KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

剱岳北方稜線全山縦走(後編)

2019年05月06日 | アルパイン(残雪期)
日程:2019年4月27日(土)-5月4日(土)前日発7泊8日
行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-僧ヶ岳-サンナビキ山-毛勝三山-赤ハゲ・白ハゲ-池ノ平山-剱岳-早月尾根-馬場島
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
 
6日目(5/2)
 天候:のち
 行程:ブナグラ乗越-赤谷山-赤ハゲ手前
 
 事前の予報では今日からまた天気が好転するはずだが、なぜか未明からテントを叩く雨音で起こされる。
 いよいよ『八甲田山』のあのセリフが飛び出しそうな心境だが、いざとなればここブナグラ乗越あるいは少し先の赤谷尾根から馬場島へ下りられると思うと、もう運を天に任せるしかない。
 
 テント内は何もかも冷たく濡れ、ストーブをいくら炊いても多少の湯気が出るだけでまったく無意味。
 気が滅入り、一人だったらとっくに下りているだろう。
 ホワイトアウトは昨日よりひどく、隣のテントも動き出す気配は無く、そのうち山の歌を歌い出した。
 他にすることもないので相方もそれに呼応して歌で返したりして、時間の過ぎゆくままに待機する。

 そのうち雨音がしなくなったと思って外を見たらシンシンと雪。
 気温も次第に下がってきて、いよいよ進退が問われるタイミングとなってきた。
 そうしているうちに、また相方が人の声が聞こえると言い出す。
 
 こんな悪天にまさかブナグラ谷を登ってくるパーティーがいるのか。また、幻聴かと笑っていたら、確かに聞こえる。
 しばらく様子をうかがっていると何となく聞き覚えのある声。S会のメンバーだ。
 こんな悪天をついて猫又山から下りてくるなんて、何て強いんだ。

 残念ながら彼らはやはり燃料不足等でここブナグラ谷から馬場島へ下山するらしい。
 できればお世話になった彼らと一緒に剱の頂上に立ちたかった。
 テントから顔を出して彼らに御礼を言い、別れを告げた。
 
 さらに停滞を続けるが、そのうちふと外が明るくなった気配を感じる。
 テントの入口を開けると西の方からどんどん雲が切れ、それまで見えなかった周囲の稜線が姿を現わし、青空が顔を出してきた。
 
 行くしかない!既に昼近いが急いで出発準備をし、撤収開始。
 我々が撤収準備を始めると向こうも感づいたらしい。
 この天気ならまずフツーの山屋なら即出発だと思うが、挨拶に来た向こうのリーダーは「すみません。ウチら日和ってしまって。今日はここで停滞します。」と言う。

 ウチらも強力な大阪S会の男性二人のお世話になっておきながら言うのもナンだが、ここはやはり正念場なので、正直ラッセルはある程度分担してほしかった。以後、当てにはしないで我々は自分たちのペースで進むことにする。
 
 幸い天気は快方に進む。
 赤谷山の山頂では待望の剱がいよいよ目前に姿を現わす。ここまで来たらもはや撤退は無し!

 

 猫又山から先ではもしかしたら北方稜線短縮版パーティーのトレースが期待できるかと思ったが、昨日の雨と今朝の雪でまったく無い。
 相変わらず重い雪のラッセルで白萩山を越え、最低コルから少し登り返した所で幕とする。

 久し振りの陽射しで夕暮れまでの間は、大もの干し大会。
 シュラフやら靴下やらをそこら中の灌木の枝に引っ掛けて干しに掛かる。
 風も適度に吹いていたお陰で、テントシューズ以外はけっこう乾いたのが助かった。

 
7日目(5/3)
 天候:のちガス
 行程:赤ハゲ・白ハゲ-大窓-池ノ平山-小窓
 
 昨日の乾燥タイムで意気が上がったかに思われたが、朝から相方が足の不調を訴える。
 見たところカカトが少し赤く腫れてムクんでいるようにも見えるが、目に見える外傷は無く、ここは何とか頑張ってもらうしかない。
 
 本日はすぐに赤ハゲの急登。標高が上がってきて、これまでの蹴ればステップができる軟雪ではなく、所々カリカリに凍っている。
 何とかだましだまし付いてきてもらったが、ペースが上がらないので装備を再配分し、自分がテントとロープ2本を持つが、後半に来てこの加重はちょっと辛かった。
 しかし相方も口には出さないが、ここまでかなり重い二人分の食料を担ぎ上げてくれたのだから、ここは二人の頑張りどころだ。

 赤ハゲを過ぎ、白ハゲの切れたトラバースにかかる頃、後方を振り返るとO会の三人。
 その前に別の三人組が間に入り、こちらに向かってくる。
 何にしてもパーティーが増え、機動力が上がるのは大歓迎だ。

 

 この辺り、左側(東側)に発達した雪庇がヤバイ。
 白ハゲを越えた後の岩場は右から巻く。短い懸垂を交え、大窓へ下降。

 

 その後の池ノ平山への登り返しが長く急で、また苦行。
 後から追い付かれた関西K会の三人組が先に取り付いたが、微妙な岩と雪のコンタクトラインを直上していく。

 我々は事前にネットで他会の記録を研究したところ、実はここはブッシュ沿いの夏道が出ていたらそれを使う方が安全で効率的なことを知っていたので、それを使う。
 後続のO会も知っていたのかもしれないが、我々の後を付いてきたようだ。

 

 キツい池ノ平山の登り返しが済むと、さらにこの先、ルートが複雑になってくる。
 相方の不調もあり、ここは平均年齢高めだが元気なK会の皆さんにリードしてもらう。
 視界が利いてもけっこうルーファイが難しいが、K会は巧みにリードしていく。

 その後、懸垂を数回交えて小窓に到着。
 天気予報は良い方向に向っていたはずだが、昼過ぎからガスが湧き出し、視界はあまり良くない。
 本来はこの日、小窓王を越えて三ノ窓まで行きたかったが、とても届かず。
 3パーティーとも少し離れて小窓で幕とする。

 
 
8日目(5/4)
 天候:
 行程:小窓王-池ノ谷ガリー-剱岳-早月尾根-馬場島

 夜半、猛烈な足の冷たさで目が覚める。
 靴下もテントシューズも相変わらず濡れており、しかたなく裸足のままシュラフに入ったのだが、知らないうちに凍った靴の上に足を乗せて寝入ってしまったようだ。
 相方も同じような状況で、かなり厳しい一夜だった。

 天気はこれ以上ないほどの快晴だが、やはり剱に近づき標高が高くなったせいで気温は低く、テント内の靴はガチガチに凍って足が入らない。
 北方稜線全山縦走まであと少しだが、もはや登頂よりここから脱出したい気持ちの方が強くなっている。
 
 何とかガスストーブで炙って靴を履き、スタート。
 できれば今日中に下山したいが、普通に見積もっても10時間以上の行動だ。少なくとも早月小屋までは行かなければ。
 
 

 それでも相方の足はよく乾かしたら、昨日よりはまだ歩けるらしい。
 本日は小窓王の急な登りから始まる。
 歩き始めると相方はやはりペースが上がらず、途中からまた自分がロープ2本など受け持つ。
 
 
 
 進むにつれ、途中から別パーティーが合流してくる。
 小窓王から三ノ窓への下りはやはり急で、比較的軽装な他バーティーはWアックスのクライムダウンで可能な限り下りていったが、我々は安全を期して早めにロープで懸垂に掛かる。

 

 しかし、ここでトラブル。
 50m一回分下りた所で一旦切り、さらに下に落ちていったロープを引き上げようとしたところ水を吸ったロープが下の岩に凍って絡みつき回収できない。
 しかたなく一本のロープで相方をさらに下の安全地帯までロワーダウンさせ、自分はルートから外れて回収にかかる。
 何とか回収はできたものの今度はもう一方の古いロープが水を吸って凍ってしまい、完全な針金と化してしまった。
 うまく巻くこともできず邪魔物でしかないため、たいへん申し訳ないが途中の岩陰に残置し、もう一本の使えるロープだけを持ち帰る。
 (今夏、再び剱へ行くことになったら必ず回収します。どなたか再利用するなら構いませんが、おそらく14年使っているものなので悪しからず。)

 そうこうしているうちに遠くから声がしたと思ったら、正面の池ノ谷ガリーで滑落事故発生!
 ボブスレーのようなスピードで人が落ちていくのが見え、白いヘルメットを被っていたので一瞬相方かと思って心臓が凍り付く。
 その後、身体が反転し、紺色っぽいジャケットが見えた。
 我がチームカラーの赤で無いことを確信し、再び相方の名を呼ぶとやや間があって返事が返ってきた。
 向こうは向こうで私が墜ちたと思ったらしい。

 しかし、危ないところだった。
 もしロープスタックが無く、順当に進んでいれば我々も巻き込まれていた可能性は大である。
 周りのパーティーも思わぬ出来事に慎重に下り、ひとまず安全地帯の三ノ窓に集結。
 
 
 
 三人組の小窓尾根パーティーのドコモが県警と連絡を取れた。
 彼らはこの後チンネへ行くためこの日は三ノ窓ベース。申し訳ないが今後の警察との連絡を彼らに託し、ウチらを含めた残りのパーティーは行動を続行する。
 つい今しがた起きた事故で、相方は若干ビビリモードに入ってしまったか。
 それでも登らないわけにはいかない。池ノ谷ガリーは表面が一部氷化しているので、とにかく一歩一歩確実に蹴り込むよう指示する。
 
 そのうち陽が当たってくるにつれ、回りの雪が解け始めたか上部から疎らに落石が落ちてくる。
 足元ばかりでなく上部にも注意を払うよう相方を振り返った途端、いきなりドスンと右肘辺りに強い衝撃を受けた。
 やっちまったか!
 握り拳大のをモロに喰らったようだが、幸い手のひらは動く。どうやら骨は折れていないようだ。しかし、その後、袖の冷たさで出血していることがわかった。

 先行者のアイゼンの爪痕を追っていくと中上部でそのまま左手の日陰部分を通過していったことがわかる。
 そこは陽が当たらないため明らかに堅いブラックアイスとなっており、冷静に判断していればもっと右手の陽が当たっているルートを安全と見て取っていたことだろう。自分は努めて安全なルートを選んでいく。

 池ノ平乗越には滑落者の同伴者が他の登山者と共に待機していた。
 警察からもしばらくその場に残るように指示されたようだが、心中察するに余りある。
 とりあえず一人でも待機の体制は万全なようなので、気の毒だが有り合わせの行動食の残りを渡して、ウチら他パーティーはその場を後にする。(その後のニュースで事故者は池ノ谷ガリーを500m滑落し大怪我を負ったものの一命は取りとめた模様。助かって本当に良かった。)

 ここからはあと少し。
 気持ちの良い雪稜が剱の頂上まで続いている。昨年夏にも歩いたが雪で岩場が埋まっている分、この時期の方が歩きやすいぐらいだ。
 相方は足が痛いのか動きがややスローになっているので、最後に発破をかけ何とか頑張ってもらう。
 
 
 
 
 
 そして頂上。ついに剱へ。北方稜線全山、完結!
 本当にたどり着けるのか冗談半分のような計画だったが、まさかここまで来てしまうとは。
 相方もよく頑張ったなぁ。
 すぐ後に続いた関西K会の面々としばし喜びを分かち合う。感動はひとしおだが、疲労と緊張のせいで涙は出ない。

 

 30分ほど頂上で至福と安堵の時間を過ごし、下山は早月尾根へ。
 
 途中、懸垂下降を2ピッチ。自分は緊張の糸、それともエネルギーが切れたのか下山の途中から猛烈に足が痛くなってくる。
 とにかく一歩踏み出すたびに両足が無数の針で刺されたように痛い。絶対おかしい。
 
 途中の早月尾根で靴下を脱いでみると濡れた靴下で足が白子のようにふやけ、指先から血が滲んでいた。
 当てにしていた早月小屋は閉まっており、ここでもう一夜テン泊する気力はもはやウチらには無い。
 相方には悪いが最後はロープを持ってもらう。ここでもう一泊するという関西K会に御礼を言い、試練の下山を続ける。

 
 
 知ってはいたが、早月尾根は疲れ切った身体に最後までダラダラと長く、実にしんどい。
 尾根の途中で相方がタクシー会社に電話を入れ、余裕をもって19時半に馬場島まで送迎に来てもらうよう手配する。
 しかし、途中でいよいよ夕闇に掴まり一瞬道を見失う。
 
 結局、約束の時間より1時間遅れて馬場島へヘッデン下山。タクシーの運転手さんには待たせて申し訳なかったが、実に気のいい人で助かった。
 既に時間も遅いので、そのまま電車は使わずタクシーで入山口の嘉例沢森林公園へ戻る。(約19,000円!)
 
