふつうにⅣはあると思う。
 
 ツルムに到着。小休止した後、すぐ目に付く支点からコルへ向かって20mほど懸垂下降する。
 
 8P目、クラックフェースからチムニーは弟子がリード。
 下部は問題なく登れたが、上部の抜け口でやや苦戦。少々岩の間に入り込んでしまったようでザックが挟まり、もがいている。
 最後はA0で突破したが、本人は悔しそうだった。

 
 
 最後は核心、Dカンテ。
 私は以前、リードで登っているが、ここは最後のワンポイントだけボルダーちっく。
 左手カチ、右手はクラックの中に入れ、豪快に乗り越すのだが、はっきりしたフットホールドが無く、二箇所ほどスメアで凌ぐことになる。
 空身だと何てことないが、アルパインだとザックを背負っているのでこれが負荷となり、思い切ったムーブをするには多少の度胸が要る。
 自分も一回躊躇し、仕切り直し。その後、右手のクラックの中に掛かりの良いサイドプルのガバを発見。腹を決めてどうにかフリーで突破した。
 フォローの弟子はパワー系が苦手なため、ここはおとなしく最初からA0で突破。まぁイイでしょう。
 
 そこから簡単なリッジを少し登り、終了点。なぜかそこだけしっかりしたハンガーボルトが打ってあった。
 出合からの滝谷、ついに完登。やっと終わった。
 たしかに最後の四尾根は全体の1/4程度でおまけのようなもの。下部こそが核心と言える長いルートだった。
 
 
 
 背後に広がる雲の平から笠ヶ岳へ繋がる稜線を眺めながら、しばし小休止。
 そこから大キレットの縦走路はすぐで、我々も奥穂側に向かって進むが、ここも渋滞エリア。
 反対側から来た登山者の言によると、先ほどまでキレットの鎖場で立ち往生した人がいて二時間ほどの渋滞が生じていたとか。
 先月の剱の「カニのヨコバイ」もそうだが、最近はチャレンジ精神旺盛だが、背伸びして明らかに実力不足の人が多いと思う。
 我々もヘタレであり、スピードも速くないことを自認しているが、少なくともルートについては自分のハードルを見極めているつもりだ。

 
 
 何とか渋滞は回避でき、涸沢岳を経由して穂高岳山荘へ。ここも人だらけ!
 さらにその上、奥穂への道は登りも下りも大渋滞で、ちょっと異常な光景である。
 
 ゆっくり休んだ後、白出沢の下りにかかる。
 広いゴーロの涸沢を岩に印されたペンキ印を頼りにガンガン下る。
 途中、沢の渡渉が数回あり、後半は左岸の樹林帯の道を行く。
 先行する中高年登山者を何組か追い越したが、途中ちょっとわかりにくい箇所があり、これから暗くなるにつれ、あの人たちは大丈夫だろうかと少し気になった。

 
 林道に出て、あとは気力で足を運ぶだけ。沢靴で下り続けていたため、既に爪先はマメがつぶれ、ヘタしたら爪が死んでいるかも。
 新穂高に到着したのは既にヘッデンタイム。スノーシェイドを下って、いよいよ試練の鍋平Pへの登り返しかとウンザリしたところで、神が降りてきた!
 
 後ろから見知らぬワゴン車がスーッとやってきて、こちらから頼んだわけでもないのに鍋平まで乗せてくれると言う。何という神対応!
 昨年、我々も南ア・易老沢の帰りで単独のおじさんを拾ってあげたり、剱で滑落怪我人を世話したり、それなりの功徳を積んできたわけだが、やはり神様はどこかで見ていてくれているのだ。
 三重ナンバーのお二方、本当にありがとうございました。
 
 〆は「ひらゆの森」で。露天がいくつもある大浴場ながら500円とリーズナブルで☆☆☆☆。
 出合からの滝谷は、同じ無雪期アルパインでも他のグラビアルートに較べ、体力、技術はもとより判断力、突破力が求められるロング・ルート。
 日程は短いが、先のGWに登った剱の北方稜線(全山縦走)をギュッと圧縮したような同じ疲れを感じた。

剱岳八ツ峰Ⅵ峰フェース

2019年08月12日 | アルパイン(無雪期)
日程:2019年8月8日(木)~11日(日)前夜発三泊四日+α
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
一日目
 天候:
 行程:立山駅7:00-室堂9:00-剱沢13:00-長次郎谷15:00-熊ノ岩17:00
 
 昨年夏のⅥ峰&チンネ、今年春の北方稜線に続いて、またまた来てしまった剱岳。
 今年の目標は昨年CフェースだけだったⅥ峰のA~Dフェース継続、そしてチンネの隣に鎮座するクレオパトラニードルの登攀である。
 
 前日夕にヒロイ号で小田原を出発。
 中央道を松本で降り、岐阜回りで深夜に富山入り。そのまま富山電鉄「立山」駅前の駐車場でテント泊する。
 
 翌朝は早くから登山客で大賑わい。やはり日本人らしく「山の日」は山で、それもできれば剱のような山で過ごしたいというわけか。
 ケーブルカー、バスと乗り継ぎ、室堂入り。
 途中、あの名高い称名滝の前を通るが、時を同じくしてクライマーの中嶋徹氏がフリーソロで完登したというニュースを聞く。
 凄いなぁ。でも我々へっぽこクライマーは「クライミングJOY」でイイのである。

 
今回のファッションアイテムは麦わら帽子 (^^;)
 
 室堂到着。
 昨年はここで予想外の強風雨に見舞われ、初日からバスターミナルに監禁状態となったが、今年は爽やかな快晴。こんなに良過ぎる天気では後が怖いぐらいだ。
 荷物を整え出発。まさに「夏山JOY」のような景色の中をまずは雷鳥沢へ向かって歩き出す。
 
 
 
 雷鳥沢から別山乗越では、相方が珍しくバテ気味で途中二回小休止を入れる。
 身体の調子でも悪いのかと心配したが、何のことはない。今回張り切り過ぎて食材が多過ぎたとのこと。
 加えて暑さもあることから、ややゆっくりのペースで行く。長次郎谷出合からは自分がまたしてもテントとロープ2本持ちで熊ノ岩へ。(まったくしょうがねーな。)

 
 
 長次郎谷の雪渓登りはいつでもしんどいが、今回は特にきつかった。
 ザックの重さとしては明らかに三か月前の北方稜線の方が重かったはずだが、日頃の体力トレ不足のせいか熊の岩直下では思わず両腿が攣りそうになる。
 本日の熊ノ岩は我々を含め四張り。奥の方の良い位置を確保し、ベースとする。

  
本日の山メシ。今回、生玉子も持参する気合の入れよう。
 

二日目
 天候:
 行程:出発-Ⅵ峰Aフェース中大ルート7:00~8:10-Bフェース京大ルート(断念)-Cフェース剣稜会ルート10:20~12:00-帰着14:20
 
 未明に起きると早くもチンネを目指すパーティーがヘッデンを点けて、まだ暗い長次郎谷の上部を登っていくのが見えた。我々は明るくなってから出発。
 
 まずは手近のAフェースへ。
 雪渓を渡りガレた斜面を登り、取付きに着いたところで、相方がまさかのロープ忘れ!何か今回は浮わついてるな。
 しかたなく取りに戻るが、幸い後ろのパーティーに順番を越させることはなかった。
 
 中大ルートは自分は7年振り二度目。ピッチグレードはⅣ+だが、コーナークラック主体でちょっとクセがあり、登りにくい印象。
 相方にやらせようとしたが、ややビビリ気味なので自分からスタート。ツルベで登り、実質2ピッチ半。
 隣の魚津高ルートのパーティーより後から取り付いたが、すぐに追い越し、相方もソツなくこなして終了。懸垂下降で基部へ。

 
 
 続いてBフェース。
 トポを見ながらおそらく京大ルートに合流するラインから取り付くが、リードしようとした相方が最初の残置ハーケンにランナーを掛けようとしたところ、カラーンと音を立てて簡単に抜けてしまった。
 残置に頼るわけではないが、人気のA、Cフェースに較べると、やはりここBフェースは最近あまり登られていないようで落石も怖い。
 今回は二人とも「夏岩JOY」の方針なので、余計なリスクは避けることとし、Bフェースは却下。そのままCフェースへ移る。
 
 Cフェースは昨年夏、二人で登っているが、前回剣稜会のつもりがルートミスで途中からRCCルートに入ってしまったため、今回はきっちり剣稜会ルートをはずさないよう行くことにする。
 それでもまだ若干右寄りだったようで、リードの相方は時折カムをセットしながらロープを延ばしていく。

 
 
 途中で先行する学生らしき三人パーティーに追い付く。
 まだ午前中で、自分たちはできれば午後にはDフェースも継続するつもりだったので、「ランナーも共有しないで、ロープも交差しないよう行くから先に行かせて。」とお願いしたが、相手はちょっとムッとしたようで無言。
 黙っていたので了解してくれたものと勝手に判断し、先に行かせていただいたが、我々二人が終了点に着いても向こうはまだセカンドが下の方で見えないくらいだった。
 アルパインのルートは先に取り付いた者が全ての優先権を持つわけでなく、本場ヨーロッパでもスピードによって譲り合いのルールが通用しているので、まぁここは許してもらおう。

 
 
 下から登ってきているので同ルートを降りるわけにいかず(特に剣稜会ルートの上部はロープがスタックしやすい)、トポに従ってⅤ・Ⅵのコル側へ。
 途中、懸垂支点があったのでそれを使用。ちょうど切れ目切れ目に次の残置支点があり、これは早いと思ったら最後にロープスタックしてしまう。
 登り返しの回収で思わずタイムロス。下りてきたのはCフェースのRCCルートかと思ったら、知らない間にAフェースを下りてしまっていた。
 まだ陽は高い時間帯ではあったが、ここで欲張ってDフェースまで行くと残業になりかねないし、今日のところはここまでで終了。
 熊の岩に戻り、雪渓で冷やしたビールで乾杯。昼寝の後の山メシは相方が腕を奮ってくれて言うことなし!

 
 その夜はルートミスした残業パーティーがAフェース上部で大落石を起こしたり、Bフェース付近でヘッデン点けて右往左往しているパーティーがいたりして、物々しかった。
 我々もあの時、Cフェースで前に出ず、おとなしく後ろに付いていたらどうなっていたことか。

 
 
三日目
 天候:
 行程:出発-Ⅵ峰Dフェース富山大ルート6:00~9:30-八ツ峰上部-クレオパトラニードル12:00~15:00-池ノ谷乗越-長次郎谷-帰着19:00
 
 朝起きてみると、昨夜Bフェース付近でヘッデン残業している三人パーティーが下降しているのが見えた。
 どうやらビバークした模様だが、それってまさか昨日のCフェースの御三方?とりあえずご無事で何より。

 
 さて今日はDフェースからだ。
 長次郎谷を横切り、ガレの斜面を登って富山大ルートの取付きへ。
 初日にベースで挨拶を交わした男女ペアが既に1ピッチ目を登り始めている。
 
 我々が準備をしている間に後から若いニイちゃん二人組が到着。
 何となく12クライマーのような雰囲気だったので「ウチら遅いんで、途中で抜かしてくださいね。」と言っておく。
 Dフェースは自分も初めて。
 昨日、最初のAフェースで少しビビリ気味だった相方に「どうする?」と水を向けると、今日は「行きます!」と元気な返事。その意気や良し。
 
 1ピッチ目は少し変化に飛んだⅣ+ピッチ。
 どうかなと思ったが、外岩フリーで5.11aを登り、ボルジムで3級をやっている相方には問題無し。
 
 
 
 ソツなく登って2ピッチ目を引き継ぐ。
 核心は3ピッチ目なので気楽に構えていたが、特に途中でピッチを切る必要もなく、途中の2mほどの垂壁を越えスラブを詰めて行ったら、そのまま3ピッチ目まで続けて登ってしまった。
 せっかく核心のおいしい所は相方にリードで楽しんでもらおうと思っていたのに、すまんのう。
 ちなみに核心(Ⅴ-)は先ほどの2mほどの垂壁で、夏ならボルジムで6級程度。ワンポイントだけだ。
 
 4ピッチ目は左側のカンテに向かってバンドトラバース。
 後は5~7ピッチまで高度感のある剥き出しのカンテ、リッジが続いている。見た目、岩はちょっと風化した感じで不安を感じるが、思った以上にしっかりしていて快適。
 こちら側から見ると、あの易しいCフェース剣稜会ルートもちょっとシャモニーの針峰群を思わせる景観でなかなか絵になるロケーションだ。
 
 
 
 Dフェースの頭で八ツ峰縦走中のパーティーから祝福を受け、終了。
 DフェースはⅥ峰フェース群の中では一番長く難しいとなっているようだが、登ってみると快適で、かえってAフェースの中大ルートの方がイヤらしく感じるかも。
 
 小休止後、登山靴に履き替え、彼らの後に付いて八ツ峰上部へ進み、途中から右に分かれて我々はクレオパトラニードルへ。
 トラバース道から小ガリーを登り、着いたコルに登山靴やアイゼンをデポする。
 頭上にはニードルというよりドームのようなクレオパトラの先端に懸垂用の古いスリングがしめ縄のように何本も巻きついているのが見える。
 コルから上は特に残置は確認できず、容易なルートを取れば1ピッチで上がれそう。
 ネットで見かける最近の記録はおそらく、このコルからチャチャッと登っているのではないだろうか。
 
 何となく面白味に欠けるので、コルからさらにチンネとクレオパトラの間、沢沿いの微かな踏跡を辿って基部まで下りてみる。
 だが、途中からザレがひどくなり安全を期して途中まで。ちょうど槍の穂先のように見える位置からクレオパトラに登ることにする。
 
