2019/10/29 14:08
小泉進次郎環境相が得意なはずの地方行脚で苦しんでいる。19日には熊本県水俣市で水俣病関連の慰霊祭に参列したが、関係者との意見交換会では
、特別措置法で定める周辺住民の健康調査を行うかどうかあやふやな発言を続けて反発を招いた。小泉氏は東京電力福島第1原発事故の現場などを精力的に訪れ、被災地に寄り添う姿勢を示すが、問題解決に結びつく具体策は切り出さない。入閣して間もないからか、政治決断には慎重な姿勢がにじむ。
「減るものを嘆くより、減る中で何ができるか考える街作りをやりませんか。一緒になって考えれば、日本らしい発展の道が描けると思う」
小泉氏は慰霊式後、地元の商工会関係者と懇談し、人口減少をめぐる悩みに独特な“小泉節”でこう答えた。昼食で出された地場の魚介類を褒め、会合は和やかな雰囲気に包まれたが、次の水俣病被害者団体のメンバー約20人との意見交換会で空気が一変した。
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「大臣、ねぇ…ちゃんと返事してくださいよ」
小泉氏が締めのあいさつをした直後、出席者の1人があきれたように声を張りあげた。
水俣病は、水俣市のチッソ水俣工場が海に流した排水に含まれるメチル水銀で汚染された魚や貝を食べた住民らが発症した中毒性の神経疾患だ。昭和31年の公式確認から63年がたつが、患者認定の審査を待つ人は1667人にのぼり、各地で認定や損害賠償を求める訴訟が続いている。
平成21年に施行された水俣病特別措置法(特措法)に盛り込まれた周辺住民の健康調査はいまだに行われておらず、被害者団体からは健康調査を求める厳しい声が相次いだ。
「健康調査は大臣の一言でできる。水俣病の症状がある多数の患者が切り捨てられてきたんです」
「小泉氏には行動力がある。大臣が水俣病を公害の原点と思うならば、きちんと片付けて。63年たっても解決しないのは国が被害者の声を聞かないからだ」
「解決を目指すために政治が主導権を発揮すべきだ。持ち前の指導力と発信力を発揮してもらいたい」
環境省の“不作為”に声を震わせながら批判する出席者に対し、小泉氏は正面からの答えを避けた。
「要望は精査する。環境省職員は新しい大臣にまず『環境庁は水俣病がきっかけとなって立ち上がった。そのことを決して忘れるな』と言っている。そのことを忘れず、何ができるかを考えていきたい」
小泉氏に冒頭の「注文」をつけた「水俣病被害者の会」の中山裕二事務局長は産経新聞などの取材に不満をにじませた。
「小泉氏は一見歯切れがよさそうだが、よく聞けば何も語っていない。水俣病をもって環境庁ができたというが、むなしく聞こえる」
その後の記者会見でも、地元メディアから、健康調査の実施に後ろ向きな環境省の姿勢を批判する質問が相次いだ。小泉氏は口をへの字に曲げ、こう繰り返すのみだった。
「現時点で具体的時期を答えるのは困難だ。メチル水銀の(住民に与える)健康影響を客観的に明らかにする手法は慎重かつ確実に開発しなければならない」
健康調査の実施が進まない背景として、水俣病問題を沈静化させたい環境省の思惑を指摘する向きもある。環境省関係者は「健康調査を行えば被害者の数が膨らんで多大な予算が必要となる可能性がある」と漏らす。
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小泉氏は、安倍晋三首相から期待された「発信力」には十分応えている。24日に自動車の見本市「東京モーターショー」で環境省が開発した電気自動車(EV)を紹介した際には、100人近い報道陣が駆けつけた。環境行政への注目度を引き上げたといえるが、閣僚として世間の反発を招いてでも政策を実行する手腕はまだ未知数だ。
水俣病問題をめぐっては、大島理森衆院議長が環境庁長官時代の平成7年、未認定患者救済をめぐり被害者側に260万円の一時金などを支払うことで被害者側と合意し、一時はこの問題に政治決着をつけた。
当時は水俣病に対する関心が高く、首相だった村山富市氏が問題解決に熱心だったこともある。ただ、政治決着を図った時点で、大島氏は当選12年目。今の小泉氏の11年目と変わらない。
次の水俣病関連の慰霊式は、来年5月に開かれる。被害者団体と顔を合わせるまでに、被害者の期待に応じる政治判断をする日は来るのか、来ないのか。
(政治部 奥原慎平)
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