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サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『鉄槌』

『鉄槌』
ポール・リンゼイ作・笹野洋子訳(講談社文庫)2005.7.15刊行
原題はTRAPS

ポール・リンゼイは、元FBI捜査官。現役捜査官のときに『目撃』という、デブリン捜査官シリーズの一作目を書き、ベストセラーになったという経歴のもち主です。
『目撃』が出たとき、『検屍官』のパトリシア・コーンウェルが絶賛したそうですが、なんてったって、養老先生もいたくお気に入りのようです。

「ポール・リンゼイのデブリン捜査官シリーズは、基本的には、現役捜査官から見た、FBIという官僚システムに対する、たいへん具体的な批判なのである。…」と述べておられます。
養老先生は、官僚批判ということに関して、一言あるようなのです。

さて、この『鉄槌』は、デブリン捜査官シリーズではありません。
やはりFBI捜査官のジャック・キンケイドが主人公。
デブリンとちがってジャックはかなりよれよれ。もう、踏み越えてはいけない一線を行っちゃっているのですが、非常に有脳な捜査官でもあります。
そして、ジャックと結果的にペアを組むことになるベン・オールトンは、黒人で、ガンで片足を切断して退院したばかり。

この異色の組み合わせで、迷宮入りした誘拐事件の解決に当たります。
ポール・リンゼイの小説を読んでいて思うのは、キャラクターの書き分けが非常にうまいということです。
(リンゼイにかぎらず、すぐれた作家というのは、みんなそうですが。)
ジャック・キンケイドはむちゃくちゃな生活をしていてへろへろですが、捜査に関してはきわめて優秀。しかも自分の優秀さを気にも留めていないようなところがあります。
ベン・オールトンは正義感が強く、プライドが高い、鉄の意思を持つ努力家。
片足をガンで失ったベンを前にすると、ほとんどの人が申し訳なさそうな、気の毒そうな態度をとるのですが、キンケイドは無頓着。
義足をネタにジョークを飛ばしたりします。
でも、その無頓着さがベンにはありがたい。

そういう人の心の機微も、犯罪事件の展開の中で、小さなエピソードして積み重ねられていきます。
リンゼイはエピソードの達人。
どれ一つとっても、ふんふんと納得させられるところが、実に面白いのです。 

この本は、結末がちょっと哀しいです。
でも、たまには仕方ないかも。

コメント一覧

ももんぐぁあ
重箱の隅を・・角をか?
ども。

有脳な捜査官といふのは、洒落でせうか。有能よりも適切な気もするが。無能より無脳の方が意味がきついような気もするし。無能の人といふ寂寞感あふれる漫画と映画があったが、無脳の人といふのは、ただの馬鹿だもんなあ。バカボンのパパ的のりだな。しかしバカボンのパパは、決して無脳ではないな。

時折見せる、あの脈絡のないひらめきは、天才のひらめきだな。シャイニングだな。REDRUMだな。
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