 様子見ながら、まずは自分がリード。ロープ一本で行く。
 這松混じりのスラブをやや左上気味に上がって行き、クレオパトラの東側リッジに着いたところでピッチを切る。
 一応、ルートに出たようで、古くあまり信用できないハーケンが辺りに数本打ってある。
 下を見るとスッキリしたリッジとフェースが1ピッチ分続いており、取り付くにもっと八ツ峰の手前から入るべきだったか。アプローチがなかなか難しい。

 
 
 とりあえず相方を迎え、頂上までの残り1ピッチをリードしてもらおうと思ったが、出だしがけっこう立っていて支点も怪しいため、相方は尻込み。自分がそのままリードする。
 そこからのピッチは変化に富み、なかなかワイルドだった。
 安全を期してなるべく弱点を突いた凹角沿いのラインを選んだが、それでも2~3か所明らかにⅤ+相当のポイントがあり、岩もやや風化気味のためデリケートな登りが要求された。
 
 慎重に時間をかけ、ようやくニードルの先端へ。いつ岩が剥がれてもおかしくないルートだったので、正直ホッとした。
 下にいる相方に声を掛け登ってきてもらう。途中で「登れないかも~。」とか「テンション」とか聞こえたような気がしたが、「A0でも何でもいいから登ってこーい。」とロープだけは張り気味にする。
 結局、A0連発だったようだが、まぁよく頑張った。

  ヘロヘロの図(^^;)
 
 クレオパトラニードルは実は双耳峰で、我々が着いたのは高い方。
 ここから懸垂支点がある低い方のニードルへはせいぜい4mほどだが、短い懸垂が必要となる。
 本来なら高い方に懸垂用の残置があってもよさそうだが、それが無いことからやはり最近は下のコルからチャチャッと低い方のニードルだけ登っているような気がする。
 低い方のニードルに移り、20mほどの懸垂でコルへ下る。
 
 クレオパトラの高い方から低いニードルへ懸垂するところ
 
 登山靴に履き替え、トラバース道を八ッ峰へ戻るが、最後、八ツ峰の最上部がややルートがわかりにくかった。
 懸垂を二回ほどして池ノ谷乗越直下の長次郎谷に出る。
 何とかヘッデン残業せずに熊ノ岩ベースに帰り着いたが、クレオパトラは予想以上に探検的要素が強く、時間がかかってしまった。
 
 熊ノ岩に戻ると、それまで四張りだったのが一気に20張以上の大テント村と化していてビックリ。
 本日もまずはビール。そしてバーボンと贅沢な山メシで充実した夜を過ごす。

 「ビストロ熊ノ岩」営業中
 
 
四日目
 天候:
 行程:出発8:40-長次郎谷左俣-剱岳本峰11:00~12:00-早月尾根-馬場島20:00
 
 いよいよ最終日。天候に恵まれ、とりあえず今回の予定はほぼ消化できた。
 本当はこの春に三ノ窓先に残してきた減価償却済みロープを回収するはずだったが、昨日思いのほか行動時間を取られてしまい断念。回収は次回へ延期する。m(_ _)m
 しかし、ベースから見るこの日のⅥ峰フェースの有様は凄かった。
 昨日一気に増えたパーティーが一気に押し寄せ、A、Cフェース共に各ピッチのテラスごとに数人ずつ、取付きなどは順番待ちのクライマーが団子状。本チャンの岩場というより混み合うゲレンデといった感じで、もしかしたらトップロープでも張って講習会でもやっているんじゃないかといった賑わいである。
 相方がささやかに「熊ノ岩清掃活動」などしてから、撤収。

 

 条件の良い長次郎谷左俣を詰め、そこからふた登りほどして三か月振りの本峰へ。
 夏の剱岳の混雑は相変わらず。他の登山者の合い間を縫って、ささっと祠の前で記念写真を撮る。
 今回、大学山岳部時代の友人である「剱人」ヤマモト先生(現・N山岳会副会長であーる)が赤谷尾根を登っているらしく、頂上で会えるかなと期待していたが、向こうは同行者の不調で一早く下山してしまったらしい。残念! 

 
 
 一通り休んでから通常の別山尾根を下って一見落着の予定だったが、ここでまさかの事態が発生。
 何と下山の「カニのヨコバイ」が大渋滞で、ディズニーランドのアトラクション待ちである。
 予備日を一日持っているのでのんびり構えても良かったが、一度気持ちが下界へ向かうと何としても今日中に下りてしまいたい。
 ここで室堂の最終バス時刻が絶望的になり、相方が判断したのがまさかの早月尾根下山という選択。
 
 結局登り返して馬場島へと長い尾根を下っていくが、途中の早月小屋まででもうヘロヘロ。
 水分不足と熱中症で、普段はケチって絶対買わないペットボトルを2本(相方は3本!)も買ってしまった。

 試練の早月尾根。相変わらず長い
 
 最後は先の北方稜線同様ヘッデン下山となる。風呂は入れたものの、またしても富山の鮨はお預け。
 高いタクシー代(馬場島-立山駅17,000円)が付き、途中、道の駅で仮眠を入れつつ翌日帰りとなる。
 やはり剱は最後まで「試練」を与えてくれるなぁ。いや、参りました。(^^;)

 

年末アイゼントレ@丹沢・広沢寺

2018年12月24日 | アルパイン(無雪期)
日程:2018年12月24日(祝)
天候:
同行:まっちゃん、ヒロイ、キタムラ(我が社の山岳部)
 
 さて、今回は冬山に向けアイゼントレーニング。
 年の功ということもあり、一応これでも職場の山岳部では研修担当なもので。
 三連休でヘタしたら激混みかなぁと心配していたが、着いてみると意外にも自分たちを含めて4組ほど。
 いずれもアイゼントレを目的としたグループで、前二日間が雨だったため(染み出しを懸念して)フリー目的で来る人がいなかったのがラッキーだった。

  
 
 今回はお初のメンバーもいるので、本当に基本の「キ」の字から。
・ハーネス、アイゼンの確認
・ロープの結び方(インクノットは片手でできるように)
・マルチでのコールの仕方
・ビレイの手順
・支点工作あれこれ
・セカンドビレイ(オートロックと解除)
・手袋、アイゼンでの登り
・懸垂下降と途中停止などなど。

  

  
 
 事前に作ったテキストではもっといろいろメニューがあったが、やはり一日で全てをこなすのは難しい。
 それでも、自分も含めて最新のより安全な技術を再確認し、一緒に行くメンバーと共通の認識を持つことは重要で、自分で言うのも何だが、なかなか実りのある一日だったと思う。
 クリスマスイブにアイゼントレにいそしむ女子というのもビミョーだが、バブリーでトレンディドラマ全盛の80~90年代ならいざ知らず、今の若い世代はそれほどイブに特別なこだわりはないようで。(山下達郎のヒット曲もほとんど知らないようだし・・・

谷川岳一ノ倉沢中央稜で反省スル

2018年09月24日 | アルパイン(無雪期)
 
日程:2018年9月23日(日)~24日(月) 前夜発一泊二日
天候:のち
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
行程:一ノ倉沢出合-テールリッジ-中央稜-北稜下降-衝立前沢下降-出合
 
 さてこの三連休も初日が雨。
 二日間でアルパインか沢かフリー・・・で、検討した結果、この夏の穂高(滝谷敗退)と剱ですっかりアルパインの毒気?に魅了された相方の好みに合うだろうと一ノ倉沢をチョイス。
 
 一ノ倉沢は自分も2010年10月の本谷以来だから、もう8年振り。
 今回は烏帽子奥壁の中央カンテ、さらに余力があれば翌日中央稜あたりと軽く考えていたのだが・・・。
 
 前夜のうちに横浜発、谷川入り。某所で仮眠。翌朝は3時起床とする。
 今回は二日間なので、翌日の食料なども持って上がり、一ノ倉沢出合に再びテントを張り直す。
 アルパイン人気も下火だろうとタカをくくっていたが、けっこう登りに来るクライマーはいるようで、夜明けと共に後からゾロゾロとパーティーがやってきて一ノ倉沢へ入っていく。

 
 
 数パーティーが先に進んだ後から我々も出発。
 まずは右岸の巻道を行く。
 勝手知ったる山と思っていたが、久々に来るとけっこう記憶も曖昧。途中、正しくない踏跡もあちこちにあって先行パーティーと確認しながら進む。
 
 ヒョングリの滝上からの懸垂ポイントは既に順番待ち。
 時間がもったいないのでロープを出して懸垂下降している組の横をFIXロープを掴んで降りた。
 ただFIXも途中、ロープの芯が出ていたりして、完全に頼るのはちょっと怖い。
 テールリッジを登り返し、暑い陽射しの中、中央稜の取付きに到着する。
 
 ここから左へ斜上バンドを少し行くと本日の目当て、中央カンテの取付きだが、目の前まで来てみると予想に反してビショビショ。被った所では水が雫となって滴り落ちている。
 
 

 こりゃダメだ。さっさと乾いている中央稜に転進する。
 本日はけっこうな数のパーティーが上がってきているが、取り付いているのは南稜と中央稜のみ。特に南稜は大渋滞となっている。
 幸い中央稜の方は三パーティーほどが先行しているが、適度に間隔が空いている。これなら何とか大丈夫だろう。 
 
 取付きで準備をし、相方のヒロイさんからスタート。
 ちなみに彼女は中央稜は初めて(一ノ倉沢は二度目)、私はけっこう昔に登っていてたぶん4~5回目くらい。
 以下、グレードは自分の体感。
 
1P目 相方リード Ⅲ
 傾斜の緩いリッジというかフェースというか。
 最初ここは0ピッチ目で上のテラスから1ピッチが始まるのかと思ったほど。
 一応ロープを出したが、ヒロイさんは一つもランナーを取ることなく登ってしまった。
 昔のトポではⅣとなっているが、それはないでしょう。

 
 
2P目 私のリード Ⅱ~Ⅲ
 テラスからフェース直上も残置があって「あれ、こんなに壁立ってたっけ?」とアセったが、カンテを左に回り込むと楽なルンゼ状が延びている。
 途中からまた右のフェースに戻る所が一瞬Ⅲ+。ヘンな浮石掴んでババ引かないように。

 
3P目 相方リード Ⅳ-
 フェース。特に問題無し。先行のニイちゃんが短く切ってしまったので20mくらい。

 
4P目 相方リード Ⅳ+
 一応、ルートの核心なので敢えて相方に引き続きリードしてもらう。
 チムニーといってもわずかな距離で、「こんなだったっけ?」とほとんど記憶に無い。
 トポではⅤ-(Ⅳ、A0)となっているが、ヒロイさんもちろんA0など使わずクリア。
 むしろチムニー手前の逆層の方がやや戸惑うが、ここも問題無し。
 ヒロイさんがすぐに追い付いてしまうので、先行の新人さんらしきニイちゃんにはちょっとプレッシャー与えてしまったかも。ゴメンね。
  
  

5P目 私のリード Ⅱ~Ⅲ-
 土と岩のルンゼ。ほとんど歩きの階段状。
 
6P目 相方リード Ⅳ
 前半は湿った凹角。ちょっと泥っぽく滑り易いので慎重に行く。
 そこを抜けると視界が開け、ピナクルから先は高度感のあるリッジ。ルート中、核心よりもここが一番アルパインぽいピッチで快適。

 
7P目 私のリード Ⅳ 
 カンテ~クラック。トポを見たら右手の階段状の凹角を行くらしいが、トラバースのタイミングを誤ってそのまま直上。
 残置もやや貧弱。ホールドを慎重に選んでクラックから衝立ノ頭の終了点へ。

 
 ほとんど疲れもなく、腹も減っていないので、小休止後、そのまま下降。
 中央稜を下る方が速そうだったが、まだ時間もあるし、だいぶ離れて後続が一組登ってきているようなので、セオリー通り北稜を下ることにする。

 
 
 踏み跡を少し歩いて、最初の懸垂支点はまだ新しいハンガー。
 そのまま真下に40m下ると、ドンピシャの位置に次の支点が見つかる。
 特に問題なくこのまま下って、明日は有笠でフリーだな、なんて楽勝気分でいたのだが・・・。
 
 懸垂も4ピッチまでは順調。
 ここで本来は意識してコップ状岩壁寄り(向かって左側)に降りなければならないところを、そのまま真っ直ぐ下へ降りてしまったのが失敗の元だった。
 
 ややヤブっぽくなるものの、次の下降支点も発見。
 ヤブでも多少は踏まれているので、まぁ行けるだろう。少し離れてしまったが、まだ先に降りている先行パーティーの姿も見えるので、そのまま下る。

 
 
 トポにある最後の空中懸垂がよくわからないまま、とりあえずコップスラブの一端に降り立った。
 ここでロープの回収を始めると、まさかのスタック。・・・やっちまった!
 被ってはないもののゴボウでも登りにくいスラブのため、けっこう腕力を使うし、時間もかかる。
 
 ようやく引っ掛かっていた結び目をブッシュから解放したものの、また途中でスタックしてしまい、二度目の登り返し。
 この二回で怖ろしいほど時間を費やしてしまう。
 
 午後から曇りがちだった空はあっという間に暗くなり、おまけに小雨まで降ってきた。
 一旦暗くなってしまうと、いくらヘッデンを点けても場所が場所なので行動は慎重になり、それでますます時間がかかってしまう。
 
