KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

沢と尾根と岩稜と 【南ア・シレイ沢-甲斐駒-鋸】#3

2010年07月19日 | ロングトレイル

三日目
天候:
行程:中ノ川乗越4:30-第二高点5:05-第一高点6:30~50-角兵衛沢出合9:55-戸台12:25

 朝3時起床。
 夜半は警笛を鳴らすような突然の鹿の鳴き声に眠りを妨げられた。
 たぶん鹿たちにしてみれば「ナンカ、ヘンナヤツガイルゾ。」と警戒しているのかもしれない。
 あまりに至近距離でピィィィーッ!!とやかましいので、思わずテントを開けて見てみようと思ったが、真夜中に野生動物と目を合わせるのも何だか怖くてシカトした。

 朝は昨夜のマルタイのもう一束を食べ、ヘッデンがいらない明るさになってから出発。
 東の空はもうオレンジ色で今日も絶好の天気である。
  

 三日目とあって少しは軽くなったザックを背に、まずは第二高点へのガリーを登り始める。
 右手の岩場に抑えられるようにして縁に沿って行くが、自然落石などもありそうでちょっと物騒。そそくさと登る。

  振り返って甲斐駒方面

 ガリーをそのまま登り詰め、さらにシャクナゲと這松の花道を少し登ると、古い鉄剣の刺してある鋸岳の第二高点。
 今日も雲海の上に八ヶ岳が浮かんでいる。
 
 

 

  第二高点

 


 

 小休止した後、いよいよ鋸岳縦走の核心部にかかる。
 冬に一回逆コースから歩いているし、視界も効いているのでヘンな所に突っ込まなければまず大丈夫なはずだが・・・。

 第二高点からはまずピーク手前から左へ直角に(山梨県側へ)ガーッと踏跡を降りていく。
 途中、二俣になったりするが、ピンク・テープがはっきりしている左の方へさらにドンドン下っていく。

 右手を見れば既に第二高点と第三高点を結ぶ大ギャップはずいぶん高くにあり、こんなに下って大丈夫かなと思うほど、とにかく下る。

 

  大ギャップ

 下りついた所が瓦礫のガリーとなっていて、やや消えかかっているが岩に赤ペンキで進行方向が示してある。
 ガスっているとちょっとここがわかりにくい。
 ガリーの対岸、岩清水がチョロチョロ落ちている箇所があって、そのほんの下方に土の踏跡が続いている。

 
 第二高点は写真右上の方。中央下やや左寄りに赤ペンキの岩が見える。

 まるで目立たないが、よく見ると近くの立ち木にピンクテープもわずかに確認できる。
 (ちなみに逆コースだと目印のテープはこれまたよく見えない。なので、岩に書かれた赤ペンキのから何となく地形を判断して行くしかない。ガリーを登るのではなく右手の草付きに上がるのが正解。)

 鋸岳の山梨県側を大きくトラバースするように下から巻いていくと、やがて右手遥か上に「鹿窓」が見えてくる。
 「鹿窓」へは直下から落ちているガリーをそのまま登り詰めていくこともできそうだが、途中に浮石の多い小スラブなどもあるから、途中からテープに従い左手の草付から巻き上がった方が良い。
 草付の踏跡に従ってトラバース気味に行くと、そのまま鹿窓に続く鎖の末端にたどり着く。

  
 「鹿窓」への登り返し                     「鹿窓」

 慣れた人なら鎖は不要。
 私はもちろん使わなかったがⅢ-ぐらい。ただ所々岩が脆いので、注意は必要。

 鹿窓に到着。
 そのまま潜り抜け、長野県側に出る。

 夏場は通ることの無い第三高点のルートがどうなっているか確認するため、鹿窓の上の稜線に上がってみるが、夏はやはりブッシュに覆われルートとしてはあまりスッキリしない。

  「鹿窓」上から第三高点を望む

  「鹿窓」~小ギャップ間のリッジ

 そのまま岩尾根を縫うようにして小ギャップへ。
 こちらからの小ギャップの下りは浮石が不安定で良くない。
 重荷だとロープ無しのクライム・ダウンは無理しない方がいいと思う。
 もちろん、ここにも立派な鎖が架けられ安心して下ることができる。私はここの箇所だけは5mほど鎖を使わせてもらった。

