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ふたたび 東京都「非実在青少年」規制について

2010年05月05日 | コミック/アニメ/ゲーム
■漫画家を参考人招致へ 泥沼化する「2次元児童ポルノ規制」で都議会
 (5月4日22時37分配信 産経新聞)
 子供の過激な性行為を描いた漫画やアニメなど「2次元児童ポルノ」を規制する東京都の青少年健全育成条例改正案で、都議会は今月中に著名な漫画家の参考人招致を実施する。


 本当に困ったことことですね。
 〈非実在青少年〉のことは、〈非実在警視庁〉に任せておけばいいのに。老婆心ながら、あまり余計なことはしない方がいいと思いますよ。架空のキャラを守ると、実在の青少年も守れるという、何かおかしな議論になっているのが気になります。「同人用語の基礎知識」さんの意見に、おおむね私も賛成です。

 さて、記事を引用します。

 条例案は「健全育成」と「表現の自由」をめぐり、賛成派の自民と修正派の民主が激しく対立。規制に反対する漫画家の招致で、泥沼化する議論の“落としどころ”を探るのが狙いだ。

 「健全育成」と「表現の自由」。
 私は表現の自由の立場から、今回の規制に反対です。ん? 〈世間〉の大多数は〈児童ポルノ〉に反対? たしかに、「実物」を見たらみんな逆上するかもしれませんね(大多数の人達は、実のところ、この問題に興味もないし、無関心だと思いますが)。しかし、忘れがちな原則ですが、〈表現の自由〉とは、常に少数者、個人の権利を守るためにあるものです。

 そして私は、「健全な青少年の育成」という考え方そのものに反対です。
 「ハイル・ヒトラー!」という、ナチスの敬礼はよく知られています。この敬礼のルーツは、20世紀はじめ、ドイツのギムナジウムの学生が始めたワンダーフォゲール運動の挨拶でした。ワンダーフォーゲルも、もとをただせば、大自然の中に新しい生活と文化を求めて、ギターとリュックサックを担いで旅をした、「自分探し」の若者たちの歌声運動だったのです。しかし、「個人主義、イクナイ!」という非難を受けてるうちに、いつの間にか「ゲルマン文化の復興!」を唱えるナチスに合流していってしまったのです(このことはまた機会があったら改めて考えてみたいと思います)。

 〈健全な青少年育成〉は、それ自身は正しく、人畜無害なように見えます。しかしナチスのように、その〈正しさ〉が、政治利用され、とんでもない方向に歪められてしまった歴史も忘れてはなるまいと思います。ナチスは〈退廃芸術〉を焚書して、最後にはアウシュヴィッツの悲劇をもたらしまったのですから。本を焼く人たちは、いずれ平気で人も焼いてしまうものなのです。

 もちろん、この社会に、〈二次元ポルノ〉〈ボーイズラブ〉に反発や嫌悪を抱く人たちが大勢いることは、想像にかたくないことです。お叱りは受けましょう。しかし、その純粋な気持ちを、政治的に利用しようとする人達の存在だけは許せません。これはナチスドイツ、旧ソ連・社会主義国、戦前の日本ような、過去の歴史の問題ではありません。

■1999年~2000年の人口10万人あたりのG8諸国の強姦認知件数
  カナダ   78.08件
  アメリカ  32.05件
  イギリス  16.23件
  フランス  14.36件
  ドイツ   9.12件
  ロシア   4.78件
  イタリア  4.05件
  日本    1.78件

 この統計値は、〈児童ポルノ〉が性犯罪の増加につながるという、規制派の主張に一切根拠がないことの例として示される例です。〈児童ポルノ〉の単純所持まで禁止するカナダやアメリカが「レイプ大国」で、「児童ポルノ」が野放しといわれる日本のほうがはるかに少ない。この単純な事実ほど、ポルノ規制派の主張に、全く根拠がないことを示す資料はありません。

