恐怖日和 ~ホラー小説書いてます~

見よう見まねでホラー小説書いてます。
たまにグロ等閲覧注意あり

call ~鬼来迎~ 第三章 2

2019-05-05 14:27:30 | CALL

          2

「もしもし。もしもし」
 呼び出し音の途中でも、今にも消えそうな音を繋ぎ止めるように文也に呼びかけた。
 早く出て。
 薄暗い路地で大声を出す佑子を通行人が訝しげに通り過ぎていく。
 後方から来た軽自動車のヘッドライトが祐子を照らし、容赦ないクラクションを鳴らす。
 自転車を路肩に寄せ、車が抜き去るのを待っていたら、呼出音が止まっていることに気付いた。
「文也? 文也?」
 長い静寂が続いていたが祐子はあきらめきれずに大声で呼びかけた。
 いきなり激しい引っ掻き音が鳴り、その向こうから、
「お母――ん」と息子の声が返ってきた。
 佑子は心の底から安堵した。
「大丈夫なの?」
「だい――ぶ――よ」
 警察に連絡したことを伝えると文也は安心したようで、祐子もほっとした。
 だが、約束を破って用具入れから出たことを知り、足元から震えがくる。さらに死体の山があると聞いて、自転車ごと転倒しそうになった。
「どうして、なんで出たの」
 我が子が遭遇したことのない恐怖にさらされていることが耐えられない。
「とにかく早く外に逃げなさいっ」
 玄関まで来ているという文也に祐子は叫んだ。
 だが、ドアが開かないらしい。
 それだけでなく、通りには誰もいないし、パトカーが来るどころか乗用車もバスもまったく走っていないという。
 そんなはずがない。
 文也の言っていることがよくわからず、ノイズのせいでそう聞こえるのだろうかと思った。
「とにかく、どこでもいいから出口を探すの。電話は切っちゃだめよっ」
 早くあの子のところに行かなきゃ。
 祐子は自転車にまたがり勢いよく漕ぎ出した。

call ~鬼来迎~ 第三章 1

2019-05-05 13:10:17 | CALL

          1

 薄暗い蛍光灯が事務室前の廊下をぼんやりと照らしていた。
 明かりがついているのになぜこんなに暗いのか、文也は不思議でたまらない。
 一つ二つなら蛍光灯が古いせいかもしれないが、三階から一階まで全部の蛍光灯がおかしく、不安がさらに増してくる。
 死体や散らばる腕や脚に注意しながら玄関に向かって廊下を進んだ。
 洗面所を出てから何時間も経ったような気がする。
 感覚が麻痺してきたのか、無残な死体やむせ返る血生臭さに少し慣れた。だが、血の海にぶちまけられた内臓を見るとまだ吐き気を催す。
 玄関ホールに着いた。
 ガラスドアには死体の山とその中に立つ文也が映っている。
 電源が落とされているのか前に立っても自動で開かず、手動で試みたがドアはびくともしない。
 文也は外の様子を窺うため、ガラスに顔を近づけた。
 信号機も街灯もネオンも塾内の照明と同じく薄暗い。立ち並ぶビルやマンションの窓には明かりすら灯っていなかった。それだけでなく、深夜でも交通量のある大通りなのに一台の車も走っておらず、通行人もいない。
 玄関までくれば助けを求められると思っていたが当てが外れた。
 男の気配ばかりに集中していたので違和感に気付かなかったが、静か過ぎるのはこれだったんだとわかった。
 外でも何かあったんだろうか。お母さんは来られるのだろうか。
 電話もあれからかかってこない。
 文也の心は不安で押しつぶされそうだった。
 その時ポケットの中で携帯電話が震えた。悲鳴を呑み込み、血で濡れた手をズボンの尻で拭ってから電話に出た。