 登り返しも鎖があるが、こちらは岩も硬く、フリーで行ける。遠くからだと立って見えるがガバ豊富でⅢ級ぐらい。

  
 小ギャップの下り。浮石多く悪い。        その登り返し。少し立っているが岩硬く快適。

 冬に逆コースから来た場合、ここは貧弱な潅木を利用してロシアン・ルーレット的な懸垂下降を強いられたが、今はリング・ボルトの他、しっかりしたケミカル・アンカーが打たれたので何とも心強い。

 

 小ギャップを越え、細い踏跡を縫って登っていくと、ようやく第一高点。
 まだ朝も早く、当然、山頂独り占め。
 振り返ると第二高点に小さくヘルメット姿の登山者が二人ほど見えた。

 360度の展望でこれまで歩いてきた甲斐駒方面はもちろん、北アや中央アルプスの山並もバッチリ。今年は残雪が多少多めか?
 

 あまりに清々しい朝に、ふいに懐かしのあの歌を思い出す。
 「あーたーらしぃ朝が来たぁ♪希望の朝ぁだ♪」

 思わず山頂で一人「ラジオ体操」・・・なぜか「第二」をやる。
 ラジオ体操なんて子供の頃はバカにしていたが、誰も居ない山頂で朝陽を浴びながらやると何とも気持ちいい。
 
 初日に挫けそうになったが、何とかここまで来れた。自分で言うのもなんだが、よく頑張ったものである。

 十分に休んだ後、下山開始。
 予想はしていたが、瓦礫の山の角兵衛沢の下りはやはり歩きにくい。
 上部はまだ岩が互いにしっかり食い込んでそれほど動くことはなかったが、下へ行くほど岩の積み重なりが不安定。

  ガレガレの角兵衛沢

 途中、左岸側の岩小屋で水分補給した後は樹林帯の下りとなるが、これがまたウンザリするほど長い。
 出合のケルンに着いた時にはもうヘロヘロ。

 で、ここからすぐに戸台川を対岸に渡らなければならないのだが、川の流れがけっこう激しい。
 流れは川中の大きな岩にぶち当たってゴンゴンと荒波が逆巻いていて、一瞬どこを渡っていいかわからない感じ。
 後から単独の若い兄ちゃんが追いついてきたので一緒に徒渉ポイントを探すが、なかなか安全なラインが見つからない。

 結局、私は何とか渡れそうな場所を見つけ靴を脱いで強引に渡ることにしたが、兄ちゃんは不安なのかそこを渡らず、ずっと下流の方まで行ってしまった。
 その後、さらに二人組が降りてきたので私の徒渉ラインを教えてあげる。

 靴を履き直し、戸台に向かって左岸の河原道を行くと、結局、右岸で先ほどの兄ちゃんは行き詰っていた。

 そんなわけでしばらくは再び一人で広大な河原をトボトボ歩く。
 堰堤の箇所ではまた徒渉が必要で、こちらもけっこう深く、流れは急だった。後続への目印のため、ミニ・ケルンを設置してあげた。

  二回目の徒渉。波高し!
 
 しばらくすると、また先ほどの兄ちゃんが忍者のように音も立てずに追いついてきた。私と較べてもナンだがやたら早い。やっぱ若さだねぇ。
 旅は道連れ、後は肩を並べて「鋸の岩稜よりむしろ徒渉の方が厳しかったかも。」などと話しながら戸台まで一緒に行く。
 (ちなみにこの時、聞いた話では昨日六合石室で会った体育会系女子は渡渉の際コケてあわや溺れそうになったとか。この話を聞いても例年より水量が多く流れが速かったことがわかる。)

 しかし、この後、二人してさらに冷や汗をかくことになる。

 ラスト、戸台の駐車スペースまであとわずかといったところで、突然、車の陰から黒や茶の目付きの悪い中型の猟犬が唸り声と共に3~4匹走り出してきた。
 「わわわっ!来るな来るな!」
 あっという間に囲まれる。
 思わずその場に金縛りとなるが、そんなこちらの気も知らずに飼い主のオヤジが後から出てきて「ハハハ、大丈夫。咬まないから。」と間一髪セーフ!