 何とか衝立前沢に出て、踏み跡らしき場所を行ったり来たりするが、真っ暗ではっきりせず。
 ・・・まずいなぁ。自分はこれまでそれなりに修羅場?を経験しているのでいいが、相方はどうだろう。そろそろ参っているんじゃないか。
 ツェルトも食料も十分あるので、ここで無理せずビバークも考えたが、二人ともまだ余力はある。
 できればこんな所でひもじいビバークよりは、出合のテントにあるワインを飲んでゆったり休みたい。その一心でそのまま衝立前沢を下っていく。
 
 衝立前沢は概ね歩きやすかったが、最後の方で50mの懸垂となる。支点がかなり古く、ちょっと怖かったが時間も押しているのでそのまま活用。
 何とか本谷に出る。

 
 驚いたのは我々よりまだ上に南稜からの下降組がいたこと。
 だが、それは錯覚で、実は彼らはヒョングリの滝の上の巻道にいたようで、しばらくすると先に下って姿が消えてしまった。
 片や我々が降り立ったのはヒョングリの滝のやや下で、そこからだと真夜中に冷たいシャワーを浴びて本谷通しにクライムダウンするか、ツルツルのスラブと脆い壁を登り返して巻道に出るかのどちらか。
 結局、この夜遅い時間から濡れるのは嫌なので後者を選ぶが、ここがまた思ったより甘くなかった。
 
 FIXロープにタイブロックを掛けて登り返し。さらに浮石だらけの脆い壁を途中1本のランナーで50m登る。
 明るければⅢ級程度だろうが、ここは絶対に落ちれない。途中、足が滑りそうなイヤらしい箇所もいくつかあった。
 1ピッチで右岸の巻道に出ることができず、フォローの相方にさらに15mほど登ってもらい、ようやく安全地帯に出ることができた。
 
 後から考えるとツルツルのスラブも空身で登れば良かったし、たとえ全身ビショ濡れになっても沢通しの方が早かったかもしれない。
 パニクるまではいかないにしても、このあたり暗さと疲れと眠気で冷静さと判断力を半分失っていたのは確か。
 それをカバーしてくれたのが相方の体力と精神力で、本当にタフだなぁと感心した。並みの女子だととっくに泣きが入っていたかもしれない。

 
 ヨレヨレになって出合に到着。既に日付は翌日に回ってしまった。
 出合にテントを張っておいて良かった。あまりに疲れてすぐにでも眠れると思ったが、やはりアドレナリンが出ているようで、二人して無事帰還を祝ってワインとつまみで夜食兼反省会。
 
 
 
 
 
 翌日は明るくなるまで爆睡。まったり朝食を摂ってから下山する。
 山岳資料館に立ち寄り興味深い昔の装備などを見学してから、最後は「湯テルメ谷川」
 風呂上がりのアイスで機嫌を直してもらう。

 
 今回は何がどう悪いというわけでもなく、強いて言えば自分自身これまで何度も一ノ倉沢に入っていて、正直少しナメていたことは確か。
 やはり考えが甘いと、山は容赦なく突っ込んでくる。
 手痛いしっぺ返しを自分だけで食うならまだしも、相方のヒロイさんにも食わせてしまったのは大いに反省するところである。
 まぁ、この失敗もいつかは笑い話にしてもらえることを願って・・・お疲れさまでした。m(_ _)m

剱岳・夏の定番アルパイン

2018年08月20日 | アルパイン(無雪期)
日程:2018年8月16日(木)-19日(日) 両夜行三泊四日
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
参考:「チャレンジ!アルパインクライミング」廣川健太郎・著ほか
 
 さて今回は夏のアルパインとしては定番中の定番で、夏の剱。
 パートナーは毎度のヒロイ嬢。(^^;)
 剱はGWも含めて私はこれまで何回か登っているが、彼女はこれまで計画があったものの、いずれも縁無くまだ登っていないらしい。
 山の好みもどちらかというとミーハーではなく渋好みの彼女だが、まぁアルパイン指向なら一回ぐらいはグラビア・ルートを登っておくのもいいでしょうということで企画。

 当初は私の学生山岳部時代からの友人であり「剱人」とも呼ばれるチョモランマ山本氏をお招きしてコラボ企画を考えていたのだが、当の本人はアプローチにやたら小窓尾根に固執してくる始末。
 小窓尾根? だって今、夏でしょ? 絶対、藪でしょ?
 これまで八千mをいくつも登っているのに相変わらず「やっぱり藪が好き!」的な彼とは、山に対する傾向と対策があまりにも違うので、結局コラボは見送り。(だからぁ、オレは藪が好きではないと言ってるでしょ。)
 結局、二人で行くことになり、15日、横浜から夜行高速バスで一路、冨山へ。
 
一日目(8/16)天候:
 行程:冨山5:30~6:40-室堂ターミナル9:40~14:20-雷鳥沢16:00(テント泊)

 朝、冨山駅着。一時間ほど待って予約しておいた直行バスで登山口の室堂へ。
 今回、初日の天気予報があまりよろしくない。市街地ではそれでも曇りでこりゃ何とかなるかなと楽観視していたのだが、バスが室堂に近づくにつれ霧が濃くなり、しまいにはバスが大きく揺さぶられるほど風が強くなる。

  
 外は嵐、でも相方は元気。頼りになります。

 とてもすぐに出発する天気ではなく、しばらく室堂のバスターミナル内で待機。
 しかし昼になって落ち着くどころか風と雨はますますピークとなり、嵐の様相。
 他の大勢の登山客と共にベンチに座って、相方が買ってきたホタルイカのおつまみなどポリポリ食べながら時間を潰すが、一向に好転の兆しがない。
 まさか、今日はこのままここで停滞?

 念のためターミナルの係員に確認すると、火器を使われては困るのでここは夜間は寝泊まりできないとのこと。うーん、立ち退きですか!
 いつまでもここでウダウダしていても始まらないので、14時には雨具を着て渋々出発。

 幸い風は
治まったが、景色など何も見えない灰色の世界で気分はブルー。
 とりあえず少し先の雷鳥沢へ。
 行程を考えると少しでも先に進めたく、できれば別山乗越まで行きたかったが、相方が小屋に電話すると「ダメ」とは言わないものの(この悪天の中、夕方に来られてもねぇ・・・)的オーラが感じられたらしく、しかたなく雨の雷鳥沢でテント泊。

 

 ラジオで天気予報を聞くと、冨山に現在大雨警報、雨は明日昼まで残るとのこと。
 今回、テントは20年来使っている自分のゴアライズ(アライテント)にしたが、フライ無しではさすがに縫い目からポタポタ雨漏りがしてきて、気が気じゃない。
 何とも初日から惨めな展開となったが、相方がまったく凹むことなく、元気なことだけが救いである

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二日目(8/17)天候:
 行程:雷鳥沢5:30-別山乗越7:00-剱沢-長次郎谷出合9:30-某所BC11:20-六峰Cフェース剣稜会ルート13:00~頭まで約2h-BC泊18:20

 夜半、トイレに一度起きると空は満点の星。その後、再び曇るが、朝には東の空から待望の朝陽が。
 今日の午前中まで雨を覚悟し、完全に全体計画の縮小を考えていたが、何とか挽回できそうだ。

 テントを撤収。濡れて重くなったフル装備を担いで、まずは別山乗越へ。
 途中で昨日、室堂ターミナルにいたチョイ太め韓国山ガール(?)四人組がいたので、英語でご挨拶。Have fun,Japanese mountain.

 

 一時間半ほどで別山乗越に着。小休止後、剱沢へと下降。
 昨日の荒天が嘘のように晴れ渡り、回りの景色は完全に夏山JOY。 正面に剱が大きい。
 剱沢小屋を過ぎ、沢沿いの道を進むとやがて雪渓。途中からアイゼンを履き、入口に大岩のある平蔵谷を過ぎ、長次郎谷出合へ。
 別山乗越から長次郎谷出合までは下りなので楽だが、ここから再び登り返し。この登って下って、また登っての繰り返しこそ、まさに「剱」である。

 

 豊富に雪を残す長次郎谷に入って、辛い登りが続く。
 相方はこういう時、無心の境地でいるらしいが、自分は心の中で1から10まで数えながら足を運んだりすることが多い。
 しかし、それも辛くなると1から8、1から4・・・と次第にリズムが短くなり、終いには「辛抱、我慢。シンボウ、ガマン・・・。」と相撲部屋のような呪文を唱えることにしている。

 長次郎谷を行く。

 途中で上部から二人組が下りてきたので、情報収集。
 下にベースを張ってAフェースの魚津高ルートを登ったが、クラックがびしょ濡れで怖かったとのこと。Cフェースは大丈夫そうだ。

 休憩を入れつつ、それでも昼前に長次郎谷の某所(と敢えて伏せておくけど、わかりますよね。)に到着。
 既に先客の一張があったが、昨夜もここで泊まったらしく、全装備が所狭しと干してあった。

 皆さん、お馴染みのテン場。

 重荷のため、ここまででもけっこう疲れて、相方の出方次第では午後はこのままマッタリかなぁと思いつつ、「六峰フェース、どうする?」と探りを入れると「行きます!」と二つ返事。
 正直、ここでヘタれた返事をされるとこちらのモチも若干下がってしまうが(笑)、相方のヒロイさんはそういう後ろ向きのところがまったく無いので、こちらとしても心強い。

 軽く腹に詰めたら、そのまま軽装でCフェースへ向かう。
 2012年に剣稜会ルートを登った時は、取付きに雪のブロックが残っていて出だしでシャワークライムを強いられたが、今回はまったくドライ。
 偵察に来ていたS大山岳部の若いニイちゃんらに挨拶してから、相方からスタート。そのままツルベで登る。

 

 剣稜会ルート自体、特に今さらルート説明など不要なので、詳細は省略。(単なるレポの手抜き?)
 3ピッチ目、本来は正面左寄りのスッキリ岩の繋がった部分を登るのだが、リードの相方はそのまま残置少なめの直上ラインを選んでしまう。
 まぁ、この程度ならいくらでも途中で軌道修正できるので敢えて黙って見ることにした。何事も経験、ノープロブレムです。

 

 それでもよくカタログで使われる剣稜会ルートのベストショット・ポイントで写真を撮り、残りの簡単なピッチを登ると六峰頂上。
 振り返ると長次郎谷を続々と登ってくる他パーティーの姿があり、BCにはいつの間にかテントが増えつつあった。

 

 小休止後、同ルートを懸垂下降。
 しかし、昨年の八ヶ岳大同心で薄々わかっていたことだが、今回持ってきたロープ二本が何とも相性が悪く、やたら絡まってしまう。
 また、これもわかっていたことだが、このルートの懸垂下降はヘタに延ばすと、回収時にロープがスタックしやすく、自分たちも一回登り返しを強いられた。
 結局、登りよりも下りの方が時間がかかったんじゃないかと思えたが、何とか明るいうちにBC着。
 
  デザートは「あんきも」w

 テントもウェアもきれいに乾き、美味い夕飯を終えたらさっさと寝る。今夜は快適!

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三日目(8/18)天候:
 行程:起床3:00-BC発4:30-池ノ谷乗越5:40-三ノ窓6:30-チンネ取付き7:40-核心「鼻」11:00-チンネの頭13:30~50-BC着16:30
 
 朝、起きると満天の星。
 昨日、明るいうちに長次郎谷上部を見たところ雪渓の状態がはっきりせず、ヘタすると先月の滝谷のような例もあるから、多少時間がかかっても五・六のコルから八ッ峰上半部のアプローチで行こうかと考えていた。
 しかし、今見ると既にヘッデンを点けた2パーティーがそのまま長次郎谷の右俣を詰め、池ノ谷乗越へ上がろうとしている。
 既に起き出した隣のテントの人と話してみると、たぶん長次郎谷は行けるんじゃないかとのこと。時間短縮のため、その方向で行くことにする。

 隣のテント組は今日下山してしまうそうで、「良かったら。」とスーパードライのロング缶を置いていってくれた。ありがたや~。
 軽く朝食をとって出発。

 

 長次郎谷上部は案ずるより行くが易し。途中、雪渓が切れるが特に問題なく池ノ谷乗越まで上がることができた。
 今回、軽量化のためアイゼンも8本爪にしようか迷ったが、やはり二人とも12本爪にしておいて正解。


 さて、ここから三ノ窓まで悪名高き池ノ谷ガリーの下り。
 相変わらずの悪いガレ。落石を受けないようお互いの間隔を詰めてソロリソロリと下るが、以前何回かに較べれば比較的今回ガレの崩れはおとなしかったような? 
 三ノ窓でトイレ休憩。ここからチンネ取付きへのトラバースでもまだ雪が残っている。
 既に先に長次郎谷を登っていた二組がチンネの左稜線を登っている。

 さぁ、いよいよだ。
 相方からのスタートでチンネ左稜線に取り付く。このルートも超人気で、今さらルート説明など不要なので、詳細は省略。(単なるレポの手抜き?)
 