 一週間放置され真っ暗な駐車場でポツンと我々を待つヒロイ号を見た時に、あぁようやく終わったと思った。
 
9日目(5/5)
 行程:富山-松本-横浜
 
 その後、24H営業している「スパ・アルプス」に寄ってまずは風呂。
 自分の足は両方とも足裏に水泡ができ2度の凍傷。落石を受けた右腕は出血は止まっていたがpatagoniaのシャツはかなりの血を吸っていた。
 相方はサングラスをしていたにも関わらず雪目になってしまったようで運転不能と、二人ともダメージはそれなりに大きい。
 
 下山したら富山ブラックと地元の寿司をハシゴする夢のプランもこの時刻では叶わず。
 コンビニメニューで我慢しつつ、岐阜・上宝村の道の駅で1時間仮眠を挟み、ボロボロになって帰ってきた。
 まさに試練と憧れ・・・というより北方稜線は試練だらけの山行だった。でもこの達成感は最高!(しばらく山は行かなくていいかも) 


(追記)
この記事については当初の投稿から一部削除修正しました。

剱岳北方稜線全山縦走(前編)

2019年05月05日 | アルパイン(残雪期)
日程:2019年4月27日(土)-5月4日(土)前日発7泊8日
行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-僧ヶ岳-サンナビキ山-毛勝三山-赤ハゲ・白ハゲ-池ノ平山-剱岳-早月尾根-馬場島
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 遥かなる北方稜線
 
 さて今年のGWは平成から令和に代わり夢の10連休。
 海外へ行く手もあったが、山岳部の相方の希望で剱の北方稜線となった。
 
 一口に剱の北方稜線といっても人によってその捉え方は様々で、ネットで検索してよく出てくる夏の記録は大抵が池ノ平から剱岳を結ぶ区間で、これだと実際は北方稜線のごくごく一部。
 残雪期となると馬場島をベースに猫又山、ブナグラ乗越、あるいは赤谷山から剱岳を結ぶコースがよく登られている。
 
 しかし今回、相方が選んだのは全山縦走。
 それも一般的には宇奈月から僧ヶ岳経由だと思うが、さらにこだわってより末端に近い鋲ヶ岳からスタートする計画だ。
 初めのうちは話半分に聞いていたし、とにかくこんな長期縦走は学生の時以来だ。他の山岳会の記録は頼りになるが、いざ自分たちに当てはめるとイマイチ想像がつかない。
 準備は万端整えるとして、まぁいざとなったらいつでも撤退とあまり深く考えずに当日を迎えた。
 
0日目(4/26)
 天候:
 行程:神奈川-富山県黒部市
 
 二人とも有り余っている有休を取って前日から現地入り。ヒロイ号で中央高速-下道-北陸道と進むが、糸魚川手前で大雨となる。
 明日から山だというのに、何ともモチが下がる。
 黒部に入ったところで夕食。明日からの食事制限に備えカロリー摂取に励もうと、地元のラーメン屋「くろべぇ」へ。
 初めて「富山ブラック」なるラーメンを食べる。
 
 
 
 その後、スタート地点となる嘉例沢森林公園へ。
 深夜、ガスが立ち込める中、けっこう奥まで林道で入り、雪が出てくる手前の駐車スペースに到着。
 外は雨。明日の予報も芳しくなくが、とにかくどうすることもできず、そのまま車中泊とする。
 
1日目(4/27)
 天候:のち
 行程:嘉例沢森林公園-鋲ヶ岳-烏帽子山手前
 
 朝起きても雨というかミゾレ。とても歩き出すような天気でなく、一旦町へ降りる。
 やることなく、しばらく道の駅や北方稜線末端の黒部峡谷鉄道「音沢」駅周辺を散策するが、とにかく寒い。
 こんな所で雨に打たれていたら山に登る前に風邪をひいてしまいそう。

 水族館でも行ってホタルイカ見物でもと完全に観光モードにシフトしそうな気配だったが、まずは腹ごしらえと「ガスト」に入ってモーニングセットを食べながら作戦会議&待機とする。
 雨は時折勢いを増し、今回予備日はそれなりに想定していたが、いきなり使ってしまうのも何だかなぁとモチは下がる一方。
 
 しかし、ようやく昼頃になって小降りになり、見ると西の海側から雲が切れ空が明るくなっている。
 よっしゃ、行くか!と重い腰を上げ、再び嘉例沢へ。
 
 山の方は雨が残っていたが、もう行くしかない。フル装備を背負っていよいよ長旅のスタートである。
 まずは森林公園のキャンプ場内から樹林帯の道を20分ほど登って鋲ヶ岳への分岐へ。
 最初のピーク鋲ヶ岳861mはここから一旦逆方向へ進んだ所にある。分岐にザックをデポし、空身で頂上へ向かう。
 
 
 
 頂上には小綺麗な東屋が建っていた。
 再び分岐まで戻り、いよいよ北方稜線へと踏み出す。
 この時期、またこの雨上がりのガスの中、歩いているのは我々だけで、トレースは皆無。
 小動物の足跡はあるが、それらに惑わされないよう進路を定める。
 
 
 
 間隔を置いて目印となる緑や紫のテープがあるが、昨日から降った雪で樹林帯の中の道はそれなりにルーファイと軽いラッセルを要する。
 時間を決め本日は行ける所までと、着いた所が烏帽子山手前の平坦地だった。
 

 
 ありがたいことに夕方には富山湾方面から夕陽が射して白い雪原をオレンジ色に染める。何とも幻想的なテン場となった。
 天気予報では明日、明後日は好天が望めそう。今朝の悪天を思うと、本日ここまで進めたのは上出来だ。
 
2日目(4/28)
 天候:
 行程:烏帽子山-僧ヶ岳-駒ヶ岳手前
 
 今回の計画は朝は3時起床の5時出発、夕方は16時半、遅くとも17時にはテン場着を基本として行動する。
 今日もまずは獣の足跡と並行しながら、自分たちのトレースを刻む。
 烏帽子山が近づき、樹林帯を抜け出すと、そろそろルート上には雪庇が出てくる。
 雪はそれほど深くないが若干モナカ雪ぽくて、けっこう足に来る。今回軽量化のために装備からワカンを省いたが、この判断は良かったのか悪かったのか。
 
 
 視界が開けてくると左手の宇奈月尾根の様子もわかるようになり、そのうち登山者の姿も発見する。
 早く合流したいと思うも、こちらはノートレースで遅々として進まない。
 本日は晴天で雪の照り返しも強く、重い雪も相まって相方は遅れ気味。自分も途中、何度か暑さで気が遠くなりかけた。
 
 
 
 それでもようやく宇奈月尾根のトレースに合流。
 先行者が踏み固めたトレースがこんなにも快適で体力を消耗しないものかと感動する。
 トレースを刻む先行の四人パーティーは我々のだいぶ先を進み、我々が最初に出会ったのはそれを利用して後続する単独のハイカーだった。
 
 その時の会話。 
 相手「僧ヶ岳ですか?」
 当方「いや、一応ツルギまで。行けるかわからないけど。」
 相手「剱までって・・・一泊二日とか?」
 当方「まさか!一週間ですよ。」
 
 同じ山を登る人間でもいろいろな人がいるなぁと失礼ながらちょっとびっくりした。以後、あまり関わっても話が通じないだろうなと距離を置かせていただく。(笑)
 
 僧ヶ岳だと思って着いたピークは実は「前僧ヶ岳」で、地図を見ても距離感がイマイチ掴めない。行程は長い。
 僧ヶ岳からは眼下に富山湾。剱岳山頂でもそうだが、この景色はまるで自分らの地元、丹沢の塔ノ岳から見る湘南の海とそれほど変わらないと言ったら言い過ぎか。
 
 
 
 ラッキーなことに先行の四人組はそのまま北方稜線に踏み出している。
 申し訳ないので、遅れ気味の相方を置いて自分は何とかラッセルを交替しようと追いかける。
 追い付いてみると、向こうは男女二人ずつのパーティーで、宇奈月から上がり、本日が二日目とのこと。
 ずっとここまでラッセル三昧だったらしいが、見たところラッセルはもっぱら男性二人が受け持っているよう。
 ここまでの御礼を言い、自分が先頭に出る。
 
 悪天により既に計画は遅れ気味。できれば今日中に駒ヶ岳を越えておきたい。
 しかし、てっきり自分の後に付いてくると思っていた四人組は途中で本日の行動を打ち切り。
 結局、遅れている相方を待って自分たちもしばらく進んで駒ヶ岳手前の狭いコルで幕とした。
 夕方、目指す毛勝三山方面がほんのり夕陽に染まる。明日も晴れてほしい。
 
 
 
3日目(4/29)
 天候:のち
 行程:駒ヶ岳-サンナビキ山-滝倉山下
 
 昨日の四人組は大阪のS会とのこと。本日は前後しながらルーファイ&ラッセルを続ける。
 左手は雪庇が続くようになり、やや右側の這松のブッシュ帯を掻き分けながら進むことたびたび。
 また、随所にクレバス・トラップが現れ、ハマったりしないよう注意して進む。
 
 
 
 相方は元気を取り戻したようだが、自分は昨日頑張り過ぎたのか本日はやや不調。昼頃にはシャリバテ気味になる。
 サンナビキ山は特にこれといった山頂があるわけでなく、滝倉山も含めたいくつかのピークの総称であるようだ。
 
 
 
 滝倉山への登りはけっこうな急傾斜。直登すると部分的に60度はあるだろうか。
 幸い雪面はそれほど固くなく、アイゼンで蹴り込めばそのまま突破できそうな気がしたが、安全を期してここで初めてロープを出す。
 ザックが大きく重いので、バランスを崩してひっくり返る可能性もある。
 
 
 自分がトップを切って50mで2ピッチ。後続の大阪S会もメンバーの女性を気遣ってロープを出したようだ。
 滝倉山のピークを過ぎ、少し下った稜線の末端で時間となったため本日の行動を打ち切り。
 後続のS会は我々より上、高台となった所をテン場としたようだ。
 
4日目(4/30)
 天候:のち
 行程:ウドノ頭-平杭乗越

 未明から雨。テントを叩く音で目が覚める。
 ラジオの天気予報で分かっていたことだが、ちょっと辛い。
 
 しばらくやみそうにないので出発を見合わせ、ウダウダとテント内で過ごす。寒い。
 既に春の湿雪で靴や靴下、手袋、テントシューズは濡れ始め、防水袋に入れゴアテックスのシュラフカバーに包んでいたはずのシュラフも濡れ始めている。
 テント内でガスストーブを空焚きするが、一度濡れてしまうとどうにも乾かない。
 軽量化のためトランプも持ってこなかったので、ベタだがシリトリなどして時間を潰す。
 テントの隙間から上部に陣取っているS会の様子をうかがうが、彼らもこの天気では動き出す気配は無い。
 天気予報では午後から曇りになるはずだが・・・。
 
 まんじりともせず午前中を過ごすが、そのうちテントの外が明るくなっているのに気付く。
 どうやら雨はひとまず上がったようだ。
 とにかくあと何日かかるかわからないので、少しでも先へ進んでおきたい。急いで撤収にかかると離れたS会もやはり動き出したようだ。
 
 我々から先に動き出し、後からS会も下りてくる。
 急な雪の斜面を谷底へ下り、次の登り返しが急だった。
 雪の付き方がデリケートで、雪面を崩さないよう慎重にルートを選んでリードする。
 
 
 
 その先でルートが不明瞭になり、間違った支尾根に入りかけたところで後続のS会が前に出る。
 相方はヤブが苦手なようで、やや苦戦。途中二か所ほど懸垂で下る箇所が出てくる。
 もちろん自分たちでセットするつもりだったが、S会のリーダーは「どうぞ、このまま使ってください。」と自分たちのロープを貸してくれたのでありがたく拝借。
 25m×2回の懸垂でコルに降り立ち、そこから再び登り返し。見るからに悪い傾斜の立ったブッシュのリッジ。
 ここはS会の若手が巧みにリード。前半の核心とも言えるピッチだった。
 そのまま登り詰めた所がウドノ頭。さらに進んで次のコルである平杭乗越まで下る。