 「ハハハ、大丈夫」・・・じゃねえよっ
 二人して心の中で悪態をつくが、ホントここが一番の「核心」だった。

 最後、河原の駐車スペースに停めてあった兄ちゃんのジムニーで、のある仙流荘まで送ってもらった。
 静岡から来たと言っていたが、車に乗せてくれた御礼をと言ってもなかなか受け取ってくれない。ナイス・ガイの気持ちのイイ兄ちゃんであった。

 温泉に入りながら今回の山行を振り返る。
 シレイ沢にしても鋸岳にしても最近は人気で人が多く入っていると言われているが、それでもさすが南アルプス。
 ワイルド感はたっぷりで、まだまだ一般登山コースに較べれば厳しい感じ。
 それだけに充実感も得た。
 何にしてもこの三日間、我が「ガラスの(?)左足」はよくぞ頑張ってくれたものである。
 
 とりあえず今年の「一人夏山合宿」第一弾、無事に終了。 


沢と尾根と岩稜と 【南ア・シレイ沢-甲斐駒-鋸】#2

2010年07月18日 | ロングトレイル

二日目
天候:のち一時
行程:白鳳峠4:30-早川小屋6:00-アサヨ峰8:00-仙水峠10:00-甲斐駒13:10~40-中ノ川乗越16:55
 
 今日はもう帰るつもりだったので、ゆっくり寝ていれば良かったのに、朝の3時頃に目覚めてしまう。
 ふと気付くと、痛いはずの左足が何ともない。
 試しにグリグリと足首を回してみるが、違和感は無い。てっきり今朝はパンパンに腫れ上がって下山も苦労すると思っていたのだが・・・。

 となると、試合はまだ終わっちゃいない。これからだ。
 計画では昨日はこの先の早川小屋まで行くつもりだったから、コースタイムで1時間40分の遅れ。
 当初の予定どおり事を進めるなら、本日は都合12時間40分の長丁場となる。
 アンドレじゃないが「一人民族大移動」だ。
 とにかく行けるところまで行こう。

 昨晩食べなかった分、今朝はレトルトの赤飯と中華丼の具を作る。
 エネルギー補給はもちろん、少しでも荷を軽くしたい。

 朝4時半に樹林帯の中の天場を出発。
 樹々の間から東の空がオレンジ色に染まっている。
 展望の開けた所で日の出を拝むことができるだろうか。
 

 赤薙沢ノ頭という小ピークで何とか間にあった。
 雲海が凄い。鳳凰三山、北岳、仙丈、そして甲斐駒・・・。上空は雲一つない快晴である。

  八ヶ岳

  鳳凰

 しばらく展望を楽しんだ後、広河原峠へ。
 ここで単独のおじさんと会い、念のため北沢峠のバスの運行状況を聞いた。もし、走っていなかったりしたら途中エスケープもできなくなる。
 親切なおじさんで、自分の持ってきたバス時刻表のコピーをくれようとするが、とりあえずバスが走っているのがわかれば安心。
 礼を述べ、登りにかかる。

 

  甲斐駒

  北岳

 早川小屋には思ったより早く着いた。
 こじんまりした静かな場所で、テント組が撤収準備をしている最中だった。
 小休止し、トイレだけ借りて出発。

  早川小屋

 ここからアサヨ峰への登りが一区間としては辛い所。
 再び樹林帯を抜けるので、嫌でもアサヨ峰までの長い距離が目に映る。
 
 歩き始め、やはり嫌な感触が残っていた左足首だが、どうやらややY脚気味に足の内側から地面に置くようにすると痛くないことがわかった。
 といっても時折不安定な地面に足を取られると足首がブレて、一瞬イヤな痛みが突き抜ける。
 焦らず、ゆっくり行くしかない。

  ミヨシノ頭にて (後方は甲斐駒)

