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新居に移り、一国一城の主となった男は自分の価値が上がったと思い込み、今まで逆らえなかった妻に横柄な態度をとるようになった。
だが、妻からすれば男の価値などこれっぽっちも上がっていない。むしろ今回のことでマイナスになってしまった。
男はそのことにまるで気付いていなかった。
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K町に着くころには夕日が沈み、空が濃い紫色に染まりかけていた。
「お前、塾さぼったのママにばれないか」
エイジは先頭を走るチャメに訊いた。
「大丈夫。ママ――じゃねぇ――母ちゃんは塾に行ってるって信じてるし、塾には休みますって電話したから。僕、どっちからも信用されてるからね。バレないよ」
チャメはしたり顔でエイジを振り返る。
「へいへい。チャメちゃんいい子でちゅもんねー」
笑って茶化すエイジを今度は並走するダンダが心配した。
「エイジは? こんな時間にいなかったら怒られるんじゃね?」
「へーき。オレんとこ放任だもん。まあ女の子だったらもっとかまわれてんだろうけどね。
ところでババクンは?」
ダンダの事情はわかっているので、エイジは斜め前のババクンに訊いた。
「黙って出てきたよ。きょうはふたりとも忙しいから気付かないんじゃないかな」
振り向きもせず素っ気なく答える。
ババクンはこういうこと訊かれるの好きじゃないよなとエイジは思い出した。
チャメの自転車がきゅっと鳴って止まる。
「あそこだよ」
指さすほうに崩れかけた垣根に囲まれる古い一軒家があった。
「なあんだ普通の家じゃん。幽霊屋敷っていうから蔦がびっしりの洋館かって思ってた」
「ほんとだ。マジふつー」
エイジとダンダは自転車にまたがったまま家を眺めて笑った。
「本当に人、住んでないのか?」
ババクンの問いにチャメが大きく頷く。
「よしっ。もう少し暗くなるまでどっかに待機だ。ここにチャリ止めるわけにいかないから置く場所探そう」
自転車をユーターンさせ今度はエイジが先頭に立って勢いよく漕ぎ出した。
「さっきさ、スーパーあったじゃん。そこへ行こうぜ」
ダンダが後に続き、ババクンとチャメが賛成した。