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KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

八ヶ岳・旭岳東稜

2020年02月24日 | アルパイン(積雪期)

日程:2020年2月23日(日)~24日(祝)一泊二日
天候:両日とも
形態:無人小屋泊冬季アルパイン
同行:弟子(我が社の山岳部)

 さて今回は八ヶ岳東面の旭岳東稜。
 昨年同時期にトライし、一日目に核心「五段の宮」直下にテン泊したものの、翌朝からの小雪混じりの陰鬱な天気にモチも急速に低下し敢無く撤退。
 自分は過去に二回登っているので、どうしてもというこだわりは無いが、やはりここは相方の「弟子」にはぜひ押えておいてほしいルートの一つだ。
 というわけで、一年越しに宿題を片づけに出発。
 
一日目 美しの森11:30-出合小屋13:30-取付き偵察

 二月後半の三連休だが、初日は関東甲信地方に「春一番」が吹き荒れ、出発を見送る。
 残り二日間だが、この冬は昨年にも増して暖冬で雪不足のため、速攻でも行けるだろうと判断。出合小屋をベースとした計画にする。

 朝7:40に小田原に集合。中央高速を長坂ICで降りスーパー「オギノ」(ここは本当に安い!)で買い出し後、昼前に「美しの森」駐車場に到着。
 で、まず驚いたのが雪が無いこと。

 

 これまで何回となく来ているが、二月にここまで雪が無いのは初めてである。
 林道出だしも完全に地面が露出!多い時はワカンまで着けて歩いていたというのに。
 地球温暖化もいよいよ深刻になってきた。

 最初の林道分岐では季節外れの子供連れの遠足集団と出会う。
 ポカポカと暖かい陽射しの下、お弁当を広げている親子連れの間を、大きなザックを担いで完全冬山装備で歩く自分たちの姿に若干の気恥ずかしさを感じるほどの違和感だ。
 その後、多少は雪が出てくるも、堰堤の現れる辺りは流れが出ていて飛び石伝いに渡ったり、例年になく様子が違う。
 雪の時期だと出合小屋まで大抵3~4時間ほどかかっていたが、今回は2時間ほどで着いてしまった。

 早速、出合小屋の扉を開ける。すると、いきなり中から女性が「あら~っ!!」
 何と顔見知りのYokkoさんだった。当然、奥には旦那のサトシ氏。

 これまで小川山などで何度かクライミングを御一緒したが、冬山で偶然顔を合わせるのは初めて。
 今では神奈川と名古屋に離れ、一緒に登る機会はなかなか無いのだが、改めて山の世界は狭いと思う。

 彼らも少し前に到着したばかりで、明日は天狗尾根の予定だと言う。
 小屋内にはまだスペースが残っていたので、板の間の隅に二人用テントを張らせてもらう。しばらく四方山話などしながら荷物を整理。
 まだ十分明るい時間帯なので、自分はこの後、取付きまで偵察。弟子は夕飯の準備とする。

 

 小屋から少し歩いて地獄谷と赤岳沢の分岐(標識有り)。ここを左の地獄谷に入って進むが、しばらく行くとトレースがプッツリ途絶えてしまう。
 (ん、もしかしてここではなかったか?) 
 歳のせいか年々記憶力が怪しくなっているので、ここは一旦引き返し、もう一つのトレースに沿って進む。が、こちらだとやはり天狗尾根の方へ行ってしまう。

 一度、小屋まで引き返すが、どうもスッキリしない。
 「もう一度見てくる。」と言って、最初の途切れた方のトレースを適当に進んでいくと、なんてことはない。昨日からの吹き下ろしで途中からトレースが消されていたのだ。

 軽くラッセルしながら進んでいくと、見覚えのある「ツルネ東稜」への標識。そして旭岳東稜の末端が確認できた。
 明日は暗い内から早出となるので、やはり事前の偵察はしておいて良かった。
 ヘッデンを点けながらだと、トレースを見失った時点で右往左往していただろう。

 小屋に戻り早めの夕食。本日のメニューは弟子特製・ニンニクの芽たっぷりのビーフシチュー。美味しゅうございました。
 19時過ぎに就寝。


二日目 出発3:50-東稜・五段の宮下6:55~7:30-旭岳頂上10:10~30-ツルネ11:25-出合小屋13:10~14:05(撤収)-美しの森15:55

 午前2時起床。それなりに寒かったが、やはり小屋の中。日頃の疲れもあってグッスリ眠れた。
 朝のウドンをかき込んで準備を始める。天狗尾根へ行く二人はまだ起き出す気配が無い。向こうもここからスタートだと長いし、大丈夫かな。

 ギア類を身に着け、必要な装備と行動食だけ持って出発する。
 旭岳東稜は自分はこれで三回目だが、先の二回はフル装備を担いでルート途中でテン泊するパターン。小屋をベースに軽荷速攻で行くのは初めてだ。
 途中ビバークは考えていないので、何らかの計算違いやトラブルがあったら即敗退となってしまうが、まぁ何とかなるだろう。

 昨日、トレースを付けておいたため、迷うことなく東稜の取付きへ。末端のすぐ右から登り始める。
 吹き溜まりでない所は、昨日のパーティーのトレースあり。
 樹林帯のリッジは登るにつれ角度を増してくる。

 それでも所々トレースが消え、雪が軽く吹き溜まりとなっており、軽荷といえけっこうシンドイ。
 途中にある細いリッジのギャップの手前で後続の男性二人組に追い付かれ、先を譲る。
 不安定なリッジも彼らはスタスタと進み、かなり場慣れした感じだ。
 申し訳ないが、この先は彼らの付けてくれたトレースをありがたく使わせていただく。

 途中もう一か所ちょっと悪い小雪壁があり、そこを越えてしばらく行くと長い雪の斜面となる。
 草付きが凍っていたり、新雪で塵雪崩があったりすると、ここも悪く感じるが今日はそうでもなかった。

 既に陽も上がり、回りの山々がほんのりオレンジ色に染まり始める。
 昨年のテン場を越し、いよいよ核心の「五段の宮」に到着。

 まずは先行の二人組が取付き、最初のピッチを二人が抜けるのを待つこと約40分。見ているとけっこう悪そうで、ドライツーリングで登っている。
 最初のピッチを弟子に振ってみるがやや自信が無さそうなので、自分からリード。

 

 1ピッチ目 自分がリード
 前回登った時は最初の出だしさえこなせば後はそれほど難しく感じなかったが、歳のせいか今回はちょいと苦戦。
 最初のランナー、残置ハーケンにぶら下がっている古いスリングに頼りながら何とか上に抜けようとするが、ホールドが信用できず、なかなか踏ん切りがつかない。
 結局、自分もドラツー混じりで一段目を抜ける。
 右側の灌木にランナーを取るとロープの流れが悪くなるので、ここは飛ばして二段目は雪面にピックを差してチャチャと越える。
 三段目の岩の部分も悪く感じ、前回、テン泊フル装備で登ったのが我ながら信じられない。
 とりあえず三段目を上がった所でピッチを切る。
 フォローながら弟子も少しは苦労するかなと思ったが、スイスイとはいかないまでもそれほど時間をかけずに登ってきてくれた。

 2ピッチ目 弟子リード
 右側がスッパリ切れた箇所をトラバース、そこからミックスのリッジを上がっていく。
 途中からコールが届かなくなり、手元のロープが残り少なくなっても慌てず騒がず。
 これまで組んできた山行の数々でお互いの動きが理解できるようになっているのは頼もしい。
 これで「五段の宮」は終了。

 3ピッチ目 自分がリード
 時期によってはキノコ雪になる細い雪稜だが、さすがに今年はそれは無い。それでも雪は意外と繋がっていて快適な登高となる。
 上部に出るにつれ、多少風が強くなるが、それでも空はすっきりと晴れ、背後には富士山も望め、最高のロケーションだ。

 4ピッチ目 コンテ
 引き続き、細い雪稜。「五段の宮」を越えてしまえば、もう技術的に不安は無い。気持ちも楽だ。

 

 5ピッチ目 弟子リード
 ラストピッチは弟子にお任せ。無理に直登はせず、左へバンド伝いに斜上し、さらに右に折り返す形で旭岳頂上へ。


 
 先行の二人組は1ピッチ目を終えた時点ではまだ目の前にいたが、その後、自分たちがのんびり写真など撮りながら登っているうちにサッサと消えてしまった。
 そんなわけで、頂上は二人きり。しばし周りの景色を満喫する。
 もう数え切れないほど来て見飽きたはずの八ヶ岳だが、やはり青い空と白い山のコントラストは最高だ。

 

 

 途中、岩陰で行動食をとり小休止。
 下りのツルネ東稜は間違いやすいが、本日は先行パーティーのトレースがあり安心だった。
 とにかく左へ左へ進路を取ればいいのだが、頭ではわかっているもののトラップの赤テープなどに騙され、二度ほどルートミス。
 幸い、近くに別パーティーがいたりして軌道修正、ベースの出合小屋へ無事に下りることができた。

 自分たちより遅く出発し、天狗尾根へ向かったツジタ夫妻はさすがにまだ戻っていなかった。
 稜線は風が強く、ツルネの下りも暗くなるとわかりづらく、ちょっと心配だったが、まぁ大丈夫でしょう。

 いつも残業になりがちな我々だが、今回はいつになくスマートな行動。
 最後の林道はそれなりにダルく疲れたが、本日の行動は出合小屋から頂上経由、美しの森までほぼ12時間。まずまずの良い山行だった。


八ヶ岳・赤岳主稜&中山尾根

2020年02月02日 | アルパイン(積雪期)

日程:2020年2月1日(土)~2日(日) 前夜発一泊二日
天候:両日とも
形態:テント泊冬季アルパイン
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 例年、一月最初の連休から冬山スタートとなる自分だが、今季は12月からのフリーの宿題(湯河原幕岩「コンケスタドール」)に丸々2か月を費やしてしまい(^^;)、ようやくこれが2020年の山始め。
 まずは久々のアイゼン慣らしということで、八ヶ岳定番のアルパインへ。
 金曜夜に愛車フリード+で美濃戸口入り。シートをフルフラットにし、車中泊で朝を待つ。

一日目 美濃戸口7:40-行者小屋テン場11:20~12:30-赤岳主稜・取付き13:00-赤岳山頂16:10~20-行者小屋テン場17:30

 朝5時起きを約束していたが、二人とも爆睡。目が覚めた時には6時をとうに過ぎていた。
 そそくさと朝食、そして身支度を整え、歩き出す。
 昨年同様、今年も雪は少なめ。特にアイスは氷が発達せず非常に厳しい状況と聞いていたが、山道に入るとそこそこ雪はある。

 それほどガツガツと急ぐわけでもないが、普段けっこう強い弟子は本日やや遅れ気味。
 お互い、秋からはもっぱら岩が中心なので、久々の重荷(といってもせいぜい15kg未満)はやはりシンドい。
 他の登山者に抜かれ抜きつつ、行者小屋のテン場へ。
 南沢の登山道の昨秋の台風の影響か、従来の沢沿いからかなり高い位置に付け替えられていた。地元の関係者の方々に感謝である。

 

 本日の行者小屋テン場はそこそこ賑わっているものの、今週は赤岳鉱泉で「アイスキャンディ・フェスティバル」とやらのイベントが開催されているということで、全盛期ほどではない。
 適当に空いているスペースを整地し、アライのRAIZ1を張る。
 二人ではちょいと窮屈だが、まぁ一泊だし、軽量化優先ということで。

 

 時間的にも何とかなりそうだったので、サブザックにロープとギア類を詰め直し、予定通りまずは赤岳主稜へ向かう。
 文三郎道を小一時間登り、上部の分岐から左手の斜面を下り気味にトラバースし、主稜取付きへ。
 ちなみに自分は2003年12月に今は亡きたけちゃんと登って以来、16年振り。相方の弟子は今回が初めてとのこと。
 一応、ここまでロープはダブルの8.5mmを二本持ってきたが、まぁ一本で大丈夫そうだったので、一つを基部にデポ。
 以下、ルートスケールは個人的な感覚で、はっきりしたものではない。

1P目 自分のリード 20m
 門のような岩のルンゼを行く。出だしのチョックスト-ンはほぼ埋まってホールドが取れず、その上、雪はパウダーのためピックが刺さらない。
 少し悪く感じたが、出だしだけなので、まぁ何とか。
 ルンゼを登り切った所で、ピナクルにスリングでビレイ点を取る。

 

2P目 弟子リード 10m
 岩壁の基部を雪のトレースに沿って右上。雪が不安定な個所が1ポイントあったが、特に問題なく。短くピッチを切る。

3P目 自分のリード 15m
 正面に残置ハーケンが豊富な割と立った岩のフェース。
 以前、こんな所登ったかなぁ。まるで記憶が無く、ちょっと手強そうにも見える。
 でもしかたない、登りますか・・・と思ったら、文三郎道の方から声がして「そこは左!」と手振りを交えて教えてくれるパーティーあり。
 リッジを挟んで左側を覗くと、たしかにそちらの方が弱点を突いて容易に思える。
 無理はせず、あくまでファンクライムがモットーなので、すかさずそちらへ。快適でした。

 

4P目 コンテ 150m
 トレースが残ったきれいな雪稜をほぼコンテで登る。
 雪が少ないと言いながら、雪稜としては十分。

5P目 自分のリード 25m
 岩のピッチ。上部にも岩のパートがあるのは覚えていたが、以前登った時の記憶とルートの様子がまったく異なる。
 ホールドがサラサラの雪に隠れてけっこう悪く、しばらく逡巡したが、何とか突破。
 この辺りはよく観察すれば、もっと簡単なルート取りができるのかもしれない。

 

6P目 弟子のリード 100m?
緩い斜面を頂上まで。

 

 頂上には他にも何人か登山者がいて、お互いに記念写真を撮り合う。
 夕陽が傾く中、遠く富士山までくっきり見渡せ、最高の天気だが、さすがに夕暮れ近くになって気温がグッと下がり、メチャクチャ寒い!
 そそくさと文三郎道を下り、取付きにデポしておいたもう一本のロープを回収し、テン場へ帰還。

 夜は弟子が「麻婆ミートボール」という荒業?新作メニューを作ってくれるが、見た目の予想を覆して旨かった。(^^;)

 


二日目 起床4:30-行者小屋テン場出発6:20-中山尾根・取付き7:20-上部岩壁10:05-終了点12:40-地蔵尾根-テン場撤収14:20-美濃戸口16:00

 寒い一夜を過ごして、本日は中山尾根へ。
 こちらのルートは二人とも以前それぞれ別のパートナーと登っているが、自分はやはり16年振り。
 ヘッデンを点して、中山乗越への登りにかかる。

 乗越から先はありがたいことに新しいトレースあり。
 しかし、登山道から直角に折れてそのまま真っ直ぐ東進すると思っていたトレースは、けっこう行者小屋へグイグイ戻る方向に延びており、あれこんなだったかなと疑心暗鬼。
 でも他にバリエーションのルートもそうそう無いだろうと信じてそれに従って行ったら、やはりそれは中山尾根のアプローチだった。
 人間の記憶なんて、本当当てになるもんじゃない。

 

 先行が男女ペアの1パーティー、既に最初のピッチが取付いている。
 こちらも取付きへ進み、スタンバイ。念のため今日も2本ロープを持ってきたが、相談の結果、やはり1本で登ることにし、もう一本はそのまま自分がサブザックに納める。
 以下、ルートスケールとグレードはあくまでも個人的体感。

1P目 自分のリード 35m Ⅳ-
 先行Pがいたため、ショートカットで正面のハンガーボルトが打たれた岩壁を登ろうとしたが、ホールドがどれも丸く外傾していてグローブ、アイゼンでは心許ない。
 二人してリードを試みるが、特にこだわりはなくすぐに断念して、正規ルートの右側のルンゼへ。
 以前登った時は階段状で易しく感じたが、昨日の赤岳主稜と同様、サラサラのパウダースノーが不安定で、けっこう慎重な登りを要求される。
 フォローの弟子も「悪い!」と共感。

2P目 弟子のリード 20m Ⅳ
 正面の短いクラックを直上するか、左手の半分凍った斜面を行くかだが、後者は意外とランナーが取り辛そうに思えたので、正面を行く。
 下から見ると簡単そうだが、そうでもなく、弟子が果敢にリードし、突破。
 そこを越えてからも灌木帯をしばらくロープを延ばし、切りのいい所でピッチを切る。

3~5P目 コンテ 150m
 自分がロープを引っ張る形で綺麗に雪が繋がったリッジを進む。
 途中、ロープがいっぱいになってコールがまったく届かなくても、この2~3年でお互い「あ・うん」の呼吸が出来ているのが頼もしい。

6P目 弟子のリード 50m Ⅳ+
 核心ピッチ。前回、弟子はここで相当奮闘したらしく、一応「どうする?」と聞いてみるが、「リードします!」との返事。その意気や良し!
 しかし、ここも自分の記憶の中では幅の広い掘りの浅いフェースといった印象だったが、今こうして目の前で見るとけっこうルートとなる凹角ははっきりしている。
 「核心の途中でピッチ切るかも。」と行っていた弟子だが、いやしくも12クライマー、思ったよりも鮮やかに上部の被り気味のピッチも抜けた。
 いやぁ、やりますね!

