https://www.sankei.com/article/20231219-LUUILGYN2JPAHOQ4FUQT37JS4I/
北川信行の蹴球ノート 盛況だった橋本英郎さんの引退試合…社会福祉法人がスポーツを支援する理由
2023/12/19 11:00
16日にパナソニックスタジアム吹田(大阪府吹田市)で行われた元日本代表MF、
橋本英郎さんの引退試合には、ワールドカップ(W杯)3大会に出場した本田圭佑さんや、
日本協会専務理事の宮本恒靖さんら豪華なメンバーが集結し、1万2164人の観客を魅了した。
「僕がスター選手じゃなくて脇役だったから、これだけのメンバーが来てくれた」
と振り返った橋本さんは試合後の記者会見で「本当に分からないことだらけの中で
(引退試合の)準備を進め、いろんな選手に声を掛け、いろんな形で来てくれました。
だからこそ、こういういい時間になりました。観客動員も天候が
思わしくない中でも伸び、感謝しかありません」と謝意を示した。
講演会をきっかけに
「日の出塾」で講演する橋本英郎さん
現役時代に自らは「黒子」に徹して周囲の選手の特徴を引き出すプレーを心掛け、
輝かせてきた橋本さんが声を掛け、応じたのは選手や観客、スタッフだけではない。
多くの企業や法人も「ありがとう、サッカー」を引退試合のスローガンに掲げた
橋本さんの感謝の気持ちや利他の思いに賛同し、スポンサーとなった。
その一つが、元日本代表監督の岡田武史さんが率い、本田さんや中沢佑二さんらが
プレーしたチーム「日本代表フレンズ」のユニホーム(背中部分)スポンサーを
務めた社会福祉連携推進法人「日の出医療福祉グループ」(大西壯司代表理事、兵庫県加古川市)である。
グループが「地域福祉支援事業」の一つとしておおむね1カ月に一回のペースで
開催している講演会「日の出塾」で今年9月、橋本さんが講師を務めて
「チームワークの大切さ」をテーマに講演した縁で、グループのPRの機会として
引退試合に協賛することを決めた。試合当日はグループの職員約50人が観戦に訪れたという。
取材に応じた搆(かまえ)忠宏業務執行理事は「グループのブランディングに加え、
職員の福利厚生の意味合いもあります。職員に自分たちのグループは
こういう支援活動もしているんだと誇りに思ってもらいたいというのもありました」と説明する。
サッカー選手を介護士に
介護老人保健施設で働くチェント・クオーレ・ハリマの選手
「日の出医療福祉グループ」は社会福祉法人「日の出福祉会」
▽医療法人社団「奉志会」
▽社会福祉法人「博愛福祉会」-の3団体で構成し、
介護・保育・医療などのサービスを提供する共同事業体。
「日の出みりん」などの商品で知られる関連企業の「キング醸造」が
地元貢献の一環として「日の出福祉会」を創設したのが出発点で、
兵庫県、阪神間を中心に事業を展開し、昨年に30周年の節目を迎えた。
同グループとサッカーとのつながりは、橋本さんの引退試合だけではない。
「キング醸造」が、将来のJリーグ入りを目指してアマチュアの
関西1部リーグ(国内最高峰のJ1から数えて実質5部相当)で戦う
地元社会人チーム「Cento Cuore HARIMA(チェント・クオーレ・ハリマ)」
の前身「バンディオンセ加古川」のスポンサーとなっていた縁で、2018年から
同チームの選手を「スポーツ枠」の正社員として採用。多い年には約20人を雇用し、
これまでの6年間で60人以上を雇い入れている。
配属先は播磨地域の特別養護老人ホームや介護老人保健施設、
看護小規模多機能型居宅介護事業所などで、選手らは午前中に練習があるため、
主に午後から夜にかけてのシフトを担当。介護士として施設利用者の入浴介助や食事介助、
送迎などに従事している。引退後もセカンドキャリアとして引き続き
介護業界で働きたいと希望する選手や、チームを退団した後も正職員として
実際に働いている元選手もいるといい、グループでは介護福祉士の資格取得などもサポートしている。
きっかけは18年初めに、当時の「バンディオンセ加古川」のスポンサーなどが集まった会合。
そこで話が持ち上がり、①介護人材が不足している中で、人材確保の手段となる
②サッカーを通じた地域づくりの貢献につながる③Jリーグを目指す若者の支援にもなる-との観点から、
スポーツ枠採用を導入することになった。施設利用者の評判もよく「若くて元気に働く人が入ったことで、
施設の雰囲気が明るくなった」といった意見が寄せられたほか、選手側からも
「収入が安定することでサッカーに集中できる」
「施設利用者や職場の同僚の応援が励みになる」といった声があがっているという。
「チェント・クオーレ・ハリマ」のユニホーム(左袖部分)スポンサーも続けており、
搆理事は「(スポーツ枠採用は)ウィンウィンの関係というか、お互いに助け合っています。
その他の分野でもスポーツ支援を通じた地域貢献、人材確保を進めていきたいと思っています」と打ち明ける。
大学の陸上競技部とも
関西福祉大学陸上競技部の練習場に掲示された応援横断幕
その一環として新たに行ったのが、関西福祉大学(兵庫県赤穂市)の陸上競技部
とのスポンサー契約。今年3月に提携し、ユニホームにロゴを掲出しているほか、
練習グラウンドに応援横断幕も掲示している。「スポーツを通じた地域づくりへの貢献や若者への支援は、
グループのPRとなり、広い意味で介護人材の確保につながります。これからも特に、
医療系、福祉系大学との連携を進めることができればと考えています」と搆理事。
さらには、日本国内の介護人材不足に対応するため、介護分野では
初めてインドネシア労働省と協定を結び、特定技能者の人材養成や受け入れも開始しているそうで、
インドネシア国内での養成拠点の拡大や養成人数の増加を図っていく予定だという。
サッカーに限らず、元気で明るく体力のあるスポーツ選手と、
人手不足に悩む介護の現場の親和性は低くないように思う。
他のJリーグクラブでもアマチュア契約の選手が介護の現場で働いているケースがあると聞く。
組み合わせによってはスポーツ界、介護業界の双方にメリットが生まれる。多方面で結びつきが広がればと思う。
(サンケイスポーツ編集委員)