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なぜ妻が夫の死体を庭に放り出したのか。
それは夫をマイホームから永遠に追放するという、殺してもなお殺し足りない夫への嫌がらせだった。
だが、烈しい怒りと殺人、さらに庭までの短い距離とはいえ肥満と高血圧症の身で行った死体の運搬が心臓に負担をかけた。
部屋に戻りサッシに錠をかけ、ガラス越しに惨めな夫を眺めてほくそ笑んだ直後、急性心筋梗塞を発症した妻は胸を押さえ悶えながらソファの横に倒れ込んだ。
子供もいない。親類もいない。まだ新聞の購読も開始していないし、近所づきあいも始まっていない。
故に姿の見かけない夫婦を周囲の誰ひとり気にする者はなく、いつまでたっても中で起こっていることは気付かれなかった。
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「お前さ、手慣れてない?」
躊躇せず作業を行う親友が知らない人間のような気がしてエイジは少しだけ怖くなった。
ダンダは咥えていた懐中電灯を手に取り「俺もテレビで見たんだよ」と、靴を履いたままさっさと家に上がり込んだ。
ババクンとチャメが後に続く。
戸惑いを振り払ってエイジも中に入った。
見つかったらすぐ逃げられるよう、掃き出し窓は開けたままにしておいた。
街灯の明かりで仄かに浮かび上がる部屋はリビングだった。ソファセットにキャビネット、テレビがそのまま残っている。
「家具、置きっぱ――」
何もないただの空き家だと思っていたエイジは驚いた。
ダンダは黙って懐中電灯を照らしながらあちこち物色している。
やっぱり手馴れてるとエイジは困惑したが、もう気にしないことにした。
ソファの前には大きめのテレビ台が据えられていたが載っているテレビは十四インチの小さなものでチャメが笑う。
「これじゃソファに座ったら見えないね」
チャメの家にあるのは超大型テレビだ。映画を観るのもゲームするのもド迫力だった。
「ふん。おまえは大きいのに慣れ過ぎてんだよ。こんな狭い部屋ならちょうどいいさ」
ダンダが鼻を鳴らす。
ババクンがテレビ台の上を指でなぞった。ごっそりと埃が指先に溜まり、慌ててズボンで拭う。
エイジはソファの上にも埃がたっぷり積もっていると思い「今度、なんか敷くもの持ってこなきゃな。直接座るの気持ち悪いし」とつぶやいた。
「あっ、僕持ってくる」
チャメが手を上げる。
「じゃ、お前、全アイテム担当な」
ダンダは笑いながらチャメの顔に光を当てた。
「もう、まぶしいよ」
チャメが光の輪に目を細めて顔を背ける。
「なあ、これなんだろ」
ババクンがキャビネットの天板をじっと見つめていた。
ダンダが懐中電灯を向けて近づく。
「なに、なに」
チャメも好奇心旺盛に近づいていく。
エイジは二人の間からキャビネットを覗き込んだ。