 1ピッチ目、今回は意外とイヤらしく感じ、2ピッチ目は自分がロープを伸ばす。
 テラスでフォローの相方をビレイしていると、それを完全にロックオンする形で後続のリードが付いてきた。
 正直、煽られるのは好きではない。幸い、今日は崩れようのない上天気だし、写真を撮りながらのんびり登りたいので、ここで先を譲ることにする。

 と思ったら、登ってきたのは旧知の仲、以前某山岳会で一緒で今はプロガイドをやっているK山くんだった。
 いやぁ、ごぶさた!どおりで速いはずだ。

 

 今日は女性二人をガイドとのこと。
 しかし、この女性クライアント二名も自分と同じかそれ以上の歳と見受けられるが、おそらくK山ガイドの常連さんで手慣れているのだろう。スピード、体力とも実にお見事。今日は剣山荘からの往復で午前2時スタートというから凄い。
 K山パーティーを見送り、我々も再開。
 自分はここで気を抜いてまたまたビレイデバイスを落とすというヘマを犯してしまったが、こんなこともあろうかとアルパインの時は予備を持ってきているので問題無し。(とは言うものの反省しきり。)

 浮石のある簡単なルンゼを越えると、後は開けたフェースとリッジが続く。
 岩は乾き、フリクションはバチ効きで至極快適なクライミングが数ピッチ続く。

 

 そして、いよいよ核心の「鼻」(Ⅴ級)である。
 自分は以前GWにリードで登っているので、ここはもちろん相方に任せる。
 もはやフリーでは10cのリード、さらには「なんちゃってイレブン(笑)」も数本登っている彼女なら何ら問題ないでしょう。

 
核心の「鼻」。夏ならA0しないのがお約束。

 出だしのカンテ、そこからフェースへの乗り込み、さらに小ハングとソツなくこなす。
 そして青い空をバックに登っていく彼女をビレイしながら、自分は漫画「オンサイト!」の、あの場面を思い出していた。
 主人公の麻耶が羽ばたくように登っていく姿を見て、ビレイする先生が思わず涙ぐむシーン。あのシーン、いいよなぁ。
 今だと、あの先生の気持ちがよくわかる。

 クライミングを始めた頃を思い出させるいい作品。必読です!

 さらに快適なリッジが続く。
 出だしでは浮石に敏感だった彼女も後半になるにつれ大胆になり、(自分もだけど)飛ばせるところはランナウトのまま思い切り飛ばす。
 お約束の「チャレンジアルパイン」撮影ポイント、さらにチンネの頭でもスタンディングポジションでミッション完了。
 実に快適なクライミングJoyでした。

 チャレンジ!アルパイン

  チンネに立つ

 靴を履き替え、池ノ谷ガリーへ懸垂、そして登り返し。
 さらに長次郎谷を下ってBC着。岩と雪に囲まれたこのロケーションで飲むビールは最高!
 さらに相方が完登祝いのため持ってきた蜜豆などいただくと、後はまったり。
 今年の夏は海外の山へ行けなかったが、十分満足だ。

 

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四日目(8/19)天候:晴れ
 行程:BC5:30-池ノ谷乗越6:25-北方稜線(の一部)-剱本峰8:30~9:10-前剱下(事故救助応援)-剣山荘-室堂ターミナル16:45

 さて、いよいよ最終日。
 事前の天気予報では今日はやや曇りがちのはずだったが、フタを開けてみればイイ天気。

 食料は確実に減ったはずだが、やはり最終日のフル装備はそれなりに辛い。
 チンネに向かう多くのパーティーの最後尾から長次郎谷を詰める。
 池ノ谷乗越で一休み後、北方稜線を剱本峰へと向かう。
 一応バリエーションルートと言いながら踏跡明瞭、特に心配することはなかったが、気を抜いたせいか途中で二回ほどルートミスをし、懸垂も一回。

 




 それでも思ったより早く剱岳頂上に着。
 多くの登山客に加えて、どうやらNHKの「百名山」ロケをやっているようで、頂上は過密状態。
 しばらく休んで回りの景色を楽しんだが、いよいよ足の踏み場も無くなり「日曜日の高尾山」状態になってきたところで、我々も山頂を後にする。

 相方にとっては念願の剱岳のはずだったが、昨日のチンネに較べれば感激はあまりなかった様子。
 頂上から見る富山平野と富山湾も「何だか丹沢の塔ノ岳から見る湘南の景色と大して変わらない。」とのこと。(全国の剱ファンの方、ごめんなさい!
 あとはゆっくり下って今日中に神奈川まで帰るはずだったのだが・・・。

 カニの横バイなどの鎖場を過ぎ、前剱を越した辺りの斜面でやや渋滞気味。
 適当に追い越したり立ち止まったりして進んでいると、突然上から「ラクっ!!」の声。
 すぐに振り返って身構えたが、何と落ちてきたのは岩ではなく、人だった!

 後ろを歩いていた相方とちょうど同じラインで、反射的に「避けろ!」と叫んだつもりだが、よく覚えていない。
 それはもう転がってきたというより完全に宙を舞っており、斜面に落下後、何回も岩に頭を強打し、転がり続けた後にようやく止まった。
 実際、周辺の岩は血まみれで、完全に逝ったと思ったが、その後、奇跡的に意識を回復。 
 幸い前剱にいた富山県警山岳警備隊がすぐに合流してくれたが、ヘリ到着まで一時間余。成り行き上、我々もその場を立ち去れずできるだけの手伝いをすることになった。

 これ以上の事故の詳細は省くが、とにかく誰も「もらい事故」にならなかったし、ヘリで運んでもらえたのは不幸中の幸いだった。(その後、当人がどうなったかは不明。)
 剱は現在、一般ルートでもほぼ95%以上が自主的にヘルメットを着用しているが、この人に限って被っていなかったのが悔やまれる。



 
 
 結局、この一件で予想外のタイムロス。
 室堂発の最終バスに間に合わせたいため、最後は決死のタイムトライアルとなる。
 ラスト、室堂ターミナルへの登り返しでは疲労と息切れで一気に石段を登れず、息も絶え絶え。
 いくら自分より若いとはいえ、相方もこの大学山岳部並みのハードワークはさぞかしキツかっただろう。よく頑張った。
 そして最後も相方のファインプレイで、何とかその夜の高速バスをゲット!予備日の20日朝に新宿経由で無事に帰ってきた。

 初日は嵐、間の二日間は最高の天気、そして最終日はとんだアクシデントと、またしても中身の濃い四日間になってしまったが、まぁこれもひと夏の思い出ということで、記憶に留めておきたい。
 「試練と憧れ」それが剱。お疲れさまでした。

穂高 出合からの滝谷、敗退

2018年07月15日 | アルパイン(無雪期)
2018年7月13日(金)-14日(土) 一泊二日
天候:両日とも
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
 
 さて今回は相方ヒロイさんの要望で、穂高・滝谷出合からの四尾根。久々のクラシック・アルパインである。
 
 もっとも自分は最初、この計画に正直あまり興味が湧かなかった。
 これまで滝谷は、GWに第二尾根、秋に四尾根とクラック尾根を登っているが、いずれも涸沢、北穂経由のコース。
 涸沢経由のコースもけっして楽ではないが、それでも本番の岩の部分を除けば一般登山道。まぁ安全、安心である。
 それなのになんでわざわざボロボロの岩場を経由して出合から・・・なんて思っていたのである。
 
 しかし、いろいろ記録を調べていくうちに、出合からの滝谷はこれはこれでなかなか「男気」のあるルートだと思うようになった。
 (パートナーは男じゃないし、まだアラサーだけど、山の好みは割と渋好み。)
 谷川岳の一ノ倉沢を出合から本谷通しに行くのが「リアル一ノ倉沢」なら、こちらはまさに「リアル滝谷」。
 例年だとまだ梅雨が明け切らない「海の日」の三連休だが、今年はなんと六月中に梅雨が明けてしまった。
 まずはどんなもんか行ってみますか!
 
一日目
行程:小田原発7:50-新穂高温泉13:00~14:30-滝谷出合避難小屋17:20
 
 このところお世話になりっぱなしのヒロイ号で御坂道-中央道と乗り継ぎ、松本から新穂高へ。
 松本のレストラン「十字路」の前を通過。この時はまだ「帰りはここでハンバーグ定食を食べたいね。」なんて呑気に話していたのだが・・・。
 
 登山口の新穂高温泉着。
 ロープウェイ乗り場に近い奥の駐車場は有料なので、手前の深山荘の無料駐車場まで戻るが、平日だというのに既にイッパイ!
 しかたなくさらに離れた「鍋平」の無料駐車場まで移動する。さすがにここはまだ停めることができた。
 ところが、ここでいきなり問題発生。いきなりヘンなおじさんに声を掛けられる。
 
 最初、駐車場の管理人か何かだと思って相手をしてしまったのだが、別に用件があるわけでもない。
 とにかく話好きで一方的に自分の住んでた所とかどうでもいいネタのマシンガントークが止まらない。
 しまいにはこちらが昼食として食べていたランチパックを缶コーヒーと交換してほしいなどと言う。いや、腹減ってるなら自分の車で買いに行けばいいじゃん。大体こっちはこれから山へ行くので、今、準備を忙しいんだ。
 ただの酔っ払いのヒマ人なのか、それとももしかしてこちらの行動に探りを入れてる車上荒らしなのか?
 最後は適当にあしらって駐車場を後にしたが、そのおじさん、今度は別の登山者に同じように絡んでいた。

 
 
 遠い駐車場、ヘンなおじさんと、初日から予期せぬ核心を二つもクリアしてしまったが、今日の行程はここから三時間ほどの滝谷出合の避難小屋まで。
 気を取り直して蒲田川の右俣林道を進む。
 ダラダラと単調な林道歩き。白出沢、チビ谷を横切り、ようやく滝谷出合の小屋に到着。
 暑くてけっこうバテた。片や相方はいつもニコニコ、今日も元気だ。

 

 誰も居ないだろうと思い込み、入口の戸を開けたらいきなり先客が一人寝ていてビックリ!いや向こうの方がもっとビックリしただろう。ゴメンナサイ。
 挨拶して、とりあえず自分たちのスペースを確保。
 荷物を置いて滝谷の偵察に出かける。
 
 二、三日前までの豪雨の影響か、出合付近は勢いのある流れがいくつにも分かれ、谷を詰めていくには何度か徒渉が必要になる。
 左岸伝いに行ける所まで上がってみると、上部にチラリと雄滝。さらに上には大きな雪渓が見えた。
 とにかく明日は行けるところまで。安全第一、無理しないことを確認し、小屋に戻る。

 
 
 本日の夕食はレトルトの「ヒマラヤンカレー」。
 献立は全て相方任せ。今回は装備、食料とも軽量化で絞りに絞ったが、食事はたいへん美味しくいただきました。
 
 明日に備え、早々とシュラフカバーに入ったが、20時頃になっていきなり中年の男女二人組がやってきて起こされる。
 その後も山ガール風が二人、そしてさらにはもう二人?
 半分寝ぼけていたのでよくわからないが、大体、何でこんな遅い時間にやってくるんだ?
 しかも最後に来た人たちは本当に来たのか夢だったのかハッキリしない。
 
 考えてみたらこの避難小屋。かつては山岳事故での遺体安置所として使われていたというから、何が起きてもおかしくない。
 
二日目
行程:起床3:30-小屋出発4:40-雄滝下6:00-雄滝落ち口10:30-滑滝手前のゴルジュで撤退11:30-雄滝下16:00-滝谷出合16:40-新穂高温泉18:50
 
 同宿の人たちがまだ寝静まっている中をゴソゴソと起き出す。マルタイラーメンを二人で分け合って朝食。
 まだ陽は出ていないが、天気は上々。「気をつけて。」と見送られ、小屋を後にする。
 
 昨夕の偵察の結果、最初は右岸通しが効率が良い。ザレたモレーンとゴーロの中を詰めていく。
 やがて最初の渡渉。
 靴を履いたままヘツリで行けるかと思ったが、やはり無理。
 裸足になって勢いのある流れに足を入れるが、幸いそれほど深くはなかった。しかし、やはり上部の雪渓から流れてくる水は冷たく、徒渉後はしばらく足がジーンと痺れてしまった。

 

 

 さらに短く徒渉を繰り返すので、面倒になってそのまま裸足でガレを歩いたりして進む。
 やがて雄滝手前に到着。間近に見る雄滝はドウドウと豪快に水を落としていて、飛沫がこちらにも飛んでくる。凄い迫力だ!
 手前の雪渓は、表面に固くスプーンカットができていて、アイゼンを履かずに乗り越える。
 シュルンドから岩に移り、いよいよここから最初の核心。雄滝と雌滝の中間尾根だ。
 

 
 尾根といっても完全に壁で、ここでロープとクライミングシューズを身に着ける。
 自分がネットで見た写真では正面の壁の向かって左端がルートに見えたが、取付いた箇所が階段状だったので、そのまま取付く。
 
 1ピッチ目。
 岩のフェース。Ⅳ+? 
 最初は階段状だが、上に行くほど悪い。古い残置ハーケンあり。
 ザック無しのフリーならともかく、フル装備だと思い切ったムーブが出せず、ましてやランナーとなる残置はどれも怪しげで簡単には落ちれない。
 あと少しで上部の灌木帯に抜けられると思ったら最後がスローパー。泥で濡れたソールでまったくフリクションが効かない。
 手頃なクラックにカムを決め、一気に上がろうと思ったら、そこでスリップ!
 ザックの重さでいきなり頭を下にしてひっくり返り、自分でも驚いたが、カムがバッチリ効いてくれたので助かった。
 結局、スローパーは越えられず、少しロワーダウンし左へトラバース。少しだけ平らなレッジでピッチを切る。カムと自分で打ったハーケンで支点を作り、相方を迎えた。
 相方も出だしでスリップ。いきなりズズンとテンションが掛かるが、その後は順調に登ってくる。
 ここで小一時間は浪費してしまっただろうか。自分が直上にこだわり過ぎて余計なタイムロスをしてしまった。申し訳なし。

 
 
 2ピッチ目。
 そのまま彼女をツルベで送り出すが、すぐ上の草付きスラブで思いのほか悪かったよう。すんなり越えられず。
 私が左の段差から抜けて、そのまま草付き壁を木登り混じりに直上。さらに少し登ったところが中間尾根の肩のようなピークだった。
 少しだけ開けていて、ここからは左に雌滝の全貌も明らかに。
 滝の勢いこそ雄滝に負けるものの、回りの断崖はむしろ雌滝の方が荒々しく怖ろしいイメージだ。
 