 とにかく今日は午前中の雨で停滞かと思っていたので、こうして難所のウドノ頭だけでも越えられたのは大きい。大阪S会のお陰である。
 S会は平杭乗越、我々はそこから二段ほど上がった高台を本日のテン場とする。
 天気はどんより曇っているが、なかなか良いテン場だ。
 
 
 
 夕方、何気に外を見てみると、新たに三人組の後続パーティーを発見。
 ウドノ頭から下りてきて、S会の隣にテントを張った。
 これでまた明日からはラッセルとルーファイの負担が分けられるはずである。
 
5日目(5/1)
 天候:
 行程:平杭乗越-(天国の坂道)-毛勝三山-ブナグラ乗越
 
 朝起きると曇っているが、降っているわけでもない。
 出発準備をしていると、おそらく我々より30分早いスケジュールを組んでいるのだろう、下からS会が上がってきて我々を追い抜いていった。
 後続の三人組は撤収する気配がない。本日は停滞するつもりだろうか。
 
 相変わらず重い雪が続く。
 天候はどうにかもつかと思ったが、そのうち冷たい雨が降り始めた。視界も悪い。
 風が無いのが幸いだが、それでも憂鬱な天気である。
 
 本日はこの後、毛勝山への「天国の坂道」と呼ばれる一気登りが控えており、途中で行動打ち切りは考えられない。
 そのままS会の後に付くが、自分は低体温気味でもはや彼らの前に出て交替できる馬力は無かった。
 たいへん申し訳ないが、S会の後に付き無心で登り続ける。S会のリーダー男性は見た感じ自分より年上に見えるが本当に元気で強い。 
 
 延々と二時間あまりの登りが続く。S会のお陰で「天国の坂道」を突破。
 トレースを使わせていただいたのはもちろんだが、天気が悪く黙々と登るしかないこの状況が辛さを軽減したかもしれない。
 もし、これが強烈な照り返しの中での登りだったら、これまた苦行だ。
 
 ようやく毛勝山2,415mに到着。
 頂上の標識は雪の上に出ていた。
 そのままホワイトアウトの中を進んで釜谷山2,415m、猫又山2,378mと毛勝三山を越える。
 
 

 天気は悪いが、ここまで来るとエスケープの選択肢はグッと増え、気分的には安全圏だ。
 ここで先行のS会がストップ。何やら協議に入ったようで、どうやら剱に行くには燃料が足りないらしい。
 またこの濡れと寒気で女性メンバーも参っているようだ。
 我々もここまで濡れてしまっては残りの燃料が気がかりだが、とにかく先へ進むしかない。

 ホワイトアウトの中、S会の前に出て猫又山より先へ一歩踏み込む。
 その先はただっ広い斜面となり、視界が悪い今はかなりヤバイ。
 もはや地形図は意味を為さず、ここは相方の秘密兵器スマホのGPSアプリをフル活用する。
 
 進むにつれ広い尾根は再び急な複雑な痩せ尾根となり、このまま進んでいいのか判断に迷う。
 そのうち行手に大きな岩が現れ手詰まりとなるが、意外な所に夏道を発見!
 GPSと自分の山勘をフル活用して、どうにか最低コルに到着。

 着いた所が本日の目的地、ブナグラ乗越だった。
 整地もそこそこになるべく平らな所を選んで幕とする。
 
 身体は冷え切って、装備、ウェアもズブ濡れ。これ以上無理すると危険なところまで追い込まれてしまう感じだ。
 テント内がちっとも温まらないのにまんじりとしながら夕食の支度をしていると、そのうち外から人の声が聞こえたような気がした。
 最初に気付いたのは相方で、自分はまさかと思ったが、そのうちまた聞こえてくる。
 二人していよいよ幻聴か・・・と思ったらやがて声は確実となり、遅れてS会が下りてきたかと思ったら、何と昨日追い付いてきた東京のO会の面々だった。
 
 何か事情があるのかもしれないが、本日行動するなら一番余力があるはずの彼らに前に出てほしかった。
 挨拶してきたので応えたが、ここまで来たら一致団結「明日はラッセルお願いしますよ!」と声を掛けた。

利尻岳・東北稜

2015年05月01日 | アルパイン(残雪期)

 日本の最果て、北海道の利尻へ行ってきた。
 実は昨年秋から我が社の山岳部に加入させてもらっているのだが、それも全てこの利尻遠征の話があったから。
 当初は国内でも「最難」と言われる南稜が目標だったが、いろいろ検討した結果、バリエーションの一つである東北稜へ。

日程:2015年4月29日(水)~5月5日(火)
メンバー:坂本(L)、伊藤(トクちゃん)、松浦(まっちゃん)、私

一日目(4/29)
 羽田集合、まっちゃんが若干寝坊するも(笑)四人揃って一路、稚内へ。
 国内の山へ行くのに飛行機を使う機会もそうそう無く、まさに遠征といった感じだ。
 20kg近い大型ザックを機内に預け、2時間弱の空の旅。

  

 ちなみに今回のメンバーはリーダーが30代半ば、あとの二人はもっと若くて私の息子とほぼ同じ年齢。
 経験はさすがに長老である私が持っているが、体力差は歴然としている。
 そのため私はブレーキにならないよう極力軽量化に努め、ザックも15kg以内に納めた。
 飛行機からは途中、鳥海山や八幡平など雪を頂いた東北の山々が眼下に見えた。

  

 稚内からはフェリーで利尻島へ。
 初めて見る洋上の孤高の峰はやはり崇高なイメージだった。

 上陸後、リーダーのてきぱきとした手配で、タクシー確保、警察への登山届提出、食料買い出しを一気に済ませ、登山口のアフトロマナイ沢へ向かう。
 これまでの記録ではタクシーで林道をかなり上まで上がっているものもあったが、やや悪路のため客4人と荷物を満載していて無理。 
 少し入った所で車を降り、そこから歩いて標高100m付近にテント泊とする。
 利尻は北海道でありながらヒグマがいないので助かる。(シカやキツネもいない感じ)

  

二日目(4/30)
 朝食後、出発。少し歩くと雪が出てくる。
 一時間ちょっと歩き、林道が大きく右に曲がる所から右手のアフトロマナイ沢(大きな涸れ沢となっている)を横切り、右手の尾根に取り付く。
 このGWは日本全国、雪が少なめのようで(奥穂などノーアイゼンで行けたとか!)、ここ利尻も例外ではなく予想以上の軟雪とブッシュとなる。

  

 だが、標高700mぐらいまで上がった所でいきなり利尻の洗礼!南東方向から物凄い強風が吹き始める。
 利尻は独立峰で、さらにこの日は低気圧の通過があり、ある程度は覚悟していたのだが、身体ごと倒され、まともに歩けない。
 後日、町の人に聞いたらこの時の下界の風速は18m/s。標高700mではおそらく20~25m/sはあっただろう。
 ちなみに台風の定義は17m/s~で、この時の風は荒れた冬富士と同等に感じた。恐るべし!利尻の風。

  

 それでも自然にできた雪洞に避難し様子を窺いながら、風の合間をぬって匍匐前進のようにして高度を上げていく。
 自分だったらこの辺りで本日の行動を打ち切りにしていたが、坂本リーダーは実に積極的である。
 大抵の記録で利用されている標高1,003mピークのテン場は風の通り道で無理。さらに進む。

  

 その先、細いスノーリッジ、ブッシュ混じりのトラバースなどをこなしていくが、若いトクちゃん、まっちゃんの圧倒的なパワー、際どいながら絶妙なコース取りで越えていき、この日は標高1,400m付近の三本槍まで。
 岩頭の脇に良い窪地が見つかり、そこを掘り下げてテントを張る。
 夕方には風が一旦納まり、頭上には利尻の雪稜、眼下には微かに弧を描きながら大海原が広がる。本州の山ではなかなか味わえないロケーションだ。

 
でも夜になってまた凶暴な風が吹き荒れだし、テントが大きく揺さぶられる。はたして明日はどうなるやら。

 

三日目(5/1)
 昨夜は再び強風でテントが吹き飛ばされそうな一夜だったが、何とか無事に朝を迎える。
 夕暮れのようなぼんやりした日の出を迎え、本日はいよいよ頂上アタックである。

  

 細いスノーリッジを越えていくと、「門」と呼ばれるこのルートの核心部に突き当たる。
 二つの岩頭の間の凹角を登っていくのだが、雪は付いてなく脆い岩と土混じりのピッチ。
 一応ロープを出し、トクちゃんが大きなザックを背負ったまま、リードで越える。
 しかし越えた所で反対側にクライムダウンし、際どいトラバースを強いられたようで、残りの三人はトクちゃんの指示で凹角を登り切ったらそのままリッジ通しに進んだ。

  

 「門」を越えると巨大なローソク岩が近づいてくる。本州の山ではなかなかお目にかかれない利尻ならでは特異な風景である。
 ローソク岩の裾を左から巻き、登り切った少し先が懸垂下降のポイント。
 雪が多いとここをスコップで掘り起し、支点となる灌木を見つけるらしいが、今回は完全にブッシュが出ており、また中途半端な形で残置ロープが残されていた。
 以前の記録で懸垂後にロープが回収できず、やむなく切断したというのがあり、おそらくそのパーティーのものと思われる。
 確かに良い位置にセットしないとブッシュがうるさく、ロープのコブが引っ掛かって回収不能となる恐れあり。

 

  

 右側の谷に25mほど降り、あとは頂上まできつい傾斜の雪面を交替でラッセルしながら(グズグズの雪で股まで潜ることもしばしば)登っていく。
 そして頂上。いやぁー、来ました!天候に恵まれ、360度の展望が広がる。
 標高は二千mも無いものの緯度が高く、また海抜0からの登りなので、スケールと高度感は素晴らしい。
 剱の頂上から見る富山湾とそう変わらない印象だ。

 
先に到着していた地元スキー・ガイド?の人たちに写真を撮ってもらい、せっかくなので最高峰の南峰へ足を延ばす。
 南峰は夏はボロボロ、雪のある時期はそれなりのナイフリッジでけっこう悪いと聞いていたが、今回は難なく到達。
 もう一つ南側にもピークがあったが、割れた木の標識が残り、地形図的、高度的にもここが南峰で良さそう。
 その先はスッパリ切れ落ち、また再び冷たい風が強く吹き始めたので下山を開始する。

  

 グサグサに雪が腐った北稜を下り、途中の避難小屋で小休止。長官山から先でルートを外しかけたが、最後は左側の沢に入って尻セードなどしながら下っていく。
 その日のうちに麓のキャンプ場「ゆーに」まで一気に下山。隣接する利尻富士温泉で汗を流し、夜は登頂成功を祝う。

 今回の利尻は雪が少なかったこともあって、想像していたよりは余裕を持って登れてしまった。
 レベルとしては同時期の後立山の雪稜(白馬主稜や不帰I峰尾根)と同じぐらいか。
 当初目標としていた南稜は上から見ても下から見ても東北稜より雪が少なく黒々としており、おそらくボロボロで今回は登れる対象にならなかったように思う。

 それでも地元の島民が半ば誇らしげに「利尻の風を甘くみるな!」と言うのは本当だった。
 後で聞いたところでは頂上に居合わせた地元スキーガイドPが、あの風を圧して東北稜を登ってきた我々を「あいつらバケモノだ。」と他の登山者に洩らしていたとか?
 それって山屋にとって最高の誉め言葉。でも、もしかしたら「バカモノ」と言っていたのかもしれない。
 とにかくあの風を体験し、無事に登り切ったことは良い自信につながったと思う。

 そしてここまで来てしまうと、さらに行きたくなるのが樺太の山々。北の山への憧憬は広がっていく。
 何はともあれ、今回は若いパワーに心身ともに助けられました。ありがとう!