 

 

7P目 自分のリード 30m  
 雪稜。以前登った時は左へ左へとトラバース気味に登って行った記憶があるが、多少は左へ向かっているもののそれほどではない。
 先行Pは誤って悪いルートを選んでしまい、大胆なムーブで突破していった。
 自分はここは左上していくピッチというイメージがあったので、ルート取りに注意していたが、まさに的中。部分的に雪が不安定なポイントはあったが、特に問題は無かった。
 稜線間近のトサカピークの手前でピッチを切る。
 振り返ると、後続はさらに三人組が2パーティー。
 本日の中山尾根は盛況であるが、お互いちょうど良い間隔で、特に大きな渋滞となることはなかった。

 

8P目 自分のリード 50m
 深雪のトラバース。
 トサカピークを越えてさらに上部まで抜けるルート取りもあるが、通常はここから岩峰沿いに右へ巻いて横岳の縦走路へ。
 冬でもあまり雪が付かないイメージだったが、今回はテンコ盛り。
 ヘタすると雪崩るんじゃないかと思ったが、見た目よりは随分安定して無事、終了点の縦走路へ。

 

 風も無く、厳冬期にしては穏やかな小春日和の下、しばしランチタイムで余韻に浸る。
 ちょっと早いけど、バレンタインということで弟子がチョコをくれた。(^^*)

 

 

 下りは地蔵尾根。
 さっと下り、行者小屋前のテントを撤収。皆さん、引き際は素早いようで、あれだけあったテントも我々のを含めてあと二張を残すのみだった。

 毎度だるくも行程をソツなく完了した満足感に浸りながら美濃戸口へ。
 「もみの湯」で冷え切った身体をほぐし、帰りは河口湖で食事。

 二日間好天に恵まれ、サクッと良い訓練となった山行だった。


谷川岳一ノ倉沢 一・二ノ沢中間稜

2019年03月10日 | アルパイン(積雪期)
日時:2019年3月9日(土)~10日(日) 前日発一泊二日
天候:両日とも
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 さて今回は谷川岳。
 一・二ノ沢中間稜は以前から行ってみたいと思っていてこれまで何回も計画を立てていのだが、その度に天候不順や体調不良、家の都合や仕事などがぶつかり流れてきた。

 今回も直前まで天気が微妙だったが、幸い土曜日だけは晴れ予報。
 そろそろ雪崩による登山禁止期間に入ってしまうので今シーズン最後のチャンスと思って出かける。

 相方と共に年次休暇が余っているので金曜午後発。昔は谷川といえば夜行で行くのが普通だったが、やはり寝不足は辛い。ちなみにこの日の朝、現地は吹雪だったそう。

 夕方に現地入りし、最初はいつもの無料スペースか土合駅前に車を停めようとしたが、前者は雪に埋もれ、後者には「登山者の方は駐車ご遠慮ください。」の掲示があり、おとなしく谷川ロープウェイの立体駐車場にチェックイン。
 いつものように相方のメスティン山メシと安物ワインでささやかに乾杯した後、車中泊で明日に臨む。

一日目
 行程:起床3:30-谷川岳ロープウェイ4:40-一ノ倉沢出合6:00~20-中間稜・枯木のコル9:10-ピナクル群13:45-東尾根合流点15:40-稜線18:30-肩の小屋19:00

 時間通りにアラームで起き、簡単に朝食。
 寝ている間にこの駐車場も次々と車がやってきてかなり埋まっている。気の早いパーティーは既に用意を整え、歩き始めている。

 天気は良さそうだが雪の状態がわからず、またルートが混雑して時間がかかることも考え、ツェルトにシュラフカバー、小型のストーブなど最低限のビバーク用装備を持って上がることにした。

 満天の星空の下、ヘッデンを点けてスタート。
 無人の登山指導センターに立ち寄り、登山届を提出。うちらの部は一応、県山岳連盟所属なので直前の提出で許されるのでありがたい。
 今シーズンはどこの山も雪が少ないようだが、さすがに谷川岳。一ノ倉沢へ続く道は出だしからテンコ盛りの雪の小山で埋まっていた。
 この季節、谷川は何回か来ているが、この雪の量は久し振りだ。

 

 脇にトレースが刻んであるので、ヘッデンを頼りに進んでいくが、何となく西黒尾根に導かれるようで躊躇していると、後から来た二人組中高年パーティーがこっちでいいんだよと教えてくれた。
 で、何とそのうちの年配の方がつい先日、相方がアイスの練習で一緒になったJCCの方。いやはや、山の世界はやっぱり狭い。

 一ノ倉沢までは深い雪のトラバースだったり、道が現れたり。
 出合に着いた時にはヘッデン不要なほど明るくなっており、もう一時間早めの出発でも良かったなと思った。
 出合には既に数パーティー。さらに先のJCCのように幽ノ沢へ向かうパーティーもいくつか。

 ここで改めて装備を身に着けるが、先に到着していた四人組は話し込んでいてちっとも出発しようとしない。
 不思議に思って「あれ、行かないんですか?」と尋ねると「雪の状態が悪く危ないよ。」とのこと。
 向こうから聞かれたので「一・二ノ沢」とこちらの行先を告げると「それなら雪崩は大丈夫だろうけど。先週も来たけど中間稜は誰も入ってないし時間かかるよ。午前中に抜けないと雪が緩んで危ないね。」と忠告じみたことを言われる。

 何となくその言い方が「上から目線」的で(あんたら、本当に大丈夫?)のように聞こえて(相方もそう感じたらしい)、それ以上、会話をすることは避けたが、まぁ見た目、父娘みたいなコンビが一ノ倉沢をバックに「イェーイ!」みたいな写真を撮り合っているようでは無理もないかも。
 慎重なのは人それぞれだが、これだけの晴天、せっかくここまで来てどこも登らないのはいかがなものか。

 
 既に我々の前には大氷柱狙いか烏帽子岩方面へ向かう数人、そして人気の東尾根へ向かうパーティーが数組が進んでいる。
 我々もスタート。少し行くと左手に一ノ沢が分かれる。
 東尾根へ向かうパーティーはけっこういるが、中間稜へは確かに誰も入らずトレース皆無。意を決して末端から取り付く。
 

 
 いきなり膝ぐらいまでのラッセル。この時期の雪は重い。
 しばらく灌木帯の尾根を小まめに交代しながら登る。
 灌木帯を抜けるとちょっとした雪原状の開けた斜面に出る。時に膝上まで潜る新雪を手足でかき分けながら高度を上げる。
 背後の一ノ倉沢では、あちこちから頻繁に雪崩が落ちている。遠くに見る烏帽子の大氷柱が見事だ。

 


 雪原の斜面を登り切ると、再び灌木混じりのリッジ。トレースはウサギのものしかないが、ルートは何となくうっすらと凹角状になっていてわかりやすい。
 ブッシュを掴んだり、Wアックスを打ち込んだりしてリッジを辿っていく。
 トポではこの辺りからロープを出すらしいが、勢いで枯れ木の立つ小ピークまで登り詰める。

 振り返るとけっこうな急角度で、天候悪化などでここから引き返すのもまた大変だろう。下部のラッセルで思いのほか時間がかかってしまったのが少々気になるが、既に退路は断たれた感じだ。行くしかない。


 枯れ木の小ピークから短い懸垂。ここで初めてロープを出す。
 ただ上から見ると怖い感じがしたが、下のコルから振り返るとそれほど急には見えなかった。ここらはまだ序の口。

 続いて灌木の生えた雪のリッジを進む。
 できればルートを満喫してもらうためツルベで登りたかったが、時間が押しているため、相方にことわった上で自分がリードを受け持つ。
 途中、本当に馬乗りになるような不安定な細いリッジも2~3か所あり、なかなかシビレる。
 お互いを信頼して、ロープを延ばしたままコンテで進む。


 この辺りで上空をヘリが旋回し始める。雪崩による事故でもあったのだろうか。
 自分たちの方にも近づいてきたが、ヘタなアクションを起こすと「要救助者」かと勘違いされてしまうので、我関せずといった感じで登り続ける。

 やがてガイドブック「チャレンジ!アルパインクライミング」の裏表紙でも有名なあのトンガリピークに出る。
 で、あの写真のようにそこから真っ直ぐコルに下りるのだろうと上から覗いてみる。マジか!
 ピークは雪に埋もれているため手頃な支点が取れず、ここをクライムダウンかよとビビったが、よく観察したら向かって左側、切れ落ちた斜面をブッシュ伝いに巻けそうだ。
 夏の藪漕ぎでは何とも憎らしいシャクナゲだが、今はシャクナゲ様様である。
 ただコルまで降りてみるとけっしてピークからの下りはビビるような傾斜には見えず、心理的な眼の錯覚なのかもしれない。


 それよりも問題はこの先。
 正直、ここまで来たらもう東尾根との合流点は近いと思っていたが、この先、ハイライトであるピナクル群、そして最後の雪稜が立ちはだかり、見上げる尾根はまだまだ遠い。
 マジか・・・。
 あの映画「猿の惑星」のラストシーンに似た軽い絶望感を抱きながら(笑)、最悪、東尾根第一岩峰でのビバークを覚悟する。
 ピナクル群は左、右、左と細いリッジを縫うように進んでいく。ここもシビレる数歩があり、慎重に進む。
 一応、岩角や残置でランナーを取りながらスタカットで進むが、両側はスッパリ切れ落ち、落ちたくない所だ。
 
 
 
 
 
    
 トンガリピークの手前から今さらといった感じで後続パーティーが追い付いてきた。
 正直、下部のラッセルでかなり消耗していたので、先に行ってもらいたかったが、「いえ、どうぞどうぞ。」と前に出ない。

 ピナクル群を越えると、ようやく最後の雪稜だ。
 ここから再びロープいっぱい延ばしたまま、コンテで登り詰めていく。
 相方も疲れ切っているようで、時折ロープがピンと張るのでそれに合わせてゆっくりと歩を進める。

 他パーティーを当てにするわけじゃないが、ここまであの重い新雪の中をウチら二人でラッセルしてきたんだから、最後ぐらいは少し代わってほしかったが下の後続パーティーはあまり気にしていないよう。ま、いいけどね。
 結局、彼らはテント以外はフル装備を持っていたようで、東尾根合流点手前のクレバスでビバークするようだ。

 最後の雪稜もラッセルで上がり、ようやく東尾根に合流。
 雪庇のある例のリッジが心配だったが、午前中は多少暑かったものの、午後はそれほど気温が上がらなかったため、雪はいい具合に締まっていた。
 何の不安もなくスノーリッジを通過。


 そして東尾根の第一岩峰。
 既に夕暮れが近く、疲れ切っていたのでここはさっさと右側のルンゼから巻いても良かったが、前回の東尾根で岩峰直登していない相方が登っておきたいだろうとリードを任せる。

 しかし、それなりにヨレていることもあり、相方がここで苦戦。
 三回ぐらいああでもない、こうでもないと仕切り直すが、うまく突破できず。
 「選手交代、代打オレ」ということで自分が代わるが、冬場は凍傷癖がついてしまっているためビレイしている間に指先の感覚があまり無く、また岩も決め手となるガバやその後の草付き壁もイヤな感じで凍り付いていて、四年前に一人で登った時に較べて格段に厳しい。
 正直、落ちるかもとアドレナリンが出まくったが、途中ランナーも取れないまま何とか突破。
 

 
 木の枝で支点を取りフォローの相方を肩絡みで迎えるが、登り始めてすぐに足を滑らせたようでいきなりガツンと大きな衝撃。こちらの足場も崩れて思わず下へ引きずられる。
 
 幸い二人とも怪我は無く、結局、右のルンゼから巻いてもらったが、こちらも油断していたことを大いに反省する。
 その後、ロープがスタックしたりして大幅にタイムロス。
 
 最後の雪壁を越える時にはヘッデンが必要な時間になってしまったが、何とか完登。島崎三歩じゃないけど、よくがんばった!


