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↑表紙の飛行機の絵は宮崎駿による
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飛行機がまだ複葉機で、
創成期の頃の夜間飛行に挑む男たちを描いた
緊迫感のある小説なのに、
ビジネスジャンルの自己啓発本としても読めるところが面白い。
含蓄ある言葉が並んでいる。
「規則というものは、宗教でいうなら儀式のようなもので、ばかげたことのようだが人間を鍛えてくれる」
「あの連中はみんな幸福だ。なぜかというに、彼らは自分たちのしていることを愛しているから。
彼らがそれを愛するのは、僕が厳格だからだ」
「部下の者を愛したまえ。ただそれと彼らに知らさずに愛したまえ」
「愛されようとするには、同情さえしたらいいのだ。ところが僕は決して同情はしない。
いや、しないわけではないが、外面に現さない」
当時、夜間の定期航空は必ず失敗するはずだといわれていた。
それに対して、リヴィエールはこう言って意見を押し通した。
「せっかく、汽車や汽船に対して、昼間勝ち優った速度を、
夜間に失うということは、実に航空会社にとっては死活問題だ」
そしてついには夜間飛行が定期化されるのだが、
そのことについてリヴィエールは 「方向がよかったからだ」と言っている。
方向性が時代の進む先を行っている限りは ビジネスはうまくいく。
そういうことを意味していないだろうか?
つまりそういうような角度で読んでも面白いのだ。
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さて、舞台は南米、アルゼンチンのブエノスアイレス。
夕方から日をまたいで夜中の2時半くらいまでの、
ほぼ10時間の間の出来事が描かれている。
主人公は航空輸送会社の支配人であるリヴィエール。
航空郵便事業の夜間飛行に賭けた男。
映画「カサブランカ」のハンフリー・ボガードがやると似合いそうな
孤独という上質な服を着込んだやり手の男。
その日、パラグアイ、チリ、パタゴニア各地から、
それぞれ郵便を積み込んだ輸送機がブエノスアイレスに飛んでくる。
それらの郵便物をまとめて欧州便の輸送機に積み込み、
ヨーロッパに運ぶのだ。
向かうのはフランスのトゥールーズ。
ところが、
「上部は、高く雪雲の中に消え、下部は黒い溶岩のように平野の上をのたうちまわる暴風」が発生した。
太平洋からやってきたハリケーンがアンデスを越えて大西洋へと突き進んだのだ。
いまだかってない悪天候。
チリから飛んできた飛行機は危うく難をのがれるようにして、飛行場に着陸した。
パラグアイからの飛行機は、ハリケーンの圏外を飛び続けて、何事もなく着陸した。
ところがパタゴニア便はハリケーンに巻き込まれ、航行不能に陥った。
小説はパタゴニア便の時々刻々を追うとともに、
リヴィエールの地上の行動を追う。
その間にチリ便、パラグアイ便、欧州便のパイロットも登場し…。
創成期の航空郵便事業における夜間飛行の実録であるとともに、
現場で立ち向かう人々の息遣いを余すところなく伝えて、
緊迫感のある小説になっている。
パタゴニア便のパイロット、ファビアンが、
同乗の無線技師の伝える科学的データの初期版ともいえる情報に
耳を傾けてさえいれば……
ほんとにそうしてくれていたら、と読んだ後しばらく経っても、
本気でそう思っているのだから
それだけ真に迫った小説世界が描かれているということだろう。