【利尻・ザ・ムービー】


春の不帰岳1峰尾根

2014年05月05日 | アルパイン(残雪期)

日程:2014年5月3日(土)~5日(祝)二泊三日
同行:juqcho氏(おやぢれんじゃぁ隊)

 GW後半は、南アルプスの聖岳東尾根もしくは単独で谷川-巻機縦走などを考えていたが、車の調達や天気の具合から微妙な状況。
 そんな折、直前になってパートナーの体調不良によりjuqcho氏から不帰1峰尾根へのオファーがあり、そちらに参戦することにした。

一日目

天候:、夕方から/
行程:白馬駅11:31-昼飯-駅前発12:50-八方池山荘13:45~14:00-約2,300m地点16:00(テント泊)

 今回は家の都合で車が出せず、行きはJRでアプローチ。
 連休後半初日の「スーパーあずさ」は通勤ラッシュのような混雑だったが、韮崎-白馬間では座ることができた。

 白馬駅到着。
 本日は八方尾根上のベースまでの短い行程なので、ティファニーで朝食ならぬ「ハクバで昼食を」。
 その後、バスで八方へ。

 スキー宿の間の道をくねくね歩くこと15分。
 ここからゴンドラとリフトを乗り継いでゲレンデの最上部、八方池山荘まで一気に上がるわけだが、ここで最初のハプニング。

 ゴンドラと二番目のリフトとそれぞれ料金を払ったが、さらに三番目のリフトで1,800円と言われる。
 荷物代も併せて片道で計3,200円ほど。
 「むむっ、随分高いな。」と不審に思って調べてみたら、やはりダブって支払わされていた。
 すぐに言って過払い分を返金してもらったが、あの係のオネーサン、ウチらが言わなかったらどうしていたのだろうか。
 ちょっとプンプン 


  

 朝のうちは晴れていたが、八方池山荘から登り始めようとしたところ非情の雨。おまけに風も吹き出して視界も悪い。
 幸い雨量は少ないので、ゴアの上下を着込んで出発。
 事前情報で掴んでいたが、やはりここ八方尾根も今年は雪解けが早く、下部はすっかり夏道が出ている。

  

 寒々とした灰色の景色の中、八方ケルン、八方池を過ぎ、上ノ樺辺り(?)の標高2,300m地点。ここを今回のベースとする。
 そばには既に先客が一張り。

 我々もテントに潜り、冷えた身体を温める。
 先週の鹿島槍はワインにしたが度が弱かったので、今回は神谷バーの「電気ブラン」にした。
 死んだ親父も時たま飲んでいて、自分もけっこう好きである。

 今回、参考にしたのは前年同時期に登った「ぶなの会」の記録
 何と午前2時起床の3時出発。それでいてヘッデン帰りとなっていて、そんなに長いのかと半信半疑だったが、それに倣って我々も明朝は2時起きとする。
 天気が良ければ唐松谷へのアプローチを偵察しておきたかったが、この悪天ではそれもできなかった。

 幸い、夕方から天気は回復。
 ただ夜になって風が猛烈に吹き始め、結局それが一晩中続く。
 そんな時に限って私はプラティパスの水を自分のシュラフにブチまけてしまい、冷たく眠れない夜を過ごす羽目に。
 テントが吹き飛ばされそうな暴風の中、隣で軽くイビキをかいているjuqcho氏が羨ましい。

二日目
天候:
行程:起床2:16-出発3:50-唐松谷・不帰谷出合5:00-1峰尾根下部のコル6:25-断壁下8:00-1峰頂上13:30-唐松岳頂上17:45~55-八方尾根ベース19:00

 2時に起きるつもりが若干寝坊。
 朝食を済ませ、ロープ、ガチャ類、万が一のビバーク用品を持ってテントを出る。
 外はまだ星空だ。

 適当に唐松谷方面へ降りていこうとしたら、隣のテント・パーティーが「1峰尾根ですか。昨日降り口にトレース付けときました。こっちです。」とわざわざ教えてくれた。
 ありがたい。

 しかし、出だしからかなりの急斜面。
 ブッシュに頼ったり、バックステップで怖々下っていくが、広い雪の斜面に出て、後はガンガン下っていく。
 途中、雪の薄い岩の陰から水が出ていて、ここで水分補給し、さらに沢床へと下ると夜明けとなった。

  

 目指す1峰尾根を眺めると既に先行パーティーが二組。
 ややマイナー・ルートかと思ったが、本日はなかなか盛況のようだ。
 
 対岸の小さな支尾根を右から回り込んで少々急な雪の斜面を登っていく。
 日の出と共に辺りの雪が緩んで小さな落石や落氷があり、注意しながら登っていくとそこが1峰尾根取付きのコルだった。

 すぐ前を行く男女三人組の後を追って我々も続く。
 雪のリッジ、ちょっとした木登りをして越えていくと、右下に切れ込んだ雪壁のトラバース箇所に出た。
 早くも雪が緩んで悪いのか、ここでロープを出していた先頭の男三人組に追い付く。

  

 その最後尾にいた男、この巨体(失礼!)はもしやと思って聞いてみると、やはりK下氏(きのぽん)だった。
 挨拶をし、「お先にどうぞ。」と譲ってくれたので、もう一組の男女三人組と共にロープ無しで行かせてもらう。

 雪壁を越えた処で、今度は先頭でロープを引っ張っていた男性に挨拶をすると、何と常吉さん と同じ「ぶなの会」の方で「現場監督さんとjuqchoさんですか?」となぜか正体がバレている。
 このろくでもない素晴らしき(山の)世界。あまりに狭いのでヘタなことはできない。

  

 向かって右側、不帰沢側に雪庇が張った雪稜を登っていくと少し安定した場所に出て、ここで小休止。
 この先、我々が先頭に出る。
 細いスノーリッジを慎重に下りていくと、このルートの核心部「断壁」となる。

   

 「断壁」の突破は二通り。
 眼前のオープンブックのクラックを正面突破か、少し左下に回り込んで凹角を登るか。
 juqcho氏と協議した結果、後者を選択。
 正面のクラックは見た目、威圧的で魅力があったが、後続が控えているのでヘボなところを見せて時間をかけてはいけない。

 しかし、左側の凹角も浮石だらけで、思ったよりもヤな感じである。
 ここからロープを出す。
 
 1ピッチ目。私のリード。
 出だしから僅かな岩溝にアイゼンの前爪を差し込んで次のホールドを取りに行くのだが、ガバだと思ってもどの岩もグラグラしていそうで、実に怖い。
 このところ下手ながらフリーばかりやっているので、いわゆる本チャンのぐらつくホールド、信用できない支点に対してかなりチキンになっている。
 それでも何とかステミングで越えて後はボロい段差を越えていく。
 右側のクラックには先ほどの男女三人組の男性が取付いてすぐ横に見えたが、タッチの差でこちらの方が先に合流点に着き、そのままさらに5mほど伸ばしてピッチを切る。

  

 2ピッチ目、juqcho氏リード。
 そこそこ立った雪壁。途中1ポイント、岩の乗越しあり。トレース跡があったのかもしれないが、ナイス・ルーファイです。

 3ピッチ目、私のリード。
 幅広の雪稜。途中、三角岩があり、そこの乗越しがポイント。
 右側からも行けそうだったが、私は左側の岩と雪のコンタクトラインを選ぶ。
 カチを拾って右足ハイステップ。ちょいとボルダーちっくな登りで楽しめた。
 しかしフォローのjuqcho氏が言うには、やはりここも岩が浮いていたとのこと。

  

 さらに4ピッチ、5ピッチ目とツルベでロープを伸ばすと、ようやく少し傾斜が緩み、見事な曲線を描いた雪稜が続く。
 ロケーションとしてはここが1峰尾根のハイライトだろう。
 しばらくコンテ混じりに進む。
 
 時間の経過は良好だが、昨夜あまり眠れなかったまま朝も早かったので、いい加減疲れてくる。
 でも目指す1峰の頂上はまだまだ先。長いな!1峰尾根。

 今年の雪は湿っぽく、グズグズする雪壁とは時間との競争だったが、午後になると若干曇って気温がそれほど高くならなかったのは助かった。 
 さらに雪稜をグングン登っていくとやがてブッシュ混じりの最後の壁。

 6ピッチ目、juqcho氏リード。
 不安定な雪面を右から回り込んでブッシュの中を突き進んでいく。
 ルート取りとしてはしかたないけど、しかしよくこんな枝の間を掻き分けていくなぁ。

 7ピッチ目、私のリード。
 壁は立っているが、最後のパワーで枝やらブッシュやらホールドにしてガンガン登る。
 最後はふんぞり返りそうな雪の段差が待ち構えていたが、慎重に右にトラバースしていき、雪に深く差したピッケルを頼りにマントルで上がるとそこが終了点、不帰1峰の頂上だった。

  

 juqcho氏はこれが三年連続でのトライ。三年目の浮気・・・じゃなかった「三度目の正直」が実って良かった。
 しばし後続のパーティーを眺めながらデジカメでパノラマ撮影などで一息入れる。

 

 頑張った甲斐あって時間も早く、これはもしかして今日中に一気に下山か?と思ったが、さすがにそれは甘かった。
 その先の不帰2峰から3峰、そして唐松岳に至る稜線は、2003年の同時期におやぢれんじゃぁ隊の春合宿として白馬主稜の後に継続して歩いていてそれほどキツい印象は無い。
 しかし1峰尾根を登った後、さらにはあれから10年の老化を経た後では、もうヘロヘロ。
 「ビバークは嫌」という思いだけで重い足を運ぶ。

  

 2峰では不安定な雪のトラバースなどでやはり都合4ピッチほどロープを出す。
 最後はまるで八千m峰を無酸素で登っているような足取りで(登ったことないけど)、夕暮れ迫る唐松岳山頂に到着。
 ・・・疲れた。

  

 終始前後していた男女三人組の方に写真を撮っていただく。
 バックの剱が神々しい。

 
 
ヘロヘロの「チーム54?」(二人とも御年54歳なので。「~84」の皆さん、パクってすみません。)

 後は八方尾根上のベースまでもう一頑張り。
 着いたのが19時ジャストで、ほぼ15時間行動。キツかった!

  不帰(かえらず)から帰ってまいりました!


三日目
天候:
行程:起床5:00-撤収6:30-八方池山荘7:30

 最終日。
 天気は下り坂で、朝から小吹雪。
 昨日、最高の天気をものにできて良かった。

  

 濡れて重くなったフル装備を担いで八方尾根を下山。
 リフト、ゴンドラと乗り継いで、スキー客を尻目に山を後にする。

  
 
途中の「江戸彼岸桜」。風情があってよろし。

 八方からはちょうどいい時間に新宿行きの高速バスが出ていて急遽これに乗り込む。
 途中、渋滞にハマってしまったが、まぁ許容範囲の時間帯に帰ってこられたのでラッキーだった。

 今回は天候に恵まれたのでヒリヒリするような緊張感こそなかったが、不帰1峰尾根は技術的にも体力的にも白馬主稜や鹿島槍の東尾根、天狗尾根より1.5倍はキツかったように思う。
 juqchoさん、次回は正真正銘の「癒し系バリエーション」でお願いしますよ。


写真集「春の不帰1峰尾根」
(写真提供:juqcho氏)


春の鹿島槍ヶ岳・天狗尾根

2014年04月27日 | アルパイン(残雪期)

日程:2014年4月26日(土)~27日(日)一泊二日
同行:juqcho氏(おやぢれんじゃぁ隊)

 今年のGW山行は、昨年単独で挑んだものの季節外れの大雪で敗退した鹿島槍天狗尾根。
 今回juqcho氏をパートナーに再チャレンジとした。

一日目
天候:
行程:大谷原8:10-荒沢出合9:05-天狗尾根支稜尾根上11:20-第一クーロアール13:00-第二クーロアール14:05-天狗の鼻15:00(幕営)
 土曜未明、都内でjuqcho氏をピックアップし、一路信州へ。
 GW初日だが、さすがに時間が早くて4時間弱ほどで登山口の大谷原へ着く。
 昨年は予想外の冬景色だったが、今年はうららかな春の陽気で周辺には雪の欠片すら無い。

 既に駐車スペースには車が10台近く。
 さっそくミニパトの山岳警備隊の方がやってきて、ここで登山届を記入し提出する。
 昨年もそうだったが、今年もついこの前に天狗尾根で転落死亡事故(ピオレドール・アジア受賞の野田賢氏)があったばかりで、登山者へのチェックも念入りである。
 (パーティー名「おやぢれんじゃぁ隊」なんて書いて怒られるかと思った・・・。)

 登山届を出してすぐさま出発。
 アプローチは昨年来ているのでバッチリ。
 橋を渡って左へ向かい、ゲートを越えたら次に出てくる右からのヘアピンの道に入り、さらに次の二又で左へ。
 昨年と較べてあまりに雪が無いので若干戸惑うが、間違えようがない。