 ヨレヨレになって、暗くなったトマの耳を越える。
 しぶとい相方はそれでもまだこれからでも下山できる余力を残していたが、ビバークの用意はしているし、ここは安全を期して肩の小屋の冬季小屋へ入る。

 いずれもピークハントの単独の方数名が既に入っていたが、快くスペースを空けてくれた。
 ささやかな行動食しかないが、ガスストーブの暖かい火があれば、ここは十分だ。
 小屋の中にツェルトを吊り下げ、シュラフカバーとダウンジャケットで多少寒い思いをしたが、まぁまぁ快適に眠れた。


二日目
 天候:晴れ
 行程:肩の小屋8:20-西黒尾根下山-登山指導センター10:20


 

 翌日曜日は天気は崩れるとの予報だったが、ここ谷川はいい天気。
 のんびりと西黒尾根を下っていく。

 

 中間部からは快適なシリセード。
 昨日はほぼ休みなしの14時間ぐらいの行動になってしまったが、相方はいつものように疲れ知らずで元気だ。
 まぁ、それでも彼女の中で今回は自分で選んだ「トラウマ的ダイナマイト山行の3位ぐらいになったとか。(ちなみに1位は前年夏に敗退した出合からの穂高・滝谷らしい。)

 


 〆はいつものように「湯テルメ谷川」。
 ギリギリってほどではなかったが、そこそこハードな山行の後だけにやはり生きてて良かったという実感が湧いてくる。
 
 今シーズンは雪解けが早く、一ノ倉沢は来週から登山禁止となる。
 何とか間に合い、また一つ課題を片づけられてなかなか実りある山行だった。

八ヶ岳・旭岳東稜(敗退)

2019年02月11日 | アルパイン(積雪期)
日程:2019年2月10日(日)~11日(祝)前夜発一泊二日
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
 さて、今週末は我が社の山岳部で中級冬山アルパイン。
 目指すは八ヶ岳東面の人気ルート、旭岳東稜。昨年3月に赤岳天狗尾根を登っているので、相方のヒロイ嬢には次はココと決めていた。
 もっとも三連休がずっと好天ならばツェルトビバークも含めて一気に権現岳東稜も登ってしまうつもりだったが、あいにく連休初日は東京でも雪が降る空模様。
 まぁ慌てず騒がず一つずつ片づけていきましょう。
 
 ちなみに旭岳東稜は私はこれで三回目。
 一回目は2002年3月に単独で(核心の五段ノ宮は左から巻き)、二回目は2008年2月に二人で直登ルートを登っている。
 あれからもう11年。はたして今回はどうなるか。
 
一日目 天候:
行程:道の駅・南きよさと-美し森P8:15-出合小屋10:20-旭岳東稜上ギャップ12:45-五段ノ宮下15:30(テント泊)
 
 前日夕方に茅ヶ崎発。圏央道~中央道経由で、その夜は小川山へ行く時によく利用する「道の駅・南きよさと」で車中泊とする。
 美し森の駐車場でもいいが冬季は水道もトイレも使えないし、それほど距離は離れていないので「南きよさと」の方が便利だと思う。
 
 美し森に着くと、驚くほどの車の数。まさかこれ全部、東面に入っているわけじゃないだろな。
 とりあえず準備を整え、出発。

 
 深雪も考慮して一応二人ともワカンを持参するが、歩き始めるとやはり雪は少ない。
 ほとんど靴が埋まらない程度の雪道を出合小屋までアイゼンを着けずに歩く。
 それでも先週は少しは降ったようで、前方に見上げる旭岳や権現岳はいい感じに真っ白だ。

 
 途中、一人が足を挫いたらしい三人Pと擦れ違い、出合小屋着。
 中には既に割と大きめのテントが三張、さらに赤岳寄りの平地にも二張あった。今日はどこに取付いているのだろう。
 
 この雪ではおそらくこの先は要らないだろうとワカン及びストックは小屋にデポする。
 メット、ハーネス、アイゼンを付け、改めて出発する。
 
 旭岳東稜へは手前の権現沢右俣から取付くのと、奥の上ノ権現沢側から取付くのと二通りあるが、今回はトレースに導かれ前者から。
 しかし、そのトレースはおそらく権現沢へアイスに行くパーティーのもののようで、二俣から先、旭岳東稜へ上がる際はけっこう急な斜面を自分たちでトレースを固めながら上がらなければならなかった。

 
 
 スネから膝まで潜る中を何とか稜に上がり、反対側の上ノ権現沢から上がってきたトレースと合流する。
 しばらくトレースを辿っていくと、やがてギャップ。
 それほどの落差はないが、ザックが重かったり、雪の付き方が不安定だと短いながらもロープを出した方が良い所だ。
 今回は長いスリングを使って通過。

 やがて前方に五段の宮が近づいてくるが、この辺りから稜はますます傾斜が強くなってくる。
 初めてのルートではないのだが、自分も歳を取ったせいか、こんなに急だったっけ?と何度も思ってしまう。
 途中の5mほどの雪壁は念のためロープを出して突破。
 
 
 
 その先で男性二人組に遭遇。出合小屋をベースにして軽荷で速攻を狙ったらしいが、ラッセルに時間がかかり、ビバークの用意無しでは今回はここまでとなり引き返すようだ。
 トレースの礼を言い、全装備担いでいる我々はそのまま続登。
 旭岳東稜はこのように二通りの登り方があるが、重荷が辛くとも自分は小屋をベースにせず、ルート途中にテン泊した方が確実で安全だと思う。
 
 さらに五段の宮直下の急斜面も草付きが一部凍っていて少し悪い。
 ザックが重いせいか新雪のステップも自分の重さですぐに崩れてしまい、難渋する。
 それでもたしか以前来た時に「五段の宮」の基部にテントを張っていたパーティーがいたはずだと思い、そこまで上がってみるとテン場としてはけっこう厳しい。
 今回は手抜きせずスコップを持ってきたので整地を試みるが、リッジの両側はスッパリ切れ落ちており、幅90cmのアライ「ライズ1」を張るのがやっとだ。

 
 左側の斜面にステップを刻み、何とかトイレも作り、シェルターに潜り込む。
 久々に間近に見る「五段の宮」は夕暮れのせいかもしれないが、ちょっと暗い雰囲気で、左の巻きルートもけっこう悪そうに見える。
 よくあの頃、何も怖れずに登ったな。
 
 今回は食料も軽量化でと言ったにも関わらず、ヒロイ嬢の用意した夕食はなかなかボリューミー。
 チーズをラザニアで挟み、さらにニンニクスライスを大量にまぶしたハンバーグ。

 
 梅酒を飲んで温まったら後はシュラフにくるまって寝るだけだが、その夜はけっこう冷え込み、二人ともあまり熟睡はできなかった。
 体感でおそらくマイナス20度ぐらいには下がったんじゃないだろか。この歳になると、冬山もけっこうキツイ。
 
二日目 天候:のち
行程:起床4:00-撤収7:30-出合小屋10:50-美し森P13:00 
 
 寒さと頻尿のため二回ほど夜半に起きたため、寝不足のまま起床。
 事前の天気予報では本日も晴れのはずだったが、空は曇り小雪が舞っている。
 
 明るくなるまで出発できそうもないので、のんびり朝食を摂り、様子をうかがうが天候はイマイチ。
 風が無いのはありがたいが、上部は灰色のガスに覆われ、視界はどんどん悪くなってくる。
 改めて五段の宮の取付きまで行き、1ピッチ目を観察するが、昨日は怖ろし気に見えた岩もよく見るとホールドがすぐに確認でき、前回登った時の手順が蘇ってきた。
 しかし、問題はこの曖昧な天気で、旭岳の頂上までは確実に登れる自信はあったが、その先のツルネ東稜の下降でホワイトアウトに掴まりトレースも新雪に埋まる可能性があった。

 
 
 ちょっと賭けになりそうだが、相方に聞くとやはり同意見。ここまで来て引き返すのはもったいないが、やはり天気の良い時にスッキリ登りたい。
 ということで、撤退決定。
 下りもそこそこ悪く、懸垂下降のため数回ロープを出す。
 
 
 
 途中で2パーティーと遭遇。ひと組は諦め切れず五段の宮だけでもと上部を目指していったが、もう一組は我々と同じく今回は諦めて一緒に下る。
 登って行った組も小屋ベースの軽荷なので、あまり無理しなければいいが。
 
 しかし、やはり下りはあっという間。
 昨日はしんどい思いをした登りもどんどん高度を下げ、出合小屋へ。

 
 
 デポしたワカン等を回収し、後はタラタラ林道を歩いて早い時間に下山。
 今回は運が悪かったが、無理をしないことが大切。また近い内、出直しましょう。


八ヶ岳・阿弥陀岳北稜

2019年02月03日 | アルパイン(積雪期)
日程:2019年2月2日(土)~3日(日)一泊二日
同行:K村さん(我が社の山岳部)
 
一日目 天候:
行程:美濃戸口10:45-行者小屋14:45ーテント設営後、阿弥陀岳北稜偵察-テント泊16:00
 
 さて、今週末は我が社の山岳部で初級冬山勉強会。
 いつもの相方ヒロイ嬢は先週からの風邪が長引いているので今回はお休み。代わりに、まだ冬山経験の浅いK村さんが参加したいと手をあげてくれた。その意気や良し!
 
 冬山勉強会といえば本来は雪上訓練・・・なので、当初、木曽駒の千畳敷か谷川岳の天神平で基礎的訓練をし、天気が良ければ翌日登頂というプランを予定していたが、予報ではどちらのエリアも今週は風が強いらしく登頂は厳しそう。
 というわけで、天気次第で何かと融通が利く八ヶ岳に変更。ちなみにK村さんは冬の八ヶ岳はこれが二回目。他にいくつか雪山を経験しているが、どれほど登れるのかわからない。
 一緒に行ったことがあるメンバーからここなら楽しめるのではとアドバイスをいただき、阿弥陀岳北稜に決定。
 
 土曜朝発だが、今週も中央道は渋滞が無く、快適に登山口の美濃戸口に着。
 今週半ばに少し降ったようで、ひと月前に較べるとさすがに回りの雪も増えていた。


 
 
 本日は南沢沿いの道を通って行者小屋まで。
 赤岳鉱泉までの道に較べると、行者小屋への道の方が若干登りがキツく、時間もかかる。
 
 行者小屋へ着いてみると、意外にもテントは少な目。かつては冬の期間の週末ともなれば、けっこうな数のテント村ができていたのだが。
 たぶん整地された空スペースがあるだろうと甘く見てスノースコップを置いてきてしまったが、お陰でフカフカの新雪を掻き分けてテントを設営し終わるまでしばらく時間がかかってしまった。
 そうこうしている内に自分たちの後からパーティーが続々やってきて、気がつけばそれなりのテントの数。
 歩いている時はそれほど感じなかったが、午後3時を過ぎる頃にはけっこう冷え込んできた。
 
 とりあえず阿弥陀北稜へのアプローチにトレースが付いているか、念のため偵察に行く。
 トレース確認後、すぐにテントに戻り、あとはせっせと水作り。
 このところ山での夕食はいつも相方任せだったため、久々に自分で作るとなるとなかなか思い通りにはいかない。
 随分と雑な夕食となってしまい。少し反省。帰ったら漫画「山と食欲と私」でも見て自分でも少し研究するかな。
 
 夕飯を作りながらケータイでネットにつなぐと、何とfacebookで旧知のjuqcho氏が至近距離の行者小屋にリアルタイムで居るという。
 うーん、やはり山の世界は狭い!壁に耳あり障子に目あり。これだからヘタなことはできません。(笑)
 
 予報に反してその夜は風も無く静かな夜だったが、けっこうな冷え込みで、K村さんは夜中何度も寝返りを打っていた。
 朝になって聞いたら、寒くてほとんど眠れなかったとのこと。
 自分も夜半にトイレに起きた後はなかなか寝付けなかった。

 
 
二日目 天候:のち
行程:起床4:00-出発6:45-北稜第一岩峰8:10-阿弥陀岳頂上9:45~10:10-文三郎道分岐11:35-行者小屋12:10~13:00-美濃戸口16:00
 
 朝4時起床。
 昨夜のうちにたっぷり水を作っておいたにも関わらず、出発準備にけっこう時間がかかってしまう。
 自分は昨夜はちゃんと使えていたヘッデンが急に点かなくなったり、デジカメの予備バッテリーをどこにしまったか忘れ右往左往するなど反省点多々あり。

 
 ヘッデン不要の明るい時間になってから出発。
 文三郎道を少し進み、すぐに分岐。
 何となく昨日の偵察時より分岐が近い気がしたが、きちんとトレースはあるし、自分たちの少し前に出発した四人パーティーが引き返してきてこちらのトレースに合流したので間違いはないだろう。
 
 阿弥陀の北稜も人気だが、やはり冬は赤岳主稜が大人気。
 今朝4時に起きて外を見たらもう文三郎道の上部から取付きへ向かうヘッデンパーティーがいくつも見え、おそらく2時起きぐらいなのでは。

 
 四人組と前後しながら高度を稼ぐが、やはり自分がこれまで北稜を登った時と違うようだ。
 いずれにせよ第一岩峰手前のジャンクションピークで合流するが、今回は下から見て右側の稜を登ってしまったようだ。
 ジャンクションかせらそこそこ気を使う岩と雪のミックスとなり、ロープを出すタイミングを見計らいながら第一岩峰まで。

 

 
 先行する四人組が2組に分かれ越えて行った後に、自分たちもロープを結んでスタート。
 今は立派なハンガーボルトが要所要所に打たれ安全快適だが、一番最初にここを登った時はフリーソロで、しかも何も知らなかったから楽な左側面の凹角ではなく立った正面を登ったはずだ。いやはや若気の至りとは恐ろしい。

 
 
 すぐにビレイポイントに着き、フォローにコール。
 K村さんは手袋が岩に滑るようでちょいとテンション気味だったが、それでも落ち着いて登ってくる。
 12月に丹沢・広沢寺で基本的マルチの手順やアイゼントレをやっておいて良かった。
 
 岩と雪のミックス、第二岩峰、そしてほんのちょっとのスノーリッジと繋いで阿弥陀岳の頂上へ。
 先行パーティーは既に下山を開始していたため、快晴無風の山頂はしばらく自分たちだけで二人占めとなった。
 K村さんはこれが冬の八ヶ岳二回目。阿弥陀は夏冬通じて初めてらしいが、絶好のコンディションに恵まれ良かったです。

  

 
 
 十分休んだ後に下山開始。冬の阿弥陀岳の下りはむしろ北稜よりも核心となることがあるが、本日はそこそこの深雪でそれほどスリップの危険は感じなかった。
 K村さんの足取りもしっかりしていたが、せっかくロープを持ってきているので途中、懸垂下降も交えて下る。
 
 条件が良いならそのまま赤岳を越え地蔵尾根から下山の予定で稜線伝いに進むが、二人とも途中からダルくなってくる。
 お互いに聞いてみると「ま、いっか。」と意見が一致。結局、文三郎道の分岐まで来て、そこから行者小屋へと下る。(笑)

 
 
 行者小屋に着いた時はまだ正午だったが、既に小屋は閉まり、テントも我々のを含めて僅か三張を残すのみ。
 みんな帰るの早いねぇ。もう明日の仕事のことを考えているのだろうか。
 我々もコーヒーなど飲みながらゆっくり撤収。無事に美濃戸口まで下山した。

 
 
 〆は久々に「もみの湯」。途中、楳図先生の「まことちゃんハウス」など見学して帰る。グワシ!

