三日目
天候:
行程:中ノ川乗越4:30-第二高点5:05-第一高点6:30~50-角兵衛沢出合9:55-戸台12:25
朝3時起床。
夜半は警笛を鳴らすような突然の鹿の鳴き声に眠りを妨げられた。
たぶん鹿たちにしてみれば「ナンカ、ヘンナヤツガイルゾ。」と警戒しているのかもしれない。
あまりに至近距離でピィィィーッ!!とやかましいので、思わずテントを開けて見てみようと思ったが、真夜中に野生動物と目を合わせるのも何だか怖くてシカトした。
朝は昨夜のマルタイのもう一束を食べ、ヘッデンがいらない明るさになってから出発。
東の空はもうオレンジ色で今日も絶好の天気である。
三日目とあって少しは軽くなったザックを背に、まずは第二高点へのガリーを登り始める。
右手の岩場に抑えられるようにして縁に沿って行くが、自然落石などもありそうでちょっと物騒。そそくさと登る。
振り返って甲斐駒方面
ガリーをそのまま登り詰め、さらにシャクナゲと這松の花道を少し登ると、古い鉄剣の刺してある鋸岳の第二高点。
今日も雲海の上に八ヶ岳が浮かんでいる。
第二高点
小休止した後、いよいよ鋸岳縦走の核心部にかかる。
冬に一回逆コースから歩いているし、視界も効いているのでヘンな所に突っ込まなければまず大丈夫なはずだが・・・。
第二高点からはまずピーク手前から左へ直角に(山梨県側へ)ガーッと踏跡を降りていく。
途中、二俣になったりするが、ピンク・テープがはっきりしている左の方へさらにドンドン下っていく。
右手を見れば既に第二高点と第三高点を結ぶ大ギャップはずいぶん高くにあり、こんなに下って大丈夫かなと思うほど、とにかく下る。
大ギャップ
下りついた所が瓦礫のガリーとなっていて、やや消えかかっているが岩に赤ペンキで進行方向が示してある。
ガスっているとちょっとここがわかりにくい。
ガリーの対岸、岩清水がチョロチョロ落ちている箇所があって、そのほんの下方に土の踏跡が続いている。
第二高点は写真右上の方。中央下やや左寄りに赤ペンキの岩が見える。
まるで目立たないが、よく見ると近くの立ち木にピンクテープもわずかに確認できる。
(ちなみに逆コースだと目印のテープはこれまたよく見えない。なので、岩に書かれた赤ペンキの→から何となく地形を判断して行くしかない。ガリーを登るのではなく右手の草付きに上がるのが正解。)
鋸岳の山梨県側を大きくトラバースするように下から巻いていくと、やがて右手遥か上に「鹿窓」が見えてくる。
「鹿窓」へは直下から落ちているガリーをそのまま登り詰めていくこともできそうだが、途中に浮石の多い小スラブなどもあるから、途中からテープに従い左手の草付から巻き上がった方が良い。
草付の踏跡に従ってトラバース気味に行くと、そのまま鹿窓に続く鎖の末端にたどり着く。
「鹿窓」への登り返し 「鹿窓」
慣れた人なら鎖は不要。
私はもちろん使わなかったがⅢ-ぐらい。ただ所々岩が脆いので、注意は必要。
鹿窓に到着。
そのまま潜り抜け、長野県側に出る。
夏場は通ることの無い第三高点のルートがどうなっているか確認するため、鹿窓の上の稜線に上がってみるが、夏はやはりブッシュに覆われルートとしてはあまりスッキリしない。
「鹿窓」上から第三高点を望む
「鹿窓」~小ギャップ間のリッジ
そのまま岩尾根を縫うようにして小ギャップへ。
こちらからの小ギャップの下りは浮石が不安定で良くない。
重荷だとロープ無しのクライム・ダウンは無理しない方がいいと思う。
もちろん、ここにも立派な鎖が架けられ安心して下ることができる。私はここの箇所だけは5mほど鎖を使わせてもらった。
登り返しも鎖があるが、こちらは岩も硬く、フリーで行ける。遠くからだと立って見えるがガバ豊富でⅢ級ぐらい。
小ギャップの下り。浮石多く悪い。 その登り返し。少し立っているが岩硬く快適。
冬に逆コースから来た場合、ここは貧弱な潅木を利用してロシアン・ルーレット的な懸垂下降を強いられたが、今はリング・ボルトの他、しっかりしたケミカル・アンカーが打たれたので何とも心強い。
小ギャップを越え、細い踏跡を縫って登っていくと、ようやく第一高点。
まだ朝も早く、当然、山頂独り占め。
振り返ると第二高点に小さくヘルメット姿の登山者が二人ほど見えた。
360度の展望でこれまで歩いてきた甲斐駒方面はもちろん、北アや中央アルプスの山並もバッチリ。今年は残雪が多少多めか?
