「文学少女の三題噺」、リベンジ版です。今日はいつもの140字ではなく、ショートショート形式です。
文学少女「くろまっくくん、今日のお題 は『蟻』『掃除機』『一見さんお断り』 よ!」
「まるでお城みたい!」
観光客たちは、キョロキョロ、あちこち物珍しそうに見回しながら歩いて行きます。
きょうのツアーは、ミステリーグルメツアー。この場所を訪ねるのは、だれもが初めてでした。
「究極のグルメと至上のエンターテインメントの旅も、いよいよクライマックス! ファビュラスリゾート アリま離宮に到着したでアリんすよ!」
先頭を歩いていたガイドが振り返り、笑顔を振りまきながらいいました。
「なんと! これが噂の一見さんお断りの会員制リゾートホテル、アリま離宮か!」
「都市伝説かと思っていたよ。実在したんだね。これはSNSで拡散しなきゃ……あ、ミステリーツアーだから、スマホはガイドに預けたのか。チェッ」
「すてきねえ。こんなところで暮らしてみたいわ」
「日当たりも良好。もう集合住宅はうんざりよ」
「ねえねえ、私たちも会員になれないの?」
テンション爆上がりの奥様方が、ガイドを取り囲んでいます。
「会費が高くて、厳密な入会審査もアリんすよ? 会員も、タレントのアリがさつき、作家のアリんすがわアリんす、俳優のアリむらかすみ、政治家に財界人、超一流のセレブばかりでアリんす」
「ざーんねん。庶民には高嶺の花ねー」
「ツアーの抽選に当たっただけでも、幸せって思わなきゃ」
「そうでアリんす。まずはお食事からお楽しみアリ!」
観光ガイドが案内したのは大きな食事会場でした。
すでに会場には豪勢な食事が用意されていました。ピッカピカのキラキラです。
「おいしそう!」
「こんなごちそう、見たことないよ!」
「かわいくって超きれーい! ガイドさん、スマホ返してよ! これ、絶対インスタ映えする!」
「さすがセレブ御用達だぜ」
「食べきれないよ! ねえ、ガイドさんは食べないの?」
「ガイドなんてほっとけよ。待て、それ、おれが目をつけていたやつだぞ!」
「うるさいなー。早いもの勝ちが、ビュッフェのルールだろ。ほしかったら目からビーム出して取ってみろよ!」
「こらこら、喧嘩しないの。こんなにたくさんあるんだから」
「おっ、何か近づいてきたぞ!」
「もしかして、あれが伝説のアトラクション、ウィンドトンネル?」
「やった! ついに空を飛べる日が来たぞ!」
「いっくぜー! うっひょー! 飛ぶー、飛んでくー!」
「ウェーイ!」
「まままま待っ、きゃぁーーーーっ!」
「たのしーーーー!」
掃除機がうなり声をあげて、金平糖に群がった蟻たちを吸い取っていきます。ネコのいたずらで転げ落ちた瓶が、テーブルに戻されたころには、床には一つまみの金平糖も、一匹の蟻も残っていはいませんでした。
掃除機が去っていくと、ネコが一声、ニャアと鳴きました。
「まいどアリ!」
遠くでようすを見ていたアリのガイドが、パチンと指を鳴らすと、鎌を持った死神の姿に変わり、ネコの前には空中からマタタビが落ちてきました。死神のアリは、にたりと笑っていいました。
「一見さんお断りではなく、一見さんしかいないでアリんすよ」
140字の字数制限の不自由も、「文学少女の三題噺」の楽しみですが、今回は減量前のオリジナルのまま掲載することにしました。
星新一風のショートショートを書いてみたかったのです。
しかし死神って便利なキャラですね。星新一の偉大な発明の一つだと思います。
>掃除機がうなり声をあげて、金平糖に群がった蟻たちを
のところでピンときました。
>星新一風
というより「まんま星新一」のような。ということは「井上ひさし風」も「阿部公房風」も、さらには「井伏鱒二風」もできるのでは?
>ミステリーグルメツアー
ハードボイルド❈❈ツアーというのもアリかもしれませんね。
ではでは。
三題噺はTwitterの文字制限の140字がルールです。
140字バージョンは掃除機のところで終わりですが、群集劇を書いてみたくなりました。いい感じの死神のイラストが見つかり作者さんに感謝しています。