八ヶ岳・石尊稜

2019年01月14日 | アルパイン(積雪期)
日程:2019年1月13日(日)~14日(祝) 一泊二日
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)
 
一日目 天候:
行程:美濃戸口10:45-赤岳鉱泉12:30-石尊稜取付き偵察15:45-赤岳鉱泉17:00(テント泊)

 さて、一月最初の三連休。
 年末年始はまったり家で過ごすことを良しとする軟弱山ヤの私は、例年ここから山始め。
 今年はあいにく相方のヒロイさんが連休初日に出勤ということで、二日目からスタートする。
 
 今回行くのは八ヶ岳西面の石尊稜。私は16年振り二度目だが、相方は初めて。
 トポでは初級のバリエーションと位置づけられいるが、以前登った時に変化に富んでいてなかなか楽しめた印象がある。
 
 まずは茅ヶ崎駅に集合。私の車で一路、現地へ向かうが、さすがに連休二日日は空いている。
 思いのほか早く小淵沢ICに着いたものの、ここでビックリ。・・・雪が無い。
 正月明けてこの雪の少なさは長年、八ヶ岳に通っていて初めてかも。
 結局、美濃戸口まで道路にまったく雪を見ないまま着いてしまった。
 
 そして、ある程度覚悟していたことだが、やはり連休二日目とあって美濃戸口の駐車場は満杯。
 少し離れた所に適当に停めてしまおうかと思ったが、右往左往した挙句、最終的には登山口の駐車スペースを確保できた。
 
 まるで春か秋のような陽気の中、恰好だけは完全冬山装備のいでたちでスタート。
 ベースとなる赤岳鉱泉への道はれなりに雪もあり凍った箇所もあったが、歩きやすいせいもあって、二時間半ほどで着いてしまった。
 
 
 
 テントを張った後、欲張って今日の内に小同心クラックでもというプランもあったが、そこは冷静な相方がさすがに無理と判断。
 とりあえず、翌日のために石尊稜の取付きまで偵察に出かける。
 
 もはや16年前の記憶もおぼろげな自分はやはり鉱泉からルンゼへの入口を間違え、一回、中山乗越方面まで行った後、引き返して正規のルンゼへ。やはり事前にアプローチを偵察しておいて良かった。
 石尊稜の取付きまで行きルートを確認したところで引き返し、この日の行動は終了した。

 
 
 今夜の夕食は海老やホタテなど贅沢に使ったブイヤベースとトマト味のリゾットなど。
 いつものように料理は相方任せ。毎度ありがとさんです。
 日頃、仕事のストレスに病んでいる身としては、こうして腹一杯食べ、ワインの酔いの中で宵の内からシュラフに入って眠れることが至福の時である。

 

二日目 天候:
行程:起床4:00-出発5:45-石尊稜取付き6:45-上部岩壁10:50-石尊峰11:20~12:15-地蔵尾根下降-行者小屋12:50-赤岳鉱泉13:45~14:00-美濃戸口16:00

 朝のラーメンを食べてから出発。
 昨日のトレースを追って登山道から日ノ岳ルンゼへ。さらに三叉峰ルンゼを左に分けて石尊稜へ。
 手前でハーネス、ガチャ類を身に着けてから稜に上がる。
 

 
 下部岩壁最初のビレイポイントへは自分たちが最初に到着。
 振り返ると五人組2パーティー。さらにその下に二人組1パーティーが追いかけてきた。
 以前登った時、最初のピッチは1ポイント悪かった記憶があり、どちらからリードするかなぁと相方に尋ねると「やります!」といつものように元気な答え。その意気や良し!というわけで、相方からスタート。

1ピッチ目 傾斜緩めの逆層フェース Ⅳ
 相方リード。
 以前登った時はもっと壁が立っていたような気がするし、そもそもハンガーボルトなど無かった。
 しかし、今回は雪が少ない分、バイルを打ち込むことができず、かえって逆層の岩は悪かった。
 相方のヒロイ嬢、時間は掛けたがA0も使わず、大したもんです。

 

2ピッチ目 傾斜緩めの段差から左へトラバース Ⅲ+ 
 私のリード。逆層が続くが1ピッチ目ほどではない。すぐ上の被り気味の岩を直上しようかと思ったが、安全を考慮してトレースに従い、スラブを左にトラバース。
 すぐ後ろの五人組がルートの左右に分かれ追い上げてきているので、この辺りで先を譲る。


 その後、しばらく雪稜が続く。
 ギャップを越え、交互にロープを延ばし、ピッチを切る。
 多少はその趣きがわかるが、雪がもっと多ければここはけっこう綺麗なスノーリッジとなり、石尊稜の見どころの一つ。雪が少ないのがちょっと残念。

 

 雪稜の最期はコンテで進み、上部岩壁のの基部で一息入れる。
 先に行ってもらったパーティーに追い付き、再び自分たちが先にスタート。

上部岩壁1ピッチ目 少し立った凹角 Ⅲ+
 私のリード。下部に較べて少し立っているように思えるが、凹角でホールドも得やすく割と快適。
 あまり支点は無いが、ガンガン登っていける。
 途中、ビレイ点となるポイントが左手にあったのを見つけられず通過してしまい、登り切った小ピナクルでピッチを切る。


上部2ピッチ目 ルンゼ Ⅲ
 相方リード。岩と雪のミックスのルンゼ。特に問題無し。

ラストピッチ 岩のルンゼ Ⅲ+
 私のリード。
 本当はここまで来たら右側の緩斜面から稜線へ抜けてOKなはずだが、相方はそれを良しとしないようで、しかたなく最上部岩壁ともいうべき眼前の岩に取り付く。
 ちょっとルーファイに気をつけたが、なるべく弱点を繋いで凹角沿いにロープを延ばす。
 案の定、途中に残置は無く、本来はカムや長めのスリングでランナーを取るべきだが、とにかく陽が当たらず寒いので、そのままイケイケで登ってしまう。

 

 抜け出た所は石尊峰のまさに頂上。着いた途端、暖かい冬の陽光に包まれ、ホッとする。
 フォローの相方を迎え入れ、ここで握手。雪少な目だったけどそれが却って厳しくもあり、なかなかイイ感じのアルパインでした。
 しばし休憩とする。

 

 十分休んだ後、下山開始。
 時間があれば硫黄岳、もしくは赤岳山頂まで足を延ばしても良かったが、これまで二人とも何度も登っているので割愛。
 

 
 最短の地蔵尾根を下る。行者小屋まで30分ほどで着いてしまう。
 途中から相方には先に赤岳鉱泉へ戻ってもらってテントの撤収を頼み、私は再び石尊稜の取付きへ。
 まだ未明の暗がりの中で装備を出している時に誤ってルベルソを雪の中に落としてしまったのだ。(登攀中は予備のビレイ器を使用。)
 息を切らして取付きに着き、辺りを探してみるとすぐに見つかった。
 もう十分使った初期のルベルソだが、厚手の手袋をしてても使い易いこの大型のビレイ器はやはり冬のアルパインに重宝するので大事にしたい。
 
 撤収も終わり、あとは美濃戸口までの下山。
 途中で先の五人組と再び会い、四方山話などしながら帰路に着く。お疲れさまでした。


踏み抜けば、赤岳天狗尾根

2018年03月04日 | アルパイン(積雪期)
日程:2018年3月3日(土)~4日(日)前夜発一泊二日
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
 
 さて、今回は八ヶ岳東面のバリエーション、赤岳天狗尾根。一年前から部のステップアップ研修として候補に挙げていたルートだ。
 一応、初級バリエーションという位置付けだが、積雪の具合によってはけっこう体力系で、上部岩稜帯は変化に富んで楽しめる。
 ちなみに私は2005年3月下旬に一人で行って完登したが、下部の樹林帯では思いのほか深い雪でラッセルに苦しめられた。
 はたして今回はどうなることやら。
 
 前夜の内に中央道経由で、登山口の美しの森へ。
 着いた時には登山者らしい車はほとんど無く、かつては賑わったアルパインの世界もいよいよ衰退かと思ったが、そのうちそれらしき車がチラホラとやってくる。
 外気はすっかり春っぽい雰囲気だが、アスファルトの底冷えなのかテントでの仮眠はけっこう冷えた。
 
一日目 天候:
行程:美しの森駐車場7:10-出合小屋10::20-道間違えによるタイムロス(約1h)-ナイフリッジ13:30-標高約2,200m付近樹林帯(テン場)15:20
 
 朝食を摂ってから出発。
 つい最近も降雪があったようで、出だしの林道から積雪。ただ、この時点で雪は締まっており、持ってきたワカンは不要と判断。車に置いていく。
 しかし、その判断は良かったのかどうか。一応、トレースはあるものの、凸凹していて歩きにくい。
 
 今日は行ける所までの予定だが、それなりに長丁場なので、樹林帯のなるべく上まで歩を進め、テントを張っておきたい。

 

 天気は上々。風も今のところ穏やかだ。
 真っ青な空の下、眼前の権現、旭の東稜が純白に映えている。一方、右手の天狗尾根は大天狗、小天狗とも荒々しく茶褐色の岩肌を見せていた。
 
 単調な林道歩きが終わると左手に堰堤が現れ、地獄谷沿いに進むようになる。
 この辺りから少し足が潜るようになる。ワカンを置いてきてのは失敗だったか?でもトレースがあるのでまだ何とかなる。
 しかし、足にまとわりつく雪は重い。湿り気を帯びているのか、普通に歩いていても疲労度が大きく、ペースも鈍ってくる。
 それでも先行者のトレースのお陰で、何とかほぼコースタイム通りに出合小屋に着。

 
 
 ヒロイ嬢は八ヶ岳東面は初めて。今後、旭岳東稜や権現岳東稜も視野に入れているので、そのうちこの小屋にもお世話になるだろう。
 だが、最近はこの小屋も夜はミッキーが出るらしい。ミッキーといえば可愛らしいが、実際、夜中に自分の周りをネズミにウロチョロされると気味が悪い。
 まぁ、今日はこちらには泊まらないので一休みしたら先を急ぐ。
 
 先行パーティーの一組はやや年配の4~5人パーティーで、本当は旭岳東稜へ行く予定だったらしい。
 が、美しの森からこの出合小屋までたっぷり5時間もかかってしまい、この先もトレースが無いことから旭は断念したとのこと。
 軽荷で天狗尾根方面へ少し登ってみるとのことなので、自分たちも小休止後、後を着いていく。
 だが、この辺りから重たい雪がいよいよ本領発揮。トレースがあるにも関わらず、ズボスボ潜る。そして自然の落とし穴にハマる。
 
 しばらくして先行組に追い付いたが、何とそこはツルネ東稜の登り口。
 てっきり天狗尾根だと思ってトレースをのこのこ付いてきてしまった。大きなタイムロスだ。
 さすがにここですぐに計画をツルネ東稜に切り替えるわけにもいかず引き返す。もう何人も歩いた跡だが、けっこう潜る。
 天気はいいが、この重い雪質では今回は時間切れ敗退か?
 
判断を迫られ、改めてヒロイ嬢と協議。
 選択肢としては、
・敗退覚悟でこのまま天狗尾根続行
・直ちに往路を戻り、八ケ岳西面へ転進
・今回はトットと山を諦め、明日はクライミングで仕切り直し。

 自分は正直三つ目の選択でもいいかと思ったが。ヒロイ嬢はできたら行きたいと意志が強く、天狗尾根続行で決定。
 
 
 
 しかし、その先、雪はますます深くなる。
 急な斜面をフウフウ言いながら登り詰め、細い雪のリッジへ。
 さらに樹林帯を登り詰め、上部で先行二人組に追い付く。
 彼らもワカンなし。ウチらと同様、車に置いてきたらしい。それでもここまで二人で登り詰めるとはさすがである。その強靭な体力に驚くとともに感謝する。
 
 そこからはラッセル交替、自分たちが引き継ぐ。が、やはり雪は深く、重い。
 どうにも進まず、時には匍匐前進で進んだりする。
 まだカニのハサミは見えないが、おそらく近いであろう樹林帯の中の比較的平らな場所を選んでテン場とする。・・・疲れた。

 
 
 夕食はヒロイ嬢のお手製メニュー。
 昨年秋に一緒に大同心へ行った時は完全レトルトメニューだったので(私は食にうるさくないのでそれでも満足だったが)、もしかして気にしたのかもしれない。
 具沢山のリゾット風でたいへん美味しくいただきました。m(_ _)m

 
 
二日目 天候:
テン場5:15-カニのハサミ6:40-30mのルンゼ7:00-大天狗の岩場8:25-縦走路9:55-ツルネ11:40~12:00-上ノ権現沢-出合小屋-美しの森P17:20
 
 朝、ヒロイ嬢の特製野菜ラーメンをおいしくいただき出発。
 我々の少し下には後発の三人組がテントを張り、そして昨日先頭で頑張ってくれた中年男性二人組はそれよりずっと下に張ったようだ。
 とにかく今日は我々が一番手。いきなり急な直登、もちろんノートレースだ。
 膝から腿、時には腰までハマって重たい雪と格闘する。

 
 
 樹林帯を出るまで永遠の長さに感じられたが、ようやく抜け出し、眼前に待望の「カニのハサミ」が現れる。
 上部に出ると嬉しいことに(もちろん予想していたが)雪も飛ばされ、歩きやすくなってきた。

 
 
 ハサミは左裾をトラバース。
 次のちょっとした岩稜は雪の付き方によっては悪く、パーティー次第ではロープを出す必要もあるが、今回はヒロイ嬢を信頼してロープは出さず、そのまま通過。
 
 次のセクションであるトラバースから30mのルンゼに移る。
 ここで、後ろの三人組に追い付かれ、トレースのお礼を言われる。
 ルンゼ手前のトラバースはFIXロープが表面に出ていたので、カラビナを通して通過。

 
 
 その上のルンゼは雪の付き方によっては、核心となるポイントだ。
 絶対に落ちれないところだが、雪が安定したのでここもロープを出さずにヒロイ嬢を先に立たせて突破。
 次のニセ天狗の岩稜もそのままリッジ通しに上がる。
 
 そして最後、大天狗の岩場。
 以前一人で来た時はもう少し岩のセクションが長いように感じたが、実際にはほんのひと登りだった。
 フリーで5.10cまでリードできるようになったヒロイ嬢には何の問題もないが、ここだけ念のためロープを出してリードしてもらう。

 
 
 上部に出ると風が強くなってくる。最後は簡単な雪稜を登り詰め、ようやく縦走路との分岐点に到着した。
 ここで握手!お疲れさまでした!