 振り返ると眼下の滝谷は、かなりの高度感。
 出合には豆粒ほどのギャラリーが。そして我々の後を追って、もう1パーティーがこちらに向かって登ってきている。
 うん、たしかに凄いぞ、ここは。初めてのせいもあるが、谷川の一ノ倉沢より隔絶されたイメージだ。

 
 
 
3ピッチ目。
 急傾斜の草付きトラバース。
 しっかりした灌木があまり無く、引っ張れば抜けそうなフキのような草をだましだまし掴みながら慎重に行く。
 以前行ったオツルミズ沢を思い出させるピッチ。

 
 
 4ピッチ目。
 踏跡のあるバンドを伝って、ようやく雄滝の落ち口に着。
 ほっと一息。また靴を脱いで徒渉し、左岸のボロボロのガレを登っていく。
 
 
 

 無名の滝はそのまま左岸通しにクリア。
 やがて雪渓に突き当たる。
 上に上がり、そのまま詰めていくとその先で雪渓が大きく割れ、進路は巨大ブロックに挟まれた狭いゴルジュとなっている。
 で、ゴルジュの上15mほどの高さからは、ポロポロと大小さまざま石が左右から落ちてきている。

 
 
 うーん、これは一体どうしたものか。一か八かで駆け抜けるか。だが、あまりにもリスキー。
 二人してしばらく落石の落ちる間隔を見計らっていたが、やがて相方が結論を出してくれた。「危険過ぎる。やめましょう。」
 他のルートも検討したが、見た限り、今回はここで手詰まりだった。
 
 そうと決まれば、あとはもう撤退あるのみ。
 回りの雪が次第に緩み、時間と共にあちこちから落石が起きてくる。そして時折、腹に響くようなブロックの崩壊音が聞こえたりして心臓に悪い。
 ガレの下り、徒渉、草付きトラバース、藪漕ぎしながらの懸垂下降、ルーファイしながらさらに懸垂。
 1ピッチ目の壁に出て、さらに落石に気を付けながらまた懸垂。
 
 
 

 
 雄滝の下まで何とか降りてホッと一息。
 上部を見ると、いつの間にか後続パーティーと入れ違いになっていた。やはり自分たちが採った1ピッチ目はノーマルルートではないようだ。
 しかし、その彼らもやはり今回は無理と判断したようで、我々と同様、下降を始めていた。
 
 あとはルーファイしながらガレを歩き、最後は面倒になって登山靴のまま流れの中を徒渉したりして、出合まで帰り着く。
 二人ともヨレヨレ。相方もよく頑張った。
 明るい時間帯で天候が安定していたので良かったが、これがもし悪天の中や夜間だったら、さぞかし悲壮感漂う脱出行だったろう。
 
 
 
 出合小屋でもう一泊しても良かったが、まだ夕暮れ前だったので、未練を残すことなく、その日のうちに下山することに。
 新穂高に着いた時は真っ暗で、この後さらに小一時間もかけて鍋平の駐車場まで到底歩く気がしない。
 
 夜の登山口ターミナルはすっかり人も途絶えてしまったが、たまたま下山の遅れた山ガール風の二人組がいて、彼女らがよその車のヒッチに成功。
 そのまま今度は彼女らの車のピストンで、我々も無事、駐車場にたどり着いた。
 やれやれ。敗退はしたが、とにかく二人とも怪我無く無事に帰ってきた。それだけで十分な、何とも中身の「濃い」二日間だった。
 
 で、アルパイン経験がまだ少ない相方は、今回の敗退で、しばらくは滝谷の「タ」の字も口に出さないだろうと思っていたのだが・・・、
 二、三日もすると「次はいつ行きましょう?」とコリない様子。
 まぁ私で良ければまたそのうち。

八ヶ岳・大同心 南稜&雲稜

2017年10月09日 | アルパイン(無雪期)

日程:2017年10月8日(日)~9日(月)
天候:両日とも
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)

 10月初めの三連休は会津の沢(早出川ガンガラシバナ)の先行予約が入っていたが、あいにくの微妙な天気。
 年休も加味して調整したが、初日が雨、最終日に泳ぎがあってなおかつ横浜まで500kmのドライブは、時期的、体力的にも辛過ぎるということで今回は見送り。
 幸い後の二日間は天気が好転するということで、急遽メンバーを替え、手軽な八ヶ岳へ転進することにした。
 
 今回行くのは大同心。
 11年前の同時期にも登っているが、パートナーのヒロイさんは雲稜は初めて。
 まぁショートルートでは5.10aのリードは手堅くこなしているので、そこそこ楽しめるでしょう。

10/8 大同心南稜(肩まで3ピッチ、Ⅲ級)
行程:相模大野7:00-美濃戸口10:30~50-赤岳鉱泉13:00~20-大同心基部14:30-南稜15:00~16:30-赤岳鉱泉17:20(テント泊)
 
 小田急の相模大野に集合。
 そのまま圏央道から中央道へ入ろうとしたが、朝から相模湖手前で既に15kmの渋滞。
 こりゃダメだと急遽、東名へ転進し御殿場、大月経由で美濃戸口へ。意外と早く、ストレスフリーで到着した。
 しかし、今度は美濃戸口の駐車場が既に満杯。近くをウロチョロし、結局その辺の適当な場所に駐車して何とか出発にこぎつける。
 
 八ヶ岳は久し振り。これまで西面も東面も飽きるほど通ってきたが、ほとんどが冬なので、こうして緑が青々としているとけっこう新鮮に感じる。
 10月に入り、そろそろ寒いかなと思ったのだが、今日は暑い。
 防寒対策をしっかりするように伝えてしまったので、相方のザックは一泊二日にしては重そうだ。

 
 
 八ヶ岳山荘から北沢に入り、赤岳鉱泉へ。
 中途半端な時間なので今日はこのままマッタリ過ごし、明日に備えてゆっくり休んでもいいかなと思ったが、聞くと彼女は「まだまだ元気」とのこと。
 それならばと、さっさとテントを立て、そのまま偵察がてら大同心へ向かう。
 
 硫黄岳方面へ少し登り、標識のある所からロープを潜り、大同心稜へ。
 途中、左岸から右岸へ涸沢を渡るが、踏跡はしっかりしていて迷うところはない。
 登るにつれ、次第に傾斜は急になるが、1時間ちょっとの登りで大同心の基部に到着した。
 少しガスも出てきて、時間的にもギリだったが、南稜の肩までなら3ピッチなので行けると判断。
 グレードも簡単なはずなので8mmロープ1本で行く。

 
 
 1ピッチ目 Ⅲ+ 私のリード
 八ヶ岳特有の礫岩をセメントで固めたような壁で、下から見るとどこでも登れそう。
 実際、ホールドはしっかりしているが、あまりにボコボコ出ているので、強く力をいれるとポロッと取れてしまうんじゃないかと心配になる。
 下から見ると緩傾斜だが、登るラインによっては意外と立った感じになる。
 35mほど延ばしたところでロープの流れも悪くなり、ハンガーボルトの支点でピッチを切る。

 
 
 2ピッチ目 Ⅲ ヒロイさんリード
 最初は、この取れそうで取れないボコボコ・ホールドに戸惑った様子で慎重だったが、順調にロープを延ばす。
 上部では登っているパーティーのコールが聞こえるが、ガスっていて回りの様子がわからない。
 ビレイしていると次第に寒くなってきたが、そのうち彼女からコールが届く。

 
 
 3ピッチ目 Ⅱ 私のリード
 傾斜は緩くなり、リッジはそのままドーム下の肩まで続いているが、リッジ右側面に草付きの踏跡がある。
 ロープの流れを考えると、草付きの方を行った方がいいので、そのまま歩いて「肩」で終了。
 あれ?もう終わりか。アップにならないほど、あっという間に終わってしまった。
 陽も暮れてきたので、最後のドームは明日のお楽しみにとっておこう。

 
 
 下りは大同心ルンゼ。
 傾斜は緩いが、脆い所があるので、ロープの回収、落石も考えて、短く2ピッチに分けて懸垂下降。
 ロープやガチャ類を適当な場所にデポして、黄昏の大同心稜を下る。  

 
  
 その夜の夕食は全て彼女が用意してくれた。・・・といっても彼女は自称・料理がダメということでレトルト・カレー
 しかし、それはそれでおいしくいただく。ごちそうさまでした。
 日頃の睡眠不足もあって、この夜はたっぷり10時間眠った。たっぷり眠れることは幸せだ。
 
 
 
10/9 大同心正面壁・雲稜ルート(5ピッチ、5.8~9)
行程:起床5:30-出発6:40-大同心基部7:40-雲稜ルート取付き8:10-大同心の頭12:30~50-赤岳鉱泉14:30~50-美濃戸口16:45
 
 朝、起きると快晴無風。夜露があったが、気温はそれほど低くない。絶好のクライミング日和だ。
 赤岳鉱泉のベンチで朝食を済ませ、明るくなり始めた頃に昨日と同じく大同心稜を登り始める。
 既に先に出発したパーティーがいたので、もしかしたら順番待ちかも。まぁ、こちらはマイペースで登ろう。
 
 昨日ほとんどの装備は上にデポしたので、アプローチは楽チン。
 大同心の基部に着くと、年配の男性二人組がいた。先ほど鉱泉で見かけた若いニイちゃん二人組とは違う。
 順番からして当然、その二人組に先行してもらうが、見ているうちに少し不安になる。何だか準備がとても遅いぞ。
 彼女の希望で、今日も奇数ピッチを私、偶数ピッチを彼女がリードすることで、スタート。

 
 1ピッチ目 5.8 私のリード
 予感は的中し、先行のおじさんたちはやはり遅く、二人が最初のピッチを抜けるまでかなり待たされてしまう。
 雲稜ルートは西面で、午前中は陽が当たらないため、ある程度着込んでいたのにすっかり身体が冷え、指先もかじかんでしまった。
 おじさんたちは昔ながらのアブミ突破していたが、ウチらはもちろんフリーで。
 中間部が少し被っているが、少し左から攻めれば特に難しくはない。
 被りモノが苦手な彼女も、フォローながらここはすんなり上がってきた。

 
 
 2ピッチ目 5.9 ヒロイさんリード
 見た目、傾斜はそれほどなく簡単そうに見えるが、一段上がったオープンブック状のスラブが核心といえば核心か。
 たしかにガバだらけの大同心にあって、ここだけちょっとスッキリしている。
 リードの彼女は残念ながらA0使ってしまったが、ここは右側のカンテを頼りに足はスメアを効かせてステミングで行けばOK。
 その後はそつなくこなす。

 
 
 3ピッチ目 Ⅲ+ 私のリード
 やや右に斜上する浮石の多いピッチ。
 私も一回棚の上に乗っていた平たい石をロープが触れて落としてしまった。後半の凹角は快適。

 
 
 4ピッチ目 Ⅳ- ヒロイさんリード
 出だし凹角。その後、「肩」まで右方向にトラバース。
 途中でピッチを切ってもいいからと送り出したが、彼女は特に戸惑うことなく順調にロープを伸ばしていった。
 それでもトラバースの部分は足元が泥で滑り易く、ちょっとイヤらしかった。
 ドーム下の「肩」でまた時間待ち。大同心ルンゼにいた講習グループから「ガンバッテー!」と熱い声援が届く。

 
 
 5ピッチ目 5.9 私のリード
 先行のおじさんたちが抜けるのを待って、ラストピッチ。
 中間部の薄被りが第二の核心か。
 一か所、足を置く所が滑り易い部分があるが、ホールドは豊富。
 ここをクリアし、一呼吸レストして最後の垂直のリッジを一気に行く。
 最後のビレイ点に着き、フォローの彼女を迎える。
 登っている様子は見えないが、やはり途中で足が滑ったようで、下の方で「テンション!」とか言ってるような?
 まぁ、聞かなかったことにしよう。
 それでも最後までアブミを使わず登ってきたのは立派。そこから大同心の頭まで少し上がって無事完登。

 
 

 先行のおじさんたちはサッサと降りていったので、大同心の頭ではウチらだけでしばらく貸切。秋の空が気持ちいい。
 
 下りは昨日と同じく大同心ルンゼを下降。
 最後にまた先行していたおじさんたちと会ったので挨拶する。お疲れさまでした。(こちらもアオってしまって、ごめんなさい。) 
 赤岳鉱泉のベースを撤収して下山する。


 帰りはまたしても中央道が大渋滞・・・・・・35km!(って、ブルゾンちえみか!)
 御坂一ノ宮で高速を降り、御坂→御殿場→箱根経由で帰ってきたが、思ったより早く、意外と早く帰ってこれた。
 
 とりあえず「大同心へ連れて行く」と彼女への公約は果たせた。さぁ次はどこへ行こうか。


夏の剱岳・Ⅵ峰フェースと剱尾根 #4

2012年07月29日 | アルパイン(無雪期)

天候:ガスのち晴れ
行程:池ノ谷BC5:35-長次郎谷ノ頭6:30-剱岳7:30-カニのヨコバイ-別山乗越-室堂13:30

 いよいよ最終日。
 昨日まで天気に恵まれたが、今日は朝からガス。

 BCを撤収。
 自分たちの体温でテントの床面だけ雪が溶けて低くなっているかと思ったらむしろその逆で、周りの雪解けの方が早く、床面の方が一段高くなっていた。
 どおりで、昨夜は下がボコボコで、落ち着いて寝れなかったわけだ。

 出発しようとすると突然、池ノ谷ガリーから単独の人が上がってきた。
 何時に出発したのか池ノ谷を下からずっと詰めてきて、今日はこれから剱本峰を越えて早月尾根を下るとのこと。
 そのまま一緒に出発する。

  BCを撤収。

 池ノ谷乗越から本峰までもはっきりしない踏跡があったりして、行ったり来たりする。GWのように雪のある時期の方がかえってトレースがあって歩きやすい。
 知らない間に長次郎ノ頭を通り過ぎてしまい、juqcho氏に呼び止められ、あわててデポを回収。
 再び重いフル装備となって先へ進むが、まだ途中で短い懸垂などを強いられ、夏でも剱、侮りがたし。

  途中で見かけた雷鳥

  長次郎ノ頭でデポ回収。背後に見えるは剱本峰。

 どうにか剱の頂上に着くと、朝から多くの人で賑わっており、中高年の原宿状態。
 あいにく今朝はガスに覆われ、展望は利かない。
 祠は改修されたと聞いたが、たしかに以前のものより一回り大きくなったようだ。
 一応、お約束の記念写真など撮り、しばし休憩する。

  お約束の一枚。とりあえず剱の卒業写真?