 途中、三人組の男女中高年Pを抜く。
 アサヨ峰に到着。時計を見ると早川小屋からコースタイム3時間となっているところ2時間で来れた。
 この1時間の貯金は大きい。

 このピークも展望は最高!
 携帯が繋がるようで、家に電話している人がいた。
 逆方向から白人男性二人組が登ってきた。 「コニチワー」「オハヨゴサイマース!」
 挨拶もなかなか気持ちよい二人組で、カメラを持っていたので「撮りましょうか?」と申し出る。

 余談だが、最近は誰でもデジカメを持っていて、よく山頂で「シャッター押してくれますか?」と頼まれることも多い。
 で、「お返しにあなたも撮りますよ。」と言ってくれるのはありがたいのだが、そういう人の写真に限ってヘタクソなのはまったく困ったものである。
 手ブレはもちろん、何も無い灰色の空が半分以上占めていたり、背景によそのおじさんのマヌケな顔が写っていたり・・・。
 私もけっして写真が巧いわけではないが、せっかく山でイイ写真を撮るのだからもう少し気を配って欲しい。

 もちろんガイジンさんを撮ってあげたこの時は、バックに北岳と鳳凰三山を入れ私なりに最高のアングルで撮ってあげた(つもりだ)。
 写真を確認した彼らは「Ohhh-!!ナイス!」と目を剥いて喜んでくれたので、こちらも満足。

  アサヨ峰

 そこから先、栗沢山は北沢峠に近いせいか、けっこうな人出。
 一休みしてから仙水峠へガーッと下る。せっかく稼いだ高度がもったいない。前方に甲斐駒、摩利支天の花崗岩が圧倒的に聳え立つ。

  鳳凰三山の向こうに富士山

 

 仙水峠で一服。
 いよいよ甲斐駒への登り。都合3時間の登り詰めで、本日の行程で一番の苦行。

  仙水峠

  甲斐駒への登り

  六方石

 ほとんどの登山者は北沢峠からデイパック姿でやってきて、私のようなテント持ち、ましてロープやメットをザックに括り付けた登山者はまず見当たらない。
 脚力もそうだが、このところ歳と共に心肺の衰えを感じペースは上がらず、すぐに腰を下ろして休みたくなってくる。

 途中の駒津峰に着いたところでヘロヘロとなり、最後の甲斐駒への登りは辺り一面の白ザレのように頭の中が真っ白になった。
 何とかコースタイムを維持してたどり着いたものの、賑わう甲斐駒の山頂ではしばし放心状態。
 目の前にいた親子連れのオヤジがザックから(発泡酒だけど)ビールなどおもむろに取り出す。

 (・・・千円で一口飲ませてもらえませんか?)
  思わずそう口走りそうになる。
 もし「あぁ、いいですよ。」と言ってくれたら・・・、その時は間違いなく一口で残り全部を飲み干してしまうだろう。(そして逃げる。)
 そんなアホな妄想を抱いていると背後の祠すら売店に見えてきて、実はあそこで冷たい物でも売っているんじゃなかろうかと思えてくる。

  甲斐駒。通算四度目の山頂。

 しかたなく、ぬるくなったスポーツドリンクで我慢し、山頂を後にする。
 先ほど言ったとおり、あるおじさんからシャッターをせがまれ、お返しにとこちらも撮ってもらったが、案の定、つまらん平凡な写真・・・どーしてアンタらはこうなのか!

 さて、いよいよ最後のひとフンバリ。ここから鋸岳への難路へ向かう。
 賑わう山頂の裏手に標識があり、しばらくは岩の合間を縫いながら下りが続く。
 この時間、こちらのコースに入ったのは私だけ。

 

 途中、鎖場などもあるが特に頼ることもなく、クライム・ダウンできる程度。

  途中にある鎖場

 さらにどんどん下って一時間。ようやく六合石室のトタン屋根が見えてきた。
 石室は何年か前までボロボロの廃屋だったらしいが、近年、鋸岳の登山道が整備されたのと同時にこの石室も随分立派に建て替えられたようだ。