 アプローチではまず大冷沢の渡渉が二回あるが、今回は水量が少なく飛石伝いに靴を履いたままクリア。
 取水口からは右岸通しに古いフィックスロープがあるが、ボロい土斜面のトラバースでザックが重いとちょっと緊張する。

  
 (左)大冷沢の渡渉。水量少なく飛び石伝いに渡れた。     (右)荒沢出合

 やがて左から合流する荒沢に到着、ここで先行パーティー三人組を確認する。
 荒沢右岸から天狗尾根支稜取付へは残念ながら雪で埋まっていることはなく、飛石伝いに行くには微妙な水量。
 重いザックでバランスを崩して、しょっぱなからズブ濡れになるのもツライので、ここは無難に裸足になって越えた。
 juqcho氏はWストックを駆使してここも靴のままクリア。

  
 荒沢を渡って尾根に取り付く。

 ここから天狗尾根支稜の尾根に出るまで怒涛の鉄砲登りとなるが、下半部は雪が全く無い。
 急な草付斜面はビブラムソールでは思うように踏ん張りが利かず、出だしから大汗をかきながら登っていくが、すっかり消耗してしまった。
 シャクナゲの枝を掻き分けながらの登りで腕は擦り傷だらけとなり、おまけにどこかの枝に引っかけてポケットタオルを無くしてしまった。

 途中から雪が出てきてようやく歩きやすくなるが、どうも今年は雪解けが早いようだ。
 尾根に出てからも同様で、昨年は雪庇まで張り出していた箇所も今年は雪面がズタズタに切れたりして、かなり土が露出している。

  天狗尾根下部の雪稜

 雪は軟らかいが、この先斜面が急になり細い雪稜になることがわかっていたので、早めにアイゼンを履く。
 ここでハーネスやらメットも身に着けるが、なぜか持ってきたはずのビレー器が見当たらない。
 大事なギアを忘れるなんて。いよいよボケてきたか。あぁ情けない。
 (その後、帰宅しても見つからず、たぶん装備をその場で広げた時に雪の下に隠れてしまったようだ。KONGのビレイデバイスとBDのスクリューゲートのカラビナ。どなたか拾ったらお願いします!)

  尾根は細かいアップダウンをしながら右方向に曲がっていき、やがて第一クーロアール。
 ここも昨年に較べて雪が少なく、下部は断裂してクレバス状になっている。
 アイゼンの前爪を効かせて、特に問題なくクリア。
 抜け口の辺りは灌木が邪魔して、これを避けようとするとけっこう際どいピッチとなるが、今回は先行三人組(「銀座山の会」御一行様)に倣って灌木の間を木登りで越えていく。
 
 少し雪庇の張った雪稜を伝っていくと第二クーロアール。
 昨年、時間切れ敗退となったポイントだ。
 ここも第一クーロアールとほとんど同じ傾斜。そのまま天狗の鼻への広い登り斜面に続いている。

  
 第一クーロアール(左)と第二~。

  登り着いた所が「天狗の鼻」。
 平坦な尾根がしばらく続き、吹きさらしだがテントは何張りも張れる。
 既に単独行のものが一張り。三人組もここらで幕を張るというので、我々もそうする。
 
 風を避けようと最低鞍部に張りたかったが、やはりそこも雪が切れて不安定だったため、尾根上に少し雪を掘り下げて二人用のゴアテントを張った。
 日中はシャツ一枚で大汗をかくほどだったが、さすがに夜になると冷えてきて3シーズン用のシュラフでは少し寒かった。

  
 (左)天狗の鼻への急な登り          (右)天狗の鼻は、鹿島槍北壁のベースともなる好テン場

 
二日目
天候:
行程:起床3:30-天狗の鼻5:10-上部の岩場7:20-鹿島槍北峰頂上9:40~10:00-北俣本谷下降点10:20-北俣本谷出合12:30-大谷原14:30

 朝。今日も絶好の天気。
 昨夜はそこそこ冷え込んだようで、テントのペグやスコップなどは雪に深く差し込んだものは凍りついてすぐには取り出せないほどだった。

 

 テントを撤収し、ほんのりピンク色に染まる鹿島槍北壁を見据えながら、まずは最低コルへと下りていく。
 ズタズタに切れた斜面をトラバース。
 その後、けっこう急なリッジ状の雪壁がいくつか続く。

  


 ロープを出すほどではないが、場所によってはほんの一瞬、垂直に近い角度の乗越しがあり、ここで転がったらやだなとちょっと緊張する。
 振り向くと、昨日の三人組も後を追って近づいてきた。

  やがて広い斜面を登っていくと正面に大きな台座のような岩があり、ここで小休止。
 そこを左から回り込んでいくと天狗尾根上部の核心、アルパイン3級程度の岩場に着く。
 「せっかく重いのを担ぎ上げてきたのに。もしかしたら出番が無いのでは?」と危惧していたが、ここでようやくjuqcho氏がロープを出す。

 1ピッチ目。juqcho氏がまずリード。
 基部のダケカンバがビレーポイントで、私が半マストでビレイする。
 最初、頭上の二つのランペの内、右側の方が灌木でランナーが取れそうなのでそちらに取り付く。しかし、雪面がグズグズで足元が決まらないようだ。
 結局、最初に目を付けた左側のランペに取り付く。
 ここも雪が薄く、見た目悪そうな感じだったが、この冬も八ヶ岳のアルパインを何本もこなしたjuqcho氏、落ち着いた登りで突破した。ナイス・リードです!

  

  自分が昨年単独でここまで来ていたら、右側の急な雪の斜面から巻くか、それともロープを下のダケカンバにループにして回して直登していたか。
 いずれにしても冷や汗をかいていたに違いない。
 グレードとしてはアルパインの3級+程度ということだが、家財道具一式背負っていると少々シンドい。

  続く2ピッチ目は、私がリード。
 簡単な雪の斜面を10mほど登り、あとは5mほどの階段状の岩場がちょこっとあるだけ。
 で、登ろうとすると何だかあらぬ方向からjuqcho氏とは別の声が聞こてくる。
 ん?・・・ふと眼前の岩を見上げると見知らぬニイちゃんが上から覗いていた。

 

 そのニイちゃんはこちらが驚いている間に慣れた調子でササッと岩場をクライムダウンし、そのままあっという間に天狗尾根を一人で下って行った。
 昨日、我々より先に天狗の鼻で一人テントを張っていた若者で、今朝は鹿島槍の北壁を一人でサクッと決めた後、そのまま下ってきたとのこと。
 いやはや、凄い。

  結局2ピッチとも各20mほど。岩場が済んでロープをたたみ、ふたたび雪稜を行く。

  快晴微風。何とも気持ちの良いスノーリッジだが、昨日からの急登続きでそろそろ疲れが見えてくる。
 すぐ左手には東尾根の核心部を行くパーティーが間近に見えるが、自分が登ったのは十年前。
 あの時より今回の天狗尾根の方がかなりキツく感じるのはやはり歳のせいか。

 
 

  だが、頂上は確実に近づいてくる。そして・・・。

鹿島槍ヶ岳北峰からのパノラマ・2014年GW


 後から到着したjuqcho氏と「お疲れさん」の握手をし、しばし360度の景観を楽しむ。
 少し霞んでいるが、五竜、剱、爺ヶ岳とどの山も素晴らしい。
 最近「岳人」でも話題の天狗尾根「主稜」も遠巻きながら観察する。
 こちらから見る限り二カ所ほど悪そうなリッジが確認でき、そう簡単には行けなそうな感じだ。

鹿島槍の雷鳥
 

  今回かなり雪がグズグズなので、下降は無難に赤岩尾根のつもりでいた。
 しかし、ここから見る鹿島槍の南峰は高く聳え、さらにその先の冷池山荘、赤岩尾根までの道のりは疲れた身体にはかなりメゲるものがある。
 楽に降りるには南峰の手前のコルから左側の北股本谷に下りる手があるが、ここは日中は雪が腐り、周りからの雪崩や落石のリスクも高くなる。

 一足先に下山した男女二人組の様子を窺っていると、最低コルの所でしばらく立ち止まっていたが、やがて北股本谷をバックステップで降りていくのが確認できた。
 おっ、行くのか?

  我々も休むのをほどほどに切り上げ、最低コルに向かう。
 以前、タケちゃんとの東尾根の際も下ったが、ライン取りが違うのか、今回はより楽そうに見えた。

  

 
 よし。そうと決まれば、さっさと降りるしかない。
 先行パーティーのうまいライン取りをありがたく頂戴し、バックステップでガンガン下る。
 途中、気温の上昇と共に上部のガレから落石があったりしてヒヤッとするが、もうここまで来たら祈りながら一気に下るしかない。

 3分の1ほどWアックスとバックステップで下り、少し傾斜が緩んだところで前向きになってデブリの上をひたすら下る。
 ようやく安全地帯に着いてホッと一息。無事で良かった。

 

  大谷原までさらに雪の斜面、川沿いの道、林道と重い足を引きづり歩き、ようやく登山口の大谷原に到着。
 
 下山後は大町温泉郷の「薬師の湯」、信濃大町のトンカツ屋「昭和軒」とつないで〆。
 お疲れさんでした。

  

 
 ヒロケン氏の「チャレンジ!アルパインクライミング」に書かれてあるとおり、たぶん人気があるのは天狗尾根より東尾根かもしれない。
 しかし、渡渉、藪尾根、不安定な雪庇やしつこく続く雪稜などマニアックな向きには天狗尾根、変化があってオススメである。

写真集「春の鹿島槍・天狗尾根」
 (写真提供:juqcho氏)


春の南ア 間ノ岳・弘法小屋尾根から農鳥岳

2013年05月05日 | アルパイン(残雪期)

日程:2013年5月3日(祝)~4日(土) 前夜発一泊二日
同行:M田師匠

 弘法小屋尾根は南アの間ノ岳へ向かって延びる東面の尾根で登山道の無いバリエーション・ルート。
 下部は鬱蒼とした樹林帯だが、上部はこの時期だと雄大な展望が望める雪稜となる。
 昔は知る人ぞ知るルートだったようだが、今から10年ほど前に雑誌「岳人」で紹介されてからさらに人が入るようになったとか。
 かつて静岡の山岳会にいたM田氏オススメということでGW後半戦に臨んだ。

一日目
天候:
行程:奈良田第一発電所7:45-荒川出合9:40-弘法小屋尾根取付10:55-標高2,600m付近テン場15:45

 前夜、横浜を出発。
 カーナビに従い、登山口の奈良田まで中央高速経由としたが、横浜からだと東名経由でもそれほど変わらないようだ。
 夜間アクセスする場合、身延から早川上流にかけての道は多数のシカをはじめ、狸、ニホンカモシカなどが現れ、サファリパークのよう。運転には要注意!
 奈良田温泉の広い駐車場で仮眠するが、後から来た男女四人組(登山者)が時間をわきまえずやたらはしゃいでうるさかった。 (北岳に行くと言ってたあんたらよ!

