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四年クラスは一階の奥にある。
受付を兼ねた事務室の隣に塾長室、次に資料室。洗面所と階段ホールを挟んだ次が四年クラスの教室だ。
一番奥が五年クラスで廊下の突き当りは非常口になっていた。
一階から上に上がったことはないが、階段ホールの壁に取り付けられた配置図を見て、二階には六年と中学クラスが各二クラス、三階には高校と予備校の教室が同じく二クラスずつあることを文也は知っていた。
教室に入ると同じ小学校に通う的場真奈香が足早に近づいてきた。
「ねえ、玄関にいた怖そうなおじさん見た?」
真奈香は怯えたような上目遣いで文也の顔を覗き込む。
「もう、佐野先が追っ払ったぜ」
文也より先に宮島が答え、「おれはあんなおっさん怖くねえな。ふんっ」と鼻を鳴らした。
「誰もあんたに聞いてないからっ」
真奈香に突っぱねられ、彼女に好意を持っている宮島はたじろいだ。その顔を見て文也は吹き出しそうになったが笑ってはいけない。
真奈香の好きなのは宮島ではなく文也だった。告白されてはいないがなんとなくわかる。たぶん宮島も気付いている。笑えばきっと友情にひびが入るに違いない。今は女の子よりも親友のほうが大事だった。
突然、エレベーターが急下降したような床の揺れを感じ、真奈香が「きゃっ」と悲鳴を上げて机に縋った。
「今の地震?」
怯えた目で文也を見る。
「バカか、地震なんか揺ってねえよ。なあ、野地」
宮島がふんっと胸をそらせた。
好きなら意地悪なこと言わなきゃいいのに。
文也は小さくため息をつく。
「揺ったよ。ちょっと変な感じしたけど」
「ほらあ。宮島君はがさつだから微妙な揺れには気付かないのよ」
「なんだとっ」
「なによっ」
真奈香と宮島がにらみ合っている。
なんだ。そういうことか。
宮島の戦略を察し、文也はその場を離れいつもの席に着いた。