 
 
 時間と余力を考えて今回は赤岳は割愛、縦走路をツルネへ向かう。
 しばらくは岩のルンゼを矢印に導かれ進む。
 キレットまでガーッと下って、その後のツルネへの登りが辛い。
 
 ようやくツルネ。ここで大休止とする。
 周囲の展望を満喫する。

 
 
 しかし、気を抜いたわけではないが、その後の下山でちょっとミスった。ツルネ東稜を下るつもりが、誤って別の下降路をとってしまう。
 後から旭東稜の三人組も付いてきたが、どうも判然としない。結局GPSを持っている彼らの後を付いていくようにしたが、途中から尾根はブッシュがひどくなり、右手の上ノ権現沢へ導かれる。
 深雪で滝がほとんど雪のデブリに埋もれていたため、労せずそのまま下れたが、本来はリスキーな選択。
 最後までロープを使わず下れたラッキーだった。
 
 出合小屋で先導してくれた東京の山岳会三人組に礼を言い、夕暮れ迫る林道を下山する。
 昨日からの二日間、踏み抜きラッセルに苦しんだが、下山になっても最後の最後まで落とし穴にハマったりして辛抱我慢の山行だった。
 素晴らしい天候と頑張ったパートナーに感謝。

 

冬の南ア・三度目の鋸岳縦走

2018年01月07日 | アルパイン(積雪期)
日程:2018年1月6日(土)~7日(日)一泊二日
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
 
 2018年最初の山は南アルプス鋸岳。今回は我が社の山岳部のステップアップ山行を企画する。
 冬の鋸岳は、自分は2009年1月にjuqcho氏と縦走、2013年2月には単独で鋸~甲斐駒を登っていて、今回が三回目。(その他、夏にもう一回)
 一泊二日の体力系バリエーションとして、そこそこ手応え感じてもらえるはず。

一日目 天候:
行程:戸台川駐車場11:00-角兵衛沢出合13:00-左岸大岩基部(テン場)15:00
 
 当初のメンバーは自分を入れて三人。
 それぞれ横浜と小田急線の相模大野でピックアップし、圏央道、中央道を繋いで登山口の戸台へ。
 年始めの三連休だが、正月休みが明けたばかりのせいか、思いのほか高速は空いており快適。
 渋滞無しで現地へ着くが、戸台川の河原の駐車場へ着いてビックリ。物凄い車の数だ。
 仙丈や甲斐駒、あるいはアイスに行く人もいるだろうが、この分では鋸岳も混んでいるのでは?その前に今日のテン場は確保できるのかと若干不安になる。
 
 河原には最近取締りが厳しくなった長野県警が常駐。H部長に登山届を出してもらい、出発する。
 雪はかなり少なく、前衛の山は黒々としている。でも冷え込みは厳しいようで、周辺の小滝はしっかり凍っている。
 雪もまばらな河原の道を右岸から左岸へと移り約二時間歩き、鋸岳へのアプローチとなる角兵衛沢出合に到着。

 

 

 だが、ここで予期せぬアクシデント。
 小さな流れを飛び石伝いに渡るところでH部長がバランスを崩し転倒。軽く突き指をしたようだが、その前にふくらはぎの調子がおかしいらしい。
 出合の所で協議するが、本人がまさかのリタイア宣言をし、結局残り二人で続行となる。

 若干分担が重くなったザックを背負い、樹林帯から歩きにくいゴーロの道をフウフウ言いながら左岸の大岩に着。
 前回、前々回とも冬の鋸は人気で、この自然の岩小屋のテン場も着いた時には満員御礼だったが、今回はなぜか先客無し。
 河原の駐車場にはあんなに車がいっぱいだったのに。
 これまでもヒロイさんと行くとなぜか激混みのはずの岩場がガラ空きだったことがあるが、今回も彼女の妖力?のせいか。
 下の方は雪が少なく水が作れるか心配だったが、ここまで来ればまぁ何とか雪はある。
 H部長が託してくれたギョーザの具を肉団子にした野菜入り「〇ちゃん正麺」は、絶品!
 その夜の大岩下のテン場は風も無く快適だった。

二日目 天候:
行程:起床4:30-出発6:30-角兵衛のコル8:40-鋸岳第一高点9:15-鹿窓10:20-第三高点10:35-大ギャップ11:30-第二高点12:45-中ノ川乗越13:30-熊穴沢出合16:00-戸台川駐車場17:50

 夜半は放射冷却でもあったのか、かなり冷え込み、シュラフカバーの上には霜が落ちていたが、朝起きてみたらそれほど寒くない。
 風も無くスッキリと晴れ、絶好の日和だ。

 野菜春雨スープの朝食を摂り、テントを撤収。コルまでのキツい登りから二日目が始まった。
 雪があればガンガンとキックステップで高度を稼げるが、寡雪のため上部まで中途半端なゴーロで歩きにくい。

 
 
 コルに到着してひと休み。今回はステップアップ研修なので、極力ヒロイさんにルーファイ含めてリードしてもらう。
 ひと登りで、まずは鋸岳最高峰の第一高点へ。
 絶好の展望台で、甲斐駒、北岳、仙丈、そして中ア、北ア、八ヶ岳のパノラマが快晴の空の下、広がる。
 進路を見ると、第三高点の辺りに三人パーティーの姿が見えた。今日の鋸岳は彼らと我々の二組だけのようだ。

 

 
 
 第一高点から少し下って雪稜を行く。
 雪は少ないが、ここはいつも通りしっかり左側に雪庇ができている。寄り過ぎないようにして通過。
 
 その先で10mの懸垂下降。 
 そして次の登り返しがちょっと始末が悪い所。鎖が垂れているが、岩がエグれていて登りにくい。
 雪が豊富ならピッケルとアイゼンでサクサク登っていけるが、今回のように雪が少ないと鎖があってもイヤらしい。
 ヒロイさん、ちょいと苦戦するも何とか突破。自分も後に続いてここをクリア。
 さらに細いリッジ、急な雪の斜面をトラバース気味にクライムダウンと、この辺りが鋸岳縦走の核心。パーティーやコンディションによっては、ロープやお助け紐を出す所だ。

 

 
 
 登り返した所が鹿窓。
 冬は潜らずにそのまま左のリッジ通しに進み、第三高点着。今越えてきた背後の第一高点がダイナミックである。
 (鋸岳は端から順番に第一、第二、第三高点ではなく高さの順になっており、手前から第一、第三、第二高点となる。)

 

 

 その後が二回目の懸垂下降。
 前回、前々回は雪の状態が良かったので、段差を右方向にトラバースしていって懸垂ポイントに至ったが、今回はコンディションが不安定でかなり上から懸垂とする。
 結果、ピッチの区切りが50mロープの折り返しだと中途半端になり、都合4回も短い懸垂を強いられ、かなり山梨県側のギャップに降り立った。
 懸垂支点はそれぞれしっかりスリングが残されていたので、これはこれで間違いではないのだろう。

 

 大ギャップの最高点まで登り返し、南側の長野県側へボロボロのルンゼを慎重に下っていく。
 だいぶ下ったところから岩と雪の斜面を登り返し、リッジ伝いに登って最後の第二高点に着。
 けっして長い距離ではないが、それなりに時間と慎重さを要するこのコースをヒロイさん、よく頑張った!

 

 あとは正面やや左寄りの雪のルンゼを下って中ノ川乗越へ。
 成人の日の三連休だが、最終日の明日の天気が下り坂で、我々の計画もここまでに縮小。
 念のため周辺のトレースを確認すると先行の三人組も甲斐駒までは向かわず、この熊穴沢を下ったようだ。
 
 ここからは爪が減るのがもったいないので、アイゼンを脱ぐ。
 熊穴沢は、上部は不安定な浮石のガレで疲れた身体にはなかなかシンドイ。しかし下部はうまい具合に雪が繋がっていた。
 この下りだけでたっぷり三時間かかりヘトヘトだが、それでも明るい時間に河原まで下れたので良かった。暗くなってしまうとここは木に結ばれた赤テープ頼りなので、途中で幕営なんてこともあり得る。

 
 
 さすがに最後の河原歩きは宵闇に掴まり、ヘッデン下山となってしまったが、とりあえず無事で何より。
 我が社の山岳部にしては、プチ・ハードな内容にしてしまったが、ヒロイさんお疲れさまでした。

 

春の谷川東尾根・ふたたび

2015年03月21日 | アルパイン(積雪期)

日程:2015年3月21日(土) 前夜発日帰り
天候:

行程:ロープウェイ駐車場4:50-一ノ倉沢出合6:00~18-シンセンのコル8:00-第二岩峰上8:30-第一岩峰基部9:55-オキの耳10:20~50-トマの耳11:10-(オジカ沢の頭との鞍部まで偵察)-西黒尾根-駐車場14:20

行動:単独

 今週末は谷川岳へ。
 当初の予定では我が社山岳部の春合宿に向けた雪稜トレの一環だったが、当日までに都合により一人減り二人減り・・・そして前日の昼になって頼りにしていたリーダーが体調不良で、まさかのリタイア!
 どうする?やめようか。でもこういう時に限って天気予報はいいし、登山届も用意できている。
 結局、中止にする理由が見つからないまま、金曜深夜に現地入り。

 東尾根はアルパインの入門コースで11年前の同時期にも単独で登っているが、条件さえ良ければけっして難しくはない。
 だが、絶対に落ちれないスノー・リッジや途中まで登ってしまうと退却困難になるなど、単独だとやはり不安要素が大きい。
 明朝起きてあまりにも気持ちが乗らなかったら、西黒尾根か白毛門への登山に切り替えようと仮眠する。

 翌朝4時起き。
 ロープウェイ駐車場では他パーティーも動き出した。
 昨夜、コンビニで買った焼きそばをポカリで流し込み、出発。
 とりあえず一ノ倉沢の出合までは行ってみようと煮え切らないまま、歩き出す。

 登山指導センターから先は残雪がテンコ盛り。
 しかし最初は多いと思った雪も進むにつれ、林道の表面が出てきたりする。
 雪も程良く締まっており、アイゼンが良く効く。しかも天気は快晴。これはもしかしてイケるんじゃないかと気持ちも晴れてきた。

 
 
 マチガ沢を過ぎ、一ノ倉沢まで1時間ちょっと。
 出合に立つと朝陽が当たり、岩壁群がオレンジ色に輝く。
 威圧感はまったく無く、むしろ久々に帰ってきた感じだ。

 残雪の一ノ倉沢

 先行するパーティーを見送り、ゆっくりとトイレタイム。身支度を整えて最後尾から入る。

 少し進むと左側に一ノ沢。
 この時期、一ノ沢は陽が当たる前に登るべきという人もいるが、この時間ならまだ大丈夫。
 あまり暗いうちだと雪崩や落石があっても避けられないし、デブリの上も歩きにくい。

 だいぶ先を進んでいた先行パーティーとの間も徐々に縮まり、中間地点で追いつき、そのまま一人抜き、二人抜き・・・でシンセンのコルへは五人中、二番目に到着。
 振り返るとけっこう急な斜面で、よほどのことが無い限りもはや降りる気もしない。行くしかない。

 
(左)デブリの一ノ沢を詰めていく                 (右)一・二ノ沢中間稜

 一組目の方と話をすると、何と共通の知人がいて、やはりこのろくでもない世界は狭い。
 彼らはトイレタイムに入り「お先にどうぞ。」と言われたので、僭越ながら単独トップに立たせていただく。

 コルから尾根の左側を進むと、すぐにちょっと急な草付の壁。
 前回来た時は雪に埋まっていたのだろうか。あまり覚えていない。
 細い枝をあまり力を加えないようデリケートに掴みながら這い上がる。

 その先、スノーリッジを進むと第二岩峰。
 前回は登路が全て雪で繋がっていて特に問題無かったが、今回は雪解けが若干早いのか岩峰の手前に小ギャップあり。
 そこを跨いでからの数mが雪の付き方が不安定でちょっと悪く感じたが、先週の秩父・赤岩尾根に行ったばかりなので微妙な草付にはすっかり慣れてしまった。

   第二岩峰をクリア

 最初のステージをクリア、お次は観倉台と呼ばれる雪のドームへ200mほどの一気登り。
 先週のトレースを頼りにグングン高度を上げて行く。右手を見ると一・二ノ沢中間稜を二人組(男女のガイドパーティー)が登ってきている。
 このまま進めばナイフリッジの所で合流しそうだ。
 
 時折立ち止まり、写真を撮りながら行く。周りは全て青と白の世界。
 前回は緊張のせいかあまり写真を撮る余裕が無かった。
 
 後ろを振り返ると後続パーティーの姿が見えない。
 「一ノ沢の登りでバテたのでシンセンのコルまでにしとくかも」と一人の方が冗談ぽく言ってたが、まさか本当にやめちゃったのか?
 
 途中、雪が切れて段差ができていたが、一気に登って観倉台に着。
 一ノ倉沢、マチガ沢、登ってきた東尾根下部、そしてどこまでも広がる上越の山々を一望にする。
 合流すると思っていた中間稜パーティーは先にナイフリッジへ進んでいた。早い!

 さて東尾根のハイライト、スリルと恐怖のナイフリッジだが、今回は雪も程良く締まっていてトレースもバッチリ。まったく快適に通過できた。
 前回はトレースを崩さないよう一歩一歩慎重にアイゼンで蹴り込んでも雪が不安定で、何とも怖ろしかったものだが・・・。
 もっとも一歩バランスを崩せば、一の倉沢の底まで一気に滑っていくことは間違いない。
 この冬、先にトレース付けてくれた全ての方に感謝!

                           

 魅惑のスノー・リッジ

 ナイフリッジの下りも難なくこなし、いよいよ最後の核心、第一岩峰である。

 ルートは三通り。
 右側の急な雪壁、残置スリングのある岩峰右側、そして被り気味だが、ガバ豊富に見える岩峰正面。

 先行のガイドPは右側の雪壁から抜けて行ったので、安心面から言うと自分もそうするべき。
 しかし、右側の雪壁は前回一人で越えていたので、今回は試しに正面突破にチャレンジしたい。
 岩の部分はせいぜい4mほど。グレードもアルパインの3級程度というから何とか行けるだろう。

 
(左)正面、黒い岩が第一岩峰                   (右)第一岩峰の基部は東尾根唯一の休憩できる平坦地

 行動食をとり一呼吸入れてから取付く。
 見た目ガバと思っていたが、正面から取付くと意外と外傾していて指の掛かりが良くない。
 パワーで押し切ってもいいが、アルパインではいつどこで岩がグラッと来るかわからない。
 ザックを背負ってアイゼンだと、思ったより登りにくい感じだ。
 一回仕切り直すため、慎重にクライムダウン。よくオブザベしてから再度取付く。
 
 まず左側一段高い岩にハイステップで乗り上げ、そのまま右足ステミングで体勢を整える。
 両足の位置を整え、もう一段上がったら今度は右側水平ガバ、右足を少し離れた平らな岩に伸ばし、左足切る感じで乗り込む。
 後は雪面に乗り上がってトップアウト。決まった!これで核心をクリア。

  
 (左)第一岩峰                (右)最後の雪壁から東尾根を振り返る 
 
 最後、フィナーレの雪壁はシーズン終わりとあってトレースがしっかり刻まれ、威圧感はまったく無い。時間的にも雪が腐り始める前に何とか間に合った。
 あっけなく登ってしまうとオキの耳の頂上すぐ横に乗り上げた。

 一般ギャラリーから注目を浴びるのは北鎌と同じ。いや、それ以上か。
 居合わせた山ガールからは「すご~いっ!」と賞賛の言葉をいただき、単純に嬉しい。

  

 本日は絶好の天気で、ここオキの耳も少し離れたトマの耳も多くの人で賑わっている。
 一ノ倉沢の出合から東尾根を伝って4時間半。途中、散々写真を撮ったのでまぁこんなもんか。
 行く前はけっこうビビっていたくせに、取り付いてみたら案外サクッと登ることができた。
 後続パーティーはずっと下の方に見える。これからだと雪が緩んでちょっと苦労するかもしれない。

 
(左)東尾根を俯瞰する                      (右)トマの耳にて

 大休止後、トマの耳へ移動。
 時間はまだ十分早いので、オジカ沢の頭方面へ足を伸ばす。
 しかし、やはりこちらは歩く人が少ないせいか、ちょっと油断するといきなり股までズボーッとハマってしまう。
 今後、春の上越大縦走はやってみたいテーマなので、これは行動時間や装備の面でとても勉強になった。
 オジカ沢の頭へ向かう最低コルまでで諦め、トマの耳に引き返す。

 
(左)オジカ沢ノ頭方面                      (右)肩ノ小屋

 下りは西黒尾根。
 前回の東尾根の時はあっという間に下りた気がしたが、今回はそこそこ長く急な下りに思えた。
 追い付いてきた東尾根の後続1組の方と途中で合流。
 四方山話をし「またどこかで会いましょう。」と言って別れる。