  新築?された六合石室

 中を覗くともう既に先客がいて、水場の位置を聞くと親切に教えてくれた。(この時、教えてくれた彼にはまた明日、世話になる。)
 ちょうど鋸岳方面から到着したばかりの単独の体育会系女子もいて、話を聞くと今朝、登山口の戸台を発って一気にここまで来たそうだ。
 タフだねぇ。

 かくいう私も今日のうちにもう少し歩を進めなければ・・・。
 とりあえず空身で樹林帯を急降下し、水を確保し、本日のビバーク予定地「中ノ川乗越」へ。

 

 本日、鋸岳を越えてきた最終組、5人ほどの中高年チームとすれ違う。
 足元の悪い樹林帯のトラバースが続くが、さすがに行動時間が10時間を超えると、ちょっとした登りでも大いにヘバるし、こういう時こそ足を滑らしたりするので神経だけは切らさないようにする。

 途中、ビバークできるような場所は無い。
 一体いつになったらたどり着くのかと木々に付けられたピンク・テープを追って行くうち、ようやくギャップが近づいてきた。

 1年半ぶりの中ノ川乗越。
 岩石の墓場のようで、何とも寂しい所だ。

  中ノ川乗越から第二高点を望む
 
 とりあえず、ほぼコースタイムどおりにここまで歩き通せた。
 本日、ここに泊まるのは私だけ。
 テントを張れるスペースとしては、①三ツ岳寄りの小高い台地と、②鞍部の長野(北)寄り、そして③第二高点寄りの岩陰と三ヶ所あり。
 私は②の位置に張った。(いずれも二人用テントがせいぜい。)

 

 梅酒パック、餅入りマルタイ・ラーメンを食べてサッサと寝る。
 疲れた・・・。


沢と尾根と岩稜と 【南ア・シレイ沢-甲斐駒-鋸】#1

2010年07月17日 | ロングトレイル

 「海の日」の三連休。
 痛めた左足のリハビリ山行としてまずは新潟の某沢を計画したが、向こうは若干梅雨明けが遅れる様子。
 片や山梨県側は晴れマークがズラリと並んでいるので、急遽、南アルプスに変更する。
 二泊三日、単独でシレイ沢-甲斐駒-鋸岳。
 最近はクライミング指向のため重荷にますます弱くなり、今回も軽量化に努めたが、それでもザックの重さは水抜きで14kg。
 ネットで多くの記録を見ると、シレイ沢と鋸岳はロープ不要に思えたが、それでもいざという時、持ってなくて敗退というのも嫌なので「保険」としてロープ30m、ハーネス、スリングなど最低限は持参する。
 リハビリなのでもっとライトな計画にすりゃいいものの、貧乏性で結局、沢&縦走&岩稜のテンコ盛りにしてしまった。はたして、どうなることやら・・・。

一日目 
天候:のち一時
行程:シレイ沢出合6:40-F21(白い滝)9:50-薬師岳13:40-高嶺-白鳳峠17:20
 
 前夜、久々のJRで甲府着。
 始発のバス(4:00)まで他の登山者たちと共にバス停の辺りにマットを敷いてステーション・ビバーク。
 時折、寝ている傍を巨大ゴキブリがカサコソ動き回る。
 駅構内は明る過ぎるし、寝るなら駅脇の武田信玄像のお膝元辺りが静かでお勧め。

 朝3時過ぎ、やたら甲高い声のバス係のおっちゃんに起こされる。
 昔は2時間近くスシ詰めで広河原へ運ばれ、これがかなりの苦行だったが、最近は座席以上は乗せず、人数に合わせた台数を出してくれるので助かる。

 夜叉神峠で小休止後、再出発。
 しばらく行って白井(シレイ)橋。ここで降ろしてもらう。
 数人のパーティーが道端で準備中。さらに後のバスから、既にヘルメット被った何人かが降りてくる。スタンバイ早っ!
 まぁ、この三連休、何人かは入るだろうなと予想していたが、これほど多いとは・・・。
 シレイ沢、なかなか人気である。

 