  ウィキペディアの「ラディカル・フェミニズム」などの項目にも目を通すと、カナダの現実には暗たんたる思いがします。性行為が一切描かれていないのに、「人を性的に侮辱する表現があるように思われる」というだけで、その書籍は禁止。これでは児童への性的虐待の問題提起も、学術的な研究調査もできません。
 この倒錯した「児童ポルノ狩り」は、反ポルノグラフィー運動の先頭に立ったアンドレア・ドゥウォーキン自身の著作『ポルノグラフィー-女を所有する男たち』『女性憎悪』まで押収、「加害者」認定されたのは、もはや現代における寓話というほかにありません。
 最近は「インターネット上で未成年とコミュケーション(性的な表現を含まない一般の会話や、学習のアドバイスも含む)」まで禁止する法案まで通過しているのだそうから、ただ驚き呆れるばかりです。〈弱者保護〉なんて当初の目的なんか、どこかに行ってしまっていますね。

 果たして、こんなカナダのような言論統制国家を、〈先進国のモデル〉としてお手本にしなければならないのでしょうか? その実態は世界最悪級のレイプ大国です。そんなことはありませんよね。この児童ポルノ規制を定めたカナダの「1993年刑法典163.1条」については、夏井高人氏の翻訳を読むことができます。

 さて、新聞記事に戻ります。

 「(利害関係がはっきりせず)築地市場の移転問題より難しい」。ある民主都議は、条例案の6月議会への先送りが決まった後、そうつぶやき、厳しい表情を見せた。

 築地市場の移転問題の対立については、私は心情的に反対派ですが、賛成派の人達の言い分もわかります。
 しかし、今回の〈非実在青少年〉問題で、いったい誰がどんな「損害」を受けているというのか。この不当な規制を許すことで、誰に「利益」があるのかだけは、はっきりしています。〈日本アムネスティ協会〉と結託して、映倫とJASRACをガチャポンにしたような、警察官僚の天下り団体を作りたい人達でしょう。出版業界の1年間の新刊の点数は8万点といわれています。出版市場の3割はコミックといわれていますから、単純計算で2万4千点。出版社はほぼ東京一極集中ですから、これを全部チェックしていくだけでも大変なことですね。

 〈ユニセフ日本協会〉の児童ポルノ規制の行く着く先が、どんな社会になるのか、カナダを反面教師に考えていく必要があります。ユニセフ親善大使としては黒柳徹子さんがいるのですから、アグネス・チャンさんを広告塔にした外郭の民間団体〈日本ユニセフ協会〉こそ仕分け対象ではないのでしょうか? 〈ユニセフ日本協会〉がどんな団体なのか、私達はもう少しその沿革や成り立ちについて調べる必要もありそうですね。

 ポルノ規制派は、私達に「オタク」「児童ポルノ愛好者」というレッテルを貼って、どうしてもこの社会から圧殺したいようです。何とでも好きなようにお呼びなさい。われわれは、きれいなファシズムより、汚れた民主主義を望むだけです。

 以前のエントリでも触れた、漫画と小説との違いについては、里中満智子さんが、もっと上手な言葉でこうおっしゃっています。

 「18歳未満の性体験で言えば『源氏物語』も規制の対象。原作の文学はよくて、漫画化したものは子供に見せられないのか」と疑問を呈する。

 夫に先立たれ、まだ幼いわが子と共に残された紫式部は、「はかなき物語」について友達と手紙で語らうことで、自分の孤独をまぎらしながら、あの『源氏物語』を生み出していきました。「はかなき物語」には、今日ではそのタイトルさえ残らない、レディースコミック・BLのような作品もたくさん含まれていたでしょう。
 源氏物語について、紫式部作者複数説がありますが、「一人でも同人」のサークル名ではなかったかと私は理解しています。「箒木系」の物語は、「光源氏、こんな男ありえない!」という、女性ファンたちの声に応えた、「桐壺系」のスピンオフ作品だったのではないかと思うからです(源氏はふられまくり、ずっこけまくりです)。『源氏物語』という大作は、有象無象の〈紫式部〉のコラボレーションではなかったのでしょうか。

 「青少年の育成に望ましくない」とか、「社会倫理に反する」とか、どうして一部の人達にそんなことを決める権限があると言い張れるのでしょうね。〈はかなきもの物語〉の権利を絶対無条件に擁護するために、私はあらためてこの都条例に反対を表明するものです。

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