「雪冤」感想 大門 剛明

雪冤とは、無実の罪（冤罪）をはらす事。
死刑制度のあり方を問いつつ、真犯人は誰か？何の目的で？と、最後の最後まで解らない謎解きで、引き込ませる内容でした。「走れメロス」とダブらせた展開が、ちょっと私には、わかりにくかったです。

そして、最後の方は、怒濤のどんでん返しの連続。ここまでパタパタとあ～でもない、こーでもない・・ってやられると、凄く重いテーマの作品なのに、なんだかそぐわない感じがしました。とはいえ、エンタメ性は凄くありますね。あれ？違うの？えっ？また？え～～っ！！って感じです。

★以下ネタバレです　白文字で書いています★


★びっくり・・・。刑を執行されちゃうんですよ～。う、う、うそっ！！と、そこでもう呆然・・・。結局彼は無実の罪ながら、死刑に・・。ズドーン・・・。
しかも、オチが辛い。子供の頃、電車のレールに置き石したことがあるっていう設定なんだけど、どう考えてもこの青年と、美しいお姉さんは、そういう風なをふざけてするようなお子さまには見えない・・・。（私が勝手にそう思っただけだけど）で、実はお姉さんがレイプしようとした男を刺し殺してしまったので、そのお姉さんのやったことを隠す為に、お姉さんをめった刺しにして・・・という細工が、なんだかなぁ・・・という感じも・・・。
そして、彼が父に長年一度も会わずにいた理由というのも、その決意が揺らぐのが怖かったから・・・というのは、凄く可愛そうだったな・・・。そこまでしてかばう（→彼女を好きだったが故に）って部分が、どうしてそこまで・・・と、ちょっと思っちゃったりもしました。以上

とはいえ、死刑制度を問う！って感じの処は、読み応えもあったし、新人さんとは思えないずっしりした文章で良かったと思いました。

小説を読んだ後、偶然雑誌に大門さんのインタビューの記事があったのを読んだら、この本はかなり彼の実体験とかも入っているのが解って、なるほど～って思いました。　歌のサークルに入って歌を歌ってたことや、小説に出て来た場所あたりで貧しいアパート暮らしをしていたこと、ご本人も一時司法試験の勉強を一生懸命やったこと、京大とかのエリートさんに対してちょっとコンプレックスを抱いていたこと・・などです。あと走れメロスについては、中学校の頃に読んだ頃から死刑の階段を登るイメージが自分の中にあってそれを組み合わせて小説を書いたら・・・と思っていたことなどです。とても真面目そうで腰の低い、一生懸命なお人柄がかいまみれました～

雪冤 (2009-05-29) 大門剛明 　内容（「BOOK」データベースより）
平成5年初夏―京都で残虐な事件が発生した。被害者はあおぞら合唱団に所属する長尾靖之と沢井恵美。二人は刃物で刺され、恵美には百箇所以上もの傷が…。容疑者として逮捕されたのは合唱団の指揮者・八木沼慎一だった。慎一は一貫して容疑を否認するも死刑が確定してしまう。だが事件発生から15年後、慎一の手記が公開された直後に事態が急展開する。息子の無実を訴える父、八木沼悦史のもとに、「メロス」と名乗る人物から自首したいと連絡が入り、自分は共犯で真犯人は「ディオニス」だと告白される。果たして「メロス」の目的は?そして「ディオニス」とは?被害者遺族と加害者家族の視点をちりばめ、死刑制度と冤罪という問題に深く踏み込んだ衝撃の社会派ミステリ、ここに誕生!第29回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞W受賞作。