魚臭
「あら、いやだ。マチ子さん、ほーんとあなた、魚の食べ方汚いわね」
姑の声にわたしはいつものようにただうつむく。
魚は見るのも食べるのも嫌いだった。あの生臭いにおいが我慢ならない。嫌々食べるから魚の食べ方がどうしても雑になる。
マグロの値が高騰した、サンマの水揚げが悪いなどのニュースを見ても何とも思わず、むしろ、この世から魚が消えてくれてもいいとさえ思っている。
なのに姑は毎日毎回嫌みを言う。
だから子供たちの箸使いも下手になるのだと。
そのせいで魚がもっと嫌いになった。
同居した時、一つの家にふたりも主婦はいらないと姑は自分だけ自由に遊び歩き、家にいなかった。
だが、わたしが魚料理を食べない、作らないと知るや出かけることがなくなり、一日中いて台所にしゃしゃり出てくるようになった。
そして魚料理ばかりを食卓に並べ始めた。料理上手というわけでもないので下処理や味付けが悪く、生臭みがいっそう増している。
誰もいない昼食にまで手の込んだ料理などいらないのに、菓子パンかカップ麺のほうがマシなのに、この女は毎日毎回わたしの目の前にぷんぷん生臭い魚料理を置く。
「さあ、マチ子さん、まだまだあるわよ。たーんとお食べなさい。魚の食べ方上手くならなきゃ。子供たちのお手本になれなくてよ」
姑は焼き魚の皿を退け、煮魚を突き出した。
「わたしは魚が嫌いなんです――」
「えっ、なんですって?」
「魚が大嫌いなんです――」
「なに? ぼそぼそ言ってちゃ聞こえないわ」
「だぁかぁらぁ、魚もお前も大っ嫌いってんだよっ」
流し台に置かれたままの出刃包丁を引っつかむと姑めがけて振り下ろした。
魚は触れないし、さばいたことがない。
これからも絶対触ることはないし、さばくこともないだろう。
でも肉は好きだ。だから触れる。
どんな肉でもさばける。
さあみんな、きょうからずっと肉料理よ。