あまりに清々しい朝に、ふいに懐かしのあの歌を思い出す。
「あーたーらしぃ朝が来たぁ♪希望の朝ぁだ♪」
思わず山頂で一人「ラジオ体操」・・・なぜか「第二」をやる。
ラジオ体操なんて子供の頃はバカにしていたが、誰も居ない山頂で朝陽を浴びながらやると何とも気持ちいい。
初日に挫けそうになったが、何とかここまで来れた。自分で言うのもなんだが、よく頑張ったものである。
十分に休んだ後、下山開始。
予想はしていたが、瓦礫の山の角兵衛沢の下りはやはり歩きにくい。
上部はまだ岩が互いにしっかり食い込んでそれほど動くことはなかったが、下へ行くほど岩の積み重なりが不安定。
ガレガレの角兵衛沢
途中、左岸側の岩小屋で水分補給した後は樹林帯の下りとなるが、これがまたウンザリするほど長い。
出合のケルンに着いた時にはもうヘロヘロ。
で、ここからすぐに戸台川を対岸に渡らなければならないのだが、川の流れがけっこう激しい。
流れは川中の大きな岩にぶち当たってゴンゴンと荒波が逆巻いていて、一瞬どこを渡っていいかわからない感じ。
後から単独の若い兄ちゃんが追いついてきたので一緒に徒渉ポイントを探すが、なかなか安全なラインが見つからない。
結局、私は何とか渡れそうな場所を見つけ靴を脱いで強引に渡ることにしたが、兄ちゃんは不安なのかそこを渡らず、ずっと下流の方まで行ってしまった。
その後、さらに二人組が降りてきたので私の徒渉ラインを教えてあげる。
靴を履き直し、戸台に向かって左岸の河原道を行くと、結局、右岸で先ほどの兄ちゃんは行き詰っていた。
そんなわけでしばらくは再び一人で広大な河原をトボトボ歩く。
堰堤の箇所ではまた徒渉が必要で、こちらもけっこう深く、流れは急だった。後続への目印のため、ミニ・ケルンを設置してあげた。
二回目の徒渉。波高し!
しばらくすると、また先ほどの兄ちゃんが忍者のように音も立てずに追いついてきた。私と較べてもナンだがやたら早い。やっぱ若さだねぇ。
旅は道連れ、後は肩を並べて「鋸の岩稜よりむしろ徒渉の方が厳しかったかも。」などと話しながら戸台まで一緒に行く。
(ちなみにこの時、聞いた話では昨日六合石室で会った体育会系女子は渡渉の際コケてあわや溺れそうになったとか。この話を聞いても例年より水量が多く流れが速かったことがわかる。)
しかし、この後、二人してさらに冷や汗をかくことになる。
ラスト、戸台の駐車スペースまであとわずかといったところで、突然、車の陰から黒や茶の目付きの悪い中型の猟犬が唸り声と共に3~4匹走り出してきた。
「わわわっ!来るな来るな!」
あっという間に囲まれる。
思わずその場に金縛りとなるが、そんなこちらの気も知らずに飼い主のオヤジが後から出てきて「ハハハ、大丈夫。咬まないから。」と間一髪セーフ!
「ハハハ、大丈夫」・・・じゃねえよっ!
二人して心の中で悪態をつくが、ホントここが一番の「核心」だった。
最後、河原の駐車スペースに停めてあった兄ちゃんのジムニーで、のある仙流荘まで送ってもらった。
静岡から来たと言っていたが、車に乗せてくれた御礼をと言ってもなかなか受け取ってくれない。ナイス・ガイの気持ちのイイ兄ちゃんであった。
温泉に入りながら今回の山行を振り返る。
シレイ沢にしても鋸岳にしても最近は人気で人が多く入っていると言われているが、それでもさすが南アルプス。
ワイルド感はたっぷりで、まだまだ一般登山コースに較べれば厳しい感じ。
それだけに充実感も得た。
何にしてもこの三日間、我が「ガラスの(?)左足」はよくぞ頑張ってくれたものである。
とりあえず今年の「一人夏山合宿」第一弾、無事に終了。