 朝、車を第一発電所前のスペースまで移動し、ここからスタート。
 今回のコースは地図上では「ロ」の字型を描いており、まず第一ステージは南アルプス街道を10kmほど北上することになる。
 で、知る人ぞ知るトンネル前のゲートを強行突破、あとは舗装された林道を四方山話をしながらひたすら歩く。

  第一発電所前「開運トンネル」を突破
 
 途中に見栄えのする立派な滝が数ヶ所、またトンネル内では大きなコウモリを観察できた。
 最後の鷲ノ住トンネルは1kmと長く、真っ暗なのでヘッデンを出す。
 フツーに歩く速度を時速4kmとしてこの部分で3時間弱を想定していたが、快調なペースで2時間ほどで荒川出合に到着。
 ここまで回りは新緑に覆われ、もしかして稜線もほんの少ししか雪が無いんじゃないかと不安だったが、出合から見る上部は白銀に輝き、なかなか魅力的だ。

  荒川出合

 一休みした後、第二ステージ。
 荒川沿いに荒れた工事道を進み、二回の渡渉を経て、弘法小屋尾根に取り付く。
 時期にもよるだろうが今回の渡渉はせいぜいスネ程度で、先週の鹿島槍天狗尾根に較べたら楽勝。
 それでもM田氏は渡渉が苦手(嫌い?)なようで、渡る場所をけっこう慎重に選んでいた。

 荒川が北沢と南沢に複雑に分かれる辺り、作りかけの巨大堰堤の間を抜けて行くと、正面のヤブ斜面に鉄パイプで組んだ簡易ハシゴが見つかった。ここから弘法小屋尾根。
 M田氏の先導で、尾根を上がっていく。
 登山道の無い尾根で、それ相応のヤブ漕ぎを覚悟していたが、思ったよりもよく踏まれていて、十年振りに訪れたM田氏も驚いていた。
 ザックが枝に引っかかって格闘することもなく、順調に高度を上げる。途中、ピンクテープも有り。

  下部は樹林帯の登りが続く。

 標高2,100m辺りから雪も出てきてアイゼンを着ける。
 相変わらず辛抱我慢の登りが続くが、樹間から上部の白い稜線が望めるようになる。
 ふくらはぎが攣りそうになる頃、標高2,600m辺りでようやく本日の行動終了。
 森林限界近くの鞍部で、農鳥岳や富士山が望める好適地だ。
 M田氏が空荷で上部偵察に行っている間に私がテント設営。昨夜は3時間半ほどしか寝ていないので、今夜は夕飯を済ませたら速攻で寝る。 

  標高2,600m付近の鞍部に張る。
 

二日目

天候:のち(稜線上、西風・強)
行程:テン場5:30-間ノ岳7:40-農鳥小屋8:40-農鳥岳10:45-大門沢下降点11:30-大門沢小屋14:30~15:00-奈良田第一発電所18:00

 朝3時半起床。
 多少の風はあるが、きれいな半月と満天の星で天気はバッチリ。
 昨日は放射冷却なのか陽射しがあるわりには空気が冷たく、軽量化のためウェアもとことん削ったM田氏はかなり寒い思いをしたようだが、朝から大盛りのウドン&ライスでしっかりリカバリー。
 しかし、朝からよくそんなに食えるね・・・。

  新しい朝が来た、希望の朝~だ

 本日の行程はまず間ノ岳まで4時間、間ノ岳から農鳥までで4時間、さらに大門沢小屋まで3時間と計11時間行動を想定。
 自分より一回り若いM田氏は「間ノ岳までノンストップで行く」と言ってるし、暴走気味にスピードアップされたらはたして付いていけるかちょっと不安である。

 テン場をスタートするとすぐに雪稜となる。
 右に北岳、左に農鳥岳と180度ワイド画面で素晴らしい展望が広がる。
 この雄大なロケーションは確かにM田氏がススメるように、ちょっと北アや他の山ではなかなか味わえない。山がデカい南アならではのものだと思う。

  弘法小屋尾根を見下ろす

 雪稜はきれいに繋がり、間ノ岳頂上に向かって延びていく。天気は100%快晴だ!
 途中、Ⅲ級5mほどの岩稜のクライムダウン、さらにバックステップで下る急な雪の斜面もあったりするが、ロープは使わず。 (もちろん状況とパーティーの力量によっては補助ロープあった方が良いと思う。)

  
 馴れたパーティーならロープ不要だが、プチ・アルパインね。

 きつい登りだが、きれいで穏やかな雪稜に癒されながら、間ノ岳山頂に到着。
 ここまで来るとさらに展望が広がり、南部の塩見、荒川、赤石岳など遥か遠くまでクッキリと見渡せ、また中央アルプスも一望できた。
 テン場からここまで4時間みていたが実際は2時間ちょっと。予定よりだいぶ「貯金」ができたが、ここから見る農鳥岳はやはり遠い。

  間ノ岳山頂、3,189m

 一休みした後、第三ステージとなる農鳥岳までの稜線漫歩。
 冬から春にかけて中央高速を走っていると甲府辺りで白根三山の白い稜線が目に付き、いつか雪のある時期に歩いてみたいと思っていたが、やっとそれが叶った。
 展望の利く気持ちの良い稜線歩きだが、今日はちょいと西風が強い。
 目出帽の上からジャケットのフードも被って歩くが、風に打たれながら進むのはけっこう体力を消耗させられる。

 
 農鳥岳へ向かう。南アは山がデカい!

 途中にある農鳥小屋は屋根を残してほぼ雪中に埋まっていた。
 一休み後、鞍部から再び登り返し。西農鳥から農鳥、さらに大門沢への下降点までは雪が解け地肌が随分見えていたが、この間がやたら長く、しんどかった。
 M田氏のやや速めだが的確なペースでこの第三ステージ(間ノ岳-農鳥岳)も4時間見ていたところ3時間でクリア。
 一応三日間の予定で来たが、この分なら今日中に降りられそう。

 
(左)農鳥小屋前にて。小屋の屋根が埋まっている。     (右)農鳥山頂。向こうに尖っているのが北岳

 大門沢への下降点には、昭和40年代の正月にこの地点で力尽きた若い登山者の遺族の方が建てられた遭難防止用の鐘がある。
 今回は最高の天気に恵まれ視界が良く利いたが、この南アルプスの広い稜線は吹きさらしで逃げ場が無いので、特に積雪期は自分の力と状況を十分に判断してから突っ込まないとたしかに怖い。 

 で、最後の第四ステージ。
 大門沢への下降はいきなり急な雪面から始まる。
 昼を過ぎ、そろそろ雪が腐ってくる時間帯。アイゼンに着くダンゴ雪を叩き落しながら、尻セード三連発で最初のスロープをクリア。
 その後、樹林帯の中の下りとなるが、トレースと赤テープに導かれるものの、時折バックステップで降りるようなけっこう急な下りで気が抜けない。
 いいかげんウンザリした頃、やっと大門沢小屋の赤い屋根が見えてホッとする。

  きれいに使われている大門沢小屋

 大門沢小屋は管理人はいないようだが、避難小屋として開放されていて数人の登山者が既に利用していた。
 ここにいる人たちは明日、農鳥を目指すようだが、うーん、自分としては雪の時期、このルートを登る気にはちょっとなれない。
 やっぱりここはどちらかというと下降ルートで、登るにはかなり急でシンドいと思う。

 時間的に余裕があるので計画を繰り上げ、ここには泊まらず今日中に下山を決定。
 M田氏はこの時点で両足にマメと靴擦れを作ってしまったようだが、こちらは知らなかったのでガンガン下る。
 
 小屋からはウェアもザックも全身黒づくめの若い単独の人と一緒になる。
 話をすると一泊二日で池山吊尾根から白根三山を越えて来たとのこと。自分たちもまずまずのペースと思っていたが、それよりも上手がいたとは。いやはや大したもんだ!
 黒ベースのいでたち、どことなく風貌も似ているので、誠に失礼ながら勝手に「ニセ・クリキくん」と心の中で呼ばせていただく。いや、それよりも「ソックリキくん」の方がいいか?
 なかなか面白く、感じの良い好青年だった。

 どんどん下っていくが、小屋から下も長く、場所によってはけっこう悪い。
 夕方近くになっても登ってくる人はいて、5時過ぎから登り始める太めのオトーサンにはさすがにちょっと不安を感じたが、はたして大丈夫だったでしょうか?
 
 最後はヘロヘロになりながらも、ヘッデン残業にはならずに無事、車の置いてある第一発電所前に下山。
 奈良田温泉の鹿肉定食とやらを食べたかったが、残念ながら時間的にアウト。
 代わりに途中の「ヘルシー美里」という温泉(日帰り500円也)で汗を流した。

 今回登った間ノ岳・弘法小屋尾根は、ある程度山に慣れている人にはオススメのライト・バリエーション。
 天気の良い雪の時期、一度は登っておいて損はない南アルプスの絶景ルートだった。


写真集「春の間ノ岳・弘法小屋尾根~農鳥岳」


鹿島槍天狗尾根・敗退

2013年04月29日 | アルパイン(残雪期)

日程:2013年4月27日(土)~28日(日)
行動:単独

 今年のGWは「単独で黒部横断」など考えていたのだが、直前になり前半と後半の間の天気がどうも怪しい。
 で結局ヒヨって黒部は見送り。代わりに前半は鹿島槍の天狗尾根へ。
 
 ヒロケン氏の「チャレンジ・アルパイン~」を始め、事前にネットで記録を漁ってみたところ、渡渉とヤブの急登が第一の鬼門。
 尾根に取り付いてからは雪稜の合間にクーロワールと呼ばれる二つの雪壁、そして上部にⅢ級程度の岩場があるとのこと。
 で、このルート、意外と敗退記録が目につく。さらに「単独」で検索してみると、それらしい記録が見つからない。
 けっこう厳しいのだろうか。多少の不安を抱えつつも、とりあえず行ってみる。
 
一日目
天候:
行程:JR大糸線「簗場」駅6:40-サンアルピナ鹿島槍スキー場7:46-大谷原8:15-林道徘徊-荒沢11:45-天狗尾根支稜末端14:00-雪壁下ビバーク・サイト17:00

 登山口の大谷原へは車が便利だが、GW前半は女房が車を使うというので電車で向かう。
 JRの期間限定「ムーンライト信州号」でまずは信濃大町へ。そこから大糸線の鈍行に乗り換え、早朝の簗場(やなば)駅着。

 小さな丸太小屋風の無人駅で降りたのは自分一人・・・と思ったらもう一人、写真撮影にやってきたおじさんが。
 話をすると、この簗場という村は湖というより大きな池といった感じの中綱湖があるだけの鄙びた土地なのだが、桜が有名で写真マニアには割と知られた撮影スポットらしい。
 確かに何も無い山村だが、見ると立派な一眼レフと大型三脚を持った人たちが朝早くからそこら中を歩いている。

  簗場駅から一山越えて大谷原へ

 朝からミゾレ混じり。出だしから上下ゴアを着込んで出発する。
 軽量化に努めたが、ロープやテント泊用具一式を含むザックは17kgほど。気が滅入る天気の中を一人、山一つ向こうの大谷原に向かって歩き始める。

 坂道をウネウネと登っていき、峠の頂上に着くとそこがサンアルピナ鹿島槍スキー場。
 けっこう広いスキー場だが、今は営業していない。しかし、山に近づいた分、気温も低くなったようで辺りは完全な雪景色となる。
 
 スキー場を過ぎ、ズンズン下っていくとようやく登山口の大谷原へ。
 簗場から大谷原まで1時間半ほどかかった。ウォーミングアップとしては十分。

  雪の大谷原

 天気は悪いが、GW初日とあって既に多くの車が停まっている。
 そのまま歩き始めようとしたら、長野県警の若いニイちゃん、いや、隊員さんに「登山届を」と呼び止められる。
 天気も悪いし、「単独で天狗尾根」なんて言ったらダメ出しを喰らうかもと思ったが、特にお咎め無し。
 「天狗尾根は先月も滑落死亡事故があったばかり。気をつけてくださいね。」と言われる。
 なかなか気持ちのいいニイちゃん、いや警察の人だった。

 さて、ここから天狗尾根へのアプローチだが、ヒロケン氏の本をはじめネットの記録でも何通りかあるようだ。
 私は最初、持参した(20年前の)エアリアマップに渡渉しないで荒沢まで行けそうな点線(作業道?)を見つけ、密かにそれを利用できないかと企んでいた。
 で、さっそく探索を開始するが、最初はグルリと回って元の場所に戻ってしまい、次はあらぬ方向へ進んでしまったりして、結局、数時間を無駄に費やしてしまう。
 やっぱりそんな都合のいい道などあるわけ無いか。基本に返って改めて1/25,000の地図を取り出し、確認したのは次のとおり。

 ・トイレと登山届のポストのある所から、まず脇にある大冷(おおつべた)橋を渡り、すぐに左へ。
 ・少し進むとゲートがあり、そこを越えると今度は右からヘアピン気味に合流してくる林道があるので(1:1)、そちらへ。
 ・林道を緩やかに登っていき、最初のカーブを曲がった先で二俣となるので左上へ進む方へ。(右下へ行く道は元の場所に戻ってしまう。)
 ・その道が大川沢右岸の林道で、歩くうちに沢床から高く離れ、不安になるが間違いではない。
 ・やがて二つ目の黒っぽい堰堤が見え、林道は行き詰る。そこから古い吊橋のある取水口の間で「右岸→左岸→右岸」と二回の渡渉を要する。(時期によっては飛び石伝いで行ける。)
 ・取水口からは右岸通しで古いフィックスのある岸壁を伝っていくと、やがて荒沢が左から出合う。
 ・荒沢は早い時期だと雪渓で埋まり問題ないが、今回は普通に流れていて、場合によっては右側の天狗尾根に取り付くのにもう一回渡渉を要する。 (以上、2013年4月現在)

  大川沢右岸の林道を行く

 同じ鹿島槍東面のバリエーションでも天狗尾根より東尾根の方が人気なのは、おそらくこの渡渉が冷たいのと面倒くさいのからだろう。
 確かに水は冷たいが、深さもせいぜいスネ程度。以前行った同時期の剣・小窓尾根の時に較べれば楽である。
 それでも今日は雪が降っているし、ズボンをまくって川に入っていく姿は、あの名ドラマ「おしん」で泉ピン子扮するおっかあが演じる一場面のようである。 (なんのこっちゃ?)