 その後、カニのヨコバイなどいくつもの鎖場を通って下山していくが、剱の一番楽なルートとはいえ、別山尾根もなかなか長くてシンドイ。

  

  
 

 次第に多くなってくる登山者と観光客の群れを掻き分けるようにして、ヘロヘロになって室堂に下山。
 そのままアルペンルートを使ってスタート地点の信濃大町へ帰ってきた。

  
 
 〆は大町のトンカツ屋「昭和軒」。
 ご飯大盛り(通常の二倍)でも値段据置きという、たいへんコストパフォーマンスの良い店で、越後湯沢の「人参亭」同様、山から下りたら寄りたい店として、ここは要チェックだ!

 今回、四日間でⅥ峰フェースを2本と剣尾根を「通し」で登れたのはまずまずの成果。
 初日の行程の狂いも後から見れば結果オーライで、50過ぎのオヤジにしては中身の濃い山行だったと思う。
 juqchoさん、お疲れさんでした。


夏の剱岳・Ⅵ峰フェースと剱尾根 #3

2012年07月28日 | アルパイン(無雪期)

三日目

天候:のち
行程:BC4:10-池ノ谷左俣下降-R10取付6:00-剱尾根コルE6:30-下半部終了12:00-長次郎ノ頭14:30~15:20-BC16:00

 さて、本日はメインの剱尾根。
 ヒロケン氏の「チャレ・アル~」によれば下半部のコースタイムは5~8h、上半部が2~3h。
 当然、我々中高年組は長くかかる方に照準を合わせなければならず、そうなると剱尾根だけで11h。
 さらに出だしのBCからR10取付まで2h、最後、稜線からBC帰着までを1h見込むと、トータル14h行動!
  (正直、私はこの時点でワンデイ・ワンプッシュは無理だと思っていたのだが・・・。)

 まずは暗い中、ガレガレの池ノ谷ガリーをヘッデン点けて下降。
 昨年行った穂高・滝谷の下降もひどかったが、こちらもボロボロ。
 浮石にヒヤヒヤしながら三ノ窓を通過し、下部へと下っていく。

  早朝の池ノ谷を下っていく。

 池ノ谷のテン場を過ぎるとやがて雪渓となり、R2へ通じる大きな枝沢はわかったが、R10の取付が初見の我々にイマイチわからない。

 一応、三ノ窓から約1時間と目星をつけて、それらしいルンゼが見てとれるが、確信をもてないのでそのまま下ると下方から三人パーティーが上がってくる。
 先頭を歩くリーダーらしき人に聞いてみると、今通り過ぎた所がやはりR10と言う。

 急いで登り返し、ちょうどR10の取付に差し掛かったjuqcho氏に「そのまま先に行って!」と合図を送るが、途中で水を飲んだりしていて余裕モード?・・・早くしないと日が暮れちゃいますよっ!
 後続の三人組と前後したら時間が掛かるし、彼らにも悪い。とにかくさっさと登って一定の間隔を開けなければ。

  R10の登り返し

 下から見ると中途半端に雪渓が残るR10は悪そうに見えたが、それほどでもなく、アイゼン履いたままの沢登りでさっさとコルEに上がる。
 コルといっても二人も立てばいっぱいの所で、軽く息を整えてから、いよいよ剱尾根に突入する。

 しばらく細いリッジに煩わしい這松漕ぎが続く。
 上越の沢の熊笹やしゃくなげ地獄に較べればまだ軽い方だが、立ち塞がる枝を掻き分け進むのは結構パワーをロスする。

  剱尾根出だしの藪登り

 高度を上げるにつれ森林限界を越えると次第に視界が開けてくる。
 
 やがて20mほどの岩場。
 ヒロケン氏の本によればロープを結ぶのはまだ先で、手前に簡単な岩場があるというので、先を行く私はそのまま取り付いてしまったが・・・途中に残置ハーケンもいくつかあり、部分的にはⅣ級ぐらいある感じ。
 結局、登山靴のままフリーソロで登ってしまったが、安全を期すならここはロープを結んだ方が良さそう。
 その後でもっと簡単なスラブ・フェースが出てきて、ヒロケン氏の本にある「簡単な岩場」とはどうやらこちらのことを言っているようで最初の岩場は省かれてしまっているようだ。
 後続のjuqcho氏には上からロープを出す。

  最初の20m壁。中央に私の人影。

 そして、第二の簡単な岩場を過ぎると、次第に剱尾根の顔とも言える「門」と呼ばれる岩場近づいてきた。
 ガスの中、見え隠れする鬼の角のような岩峰はちょっと日本離れした景観で迫力があり、アルパイン心をそそられる。

  「門」の岩峰が見えてきた。

  

 やがて急な下りとなり細く切れ込んだキレットに着くと、そこがコルC。
 剱尾根の核心はここから。改めてロープを出し、登山靴からクライミング・シューズに履き替える。

 まずは1ピッチ目、私がリード。

 トポではⅣ、A1となっていて一応アブミを持ってきているが、見た感じ何とかフリーで行けそう。
 フェースを少し直上した後、擦り切れたスリングがブラブラする支点に沿って右上方へトラバース気味に越えていく。

  第1の核心部をフリーで越える。
 
 登山靴だとスメアが効かせられずA1となっているのだろうが、フラットソールならそれほど難しくはなくアブミは不要。
 途中、ポロッと欠けそうなカチやレストできると思ったフレークが意外と持ちづらく、ちょいアセるが、何とか切り抜ける。
 むしろカンテを右に回り込んだ後半の方がロープがグッと重くなって気が抜けない。それでも、どうにかフリーで突破。
 体感5.10a/b?しかし、登山靴、アイゼンなど入った6kgほどのザックを背負ってても、それほど苦労はしなかったので5.9ぐらいが妥当かも。
 フォローのjuqcho氏は敢えてフリーにこだわらなかったが、それでもA0で上がってきた。

 その後、しばらくコンテで岩稜を進んでいくと、例の「門」の中に入っていくよう細いトラバース道が続いている。
 先行するjuqcho氏の後を追って最初は突き当たりまで行ってしまったが、実はその少し手前、右側壁の逆V字状フレークの地点からがよく登られているルートのようだ。 

 で、お次はjuqcho氏リード。
 頭上の太陽が眩しく先が読めないため、セオリーどおり無難にA1で登っていく。
 出だしのフレークを越えると、後は左上に向かってクラックとバンドが斜めに走っており、しばらく待つと上から「ビレイ解除」の声が掛かった。
 フォローの私はjuqcho氏の様子を見ていたので、ここももちろんフリーでやらせていただく。
 右手フレーク、左手サイドガバをアンダー気味に持ってスメアでヒョイと伸びたら簡単に上の棚に手が届いた。ここはインドアボルダーのせいぜい7級。
 残りの斜めクラックは足元のバンドがしっかりしており、Ⅳ-程度だろう。

  第二の核心

 後は簡単な緩いスラブから脆いルンゼを伝い、しばらくリッジを進んでいくとコルBに着き、これで下半部は終了。
 R10取付からちょうど6時間。当初8時間を見込んでいたので、これは上出来、後半戦に向けて「貯金」ができた。

 

  

 一休みした後、後半の上半部を私のリードでスタート。

 上半部はトポでもピッチごとにあまり細かく解説がなく、グレードもⅢとなっているので適当に登っていくが、あまり考えないとⅣ+のライン取りになったり、また絶対動きそうもない大岩が足を乗せたとたんゴロンと動いたりして、やはりアルパインは気が抜けない。

 その後、赤茶けたフェースを2ピッチほど登るが、上半部でロープを使ったのはせいぜいここまで。
 後は岩のリッジが延々と続く。それにしても、ここから見る景色はまるで「北鎌」のよう。
 長次郎ノ頭(・・かな?)がちょうど大槍のように前方遥かに聳え、まだまだ先は長い。
 
  剱尾根上部から見る風景は北鎌のよう。

 上部に行くに従い、また少し急な岩場が出てくるが、板状の岩が細かく積み重なったような状態でホールドは豊富。
 特に苦労せず、お互いマイペースで高度を上げる。
 剱岳の頂上からも我々の姿が見えるのだろう。コールすると、手を振って応えてくれた。
 
  剱尾根ノ頭を過ぎ、一登りで長次郎ノ頭に着。
 上半部のタイムは2時間半で、これまた自分たちにとっては上出来。
 天候に恵まれたことが大きいが十分余裕のタイムでこなし、ワンプッシュで完登できた。

 最終日の明日は長次郎谷上部のクレバスがイヤらしいので、往路のコースを止め、本峰越え室堂へ降りることを確認。
 それならば明日またここを通るということで、長次郎ノ頭に重たいロープやらガチャ類をデポすることにした。

  長次郎ノ頭から剱本峰を望む。

 ゆっくり休んだ後、意気揚々とBCに帰着。
 もしかしたら時間切れ敗退か途中ビバークを予想していただけに、一日で抜けれて本当に良かった。

 剱尾根の印象は、何となく北鎌にロープが必要な壁を数ピッチを加えたような感じ。
 雪のある時期ならもう少しすっきりしたアルパイン・ルートなのだろうが、夏の剱尾根は這松の藪漕ぎと岩尾根が続き、けっこう泥臭い男気ルート(?)だった。


夏の剱岳・Ⅵ峰フェースと剱尾根 #2

2012年07月27日 | アルパイン(無雪期)

二日目 

天候:
行程:八ツ峰Ⅱ峰下の岩小舎5:13-池ノ谷乗越BC設営7:50-Ⅵ峰Aフェース中大ルート9:30-Cフェース剣稜会ルート12:50-八ツ峰上部-池ノ谷乗越BC17:00

 4時起床、5時過ぎ出発。
 まずはテン場を撤収。全装備を担いでⅥ峰フェースそばのインゼルまで歩を進める。
 ここでロープ、ガチャ類をデポ。残りの宿泊セットを担いで池ノ谷乗越を目指す。

  

 雪渓は次第に急になり、細かくジグザグに登っていく。
 いくつか底の浅い亀裂を避けていくが、やがて乗越手前に大きなクレバスが立ち塞がる。

 

 どこか抜け道はないかと偵察すると、向かって右端、雪渓から岩のバンドに下り、4m(アルパインのⅢ級)ほどの岩場を登れば上まで抜けられそう。
 他にルートを捜すが、いいのが無い。
 ただ、ここを越えて池ノ谷乗越に上がると、その後で再び下へ戻らなければならないため、ロープ無しでクライムダウンすることになる。
 juqcho氏は少し難色を示すが、ま、行くしかないでしょう。

 

 で、池ノ谷乗越に着いてみると一面雪に覆われ、三ノ窓への下り口のほんのわずかのスペースしか地面が出ていない。過去二回のGWの時より雪が多いぐらいだ。
 運良く雪の庇で半カマクラ状になった所が自然のテントスペースを作っており、そこに私の年季の入った二人用ゴアライズを張る。
 ベース設営を終えると、例のクレバスを慎重にクライムダウンし、デポ地のⅥ峰フェース近くのインゼルへ向かった。
 時間は十分にあり、Ⅵ峰フェースは1ルートが3~4ピッチと短いので2ルート継続しようと話が決まる。

 で、まずはAフェースの中大ルート (以下、グレードは日本アルパインのRCC基準。ローマ数字で記載。)
 
1P目 Ⅳ+、40m 私のリード。
 クラックからフェース、そしてコーナークラック。
 下から見ると残置がどれほどあるか微妙だったが、登ってみるとけっこうベタ打ち。トポでは浅いチムニーとなっているが、どちらかというとコーナー・クラック。
 同じ体勢が続き途中で窮屈になってくるが、左足を高く外側に出してステミングを決めていけばOK。ピッチ終了点には比較的新しい青スリング有り。

  

2P目 Ⅳ~Ⅲ、40m juqcho氏リード。
 出だしがちょい立っていてホールド細かいが、すぐに手頃な易しさとなる。トポでは4級+となっているが、ほんのワンポイント。

 

3P目 Ⅱ、15m 私のリード。  
 ちょこっと上がって終了。

 下降は這松を支点にして同ルートを懸垂。
 juqcho氏が先に1ピッチ降りた後、私が続くが、ここでプチ・アクシデント。
 上部でロープが浮石に触れたようで、ふいの落石。岩が大きくバウンドしたのでjuqcho氏は無事だったが、私は一瞬岩が掠めたようで左足首流血となる。

   

 幸いしばらくして血は止まり、直撃したわけではないのでそのまま続行。

 続いて、Cフェース・剣稜会ルート

1P目 Ⅲ、30m juqcho氏リード。
 昨日、長次郎谷で擦れ違ったパーティーが言ってたが、出だしで雪渓が覆い被さっていてビショビショ。ほんの一瞬だが、沢登り状態。