 
西黒尾根

 夕方になり「湯テルメ」へ行くが、駐車場は満杯。
 しかたなく本日は「水上ふれあい交流館」へ転進するが、小さな内風呂のみでちょっと物足りなかった。
 
 その夜は土合駅前で車内泊。
 翌日、天気と体調が良ければ白毛門でも行ってみようと眠りにつく。

 


八ヶ岳・自主トレ-赤岳南峰リッジ~硫黄岳縦走

2014年03月09日 | アルパイン(積雪期)

天候:
行程:行者小屋テン場6:30-文三郎道分岐7:35-南峰リッジ-赤岳頂上8:30~9:00-横岳10:25-硫黄岳頂上11:20-赤岳鉱泉12:25-行者小屋テン場13:15~14:00-美濃戸口15:50
行動:単独

 さて二日目。
 寒さと暗さでグズグズしていたが、6時半になってようやく出発。
 昨日の阿弥陀北稜が思いのほかイヤらしかったので、今日は無理せず赤岳から硫黄岳まで稜線通しに歩いて帰ってくるつもりだった。
 でも、やはり途中で気が変わるかも・・・と一応、メットやバイルは持って登っていく。

  朝の行者小屋前

 主稜には今朝も早くからクライマーが取付いて、コールが聞こえている。
 もしかしたら行けるのかもしれないが、さすがにここをフリーソロで登る度胸は自分には無い。所詮、ビビリなのだ。

 そのまま文三郎道を肩まで登っていくと、南峰リッジを縫うようにきれいな雪のルンゼがS字を描いて頂上まで繋がっているように見えた。
 主稜は無理でもやはり南峰リッジぐらい登っておこう。今日の狙いはリッジを縫うように伸びているあのスノー・ラインに決める。

 前後する一般登山者から離れ、左手の急な雪壁を登り始める。
 雪質は最高で、アイゼンでのキックステップが快適に決まる。

 雪壁の角度はせいぜい50度。読みはバッチリで、そのまま雪壁通しに赤岳頂上まで抜けられそうだった。
 だが、やはりそんなに甘くない。

   南峰リッジ

 雪壁と雪壁の間に何ケ所か岩の繋ぎ目があって、短いながらもここが思った以上に悪かった。
 サラサラの雪に覆われ、ピックを刺してもまったく効かず、雪を払ってホールドを求めようとすると今度は中から岩屑がボロボロと出てきてまるで手掛かりがない。
 一瞬のバランスで耐えて何とか最初の難所を越えたが、そこを越えたらまた同じような岩が現れ、何回か動きが固まってしまう。
 グレードで何級とかいうものではなく、とにかく泣きたくなるようなピッチだった。

 昨日の阿弥陀北稜以上にシビれながら、それでも無事に赤岳に着く。
 やれやれ。朝からアドレナリン全開になってしまった。

  赤岳頂上。セルフタイマーで。

 しかし、そんな自分を頂上で待っていたのは怒涛の「シャッター押してください」攻撃。
 こちらが登り着いたばかりでゼイゼイ言っているのにお構いなしに声を掛けてきたり、一人で「ガラケーとデジカメ両方お願い。」とか、そろそろ出発しようとしているのに後ろから「あっ、私もお願い!」とか。
 ・・・ホント勘弁してほしい。(今度から今話題のあの人のように、聞こえないフリでもしようかな?)

  赤岳~横岳方面へ進む。

 赤岳を後にし、タイム・スケジュールとしてはちょっと押しているが、行けるとこまでと思って横岳方面へ足を進める。
 横岳の鎖場は今回は多雪が効を奏して特に悪くは感じなかった。
 ただ、横岳~硫黄岳間にほんの一か所、阿弥陀北陵の最後のナイフリッジのような細い岩尾根があって、ここが少々「肝試し」的なポイントとなっている。

   横岳

 ラストは強い西風によろめきながらタラタラと硫黄岳を登り、快晴の下、昨日から歩いてきた阿弥陀、赤岳、横岳のパノラマを堪能する。
 その後、ほとんど休む間もなく、赤岳鉱泉経由で行者小屋へ。
 既に人影も疎らとなる中、自分のテントを撤収し、再び重荷に喘いで美濃戸口へ帰ってきた。

   硫黄岳

 今回のルートは既に登っているのでそれほど新鮮味は無いものの、自主トレとしてはまぁまぁ充実した。
 とりあえず年末から負けが続いた我が山行も、今回は自分で課したノルマを達成できたので良かった。
 
 ソチ五輪のレジェンド葛西じゃないけど、歳をとっても進化できるよう頑張ろう!


 写真集 2014年3月 八ヶ岳・赤岳南峰リッジ-硫黄岳縦走
 
 


八ヶ岳・自主トレ-阿弥陀岳北稜

2014年03月08日 | アルパイン(積雪期)

天候:
行程:美濃戸口10:30-行者小屋テン場13:30~14:10-ジャンクションP15:20-第二岩稜15:50-阿弥陀岳頂上16:20~30-文三郎道分岐17:30-行者小屋テン場18:20
行動:単独

 今週末は谷川(一ノ倉沢)の予定だったが天気予報が悪く、またしても見送り。
 八ヶ岳の方は良さそうなので、代わりに一人で自主トレとする。

 先月二回の記録的大雪がどのくらいの影響か気になるが、事前に「赤岳鉱泉」のブログで確認してみたら、まぁ何とか行けそうな雰囲気。
 単独だと大したところは行けないので、一日目は阿弥陀北稜、二日目は赤岳南峰リッジ(余裕があれば硫黄岳まで)とする。もちろん雪の状態次第だが・・・。

 今週は女房が車を使うので、電車とバスを利用。
 初日は横浜を早朝発で美濃戸口に着くのが午前10時過ぎ、翌日の終バスには美濃戸口に16時半には帰ってこなければならない。
 2001年12月にも同じパターンでやっているが、はたして今回どれだけ行けるだろうか?

 茅野駅に着くと、バス停には予想以上の登山者の列。
 バスが出発し車窓から見る茅野の風景は、先月の大雪がまだたっぷり残っていて、まるでドラマ「北の国から」の富良野のようだった。

  
 賑わう美濃戸口                                   積雪多いアプローチ  
 
 美濃戸口に着くと既にマイカー組も相当入っているようで、アプローチでのラッセルは杞憂に終わった。
 快適なトレースに導かれ、一時間ほど林道を歩き、分岐から南沢沿いの道へ。
 雪が多いせいか、いつもと様子が違い、ルートも以前より右岸の高い位置に付け替えられたように思えるが、気のせいか?

 行者小屋までほぼノンストップで進むが、後半、重荷にバテて結局3時間近くかかってしまう。

  行者小屋のテン場

 行者小屋に着くと、整地もそこそこにテント(アライの「ライズ1」)を張り、しばし作戦を確認。
 14時を回り、これから取り付くには遅い時間だが、偵察がてら必要最小限の物だけ持って阿弥陀北稜へ向かう。
 前回も使わなかったので、今回ロープは最初から持参せず。

 テン場から少し上がると、すぐにトレースが二手に分かれ、一方は右手の阿弥陀北稜へと延びていた。
 さすが人気ルートだ。

 トレースに沿って進んでいくうち、やがて前方から4~5人パーティーが降りてきた。
 ラッセルの御礼を言い、話を聞くと、今日は偵察だけでこの少し上までトレースを付けたとのこと。アイゼンを置いてきたので、明日を本番にするらしい。
 「これから登るんですか?」と聞かれたが、時間も時間だし、この先一人でどれだけラッセルを強いられるか見当がつかない。
 まぁ行けるトコまでで止めときます。(それよりもここまでトレースありがとうございました。)

  ジャンクションP手前から見る阿弥陀北稜

 その後、急な深雪の斜面を登った所でトレースは終わっていた。
 ジャンクション・ピークまであと少し。
 ここまでツボ足で来れたが、ここでようやくアイゼンを履く。

 幸い、雪はイイ感じに締まっていて、深くは潜らない。
 ジャンクションの直下は部分的に60度はありそうな雪壁だが、雪の状態は良く快適に登っていく。
 第一岩稜も細い灌木の間を深雪がイイ感じに埋めていて、特に問題無く越えた。
 
 そして核心の第二岩稜。
 最初の岩場は左から回り込んで凹角の所から取付くはずだが、たしかその凹角ラインも二つあって、前回は手前側を登ったので今回は少し奥の方から取付くつもりだった。

  第二岩稜

 で、まずは岩場に沿って左手の雪の斜面を登っていくが、どうやら少し上がり過ぎてしまったようだ。
 しかたなく途中から急な雪壁を登って岩稜上に戻るが、登り着いた先はちょうど1ピッチ目の終了点だった。

 結局、最初の岩の部分を1ピッチ分巻いてしまったわけだが、今回は雪も多く、巻いた雪壁もそれなりにスッキリした登りだったのでヨシとしよう。

 続く2ピッチ目。
 以前見た時より傾斜は無いように感じたが、出だしはともかく、抜け口辺りのホールドとなる岩がほとんど深雪に隠されてしまってイヤらしい。
 雪を堀り起こしながら登るが、ほとんどスローパー状態の岩をグローブはめたまま登るのはちょっと(いや、かなり)怖かった。

 そして、最後のナイフリッジ。
 ここも雪が安定して先行者のトレースがあればスタスタと進めるところだが、今は細いリッジ上にフワフワの新雪がテンコ盛り。
 試しに一歩踏み出してみると途端に大量の雪がモサーッと落ちて、これで一気にビビッてしまった。

 しばらく迷うが、今は自分一人だけだし、ここはリッジ上に半分馬乗りになって進む。
 またがってしまえば、それほど怖くない。

  
 最後のナイフリッジを越えて

 リッジを渡り、後は最後のなだらかな斜面をひと登りで、阿弥陀岳頂上。
 既に陽は西に傾き、もちろんこんな時間に頂上にいるのは自分一人だけだ。
 
 今回はけっこう厳しかった。でもとにかく無事に登れた。
 頂上の標識はほとんど雪の中に埋もれている。これまで何度も来た冬の阿弥陀だが、これほど大量の積雪は初めてかもしれない。
 それでも南稜から上がってきて、そのまま御小屋尾根方面に消えていくまた新しいトレースが一つだけあった。
 見た感じ、単独行かせいぜい二人組のような足跡で、この深雪の中、南稜から登ってくるのは凄いと思った。

  
 道標がほとんど埋もれた阿弥陀岳山頂(右の写真は2005年1月に北西稜から登った時の同じ道標。どれだけ雪が多いかわかります。)

 一人だけの頂上を十分満喫した後、下山開始。
 雪の状態によってはけっこう悪いこの下山路も、今日は多量の積雪が功を奏して、それほど悪くない。
 でも、さすがにその先の中岳沢は今日は足を踏み入れる気になれない。
 一歩踏み込んだ途端、自分の身体が埋まりながら一気に雪崩れそうな気配が簡単に想像できた。

 おとなしく中岳経由で文三郎道の分岐まで稜線伝いに行くが、いつもは気にも留めないこの稜線も今日はそこそこ見栄えのする雪稜になっていた。
 分岐に到着。ここまで来ればもう安心だ。
 後は暗くなりかけた雪の斜面をヘッドランプの明かりがチラチラする行者小屋に向かって一気に下った。

  暮れなずむ行者のテン場

 写真集 2014年 八ヶ岳・阿弥陀岳北稜
 

 


冬の鋸岳から甲斐駒へ

2013年02月11日 | アルパイン(積雪期)

日程:2013年2月9日(土)~11日(祝)
行動:単独 (supported by 大学山岳部混成チーム)

 この三連休は南アルプスへ。
 
 冬の鋸岳は四年前に二人で挑戦したが、その時は厳しい寒気に気持ちが折れ、また深い雪に遅々と進まず時間切れ。
 一応、鋸の縦走は成ったものの、途中の中ノ川乗越から下山した。
 それはそれで十分満足したはずだったが、あれから数年経ち、やはり甲斐駒まで行かないと何か中途半端という気持ちがどこかにあった。
 特別難しいわけでもなく、技術的には一人でも何とかなりそう。あとは天候と雪のコンディション次第。自分の冬山での力を確認するにはいい課題かもしれない。

一日目(2/9) 天候:
戸台11:00-角兵衛沢出合12:40~55-大岩14:45-角兵衛のコル16:30

 連休初日、未明に横浜を車で出発。
 今回、ザックの重さは約16kg。テント、ロープ、冬用シュラフに最低限のガチャ類を入れるとどうしてもこのぐらいには、なってしまう。
 一人で行く冬山は寒いし、重いし、行きたい気持ちとやめたい気持ちが半々。出発まで常にやめようとする理由を探している。もうイイ歳なんだから、もっと気楽な山、あるいは近場の外岩でも登って楽しければ、それで十分じゃないかと思ってしまう。

 この日の中央道はスキー渋滞も無く、スイスイと登山口の戸台へ。
 非力な我が車は河原の駐車場までアイスバーンを登れず、手前の橋本山荘に駐車する。
 河原には既に20台近くの車が停まっていた。

 まずは戸台川沿いの長く単調なアプローチ。
 最初は右岸、途中から左岸に移って進む。思ったよりも雪は少なく、歩きやすい。
 天気も安定し小春日和の中、途中に点在するボルダー岩を観察しながら行く。

 
戸台川の長いアプローチ                      角兵衛沢への入口

 2時間弱で角兵衛沢出合着。前回よりも早い。
 対岸に渡り、行動食を摂って小休止の後、樹林帯の登り。雪で滑りやすくなってきたが、しばらくはまだアイゼンを履かずに行く。

 単調な登りを続け、とりあえず宿泊適地の大岩に着くが、まだ陽は高い。
 既に宿泊組がいるようだったが、なるべく行程を稼いでおこうとさらに登り続ける。

 
角兵衛沢入口ケルン                       コルへの登りから見た大岩

 ここからはグッと傾斜が増し、アイゼンを着ける。
 前回は二日目の暗いうちに登っていたので気付かなかったが、この角兵衛沢、上部へ来ると槍の北鎌沢や剣の長次郎谷などよりもキツい傾斜に感じる。

 けっこうヘバりながらコルに到着。
 先客はせいぜい一張り程度と思ったら、なんと緑色のエスパースが既に三張り。
 他にイイ場所が無かったが、コルに向かって左側、ちょっとした岩のシュルンドの吹き溜まりに一人用シェルターをかろうじて張る。
 中央アルプスの夕焼けを見て、一日目の行動終了。

 
角兵衛沢のコル                           わずかなスペースに「ライズ1」を張る。


二日目(2/10) 天候:
角兵衛沢のコル6:30-鋸岳第一高点7:00-第二高点9:45~10:05-中ノ川乗越10:40-六合石室13:25-甲斐駒山頂16:15-六方石17:00(ビバーク) 

 一人だとついダラダラとしてしまうので、本日は4時起き。
 しかし、そういう時に限っていつになくテキパキと準備が進み、5時前にはスタンバイOKとなる。

 近くに陣取った他パーティーも準備を進めているようだが、まだ外は真っ暗なので、ヘッデンがいらなくなる頃まで待機する。
 結局、6時過ぎにテント2張り6~7人のグループ(大学山岳部混成チーム。以下「学生P」)、5人グループ(カモの会)、そして私と続いて出発。

