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背が低く痩せた初老の男がいた。おまけに貧相な顔立ちで、勤めていた会社では貧乏神とあだ名されていた。
その男が退職金でマイホームを手に入れた。
何を作っていたのかいまだ把握していない部品工場で毎日油にまみれて働き、上司に嫌われ同僚や後輩たちに無視され続けても定年退職するまで働きぬいた。
退職金は男にとって文字通り汗と涙の結晶であった。
もちろん大した額ではない。だが、中古の小さい家を購入することはできた。
男は自分がやっといっぱしの人間になれたと大満足した。
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それぞれの家にはいつも誰かしらいて、好き勝手に集まり騒げる場所はなかった。
エイジの母親はイラストレーターで常に在宅している。世間一般の大人たちに比べると寛容なほうだが、年甲斐もなく少女趣味全開で、むさくるしい中二男子が四人も自宅に集まることをよしとしなかった。
娘が欲しかったと堂々と嘆き、息子にかわいい彼女ができるのを楽しみにしていたが、最近は顔を見るとため息をついてダンダたちを家に招くと露骨に嫌な顔をした。
ババクンの両親は学習塾を経営していた。よってみんなが集まると有無を言わせずまず勉強をさせる。必然、誰も近寄りたがらない。
チャメの母親は専業主婦でご多分に漏れず、かわいい一人息子を溺愛していた。
四人が部屋に集まると大喜びでお菓子や飲み物を用意してくれ一番最適な場所だったが、そのまま部屋に居つき首を突っ込んでくるのでみんなうんざりしていた。
猫なで声でチャメを呼ぶ母親をダンダが特に嫌っていた。
ダンダの家には母親がいない。
だが、たった一間の狭い長屋にはダンダの部屋などなく、酒癖の悪い酔っぱらい親父がいつも大の字で寝ている。
小さな子供たちが遊んでいる公園ではママ友たちが目を光らせているし、四人で集まれる場所はコンビニの駐車場ぐらいしかないのだ。
こうるさい店員がいない時はいいとしても安住の場所ではない。
空き家か空き倉庫でもあれば。
エイジはいつも考えていた。しかも管理の行き届かない簡単に忍び込める場所。
だが、そんな自分たちに都合のいい所がそう簡単に見つかるとはとても思えなかった。