 

2P目 Ⅱ、35m 私のリード。
 ほとんど印象に残ってない簡単なピッチ。終了点には結構新しいハンガーボルトが2つ。
 イージーでロケーションもいいから、きっとガイド用のルートなんでしょう。

3P目 Ⅲ、40m juqcho氏リード。
 出だしがちょい立っているが後は簡単なスラブ・フェース。岩峰左端のカンテ沿いに上がっていく。
 上がった所で、上から降りてきた妙齢の女性二人組と鉢合わせ。懸垂途中でロープがスタックしてしまったらしい。

 

4P目 Ⅲ+、40m 私のリード。
 このルートのハイライト。鶏冠状のスッキリしたリッジを快適に上がっていくが、岩はフリクションが効き、高度感が気持ちいい。
 このピッチの写真はヒロケン氏の本やネット上でもよく見かけ、Ⅵ峰フェースの中でも人気なのがよくわかる。
 引っ掛かっている女性パーティーのロープを解こうとしたが、さらに上で引っ掛かっているようで届かず。

  

5P目 Ⅱ、15m juqcho氏リード。
 易しいリッジ。女性Pのロープも無事回収でき、剣稜会ルートも終了。

 A、Cフェースを快適に終え、八ツ峰上部へ入る。
 道は良く踏まれていて、ほとんど右側を巻く感じ。
 途中二か所ほど短い懸垂をこなし、特に危なげなく池ノ谷乗越のBCに着。

  

 17時着とちょっと時間がかかってしまい、それなりに疲れてしまったが、剱尾根の前座試合としてはほど良い感触。
 気持ちを切り替え、明日も頑張りましょう。

 


夏の剱岳・Ⅵ峰フェースと剱尾根 #1

2012年07月26日 | アルパイン(無雪期)

日程:2012年7月25日夜発~29日
同行:juqcho
参考:「チャレンジ!アルパインクライミング-北アルプス編」廣川健太郎

 今年の夏のお泊り山行第一弾は剱岳の「剱尾根」。
 juqcho氏と剱へ行くのは、これで三度目。
 最近の私はフリーをメインとしているので(ヘボだけど)、重荷を背負ったアルパインはやや気が重い。
 が、2007年春の八ツ峰、2008年春の小窓尾根・チンネに続いて、何となくシリーズもの(?)になっているので、お付き合いしましょ。

 プランとしては、雪渓の状況など不確定要素のある池ノ谷下部からのアプローチを避け、扇沢側からハシゴ谷乗越経由、長次郎谷を詰めてアプローチ。
 また、二人とも五十を越え、体力、スピードに不安を抱えることから(元々速くもないけど・・)場合によっては二日間かけて下半部と上半部に分けて攻めることとした。
 とりあえず前夜に信濃大町駅で落ち合い、駅前ロータリー脇の公園にテントを張って朝を待つ。

  信濃大町駅前にてテン泊

一日目 
天候:
行程:黒部ダム7:50-ハシゴ谷乗越13:00~30-真砂沢ロッジ15:00-八ツ峰二峰下の岩小舎17:00

 朝イチの路線バスで扇沢に向け出発。
 夏山シーズンとはいえ、平日のせいかそれほど混雑は無い。
 扇沢で乗り換え、最初のトロリーバスを待っていると、いきなり案内モニターに不穏な情報が目につく。

 「内蔵ノ助平方面、登山道崩壊により通行不能」

 いきなり「聞いてないよ~。」だが、まぁどれほどのもんかわからない。
 完全に封鎖されていれば考えるが、とりあえず行ってみましょう。

 で、黒部ダムに着くと、内蔵ノ助平方面への出口が塞がれているわけでもなく、そちらへ向かう登山者もチラホラ。(ホッ・・)
 ダム下へ下りて、例の木橋で黒部川を渡り、左岸沿いの樹林帯の道を行く。

  

 しばらく行くと先行する数人のおじさん釣りパーティーに追いつく。
 「良かったら一緒に釣っていかない?竿余ってるし。」
 炎天下の中、ロープやガチャ類で20kg近くになったザックを背負ってこれから長次郎谷まで歩くことを考えると、おじさんたちの誘いにクラッときたが、グッと堪えて先を急ぐ。

 情報どおり登山道はところどころ橋が崩壊していたりガレで埋まっていたりしているが、バリエーション・ルートへ行く者にとっては大したことはない。 

  
 
 やがて左前方に、数年前に登った丸山東壁。
 今は緑に覆われ登る対象ではないが、それでなくともアルパイン不人気の中、そのうち本来の自然の姿に還ってしまうかもしれない。

  追憶の丸山東壁

 天気は良く陽射しがビシビシ首筋に刺さるが、自然の水場もいくつかあり、それほどアップダウンが無いので助かる。
 途中、偽ブルーベリー(?)の味見などしながら歩き続ける。
  
 内蔵ノ助平付近から後ろを歩くjuqcho氏との差が開き始め、ハシゴ谷乗越でしばらく待つ。
 できれば初日に長次郎谷の熊ノ岩にBCを設けるつもりだったが、やはりちょっと厳しいか。

  ハシゴ谷乗越を過ぎると剱が・・・。

 真砂沢に下り、そのまま雪渓通しにロッジまで行けるかと思ったが、途中クレバスなどがあり、八ツ峰寄りのトラバース道を行く。

 真砂沢ロッジで缶ビールを調達がてら休憩するが、juqcho氏は既にグロッキー気味。
 今日はココ止まりにして明日はⅥ峰フェースでもと変更案も出るが、それでは剱尾根など到底無理。
 先週のスイス登山の疲れが残っているのだろうが、元々juqcho氏プロデュースの計画なのだからガンバリましょう。

  

 で、さらに真砂沢を詰めて長次郎谷に入る。
 今年は例年になく雪が多いよう。
 雪渓の傾斜も少しずつ増してきてアイゼンを着ける。
 夏山だし、スニーカータイプのアプローチシューズに四本爪の軽アイゼンで何とかなるかなぁと思っていたが、やはり長次郎谷ではしっかりしたブーツに12本爪アイゼンにして正解だった。

  

 元気であれば長次郎谷出会いからベース予定の熊ノ岩まで二時間と見ていたが、このペースでは18時、いや19時頃になってしまいそう。
 夏なので十分明るく行動可能だが、あまり初日に頑張り過ぎて明日に疲れを残しても良くないし。

 そのうち、上部からⅥ峰フェース帰りの男女ペアが下りてきて話を聞くと、熊ノ岩は雪が多く、いい場所一張り分は既に先行さんが確保。
 あとはⅥ峰フェース手前のインゼルにも一張り張れると聞き、再び登り続けるが、結局無理せず八ツ峰二峰下の岩小舎にテントを張ることにした。
 水も雪渓からポタポタ落ちてくるのを集められるので、まぁ良しとしましょう。
 (後で自分の記録を見たら、25年前に当時所属していた会の夏合宿でもこの辺りにテントを張っていたことを知り、ちょっとビックリ。)

 

 とりあえず計画を見直し、明日はまず長次郎谷を詰めて池ノ谷乗越にベースを移す。
 その後、Ⅵ峰フェースをクライミング。八ツ峰上部をまわってベースに戻ることにした。

 


秋の穂高・滝谷 #3 (クラック尾根)

2011年09月25日 | アルパイン(無雪期)

三日目

天候:のち
行程:起床3:00-北穂小屋待機-B沢のコル5:30-FIXロープ地点6:15-取付7:00-ジャンケンクラック基部9:30-北穂小屋12:00-テン場(撤収)-涸沢13:50-横尾15:20-嘉門次小屋17:15
参考:「チャレンジ!アルパインクライミング-北アルプス編」廣川健太郎・著

 本日はクラック尾根。
 juqcho氏は本日中に帰京のため、さっさと登ってさっさと下山しなければならない。なので、昨日よりさらに早めて朝の3時起床。 (私は予備の休みを取ってあるので余裕だが・・)
 朝のマルタイを食べてスタンバイするが、さすがにまだ外は暗く、早過ぎた。
 30分ほどテント内で待機してから北穂小屋へ上がって用を足したりするが、まだ早い。
 結局、小屋トイレ奥の乾燥室でウトウトしながら、もう少し明るくなるのを待つ。

 東の空がほんのり明るくなって、いよいよ出発。
 取付きへの下降点、「B沢のコル」は小屋から槍へ向かって縦走路をガーッと下ってちょっと道が平坦になった所にある。
 一般登山者が誤って入り込まないよう白ペンキで「×」印がしてあるが小さなケルン、そしてご丁寧に足元の岩に白ペンキで「B沢入口」と書いてある。
 通り過ぎようとするjuqcho氏を呼び止め、「ここですよ。」と示す。

   ここが入口

 さてB沢の下りだが、ここも昨日のC沢に負けず劣らずボロボロガレガレで悪い。
 とりあえず、慎重に下り始める。
 
 本日も我々が一番乗りかと思ったら、先客がいて、昨日偶然、我々の隣にテントを張っていた単独くんだ。
 1か所懸垂で降りる部分があり、親切にも先にセットした自分のロープを「良かったら使ってください。」と言ってくれる。なかなかいいヤツ。

  B沢の下降

 さらにしばらく下っていくと、左側の壁にFIXロープあり。
 数年前にこの辺りで崩壊があったため、新たに迂回路として設置されたものだ。

 FIXといってもほぼ垂直の壁。
 プルージックで確保しながらでもないので、岩に打たれた杭など掴んで登っていくが、出口の大きな岩がグラついていて一瞬ヒヤッとした。
 危ないので、juqcho氏には先に登った単独くんのロープをお借りして登ってきてもらう。

  
(左)FIXロープを登る単独くん。上部の岩が浮いている
(右)その後の斜め懸垂。juqcho氏。


トラバースして取付きへ

 そこから20m、右斜め下に懸垂下降し、さらに尾根を巻き上がるようにして右斜上していくと、はっきりした凹角のフェースの下に出る。
 ここにも親切に白ペンキで「クラック」と表示あり。
 特に残置支点はないが、カムを2つセットし、スタート。
 
1P目 35m 3級+(アルパイン・グレード。以下、同)
 juqcho氏リード。リッジ右の凹角フェース。問題なし。

 

2P目 40m 3級+
 私がリード。クラック~すっきりしたフェース~草付きトラバース。
 フェースを登った後、ずっと右手にビレー点が見えたのでそちらへ行ってしまったが、これはおそらく失敗。
 本来はそのまま緩い傾斜のリッジ上を行くのだと思うが、50mロープだと次のビレー点まで僅かに届かず、微妙なところ。
 ここで、単独くんとはまた別のパーティーに追いつかれる。
 後で知ったが「横浜蝸牛」の男女ペア。昨日は第四尾根の三組目で登っていたとのこと。

3P目 20m 3級
 juqcho氏リード。傾斜緩めのスラブ・フェース。ロープの流れを考慮し、短めにピッチを切る。

 

4P目 20m 2級 
 ピナクルからガレた水平リッジを向かい側のフェースまで。
 明るい笠ヶ岳方面をバックに、手前のピナクルとjuqcho氏の姿がシルエットとなって、なかなかシブいロケーション。

 

5P目 35m 3級+? (A0)
 juqcho氏リード。フェースを一段上がり、そののチムニーに突っ込むが、ここで大いにハマってしまう。
 トポではわずかⅢ級のピッチのはずだが、何だか登りにくいようで、さんざん逡巡したあげく「A0で行きます。」とスリングを足を掛けたりしたが、やはりダメ。
 ここで完全に後続の「蝸牛」組に追いつかれたため、先に行ってもらうことにする。
 
 選手交代で「蝸牛」のリードの女性は、一旦左側から抜けられないか偵察した上でやはりチムニーを選び、ジワジワと見事、上へ抜けていった。
 寒さでガタガタ震えながら待っていたフォローのヒゲ男性は「何か(A0用に)残していきましょうか?」と親切に言ってくれるが、さすがにそれは恥ずかしいので「いや大丈夫です。」と丁重にお断りを入れる。

 で、二人が抜けていった後、私が取り付くが、やはりチムニーにハマってしまう。
 まるで巨大ワニに食いつかれたかのように岩の間にすっぽり身体がハマってしまい、まったく身動きが取れなくなってしまった。
 しばらくもがいて格闘するが、どうにも抜け出せず。途中のランナーでテンションを入れ、仕切り直し。
 落ち着いてよく見ると左上の少し高い所にガバカチがあることに気付き、「もう何でもいいや。」と残置カラビナを右手に掴んでヒョイと一段上がると簡単にチムニーを抜けることができた。
 「狭いチムニーに入ったらダメ!」
 基礎の基礎が大事ってことを、東進ハイスクールのマドンナ先生が何度も言っていたではないか!・・・まったく、こんな所でつまづくとは。
 juqcho氏は途中でセットしたマイクロカムも回収できず、踏んだり蹴ったり。

 

 
 岩にスッポリはまってしまった私。・・・う、動けんっ!

6P目 20m 4級
 一応、このルートの核心部「ジャンケン・クラック」。気を取り直して続けて私がリードさせてもらう。
 右と左のラインがあるが、先行さんに倣って簡単な左側の幅広クラックから。さっきのチムニーに較べればまったく快適。
 上が詰まっているので短めに切る。単独くんも上がってきた。

  

7P目 35m 3級+
 juqcho氏リード。やや脆い凹角を上がっていく。この辺りも浮石多く、ちょっとロープを引きずっただけで落石が起きる。
 その後、15mほど草付きガレ場。私がロープを引っ張り、次のフェースの基部まで。

 

 

8P目 40m 3級+
 juqcho氏リード。リッジを挟んで右側面のフェースも行けるようだが、ここは素直に正面へ向かう。
 谷川の幽ノ沢のような草付きスラブ・フェース。上部がやや脆いようで、ここでも軽く落石あり。

9P目 25m 1~3級+
 左側にある最後の壁に向かって私が15mほどロープを引っ張って歩き、凹角のフェースをjuqcho氏リード。
 空がにわかに曇り出し、小雪のようなのが降ってきて、視界も閉ざされがち。寒いっ!