 コルから第一高点へは潅木混じりの急な登りだが、学生Pは早くもロープを出している。うーん、ここでロープを出してたらけっこう時間がかかるのでは?
 カモの会と私はサッサと脇を通過させてもらったが、その後の学生Pの安定した行動を見るとここは敢えてロープワークの練習をしただけのようだった。

 
第一高点への雪稜                         鋸岳第一高点。2,685m 

 第一高点着。
 360度、雲一つない快晴の下、北ア、中ア、そして仙丈、北岳、甲斐駒、八ツを一望。
 カモの会と写真を撮りあい、先へ進む。

 第一高点から先は一段下がってきれいな雪稜。左側は雪庇となり、踏み抜かないよう注意したいところ。
 リッジ伝いに行き、次に小ギャップへの下降。
 10m弱なので露出している鎖を使ってクライムダウンできそうだが、けっこう立っていてザックも重い。ここは皆、面倒がらずにそれぞれロープを出して懸垂下降する。

 
鋸の稜線を行く。向うは仙丈岳                    小ギャップへの懸垂下降

 小ギャツプから鹿窓への登り返し。今回、鋸岳縦走の中ではここが一番悪かったと思う。
 前回は雪がたっぷり付いていて鎖を使ってゴボウ&キックステップで行けたが、今回は雪が少なく途中の岩の部分がエグれて、ちょいと悪い。
 ロープを出すほどではないが、ザックが重いのでひっくり返りそうになってしまう。パワーあるいは思い切ったムーブ、皆それぞれのやり方で突破。

 雪に半分埋まった「鹿窓」は潜らず、リッジ上を進んでそのまま第三高点。
 そこから私が先頭に立ち、仙丈側へクライムダウン気味のトラバース、そして大ギャップへの懸垂と先導する。

 懸垂支点の枯木は以前はもっと貧弱だと思っていたが、今回改めて見てみると枯れていながらも意外としっかりしていたような。(そうでないと困るのだが・・)
 学生Pは仙丈側、一段高い位置の生きた木を支点にして下降。(今後はこちらの方がメイン支点か?)
 今回、軽量化のため30mロープにしようとしたが、やはりこの大ギャップの下降は50mの折り返しの方が安全だと思う。

 
鹿窓。冬は潜らない。                          大ギャップ
 
 大ギャップからは仙丈側へ100mほど急なルンゼを下り、再び雪の斜面を左に登り返す。ここは吹き溜まりとなっていて多少ラッセルを強いられた。
 登りついたところが第二高点。
 第一、第三、第二と、これで鋸岳のピークは終り。第一高点をバックに、改めてカモの会の皆さんと写真を撮り合い、ホッと一息。

 
 鋸岳・第二高点から越えてきた第一高点を振り返る。

 しばし休憩の後、中ノ川乗越への下降を始めるが、ここは記憶が飛んでしまって少し迷った。
 すぐ後に後続していた学生Pの監督が「こっちでしょう。」と先頭を代わってくれ、斜め左に進路を採り、急なルンゼを下って行く。
 状態によっては小雪崩も起きるルンゼだが、今回は雪が割と締まっていた。時々後ろ向きになってバックステップで下る。

 中ノ川乗越に着き、ようやくホッと一息。核心部を過ぎ、技術的な難場はこれでほぼ終了だろう。各パーティーともここで小休止。
 昨日、角兵衛沢のコルまで上がった「貯金」もあり、前回よりはだいぶ早い時間に前半戦終了。迷うことなく甲斐駒への後半戦を続行する。

 
中ノ川乗越                              甲斐駒まではまだまだ遠い
 
 この後は体力勝負。時間切れとなったパーティーはここから下山してしまうため、冬の中ノ川乗越から六合石室まではラッセル必至である。
 しばらく私が先頭を行くが、やはり深みにハマると腰から胸まで壁となり、ガクンとペースが落ちる。
 覚悟していたが、こんな調子ではたして甲斐駒まで届くのか。

 後から来た学生Pの監督が「単純なことはウチらに任せてください。」と学生を先に立たせるが、さすが現役大学山岳部。疲れを知らないヤングパワーには圧倒される。
 こまめに先頭を交代しながらもまさにガンガンとトレースを刻み、助けられた。

 そこそこ深い雪のアップダウンを繰り返しながら、ようやく六合石室着。扉はほとんど雪に埋まっていた。
 学生Pは石室で休憩することもなく、今日はこのまま甲斐駒を越え、仙水峠、できれば北沢峠まで行ってしまいたいとのこと。
 自分も同じ考えだ。たぶん明日は天気が崩れるだろう。
 後続の「カモの会」は時間は早いが本日は石室に泊まるという。

 樹林帯を抜け、吹き抜けの稜線に出ると多少ラッセルからは開放されたが、完全に学生Pのペースに付いていけず。
 うーん、オヤジも昔は君たちと同じぐらい強かったはずなのだが・・・。昭和は遠くなりにけり。

 やがて鎖が設置された岩場に差し掛かる。10mほどと言われるが、重荷の上、ここまでの長い行程の後だとけっこうキツい。
 ゼエゼエ言いながら身体を引っぱり上げるが、こんなにバテたのは久し振りだ。

  頂上は右端。遥かなり甲斐駒。

 甲斐駒の頂上が遠いことは十分わかっているが、この登りが終わればすぐなんじゃないかとついつい淡い期待を持ってしまう。
 が、もちろんそんなに甘くない。何度もニセ頂上に騙され、これが精神的にかなりダメージを与える。
 
 遠い。ホント遠いぞ!甲斐駒・・・。
 六合石室から甲斐駒頂上まで夏のコースタイムで1時間半。冬でも2時間と見込んでいたが、結局3時間もかかってしまう。
 頂上の祠が目の前に現れた時は心底ホッとした。

  着きました・・・やっと。

 もう陽はだいぶ傾いて、この時間になると頂上には誰もいない。
 写真を撮るのも億劫なほど疲れ果ててしまったが、記録のためセルフタイマーで数枚撮る。

 西陽が美しいが、中央アルプスや鳳凰三山の上空には黒く厚い雲が流れてきて次第に西風が強くなってきた。
 暗くなる前に安全圏まで下らなければ。

 遥か先、駒津峰の辺りを行く学生Pが小さく見える。ヘッデン残業で仙水峠まで行くつもりだったが、今の自分のヨレ具合ではとても無理だ。
 結局、甲斐駒と駒津峰のちょうど中間にある六方石の所で本日の行動を打ち切る。
 岩陰にテントを張ろうと思ったが、風はますます強くなり厳しい。六方石の岩の隙間に逃げ込んだ。

  秘密の隠れ家?

 入り込んだスペースは狭い岩小屋で、匍匐前進でないと動けないほど。頭を岩にぶつけるのでメットを被ったまま、夜に備える。
 とりあえず落ち着いたと思ったが、けっこう隙間風が入り、ガスストーブに点火してもすぐに吹き消されてしまう。水筒の水も凍ってしまった。
 これだけ疲れ切って温かい物を食べれないとなると、ちょっとヤバイか?
 火は諦め、半分凍ったドライフルーツやサラミ、黒糖の塊、昨夜飲まずに取っておいたわずかな量の梅酒を飲んで体力の温存を図ることにした。

 隙間から雪が吹き込んでくるので、明日はすぐに動き出せるよう、靴を履いたままシュラフに潜る。
 その夜は寒さと緊張と興奮で1時間ごとに眼を覚ましながら、朝が来るのを待った。


三日目(2/11) 天候:一時
起床6:30-六方石(出発)7:45-駒津峰8:30-北沢峠11:25-駐車スペース15:45

 夜間はずっと強い風が吹いていて、とりあえずテントは張らず岩小屋に潜り込んだのは正解だった。
 視界は利くが、本日の天気は荒れ模様で、狭い体勢のままパッキングをして脱出開始。

 駒津峰へ続くリッジはところどころ細く、強く吹く西風に時折、倒されそうになる。
 昨日、学生Pが付けてくれたトレースも一晩のうちにだいぶ埋もれてしまった。それでもコース取りには大いに助かった。

 
駒津峰から甲斐駒方面を振り返る。              北沢峠

 樹林帯に入り、しばらく行くと仙水峠の手前で、きれいに雪を掘り下げたテン場に遭遇。
 学生Pは昨日はここに泊まったのだろうか。パワフルな彼らにしても仙水峠まで届かなかったとなると、やはり冬の甲斐駒恐るべし。

 誰とも会わずに仙水峠、北沢峠と雪の降る中を下っていく。
 大平小屋からはアイゼンをはずすが、その先の八丁坂の樹林帯の道は結構凍っていて、何回か尻餅をつく。
 後は戸台川沿いの長い道をトボトボと下っていくのみ。久々にオレンジジュースのような色の小便が出た。・・・疲れた。

 帰りはいつもの「仙流荘」でなく、高遠温泉「さくらの湯」へ。
 注意したつもりだったが、右手中指の先端、あと昨日靴紐を締めたままシュラフに入ってしまったので両足小指に軽く凍傷。ま、半分クセになってしまっているのでしかたないか。

 

 とりあえず冬の鋸-甲斐駒はこれで完結。
 単独といっても他パーティーに甘えることなく、自分でもできるだけ先頭を行きルートのエスコートとラッセルをしたつもりだが、後半は学生Pのヤングパワーに大いに助けられた。
 ネットで見たら一週間ほど前にも他のパーティーが入っていたが、それでもラッセルは必須。本当に一人だったら四日はかかるだろう。
 なかなか手応えのある山行だった。

【写真集・2013年冬の鋸-甲斐駒ヶ岳】


冬の那須#1 朝日岳東南稜~三本槍岳

2013年01月12日 | アルパイン(積雪期)

日程:2013年1月12日(土)~13日(日) 単独

 さて、今年最初の山。
 例年だと八ヶ岳か南アルプスのパターンだが、さすがにちょっと食傷気味。
 そこで今回、中央アルプスの木曽駒へロープウェイを使わないコースから登ろうと考えていたのだが、今シーズンはどこの山も雪が多めで、あまり人が入らない所だとラッセル敗退必至。
 で、いろいろ考えているうち、以前から名前だけ聞いていた那須の朝日岳東南稜というのを思い出した。 (たしか、常吉さんも登っていたような・・・)

 技術的にはそれほど困難ではないようだが、以前調べた時は「冬に単独で」という記録が見つからず、ロープを使っているパーティーもあり、二の足を踏んでいた。
 核心の岩場は被り気味でアルパインのⅣ級?などとも書かれているし・・・。
 ところが今回、久々にネットで調べてみると出るわ出るわ、冬に一人で登った記録も二件見つかり、これが大いに参考になった。
ノーヘル、ノーロープでホイホイ登っているアラ還氏の記録
風雪の中、ドライ・ツーリング?で登るツワモノ氏の記録 

一日目
天候:、午後から風
行程:大丸駐車場8:45-明礬沢下降点9:45~55-東南稜取付10:05-ギャップ10:50-上部スラブ11:50-朝日岳11:55~12:05-清水平12:45-三本槍岳13:30~40-峰ノ茶屋15:30-大丸駐車場16:30

 土曜の朝3時半に横浜の自宅を出発、東北道を行く。
 年初めの一週間はけっこう忙しくて睡眠不足、また昨日たまたま入ったネパール・カレー屋のナンが良くなかったのか、何となく胃のあたりがシクシクと痛み、調子はイマイチ。(うまかったけどね)
 道は空いていたものの途中SAで3~4箇所も休んでようやく那須へ到着。

 冬は道路凍結のため、車は途中の大丸駐車場まで。
 未明のうちは関東北部一面に灰色の雲が覆っていてヤな感じだったが、ここまで来ると絶好の青空が広がり、おまけに風もほとんど無い。
 とりあえず30mロープと必要最低限のガチャ類をザックに詰めて出発。

  大丸駐車場

 登山道はそれなりに積雪があるが、先週の正月休みからかなり登られているようでトレースはバッチリ。
 多くの人は最初からアイゼンを着けていたが、私はしばらくツボ足で行く。
 クネクネ曲がる車道を真っ直ぐ貫くようにして登山道は延び、閉鎖中のロープウェー駅や県営駐車場、「山の神」を祀った鳥居を越えて、茶臼岳の山腹を巻くトラバース道に入る。

  途中にある「山の神」の鳥居

 
 朝日岳が近づいてくる。左のスカイラインが東南稜。

 森林限界となり道もツルツルに凍ってきて、そろそろアイゼンを履かないとコケるなと思ったところで、東南稜への下降点に到着。
 ネットで確認したとおり「こんなところに高山植物が?」の看板があり、わかりやすい。

  この看板が目印。

 正面に見る東南稜は火山特有の草木が生えない山容で、けっこう荒々しく威圧的に見える。(うーん、ホントに一人で大丈夫かいな?)
 今日は天気も良いので他のパーティーもいるかと思ったが、どうやら貸切のよう。

 アイゼンを履き、装備を整え、まずは下の明礬(ミョウバン)沢に下降。
 先週のものだろうか、ところどころトレース跡が残っていてそれを頼りに行く。
 雪に埋もれた沢を渡り、リッジのやや左に回り込んでから取付く。

 
 今回、登ったライン。

 出だしは傾斜の緩いルンゼ状。まぁ、緩いといってもアイゼンの前爪を蹴りこんでいく感じだが・・。
 サクサクと登って、リッジに出る。茶褐色の岩が続き、ここは冬でもそれほど雪が付かないようだ。

 とにかく初見なので、いいかげんなルート取りはせず、なるべく登り易い自然なラインを選んでいく。
 やがて鬼の角が二本突き出たような「門」のような所に出て、その合間に入っていくように登っていく。

  東南稜の「門」

 最後に右側のちょっと細いトラバースをこなすと岩の裏側にまだ新しいハンガーボルトとチェーンの立派な支点があった。
 ここが核心のギャップか。

 ギャップはクライムダウンもできるようだが、思ったより立っていて、また岩に薄く氷が張っていてちょいとリスキー。
 せっかくロープも持ってきたし、整備された支点もあるので、ありがたく使わせていただき、8mほど懸垂下降。

   
(左から)懸垂支点。ギャップを見下ろしたところ。ギャップからの登り返しの岩場。

 続いての登り返しが、いくつかのHPで「被り気味でⅣ級」と書かれていた所。
 凹角ぽいので身体を潜り込ませてしまうと被っているように感じるが、丁寧に外にスタンスを求めていけばそんなでもない。右にはしっかりしたガバがあるし。
 無雪期でⅢ+、グローブ・アイゼン付けてⅣ級といったところか。特に緊張することもなく、無事に突破。

 後はちょっと細めの岩尾根を伝い、その後、リッジの右側に付けられた自然の登路(ガレたルンゼ)をガーッと一気に高度を上げる。
 雪の付いた小尾根をクネクネと伝っていくと、やがて最後の岩場。
 ここは正面突破も面白そうだったが、グローブ・アイゼン付けてると、ちょいと出だしが苦労しそう。
 無茶せずセオリーどおり少し左に回り込むとネットで見た傾斜の緩いスラブがあった。