 さっそく私も仕度をする。前半はヌメッた箇所もあると聞いたので今回、靴はアクア・ステルスでなく、モンベルのフェルト・ソールにした。単独は私だけのようだ。

 橋の上から見るシレイ沢は、最初のガレ滝から水量多く、なかなか豪快で、ちょいと気持ちが怯むほど。
 既に登り始めているパーティーもいて、橋の左手に残された泥だらけの工事用(?)ロープを利用して順番に沢へ降りていく。
 ガードレールの支柱を使って右手から自分のロープで懸垂下降もできたが、すぐに順番が来たので残置ロープを使わせてもらう。
 左手にある工事用の巻き道は取付きの土壁が崩れてあまり良くない。

  

 こちらは一人なので、出だしからコケて笑われたり、危なっかしいヤツと思われないようにしないと・・・。
 先行パーティーに付いて行くと、すぐに頭上に吊橋が現れる。
 その先は滝が次から次へと現れるが、ご存知のようにこの沢ではほとんど巻き。

 

 

 F5の高巻きですぐ前のパーティーが大きく巻き始めたので小回りを効かし、一気に2パーティーほど抜く。
 「高巻きは最低限で。基本は水線突破!」というタケシ師匠の教えはやはり正しい。
 その後は5~6人編成のパーティーと前後して先を進むが、このパーティーは地元の方たちとあって詳しいし、大人数の割には無駄が無く、実にスムーズ。

 

 巻きが多いが、直登不可能なだけあって豪快な滝が多く、単調なゴーロなども無いからそう飽きることはない。
 また、巻きと言っても所々けっこう悪く、なかなか気が抜けない。
 F10だろうか、滝の裏側をシャワーを浴びながら左から右へ潜り抜けられる所もあったりして面白い。

 

  

  

  

 途中小休止の地元パーティーを抜き、F16の辺りだろうか、取り付こうとした右壁から大量の落石!
 先行パーティーによる人為落石か、それとも自然落石か。どちらにしても、もう少し早く歩いていて取付いていたら、逃げ場が無く完全にアウトだった。

 ほとぼりが冷めてから取り付くが、外傾していてちょっと嫌な感じ。
 後から地元Pが追いついてきたので、リーダーらしき人に「ここでいいんですよね?」と確認すると「んー、もうちょっと左の方が岩が固くてイイと思う。」と教えてくれた。(ありがたや)
 しかし、どちらにしてもほんの1ポイントⅣ級テイストで、リーダー氏が抜けた後に私も続くが、スメアを決めていた右足がズリッと滑り、ちょっとアセる。
 とっさに地元Pの一人がサッと手を添えてくれたが、私の場合ここがシレイ沢では核心だった。

 

 F17、F18と10m超の滝を巻きながら越していく。水量、水勢共に迫力あり、とても取付くシマ無し。
 そろそろクライマックスは近い。
 地元Pのリーダー氏に「そろそろ"白い滝"ですかね?」と訪ねると、彼らは「黄金の滝」と呼んでいるらしい。 (「黄金のタレ」ならエバラだが・・・。)
 
 「今日はどこかでビバークですか?」と聞かれたので、
 「ええ、適当な所で。一応、ノコギリまで行きたいと思っているんですが。」と答えると、
 「ブラボー!とお褒めの言葉を戴く。
 とっても気さくなイイ人たちであった。
 
 続いて圧巻のF20
 トポでは20mとされているが、それ以上のスケールを感じる。花火で言えば「しだれ柳の三尺玉」といったところか。

  F20 (20m)

 

 やがて右手に生クリームを流したような白いスラブが見え始めると左奥正面にF21。「白い滝」(25m)だ。
 動から静。
 それまで豪快で荒削りの滝ばかりだったのに、ここに来て急に白糸のような滝がサラサラと流れる様はまさに自然の妙。

  
 F21"白い滝"(25m)                  右手の白いスラブ                                  

 ここで地元Pと共に大休止。
 後続Pは少なく見積もってもあと3パーティーいるはずだが、なかなか追ってこない。

 この先、沢に慣れた地元PはⅣ級と言われる右手(左岸)のスラブへ。
 私は単独なので安全牌の左手ブッシュの巻き道へ。

 

 巻き道は思ったよりハッキリしてなくて、「白い滝」の中間辺りの高さからは意識して滝に近づくよう巻いていく。
 すると、うまい具合にドンピシャで滝の落ち口にたどり着いた。