  沢用ネオプレーン・ソックスに履き替え、渡渉。

 で、今回の核心は天狗尾根に入る前、荒沢の右岸から左岸に移るところだった。
 既にスノーブリッジは無く、沢は勢いよく流れている。
 天狗尾根側の斜面に取り付く辺りは水深がやや深く、おまけに雪渓の縁が一段高くなっている。
 一応、倒木伝いに行けそうだが、重いザックを背負っていると簡単ではないし、そこから雪渓の縁に上がるのにマントルでハイステップとちょっとしたムーブを求められる。
 まさかここでいきなりの取付敗退?
 
  荒沢

 度胸を決め、水流の中の倒木に踏み出し何とかクリア。次は滑り易い急なヤブ斜面を潅木の細い枝を掴みながら怒涛のゴボウ登りだ。
 多少踏まれているので枝がザックに引っかかるほどではないが、それでも重荷だとけっこう辛い。
 ルートは赤テープも疎らに確認できるが判りにくい。先行者のトレースが残っていたので、ルーファイは助かった。

 うんざりする頃、ようやく天狗尾根の下部に出る。
 少し進むと緑色のメスナー・テントが一張り。外から「こんちは。」と声を掛け、通り過ぎるとそこから先はトレース皆無。
 朝からの新雪で、いきなりヒザ上のラッセルが始まった。

 しばらくは樹林帯の登り。ちょっと甲斐駒の黒戸尾根の下部と似た雰囲気。
 そこを抜けると少し雪庇のできたヤセ尾根となる。雪はますます激しく降り、ラッセルもヒザから腰、急斜面では万歳ラッセルとなる。

  深雪の樹林帯
 
 やがてキノコ雪の発達した細い尾根を進んで行くと、ちょっと急な雪壁に当たる。
 柔らかい新雪なのでここまでアイゼン無しでOKだったが、この雪壁は少し凍っていてキックステップだけでは上まで抜けられず。
 時刻もすっかり遅くなり、本日はここにて終了。
 雪壁を少し下り、自分のトレース脇の僅かなスペースを広げてテン場とする。

  雪壁下のテン場

 夕方になって雪はようやく小康状態となる。
 暗くなってからテントの外に顔を出すと大町の明かりが見えた。随分と山奥に来たような気がしたが、意外と町が近いのにちょっと驚く。
 それでも今日の単独ラッセルは思いのほかキツかったようで、夜になってから両腿が攣り、一人シュラフの中で悶絶してしまった。

二日目
天候:(午前中、地吹雪)
行程:出発4:35-クーロワール上6:30-天狗の鼻・基部(撤退)8:15-荒沢14:20-大谷原16:25-簗場駅18:15

 本日は3時起床。
 餅入りマルタイ・ラーメンの朝食を済ませ、出発準備を進める。
 降雪は収まったが、見るとまだ東の空に巨大な雲が山塊のように留まっており、本当に天気が好転するのか油断できない。
 
 テントを撤収し、4時半過ぎ出発。この時期だともう随分明るく、ヘッデンは着けないでスタート。
 今日は最初からアイゼンを履いていく。

  出発
 
 昨日、登り切れなかった雪壁はアイゼンを着ければ問題なし。
 そこから上、朝は雪が締まってくれるかと期待していたのだが、ヒザから腿にかけてのラッセルが続く。
 尾根は次第に細くなり、右に折れるように続く。
 左手を見ると東尾根の方は盛況のようで、いくつかのパーティーが数珠繋ぎになっているのが見えた。
  
 やがてクーロワール。
 左側を岩に押さえつけられた形で幅広の雪の斜面が立っている。
 雪の状態が不安定ならロープを出したくなるところだが、とりあえずしっかり蹴り込んでいけば何とかなりそう。
 登っていくと上部の太い木の幹には懸垂用のスリングが何本か掛かっていた。

  
 雪庇の発達した尾根が続く                      クーロワールを振り返る
 
 で、むしろ悪かったのはその先。
 リッジ通しは潅木が邪魔くさいので、右から斜めに回り込んで登ろうとしたのだが、足元は100mぐらいスッパリ切れ落ちた雪壁。おまけにガリガリ氷でアイゼンの効きがちょっと甘い。
 フル装備を背負った重さもあって、アルパインのⅤ級をフリーソロしているような緊張を感じた。

 その頃から風が強く吹き始める。
 尾根も細くなり、リッジに馬乗りになったり隠れた雪庇を踏み抜かないよう慎重に進む。
 耐風姿勢をとりながら細いリッジをジリジリ進むが、雪も深く100m進むのに30分以上かかっている。
 見ると上部は雲と雪煙に覆われ、鹿島槍の姿も次第に見えなくなってきた。

 どうする?このまま突っ込むか?
 昨日の湿雪で手袋も半乾きのため、せっかく治った右手中指の凍傷痕がまたイヤな感じで疼き始める。
 もう少し頑張るか、いや諦めるか。
 しばらく頭の中で考えを巡らす。そうこうしている間に風はますます激しくなり、力を緩めるとそのまま細いリッジから引き剥がされそうになる。
 これはちょっとヤバイかも・・・。結局、「天狗の鼻」の下、手持ちのプロ・トレックの高度計で標高2,100m付近まで進んで今回は断念。

  登ってきた雪稜

 風の呼吸を読みながら、またジリジリと退却開始。
 消えかかる自分のトレースを辿って、細いリッジ帯をやり過ごす。
 
 ほんの少し安全地帯にたどり着いてホッと一息。
 振り返って写真を撮っているといきなりすぐ下から「こんちは~!」と声をかけられる。
 昨日、尾根の下部にメスナー・テントを張っていたお二人さんだ。
 彼らもこの深雪と強風では頂上まで行くのは諦め、とりあえずクーロワールの下にザックを置いてここまで空荷で上がってきたとのこと。
 私が一人でここまで来たのを労ってくれた。

 この先、少なくともクーロワールの下までまだまだ気の抜けない下りが続く。
 お二人は空荷ということもあるがけっこう足が達者で、悪い所もガンガン降りていく。
 私も雪の下りはそんなビビリの方ではないが、それでもこの辺り一歩バランスを崩したらまず数百mは止まらないだろう。
 彼らのスピードに合わせずマイペースで慎重に下る。

  気が抜けない下り
 
 クーロワールをバックステップで下り、ようやく一安心。
 さらに今朝一番で登った雪壁を越えて下っていくと、ようやく一日遅れの後続パーティーが現れる。
 
 男女の二人組、さらに女性メインの四人組と続き、これだけ人数が揃えばラッセルも何とかなるかもしれない。
 が、既にここまで降りてきてしまうと心が折れてしまって、もう一度登り返す気になれない。
 風は相変わらず強いし、今回は完敗ということで仕切り直すことにしよう。

  鹿島槍、遠く・・・

 樹林帯に入り、さらに右手の荒沢への急下降に入る。
 何人も歩いたおかげで昨日よりもトレースがはっきりしている。また下りなので赤テープを容易に見つけられ、思ったよりは楽だった。
 それでもこの下りもやはり長い。藪の間から荒沢の流れが見えてもなかなか辿り着かない。

 ようやく荒沢の沢床に到着するが、昨日の渡渉点より少し上流に出てしまった。ここからでは対岸に渡れない。
 藪の中を際どいトラバースをしてもう少し下流側に近づき、昨日の渡渉ポイントに出る。
 気温も高く、雪渓の末端はいつ崩れるかわからない。うーん、やはりここが今回の隠れた核心だ。
 
 落ちても死ぬことはない高さだが、背中から水中に勢いよくドボン!は何としても避けたい。
 雪のブロックに刻まれたステップに慎重にそーっと乗り、(頼むから崩れるなよ・・・)と祈りつつ片足切って下の丸太へ・・・。
 際どい体勢ながらも何とか足先が丸太を捉え、ホッ!

 その後は取水口→二回の渡渉→右岸の林道と繋いで大谷原に出る。
 他の記録では二回の渡渉をせずに山腹を大高巻きするルートもあるようだが、結局よくわからなかった。

 振り返ると、鹿島槍の方は雲一つないドピーカンで、もう少し粘れば登り続けることができたかなとも思う。
 しかし、あの時引き返した自分の判断は正しかったと思うし、あそこで無理して突っ込むのがいわゆる「分かれ目」というやつだろう。

 大谷原からはまた一山越えて歩かなければならない。走っている車は少なく、期待してはいなかったが当然乗せてくれる車は無し。
 重たい足を引きずって簗場駅へ下山した。

写真集「春の鹿島槍天狗尾根・敗退」


GW・穂高 下山

2010年05月03日 | アルパイン(残雪期)

三日目
天候:稜線は風強くのち快晴

  前穂の向こうに月明かり

  本日もイイ天気

 
本日は滝谷クラック尾根の計画だったが、ju9cho氏のアイゼンバンドが切れ掛かっていることが判明し、大事をとって予定変更。
 juqcho氏はやむなく下山、私はせっかくなので奥穂、できればjuqcho氏ご推奨のジャンダルムまで行ってみることにする。

 やたら早起きして張り切っている他パーティーを尻目に明るくなってから準備を整え、ここで一応解散とする。

  では、本日も行きますか。

 本日も白出のコルへのザイテングラートは、早くも蟻の集団のように登山者の列が連なっている。
 近くにいた空身同然の男女二人組、そしてデイパック姿のガニマタおじさん(失礼!)を勝手にライバルと決めつけ、コルまで先に着くぞと頑張るが、昨日の疲れが残っていて(←言い訳)、結局追いつけず。
 体力ねえなぁ、俺は (←「スラムダンク」三井の名言集より)

  ザイテングラートの登り

 それでも2時間ちょっと切るぐらいで、コルに到着。
 コルには岐阜県警のパトロール隊が陣取っていて様子を聞くと、現在、奥穂へは氷雪の状況が悪く昨日までずっと登山を自粛してもらっているとのこと。
 見るとコルから少し上がった鉄梯子の下が油を流したようにガチガチに凍っており、さらにしばらく待っていると奥穂からパーティーが下りてきたが、懸垂下降を強いられている。・・・マジですか?
 ハーネスとギアは少々持参してきたものの、肝心のロープと下降器を涸沢のテントの中に置いてきてしまった私は為す術無し。

  奥穂(左)とジャンダルム(右)

  こちら涸沢岳方面

 とりあえず右手の涸沢岳へ登る。
 本日は西の飛騨側からの風が強烈で、天候は晴れているものの冬の八ケ岳並みの厳しさ。
 気をつけないと脱いだグローブなどあっという間に持っていかれそうで、かろうじて山頂の指導標前に自分のザックを置いて記念撮影。

  ザックのストラップが強風に舞っている

  北穂(右)と槍(左)

 その後、北穂まで足を延ばそうと思ったら、すぐ先がスッパリと切れ落ち、ここも懸垂下降しないと到底無理。
 北穂まで行くつもりのロープを持った二人組もしばらく下を覗き込んでいたが、ちょっと不安げな6ミリスリングの懸垂支点を見て結局断念した模様。

  懸垂地点を不安げに覗き込むお二人

 コルへ戻ると、待機していた登山者の群れの中から一人、いかにもエキスパートといった感じの人が抜け出し奥穂へ向かっていった。
 多くのギャラリーが見つめる中、雪煙の舞う急な壁を単独・Wアックスで登っていく姿がメチャかっこいい。

  強行突破!