  頂上間近のスラブ
 
 スラブはⅢ~Ⅲ+程度だが、傾斜が緩い分、岩に氷が薄く張り付いていてアイゼンが滑りやすく、ポケットホールドを指先だけで耐える2~3手がちょい力が入ったが、まぁ何とか。
 で、朝日岳山頂着。

  朝日岳頂上

 セルフタイマーで写真撮りながらマイペースで登ったが、東南稜自体は実質1時間20分ほどで済んだ。
 難度としては八ヶ岳の阿弥陀岳北稜や剣岳の源次郎尾根と同じぐらいか。
 天候に恵まれたせいもあるが、案ずるより生むが易しで、プチ・アルパインというよりはバリエーション・ハイキングといった感じだった。もちろん天候が悪けりゃ、それなりに厳しいと思う。

 登っている最中、頂上には複数の人が見えたが、こちらがチンタラ登っているうちに皆、先を急いで私が着いた時には一人しかいなかった。少し話をする。
 昼前に朝日岳に着いたら、そのまま那須最高峰の三本槍岳まで足を延ばすつもりでいたので、行動食の大福を食べたら再び出発。
 
 冬の那須では茶臼岳へ行く人がほとんどで、元気な人は朝日岳まで。
 三本槍へはトレース跡がいくらか残っているものの、あまりいないようだ。
 
 途中、清水平というだだっ広い雪原を通過していくが、ここも木がほとんど無いため、2,000mに満たない標高なのに丹沢や八ヶ岳ではとても味わえないスケール感がある。

  三本槍までけっこう遠い

 遠くに三本槍へ向かう一組が豆粒のように遠望できるが、登山地図のコースタイムでは一時間程度の距離がやたら遠い。
 それでもトレースに導かれ、何とか一時間半ほどで三本槍岳に到着。

 ここの展望はまた素晴らしく、インディアンが「今日は死ぬのにいい日だ。」と言うような最高の景色に恵まれる。
 特に西側の三倉山方面の白い稜線が美しく、遠く日光白根や燧岳、東北方面の白く霞んだ山々など、いつまでも眺めていたいくらいだ。
 先に来ていた二人組から「さっき東南稜登っていたでしょう。下でカリカリ音が聞こえていましたよ。」と声を掛けられ、ついでに写真も撮ってくれた。ありがとさんです。

  三本槍岳からの展望

 で、いつまでものんびりしていたいが、やがて風が吹き始めてきた。
 二人組が引き返し、その後しばらくしてからこちらも重い腰を上げる。

 とりあえず今日は視界が利くのでそれほど心配は無いが、ホワイトアウトになると清水平の辺りはコースを見失う可能性大だろう。
 やがて風は次第に強くなり、行きがけのトレースもしばしば風に消され、適当に進むと今度はモナカ雪地帯にハマリ、多少もがく。

  清水平

 途中のピークへの登り返しやその先の鎖場では時折、雪煙に吹き付けられ、東南稜が少々物足りなかった分、久しぶりに冬山らしさを味わい満足。
 剣が峰を越える箇所は冬は雪崩の危険から本当は尾根通しがいいようだが、私はいつの間にかトラバースの方へ進んでしまい、雪の急斜面に自分でトレースを刻んだ。
 しかし、この朝日岳から峰ノ茶屋への一般道。今は頑丈な鎖で整備されているので安心だが、もし鎖が一切無かったらけっこう悪いと思う。

  鎖場

  峰の茶屋避難小屋

 峰の茶屋でホッと一息。
 スタートが早ければ今日のうちに茶臼岳も登れそうだったが、三本槍までの往復でけっこう足に来てたし、明日もある。
 後は歩きやすいトラバース道をガンガン下るのみ。
 途中、これから登ろうとする犬連れの団体さんと擦れ違う。峰ノ茶屋の避難小屋は宿泊禁止のようだが、峠を少し下った所にあるもう一つ小屋は可能だとのこと。
 なるほど。今度来た時は行ってみよう。

 下山後は「鹿の湯」を楽しみにしていたが、相変わらずの混み様で、時間的にも余裕が無い。
 で、もう少し下った所にある、はまやホテルの「小鹿の湯」へ。

 

 ホテルといっても風呂は外のこじんまりした別棟で、「つげ義春」的雰囲気がいい感じ。
 受付のおばちゃんも品が良く、「鹿の湯」と「行人の湯」両方を源泉のまま引いているようで泉質も文句なし。
 料金は400円(安い)。「鹿の湯」に入れなかった時のすべり止めとしてイイかも。☆☆☆★

 後は適当に夕食摂って、近くの「友愛の森・道の駅」で車内泊。

写真集【那須・朝日岳東南稜~三本槍岳】 


2012年冬 八ヶ岳・阿弥陀岳南稜 #2

2012年02月12日 | アルパイン(積雪期)

天候:のち
行程:P1・P2間コル(天場)7:30-P3ガリー8:05-阿弥陀岳頂上9:05-中岳のコル10:30-行者小屋11:00~12:00-美濃戸口14:30

 明け方はさすがに寒かったが、それでも昨夜からぐっすり眠れて4時半起床。
 とりあえずテントの入口から外を見てみる。

 ・・・雪?

 昨日あれだけスッキリした夕陽で、その後は雲一つ無い星空だったのに。
 プロトレックの気圧計で確認してみると、表示は数時間前より明らかに下降気味。
 しかたなく再び寝て明るくなるまで様子を見る。

 しばらくして起きるが、日の出の時刻を過ぎているのにまったく明るくならない。
 風はそれほど強くないが、暗い空に小雪が舞い、視界はせいぜい20mほど。
 とても行動する気が起きず、しばし撤退を本気で考える。
 隣の三人組も既に起きているようだが、彼らはどうするつもりだろう。

  まずはメシでしょう。

 ゆっくり朝食をとっているうちに時間はどんどん過ぎていく。
 いつまでもここにいてもしかたがない。とりあえず行ける所まで行って、行き詰ったら引き返すだけだ。
 隣の三人組も徹集を始め、一足先に私がスタート。

 小雪とガスで視界が悪い中、消えかかるトレースを追ってP2を越える。

  P2は正面の岩を左から巻き上がる。

 P3のトラバースは細い下り坂になっていて、ピッケルを刺しながらバックステップで慎重に通過。
 壁にはワイヤーが張られていて、それが途切れた所がP3ガリーの取付となっている。

 P3ガリーの出だしは傾斜40度ほど(?)の雪壁。
 試しに一発、ピッケルを振ってみるとバスンと刺さり、何とも効きが良い。
 これがもしガチガチの堅い氷、もしくはサラサラのパウダーだったら単独ではちょっと怖い思いをしただろうが、絶好の雪のコンディション。
 (五年前に登った時は、中途半端に凍っていて結構悪かった。)
 念のため30mロープを持ってきていたが使うことなく、Wアックスでサクサク上がる。

  P3ガリーを登る。ほとんど何も見えません。

 1ピッチ終え一呼吸置いた後、2ピッチ目は左斜め上。さらに傾斜を増した50度ぐらいの雪壁をリッジ上まで上がる。
 ホワイトアウトに近い中、後続の三人組もガリーを上がってくる。

  風雪混じりのガスの中、後続三人組。

 以前登った時の記憶ではP3ガリーを過ぎたら頂上まであとわずかと思っていたが、まだリッジがクネクネと続いていてどこが頂上なのかよくわからない。
  ちょっと不安になり後続組を待ってルートを確認すると、頂上はもう少し先だと言う。

  P4のトラバース。
 ほんのワンポイントだが、ここが一番悪かった。
 ピッケルとバイルをしっかり雪面に打ち込んで、それを頼りにボルダー・ムーブでササッと切り抜けた。

 後は目を凝らしながら雪とガスの中のリッジを辿っていくと、ようやく傾斜が緩み、半分埋もれかかった阿弥陀岳山頂の道標に辿り着いた。
 ほとんどホワイトアウトで何も見えず、誰もいない。
 三人組がすぐに登ってくるかと思ったが、重荷の彼らは先ほどのP4トラバースの辺りで難儀しているのか、なかなか上がってこない。
 持ってきた安物のプラスチック三脚は低温のため、またしてもポッキリ折れてしまった。
 何とかセルフで写真を撮り、下山開始。

  阿弥陀岳頂上
  寒いっス・・・

 当初の予定では下降は中央稜か御小屋尾根と考えていたが、この悪天の中、一人ではリスクが高い。
 最短の行者小屋経由とするが、途中まで降りた所でトレースが消えてルートを見失ってしまった。
 ちょっとこれはヤバイかも・・・?
 今から6年前に、同じ山岳会で一緒に登ったこともある知人の三人パーティーがこの阿弥陀南稜を登った後、悪天に阻まれ疲労凍死したことを思い出す。
 あの時もこんな感じだったのだろうか。
 自分ではまだ余裕があるが、今日中に帰れないとまた女房がうるさく騒ぎそうで、それが気がかりだ。

 無理せず一旦登り返し、場合によっては御小屋尾根を降りると言っていたあの三人組に同行させてもらおう。
 で登っていくと、先ほどは誰もいなかった頂上に北稜から二組のパーティーが上がってきていた。
 行者小屋へ降りるというので、彼らの後に付かせてもらう。

 しかし、やはり視界が悪く、先ほど自分が行き詰った所でストップしてしまう。
 一つ隣の尾根に入ってしまったのか?阿弥陀の下りはこれまで何度も通っているが、まるでわからない。
 途中の岩に懸垂支点があり、ここから懸垂で降りる案も出たが、その下の様子がまったく見えないので結局また登り返してきた。

 その時、辺りを覆っていた風雪混じりのガスがパァーと散り、中岳へのトレースが一瞬見えた。
 あそこだ!・・・と、この瞬間を逃さないように一目散に駆け下る。
 結局、その懸垂支点から斜め右に急な雪の斜面を下っていくのが正解で、ルートは間違っていなかった。

  阿弥陀岳の急な下り
 
中岳のコルに着いて一安心。
 皮肉なものでここまで降りてくると、ようやく視界が開けてきた。
 今日は雪も締まっていて雪崩も大丈夫だろうと判断、北稜パーティーと共に中岳沢を下る。
 ものの30分もかからず、安全地帯の行者小屋に着。
 喉元過ぎれば何とやらで、まだ時間もあるので頑張れば赤岳も行けたかもと思うが、まだ稜線は風が強そうで止めておいて正解だったろう。

  中岳沢を下る。

 さっきまでの荒天はどこへやら、すっかり晴れ渡った青空の下、行者小屋前で1時間ほどまったり過ごす。
 それにしてもこの冬はやはり八ヶ岳でも雪が多いようで、周りの山はどこも真っ白。まるで違う山に来ているような錯覚を覚える。
 本日は阿弥陀北稜が大人気で数珠つなぎ、後は赤岳主稜に1パーティー、大同心にも1パーティーの姿が見えた。

  賑わう行者小屋前
  大同心、小同心を望む。
  下ってきました。やっと・・・

 大休止後、通い慣れた南沢沿いの道を美濃戸口まで。
 日陰の凍り付いた道はアイゼンをはずすと滑りやすい部分もあったが、問題なし。
 それよりも右手の親指と中指をちょっと凍傷にやられてしまい、ズキズキと痛む。
 見ると中指は早くも紫色に変色してきていて、まぁ大事には至らないと思うが、おそらく全治まで3週間はかかるだろう。
 その間、フリーができないとなると少々凹む。

 技術的には大したことないルートでも、ひとたび天気が悪くなれば八ヶ岳もなかなか厳しい。
 とりあえず無事に帰れて良かった。

阿弥陀南稜(二日目)


2012年冬 八ヶ岳・阿弥陀岳南稜 #1

2012年02月11日 | アルパイン(積雪期)

日程:2012年2月11日(土)~12日(日) 単独

一日目
天候:
行程:学林10:20-舟山十字路12:20-旭小屋13:10-立場山15:30-青ナギ15:55-P1・P2間コル16:50(幕営)

 さて、今週は久々に八ヶ岳へ。
 このところフリーがメインになっているが、たまには冬山も行かないと益々ヘタレになってしまうので・・・。
 八ヶ岳の冬のバリエーションはアイス以外、人気のところはほとんど登ってしまった。
 今回はリピートとなるが、一人でも比較的気楽に行ける所ということで阿弥陀南稜とする。

 女房に車を使われてしまったため、今回は久々に電車&バス利用。
 最近は皆マイカー利用で公共交通機関は廃れているんじゃないかと思ったが、とんでもない。
 特急あずさも茅野からのバスも登山者で盛況だった。

 美濃戸口手前の「学林」でバスを下車。
 本当はそこからもっと南の八ヶ岳美術館前の方がいいのだが、知らない間にバス会社も経路も変わってしまっていて、バスだと南稜へのアプローチはここで降りるしかない。
 降りたのは自分を含めて、皆、中高年の3組。
 二人組は広河原沢へアイスクライミングに行くらしく、もう一人の単独のおじさんは私と同様、阿弥陀南稜へ行くとのこと。

 

 地図で見ると車道を南下し、美術館手前から真っ直ぐ東に進んだ方が良いのだが、二人組が「たしかこっちからも行けるはず」というので敢えて美濃戸口に向かって斜め右に向かう道を選ぶ。
 しかし、やはりこの道は失敗。
 どう考えても方角的に無理があるし、進んでいくうちに御小屋尾根に辿り着いてしまった。(教訓「信ずる者は救われる・・・とは限らない!」)
 しかたなく、道無き疎林の緩斜面を強引に南下し、舟山十字路に合流。そのまま林道沿いに進み、旭小屋経由で南稜にアプローチする。

  
  今にも崩れそうな旭小屋

 南稜の出だしは多少展望が利くが、すぐに樹林帯に包まれ、しばらく「ガマンの登り」が続く。
 無駄なアプローチで体力を使いペースは上がらないが、さすが人気ルートでトレースはバッチリ。
 今年の大雪では東面の天狗尾根や赤岳東稜を選んでいたら、たぶんラッセル敗退していただろう。

 立場山、青ナギの平坦地には大きめのテントが一張りずつ。
 たぶん南稜ではなく、アイスで広河原沢から上がってきた模様。
 天気はこれ以上ないくらいの快晴無風なので、そのまま行ける所まで先へ進む。

  立場山山頂
  権現、旭岳方面

  青ナギから阿弥陀南稜

 

 それにしても、この冬の八ヶ岳はどこも真っ白。こんなに雪に覆われたのは何年ぶりか。
 見慣れた権現岳や赤岳も黒い山肌の部分が無く、まるで違う山のよう。向かう阿弥陀南稜の上部もいつになく厳しく見える。

 好天に助けられ、この日は結局、P1・P2間のコルまで進む。
 既に先着の大エスパースが張ってあって、その隣にチョコンと一人用の「ライズ1」を張らせていただく。

  夕陽に染まる阿弥陀南稜
  P1・P2間コルで幕営

 諏訪盆地の向こうに沈む夕陽を見送った後、そそくさとモチ入りマルタイ・ラーメンで夕食。
 夕方の時点でテント内はマイナス12度。
 ホット梅酒で一気に身体を温め、シュラフに潜り込む。
 この時点では明日も絶好の快晴。気楽な初級バリエーションと甘くみていたのだが・・・。

阿弥陀南稜(一日目)