  "白い滝"の落口からの俯瞰ショット

 ちょっとしたナメ滝を過ぎ二俣を右へ。
 倒木を越え、奥の二俣は持ってきたトポに習って左を選ぶ。
 しかし、ここがちょっと微妙。
 ネット上の多くの記録では二俣は右へ右へと進んでおり、どうもそちらが正解かも?
 とにかく、この時は奥の二股(らしい所)を左へ進んでしまった。水量はほぼ同じ。

 やがて圧倒的な滝と被った巨壁に前方を塞がれ、右手のブッシュ帯へ。
 巻き道はあり、古いゴミなども確認できたので、そのまま踏み跡に従うと白いガレ沢に出た。
 下を見ると後続の地元Pが私の位置より更に右手の沢を詰めているのが確認できた。

 

 「もっと右か。」
 トラバース気味に再び樹林帯に入り込む。
 踏み跡はあるが、途中からどうもこれはケモノ道では?と疑念が湧く。
 ただ、ここまで来たら後はもうどこを詰めても同じようなもの。構わずガンガン上を目指す。
 
 結局これが失敗で、その後1時間以上、樹林帯の中を右往左往してしまう。
 なかなか稜線に抜けられないので、「単独の中高年登山者、無謀な沢登り!」の見出しがチラチラ頭をよぎり始めるが、地形的にはとにかく上を目指せば鳳凰三山の登山道に出られるはずだ。
 
 まったく、初日からとんだタイム・ロスだとぼやいたところで自分のミスなのでしょうがない。
 最後は密集した這松を踏み分けてようやく稜線に飛び出る。

 

 「・・・スミマセン。ここはどこ?」
 と、おバカな質問を通りがかりの若いカップル登山者に尋ねると、「右手にちょっと進むと薬師岳」だと言う。
 結果として、自分が期待したほぼドンピシャの場所に出たわけだが、何だったんだ一体。

 薬師岳で写真を撮り、すぐさま観音岳へ。
 午前中はいい天気だったが、午後になるとガスってきてあまり視界は良くない。
 観音岳もとりあえず通過。
 予想外の詰めでちょっと疲れてしまい、漫然と歩いていたら、30分ほどしてまた観音岳へ着いてしまった。
 はぁ?

 どうやら途中に赤テープのある二俣があって、そこが本来のシレイ沢の抜け口らしいのだが、そこを一般の登山道と勘違いして何故かリング・ワンデリングしてしまったようなのだ。
 ・・・これで一気にメゲた。

  
 薬師岳                             観音岳

 とりあえず地蔵岳を目指すが、肝心のオベリスクはガスの中。
 今回できれば天辺まで登るつもりでいたが、何も見えないんじゃ意味が無い。
 時折、小雨も降り出した。時間も押しているのでサッサと通過。

 心身共に疲れ果て、高嶺への登りで思わずヘタリ込んでしまう。
 あぁ、ホントもう体力ないなぁ、歳だなぁと思いながら、誰もいないのでその場でしばらく寝てしまう。

 気がつくと・・・朝。
 あぁ、仕事に行かなくちゃ・・・と思ったら、今いる所は曇り空の南アルプスの真っ只中。一気に現実に引き戻される。
 ・・・しかたない、歩くか。

 高嶺を過ぎ、白いガレの辺りに差し掛かるとまたガスが深くなり、またまた道を見失う。
 もういい加減疲れたのでこの辺の適当な所にテント張っちゃうかと思ったら、目の前に遭難したお方の「写真入り」レリーフ。

 「・・・・・・。」
 さすがにここで一人、夜を過ごす勇気は無い。
 (スミマセン。おじゃましましたー。)と頭を下げ、そそくさとまた先へ進む。

 結局、白鳳峠で時間切れ。予定していた早川小屋までまるで届かず。
 せっかく治りかけた左足首もちょっとした拍子にズキズキ痛むようになり踏んだり蹴ったり。
 あぁ、もうヤメヤメ!明日は帰るぞ!と持ってきた梅酒パックだけ飲み、その日は飯も食わずにフテ寝してしまった。