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ある住宅地の一角に幽霊屋敷と噂される古い空き家があった。
庭に立つ半透明の老人を夜な夜な通行人が崩れた垣根の隙間から目撃するという。
よくある友達の友達が見たというパターンだが、噂は拡散され、大きく育っていく――
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「どっか、いい場所ないかな」
エイジは首筋をぽりぽりと掻きながら浮かない表情でつぶやいた。手にはコンビニの袋を力なくぶら下げている。
「んなとこ、どこにもないよ」
ババクンもコンビニ袋を指に引っ掛け、ふてくされた顔でエイジを振り返る。
「ねえねえ、さっきの見た? あの店員の顔。ああいうのを目むいて鼻むいて怒るっていうのかな」
チャメは笑っていたが二人と同じくやはり元気はない。
「俺らみたいなんがたむろする店が流行ってるってこと知らねえんだよ、あのクソ店員。集客してやってるみたいなもんなのにさ」
そう吐き捨てダンダはペットボトルのコーラをぐびぐびと飲み干し派手なげっぷをした。
中学二年生のエイジたち四人組は小学校時代からの仲良しグループだった。
放課後コンビニに立ち寄って駐車場の片隅でダベろうとしていたところを店員に見咎められ敷地から追い出されたところだ。
四人は世間から見て普通の良い子ではない。だが、手の付けられないワルというのでもない。
同じ学年に万引きを注意され店員を殴って逃げたワルがいるが、それに比べるとかわいい少年たちである。
「ああ、ほんと、どっかないかな。オレ達みんなで集まれて、大人たちにうるさく言われない秘密基地みたいな場所。そんなとこあったらさ、女子も誘ってあんなことやこんなこと。むふふ――」
「おいエイジ、お前バカか。そんな都合のいい場所どこにもねえし、俺たちが誘ってついてくる女子なんかよけいいるか」
ダンダはエイジのにやけた顔に水を差した。
「まあ、そうだろうけど――夢を壊さないでくれよ」
「ねえねえ、エイジの夢ってそんなでいいの?」
「じゃあ、チャメの夢ってどんなだよ」
「えー。僕の夢? うーん。わからん」
「おれも女子と仲良くするっていうの夢だなあ――」
「ババクンも? 二人ともそれが夢って悲しすぎるよ」
チャメが憐れむ。
「ははは、お前ら勝手に言っとけ。俺は彼女いるからな」
三人は一瞬、羨望の眼差しでダンダを見た後「ウソつけっ!」と同時に叫んでツッコミを入れた。
それを笑ってかわしダンダが叫ぶ。
「もう、これからどこ行くよっ!」