10P目 20m 3級+
 いよいよ最終ピッチ。私がリード。
 フェース~クラックで、短いがスッキリしたピッチ。
 寒いし、腹減ったしで、北穂小屋直下の終了点に出た時はホッとした。

  最終ピッチ

  小屋が見えてホッ!

 ロープをはずし、北穂小屋経由でテン場に戻り、ようやく一息つく。
 既に残っているテントは、我々と隣の単独くんの二張りのみ。
 時間は午後1時近く。そそくさと撤収し、下山を急ぐ。
 
 で、ここからのjuqcho氏のスピードは凄かった
 上高地の最終バス18時に間に合わせるため、ロープやギアで満載のザックを背負いながら、快調なペースで飛ばす飛ばす。
 こちらも何とか付いていくが、一体、どこにそんなパワーが隠されていたのか。 
 明日も休みを取っている私は、申し訳ないがそう急ぐ必要も無い。
 で、今回は横尾で解散。juqchoさん、お疲れさまでした~。

 とりあえず予定通り二本のルートを登ることができたので、結果としては満足。
 「遠いっ、寒いっ、モロいっ!
 三拍子揃った滝谷は、ピッチ・グレード3級がほとんどながら少々辛口?で、谷川の4級ルートと同等に感じた。

 
【写真集・三日目】


秋の穂高・滝谷 #2 (第四尾根)

2011年09月24日 | アルパイン(無雪期)

二日目

天候:
行程:起床4:30-出発5:11-C沢下り口5:55-スノーコル(取付)7:30-ツルムのコル11:40-縦走路13:10-北穂小屋14:00~40-テン場15:00
参考:「チャレンジ!アルパインクライミング-北アルプス編」廣川健太郎・著

 朝4時半、約束どおりの時刻に目を覚まし、テントの外を窺う。
 満天の星。無風。絶好のクライミング日和だ。

 そそくさとマルタイ・ラーメンの朝食を済ませ、起きてから40分後にはテントを出る。
 C沢の下り口にザックをデポし、小屋まで上がって用を足す。再びデポ地に戻ってハーネスを身に着けた。
 常念の方角からは朝陽がまぶしく射し込んでくるが、我々がこれから下ろうとしている滝谷はまるで陽が当たらず、あくまで暗く陰鬱。

 

 

 で、いざC沢を下り始めようとすると、juqcho氏のザックから大量の水が漏れている。
 見るとプラティパスの口元が大きく切れて、ほとんど使い物にならない。
 うーん、この(肌寒い)季節だからまぁ凌げるけど、前回のアイゼンバンドの件もあるし。装備のノーチェックはちょっとイカンですぞ。

  C沢下り口

  
 C沢の下降

 C沢は微かに踏跡はあるが、降りるにつれガレガレのボロボロで、とても神経を使う。
 今のところ我々だけが降りているので他からの落石の怖れはないが、二人の間もどうしても開いてしまうので気が気でない。
 とにかく一つ小さな石を転がしてしまうと連鎖的に周りの岩も落ちてしまう感じだ。

 パーティーによっては途中、懸垂下降(都合3か所あり)も交えて取付きのスノーコルへ向かう例もあるが、我々は何とかクライムダウンでクリア。
 かなり下って右俣と合流し、そこから少し登り返した先が第四尾根の取付き、スノーコルとなる。

 振り返ると、いつの間に来ていたのか後続パーティーが一組、さらにもう一組とC沢左俣を降りてくる。
 結構、早いスピードだ。
 別に一番を競うわけではないが、渋滞になっても良くないのでこちらも先を急ぐ。
 クライミング・シューズに履き替え、改めてスノーコルをスタート。

   

 最初は易しい踏み跡120mとなっているが、出だしはちょっとした岩場。
 とりあえずロープは出さずに登っていく。
 大まかに岩が積み上がったフェースの前に古いビレー点が見つかり、ここから四尾根が始まる。

1P目 30m 3級(アルパイン・グレード。以下、同)
 私がリード。ボコボコとした傾斜の緩い大まかなフェース。とにかく素直に真っ直ぐ登る。特に問題なし。

2P目 30m 3級 
 juqcho氏リード。ここも特に問題なし。

3P目 40m 3級
 私がリード。この辺りがAカンテ。傾斜が緩いトカゲの背のようなカンテが続く。
 途中、残りロープの長さを聞いたらもっと延ばせそうだったので、次のBカンテの途中まで行ってしまい、中途半端なピッチの切り方となってしまう。
 カンテの途中、ハンギングビレイでjuqcho氏を迎える。

  

 
 A~Bカンテを行く

4P目 40m 3~1級
 juqcho氏リード。Bカンテの残りの部分、さらに平らなⅠ級の踏み跡を進む。
 二尾根の上部から大きな岩雪崩発生。たぶん登っているパーティーからの人為落石だろう。
 かなり離れているので安全だが、他パーティーがルートに取り付いている時間にC沢を下るのは自殺行為だ。
 
5P目 20m 1級
 普通に歩ける踏み跡を傾斜の強いCカンテの手前まで。

6P目 20m 3級
 一旦仕切り直し、私からリード。
 ここからCカンテ。これまでのA、Bカンテよりは傾斜が立っている。
 一瞬手強そうに見えるが、竹の節のように絶妙な間隔でカンテに切れ目が入っていて、指が良く掛かる。快適。

7P目 40m 3級+
 juqcho氏リード。岩が脆い凹角をカニのハサミのような岩の下まで。

 

8P目 40m 3級+
 私がリード。右側にあるピナクルの裾を時計回りに回り込むように上がっていく。
 ロープの流れが悪くなり、コールも聞こえにくくなった辺りで三角おにぎりのような岩に到着。

 

 この先、懸垂で20mほど降りるわけだが、懸垂支点は2か所あり。
 おそらく上側の支点は妙に高い位置にあるので、積雪期用のものだろう。
 どちらも抜け掛かったハーケンやリングボルトに古いスリングが束になって結んである。
 上からの支点だと大きな岩が不安定に乗っかっている所を降りていかねばならず、安全を期して今回は下の支点を利用。
 万一のため、自前のハーケンとスリングでバックアップを補強し、ツルムのコルに降りる。

 

 気がつくと後続は三組もいる。
 すたれ気味のアルパインだが、本日の滝谷は盛況。
 写真を撮りながらチンタラ登っているうちに、すっかり追いつかれてしまった。

9P目 25m 4級
 juqcho氏リード。少し立ったフェースから最後にチムニーを潜り抜ける。気持ちの良いピッチ。

  

 (写真協力:お茶会)

10P目 35m 4級、A0 (5.10a)
 ルートのクライマックス、Dカンテ。
 私のリード。 (結局、A~Dまでスッキリしたカンテのほとんどを私がリードさせてもらった。悪いね。)
 トポには被り気味のカンテとあるが、特に被っているわけじゃない。

 核心部分はひと目でわかった。右側は腕がすっぽりはまるクラックだが、左に良いホールドが無く、フット・ホールドも乏しい。
 小ハングの根元にA0用のハーケンがあり、これに頼りたくなるが、せっかくなのでここはフリーで綺麗に抜けたい。
 で、左手で壁をまさぐっていると、そのハーケンのすぐ脇に指先が何とか掛かるカチを発見。これでバランスをとり、後は右腕をガバッとクラックの中に突っ込みジャミングを効かせて一気に上へ抜けた。

 トポではフリーで抜ければ5.10aとなっているが、ほんとワンポイントなので5級+か、せいぜい5.9でいいのでは?
 フォローのjuqcho氏にはホールドの位置など教えるが、後続が押してきたこともあって残念ながらA0。

  核心を抜けたところ

 さらにもう1ピッチ、安全な所までロープを延ばし、終了点へ。
 縦走路で渋滞している登山者の列を脇から擦り抜け、北穂の頂上へ急ぐ。

 で、まずは初戦突破!天気も良いので、北穂小屋のテラスにてビールで乾杯をする。
 後から来た後続パーティーの方と挨拶をしつつ、まずは第四尾根の完登を祝った。

  

 【写真集・二日目】


秋の穂高・滝谷 #1 (入山)

2011年09月23日 | アルパイン(無雪期)

一日目

天候:のち、夕方一時アラレ
同行:juqcho氏(おやぢれんじゃぁ隊)
行程:上高地6:50-横尾9:30-涸沢12:00~30-北穂南稜テント場14:40

 9月後半の三連休は、前回延期となっていた穂高の滝谷へ。
 いつもの「さわやか信州号」で、早朝の上高地着。
 昨年もこの時期、屏風に登りに来たが、この前までの夏の暑さが嘘のように肌寒い。

  朝の上高地

  ガスに包まれた河童橋

 朝食をさっさと済ませ、大勢の登山者と共にまずは涸沢を目指す。
 河童橋では曇っていて穂高の姿もまったく見えなかったが、歩き進むうちに絶好の秋空が広がった。

  明神岳

  横尾

  屏風岩

 ほど良いペースで徳沢、横尾と進み、左手に屏風岩を見ながら登っていき、昼食は涸沢ヒュッテで。
 私はいつもの行動食ヤマザキのドーナツ(4ケ入り)を持参だが、リッチなjuqcho氏はヒュッテ特製のカレーライスとおでんを注文。
 涸沢は草紅葉が少しだけ始まっているが、本格的な紅葉にはまだまだ。

  涸沢ヒュッテ

  秋の色

 ここから北穂のテント場までが結構キツイ。
 これまで穂高は随分来た気がするが、考えてみると涸沢はいつもGWばかり。
 いつも雪の北穂沢をダイレクトに上り下りしているので、夏道を歩くのはおそらく初めてだ。

 ロープとガチャ類などで、おそらくザックの重量は17~18kg。この歳になると、けっこう辛い。

  北穂への鎖場

  後ろに前穂北尾根

 ようやく北穂のテント場に到着。
 午前中、秋晴れだった空はここまで来るとどんより曇り、周りも荒涼とした雰囲気。
 スペースは十分に空いているので一つ一つ良い敷地を物色。とりあえず比較的良いNo.11のスペースを確保する。
 (No.11・・・ルカワか。攻め気を忘れないように!ということね。

 荷物置き場としてテントにタープを増設していると、何やらポツポツと白いモノが・・・。
 雪?と思ったが、さすがにそこまではいかず、小粒の霰がパラパラとタープの上に溜まっていく。
 うーん、明日ホントに登れんのか?早くも一抹の不安が漂う。

  三日間のベースキャンプ

  タープに積もった霰

 しばらく待っていると、ようやく霰は小康状態となったため、北穂小屋まで上がってテント代(一人一泊分@500円也)を支払い、ついでに水と酒類を購入。
 ふだんだったらビールだが、本日は寒すぎる。ということで今回は日本酒のワンカップを調達。

 辺りが暗くなってからも後から登ってくる組があって、「ここがイイ」「あそこはどうだ?」とやかましかったが、我々は明日に備えてサッサと飯食って寝る。

【一日目・写真集】


30年振りの屏風/下山

2009年09月22日 | アルパイン(無雪期)

天候:一時

 三日目。
 本日は残りの東壁ルンゼ上部・・・と思いきや、朝から雲が厚い。
 それでも屏風岩の基部に荷物をデポしているので、そそくさと用意をして出発。
 
 さすがに、三日目となると歳のせいか身体の節々、そして足が何とも重いが、それでも「辛抱、我慢・・」と薄暗い一ルンゼを詰めていく。
 
 T4尾根基部で、三人組パーティーに追いつき、天気のことなど、しばし雑談。
 聞くと彼らは一昨日、東稜で残業となった組で、どうやらその日は先行していた二人組がかなりのブレーキだったとか。
 おかげで昨日は晴天休養となってしまったため、本日は仕切り直しで東壁ルンゼ下部へ行くとのこと。
 「こちらは三日連続です。」と言うと、「元気だねぇ。」と苦笑していた。

 
 三日目の朝、T4尾根基部にて。なんか雲行き怪しいんですけど・・・

 しかしながら、天気の方は芳しくなく、常念岳は雲に包まれ、今にも降ってきそうな気配。
 行くにも辞めるにもどこかフンギリがつかない状態だったが、そのうちJu9cho氏から「今日は止めときましょう。」と声が上がる。
 一瞬、安西先生のあの言葉が頭をよぎるが、たしかにT4尾根登った時点で雨天中止というのは十分有り得るし、そういう展開はちょっと避けたい。

 結局、三人組は取付へ向かい、我々はデポを回収、下山することにしたが、横尾に着いてしばらくすると本降りになってしまった。

  下山開始

 
 さらば屏風、また会う日まで

  横尾では猿軍団がお出迎え

 Ju9cho氏の読みの深さに感嘆しつつ、ベースを撤収。小雨の中、上高地へ下山する。

  雨に煙る屏風岩。こりゃダメでしょう。

 
  上高地へ
 お疲れさんでした

 それにしても今回、屏風岩で見かけたパーティーはいずれも我々と同じか、もしくはそれ以上?のお歳の中高年ばかり。
 フリーやボルダリングが人気の昨今、昔ながらのアルパインの舞台はさながら巣鴨みたいな感じだが、それだけにこういうリスクのある遊びを嬉々としてやっているオジサンらを見るとこちらも元気がもらえました。