 その後、何人かが続き、自分でも行けるんじゃないかと思ったが、そろそろ私も「落葉マーク」だし、無理して事故ったらそれこそ迷惑な話なので、敢えて自重。
 まぁ、真冬の奥穂も以前登っているので、リスクを負ってまでこだわる必要はない。(←やや負け惜しみ)

 しばらく写真を撮ったり、周りの景色を堪能した後、下山。
 陽光に腐りかけた重たい雪に辟易しながら、天場まで。

 今回はもういいかと思い、コーヒーでくつろいだ後、ゆっくりと撤収。

  
 
 テント村での目印用に持ってきた「ミニ鯉のぼり」は本日入れ替わりに登ってきた子供連れにあげ、帰りは三人の娘連れのヤンママ?さんと四方山話などしながら下る。

  さらば涸沢

 何とか最終のバスに間に合い、公共交通機関のみで本日中に帰宅。
 やや不完全燃焼の感は否めないが、天候には恵まれ、例年より雪の多いコンディションの中でバリエーション2本こなせたのはかなりラッキーと言える。
 まぁ「運も実力のうち?」としておきましょう。

 


GW・穂高 登攀

2010年05月02日 | アルパイン(残雪期)

二日目
天候:未明まで小吹雪のち快晴

 夜半はけっこう強い風がテントを叩いた。
 で、約束の午前3時に目を覚まし、外を覗くと小雪が風に舞っているし。・・・マジですか?

 とりあえず朝飯を済ませ、しばしテント内で待機。
 明るくなるにつれ風も納まり、回りもボチボチ動き始めたので、我々も行動開始。

  ボチボチ行きますか。

 本日の行程は北穂東稜から滝谷第二尾根主稜の継続。
 以前、雑誌「岳人」で紹介されていたようだが、私は読んでいない。
 まずは北穂東稜から。

  北穂沢の登り

 北穂沢を小高いプラトーの上まで登り、そこから右へトラバース。急な雪の斜面を登って東稜に取り付く。
 涸沢定着のバリエーション「人気初級者コース」とあって渋滞も懸念したが、我々の前に6人パーティーがいるものの何とか追いついて先に行かせてもらえそう。

  前穂北尾根

  前方、団体さんをロックオン!
 で、雪のリッジに着いた所で気持ち良く先を譲っていただいた。
 東稜は下から見ると特に何の変哲もないスカイラインだが、ここまで来ると実にスッキリしてなかなか素晴らしいロケーションである。
 右側がスッパリ切れていて空の青と雪の白のコントラストが実に鮮やか。右肩には槍も見える。

  先を譲っていただきありがとさんです。

  「ゴジラの背」へ向かう。

 しばらくスノー・リッジを行くと、東稜核心部の「ゴジラの背」に着く。
 先行パーティーのトレースがあるもののけっこう不安定な雪の付き方で、ここで迷わずロープを出す。
 ピッケルをアンカーとし、juqcho氏を送り出す。

  「ゴジラの背」を行くjuqcho氏

 juqcho氏、ゴジラの背ビレをしっかり掴んで右側を無事通過。お見事です。
 そこで一旦ピッチを切る。
 トレースがあれば技術的にそれほど難しいことはないが、とにかく高度感は凄い。
 春の谷川・東尾根、GWの剣・八ツ峰などこれまでシビレ系スノー・リッジはいくつかこなしてきたが、ここもなかなか。

  振り返るとこんな感じ

 その先でリードを交替しようとしたが、場所が狭く、そのままもう1ピッチjuqcho氏にロープを伸ばしてもらう。
 すぐに2mほどのクライムダウン。リッジを伝ってロープ半分出たところでjuqcho氏はその先の懸垂下降地点の向こうに消えたが、こちらからコールしても壁の向こうで応答が聞こえず。
 「あと10m!」「・・・あと5!」「おーいっ、もう無いよー!」と叫んでもまったく聞こえず。
 ザックのチェストバンドに付いているホイッスルを吹くが、聞こえているかどうか。お互いロープを強く引っ張り合ってどうにか意思の疎通を図る。

 

 

 クライムダウンの箇所はロープ引っ張られ気味でちょっと怖い思いをしたが、何とか剥がされないよう踏ん張って無事通過。
 無雪期は懸垂となる箇所は今回は雪の付き方が良かったようで、そのまま歩いて行けた。
 50mロープでギリギリだったが、本来は最後は懸垂となるので途中でピッチを切るのだろう。

 

 核心はこの2ピッチで、後は比較的幅の広い雪稜がダーッと北穂小屋まで続く。
 登攀時間は2時間ちょっと。まずまずのタイムで前半終了。
 小休止した後、後半戦の滝谷へ。

  北穂小屋へ到着

 北穂北峰のピークを踏んだ後、大きな松濤岩の手前から滝谷C沢へ入る。
 ちょいとデリケートなトラバースから入り、後は急な雪の斜面をガーッと下っていく。

  C沢を下る

 最初は前向きでガンガン行けたが、途中から傾斜が増し雪面も固くなってきたので、後ろ向きになって Wアックスのダガー・ポジションでひたすら下りていく。
 向かって左手にドームの岩峰。さらに下にダイヤモンド・スラブが確認できたら、対面の支稜から第二尾根に取り付くらしい。
 先行した私がある程度下った所から右手にトラバースして取り付こうとしたが、その辺りは岩が全て逆層の畳岩で取り付くシマ無し。
 後から来るjuqcho氏に声を掛け、少し上の雪の斜面から第二尾根に取り付く。

  ここから第二尾根に取り付く

 急な雪の斜面を上がると、スッキリした雪稜。
 向こうには笠ケ岳や飛騨側の谷が良く見える。
 そのまま雪稜通しに上がっていくと、その先、浅いルンゼ状の雪壁がダーッと100m以上続く。
 雪面はところどころ堅い所があるがアイゼンの前爪が良く刺さり、Wアックスで息を切らしながらシャカシャカと高度を稼いでいく。
 なかなか気持ちよく、いかにも登っているなぁと実感できるピッチだ。

  急な雪壁をWアックスで駆け上がる

 どん詰まり正面には黒々とした四角い岩峰。
 その手前がほんの少しブルー・アイスとなっている。
 ほんの数mの段差なので直登できないかと探ってみるが、ピックで叩くとガチガチに砕けてイマイチ。
 仕方ないので左手から上がって、岩場の基部に到着。
 ここでロープを出し、まずはⅢ級ぐらいの岩のピッチをjuqcho氏リード。

  リードするjuqcho氏

  Ⅲ級ほどの岩のリッジ

 岩のピッチが終わると、今度は細いスノー・リッジ。
 これまでいろいろな山で「馬の背」と呼ばれる箇所を見てきたが、ここは正真正銘のリアル「馬の背」。
 思わず跨ってしまいたくなるほど両側がスッパリ切れていて、恐る恐る四つん這いで私がロープを伸ばす。
 本日は快晴無風で良かったが、ロープが弓なりに舞うほどの風雪だったら思わず泣きが入りそう。

  続いて私がリード

  リアル「馬の背」スノーリッジ

  なかなかシビレます!
 

 そのうち槍の方角から音もなく一機のグライダーが飛んできた。
 かつては「鳥も通わぬ」と言われた滝谷だが、グライダーやヘリは時折通ってくるみたい。

 そろそろ稜線も近づき、肝心の「水野クラック」ってのはどこだろなぁと探していたら、先行したju9cho氏が「ここではないか。」と見つける。
 で、何となく予感はしていたのだが、クラックの中は雪どころか堅い氷がビッシリ詰まっている。
 うーん、ちょっとこれは・・・と躊躇しつつも勧められるままに私がリード。
 ファイナル・ウェポンとしてフラット・ソールをザックの中に忍ばせてきたが、雪氷と岩のミックスなので出番無し。久々のアイゼン登攀となる。

  これが「水野クラック」

 出だしから氷をカットしながら岩に取り付き、ホールドはあるもののガチ氷が邪魔してアイゼンの爪の置場が無く、けっこう怖い。
 最初の2ピンまでA0使わせてもらって(ヘボでスミマセン)、どうにか人心地つき、後は大きなガバに助けられ、上段のⅢ級程度の岩場を越えトップアウト。
 何となく甘く見ていていたけど、けっこうこれだけでもキツかったです。

  意外と厳しかった!

 残りはミックス帯のリッジ状を半ばコンテで進み、行きで通った斜面を再びトラバースで戻り、終了。
 ここでガッチリ握手を交わす。
 滝谷第二尾根はネットでもあまり記録が無いが、GWの時期、天候に恵まれれば岩と雪の変化に富んだ好ルート。
 岩はそこそこ固いがハーケンを打つと割れやすいので、長めのスリングが重宝した。

 下りは北穂沢を尻セード3ピッチを交え、一気に下降。
 涸沢の天場に着いたら、どうしたわけかハーケンと8環のついたビナを紛失。どうやら尻セードの途中でゲートが開いてしまい抜けてしまったようだ。

 教訓 「尻セードの時、貴金属?はザックの中にしまいましょう。

 当然のごとく、今日も一日の仕事?が終わって
 テント村はさらに分譲が進められ、酔ってしまうと自分たちのテントを見失うほど。

  無事生還


GW・穂高 入山

2010年05月01日 | アルパイン(残雪期)

一日目
天候:朝のうち小吹雪?のち快晴
同行:juqcho

 今年のGWは穂高へ。
 「剣」という話もあったが、私はまだ病み上がりのため、何かの時によりエスケープしやすい涸沢定着にしてもらう。
 4/30の夜、それぞれ深夜高速バス「さわやか信州号」にて、当日朝、上高地で合流。

 で、上高地に着くと、例年のGWに較べてやけに寒いっ!

  寒々しい朝の上高地

 これまでGWの山といえばポカポカ陽気のイメージだったが、今年はつい一昨日も穂高周辺でまとまった降雪があったようで、上高地でもうっすら地面に雪が残っている。(一時、横尾から上は地元県警パトロール隊により登山自粛となったとか。)
 曇天の上、時折、地吹雪のように吹く風に早くもゴアのジャケットを着込み完全態勢。
 こりゃ上に行ったらどうなってしまうのかと早くも不安になるが、でも、やはりこちらの期待を裏切らず、歩き始めて明神辺りまで来ると青空が見え始め、絶好の登山日和となる。

  明神からは

  いつも気持ちいい徳沢の天場

 徳沢、横尾といつもの道を重荷に喘ぎながら行く。
 連休前半のせいか、いつもはもっと行列のできる横尾への道は今日は割と登山者が少なめ。徳沢の気持ち良い天場もだいぶ空いていた。
 前穂北尾根はいつになく真っ白で雪煙が舞っている。

  そろそろ横尾

  雪煙舞う前穂北尾根

 本谷橋を渡って横尾谷へ。
 屏風は壁は黒いが、随所に雪が付き荘厳な佇まいで、「和製アイガー?」のようなイメージ。
 ここから涸沢までのチンタラした登りが始まる。

  あまりにもベタなテロリスト姿のjuqcho氏

  屏風岩

 今回のザックの重量は23kgジャスト。
 いつもはもう少しシビアに重量計算し、せいぜい15~18kg程度に抑えるのだが、今回は涸沢「定着」ということであまり気にせず詰め込んだらこうなってしまった。
 気付いたのが出発直前だったため、荷物をセレクトし直すわけにもいかずそのまま来てしまったが、フィフティーを迎えたヤワな老体にはちとキツイ。
 まぁ、20kgがボーダーラインだな。

 で、juqcho氏のスピードになかなか付いていけず。
 陽光に輝く周りの山々もチラと一瞥するのみで、後は黙々と足元を見ながら歩を進める。

  涸沢までのダルい道のり

 真っ白い砂糖に群がる蟻の行列のような登山者の列に加わって、どうにか涸沢に到着。
 この季節、ヒュッテ前にはお約束の鯉のぼりが掲げてある。

 例年以上の積雪と聞いて二人ともスコップ持参だったが、既にブロック塀完備の「更地」が残っていたので、ちょこちょこと整地して安易にそこにする。

  季節柄、鯉のぼりなど・・

 で、テント設営した後はこれまたお約束と「生&おでん」。

  涸沢生活、まずはここから・・

 イイ気持ちになったところで、日頃の残業続きによる睡眠不足解消のため、しばしお昼寝。(連休中もお仕事の方、スミマセン。)

  涸沢ヒュッテの展望テラス

  テントの数はまだまだ序の口

 起きたところで早めの夕食とし、明日に備えてサッサと寝る。