サラ☆の物語な毎日とハル文庫

「村上春樹~明るい明日を迎えるための音楽」で語られたこと

村上RADIO ステイホームスペシャル~明るいあしたを迎えるための音楽

村上春樹さんからのメッセージ

 

22日に村上春樹さんのラジオ放送があったけれど

夜遅いので、つい始まると同時くらいに睡魔が。

それで昨日聞きなおして、気持ちが温かくなったので、

語られことを抜粋してシェア。幸せな時間。元気がでます!

今日中ならまだ聞くことができます。

http://radiko.jp/#!/ts/FMT/20200522220000

http://radiko.jp/#!/ts/FMT/20200522230000

 

 

こんばんは、村上春樹です。

村上RADIO、いつもは二ヶ月に一度のペースでやっているんですが、

今日は臨時の枠をもらって、二時間の特別版をお送りします。

「明るいあしたを迎えるための音楽」というのが今日のテーマです。

もやもやと溜まっているコロナ関連の憂鬱な気分を、音楽の力で少しでも吹き飛ばしたいですね。

今日はいつものTOKYO FMのスタジオではなく、僕の自宅の書斎からstay homeでお送りしています。

僕一人ですが、猫山さんがそばでちょっとだけお手伝いをしてくれています。えーと、邪魔はしないでくださいね。

 

 

(読者からのメール。認知症のお母さんが、リトルピープルが部屋の中をウロウロし始めたと言っていることについて。)

はい、リトルピープルが出てますか。なかなか怖いですよね。

お母さん、世界の変貌を微妙に先取りしているのかもしれないですよね。

でもね、小説家のやっているのも同じようなことなんです。

状況の変化に合わせて、普通の人が見えないものを、

あるいは見ないようにしているものを目ざとく見つけて、

それを文章にし、物語にすること。

そういうのはね、小説家の大事な役目です。お母さんによろしくお伝えください。

 

 

次は僕が落ち込んだときによく好んで聴く「雨に濡れても」です。

今日はアイズリー・ブラザーズのリードシンガー、ロナルド・アイズリーと、

作曲者のバート・バカラックという珍しい顔合わせで聴いて下さい。

“I'm never gonna stop the rain by complaining.” この歌詞が僕はけっこう好きなんです。

「いくら苦情を並べたところで、それで雨がやむわけじゃないだろう」

ほんとにそうですね。しっかり上を向いて歩いていきましょう。

最近の世の中って、なんでもいいからすぐに白黒をつけちゃうという傾向が強いですよね。

とくにインターネットの世界なんかでは、強い口調であっちかこっちかきっぱり言い切った方が勝ち、

みたいなことがおこなわれています。

生意気なことを言うようですが、僕はそういうのはあまり好きじゃないんです。

白か黒かよくわからないところで行き惑うのが人間だし、

その姿を思いやりを込めて描いたり、あるいは癒したりするのが、音楽や小説の本来の役目ですよね。

こういう素敵な音楽を聴いていると、あらためてそれを実感します。

 

 

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ“Sun Is Shining”。

僕はボブ・マーリーの『Natural Mystic』というアルバムで、この曲を知ったんですけど、

このCDは自分で買ったんじゃないんです。

ずっと前にハワイのマウイ島でレンタカーを借りたら、カーステレオにこのCDが残されていたんです。

前に借りた人が取り忘れたんですね。よくあることです。

で、それを聴きながらずっとマウイを回っていて、すっかり音楽が気に入りまして、

車を戻すときに何も言われなかったので、そのままいただいてきました。

でもね、そんなわけでケースなしの、裸のCDだけを持っていたんです。

ところが、その二年後のある日……。

ホノルルの「グッドウィル」という、救世軍みたいなショップでこの『Natural Mystic』のケースとライナーノートだけ、中身なし、

っていうのを見つけました。ついていた値段は一ドルでした。

きっとマウイでCDを忘れてきた人が、ケースとライナーだけをそこに寄付していったんですね。

もちろん僕は一ドル払って、それを買ってきました。

というわけで、今では中身と容れ物が揃った完全な『Natural Mystic』を、ここにこうして所有しています。

巡り会いというのはほんとに面白いものです。うん、人生の幸運を信じましょう。

 

ジャズ・シンガーのアル・ジャロウとオペラ歌手のキャスリーン・バトルがデュエットで歌う“My Favorite Things”です。

私の好きなものたち。

僕にもいろんな好きなものがあります。たとえば、レイモンド・チャンドラーのミステリー、冬の鍋焼きうどん、

猫の肉球、新しいジョギング・シューズ、コンサート開始を告げるベル、車内の明かりが数秒消えていた頃の地下鉄銀座線、などなど……

あなたはどんなものが好きでしょう? 好きなものを並べてリストにして、世の中が落ち着くのを待ちましょう。

 

 

(強い孤独を感じたときに、何をしますかという読者の質問に対して)

若いときに一度、二十歳の頃ですけど、孤独のドツボみたいなところにはまっちゃったことがありまして、これはかなり辛かったです。

本物の孤独というのは、これほど厳しいことなんだと、そのときに初めて実感しました。

でもね、そういう時期を経験したおかげで、多くの大切なことが学べました。

それは、人は一人では生きていけないんだということです。人を求め、人に求められることの大事さです。

あなたもきっと今は、そういうことを学ぶべき時期にいるんだと思います。

今は我慢をして学ばれるといいと思います。

ときには一人ぼっちになることも大事です。寂しいでしょうけど、頑張ってください。

トンネルには必ず出口があります。

 

 

コロナとの戦いは戦争のようなものだ、そういう言い方をする政治家がいます。

でも僕はそういうたとえは正しくないと思う。

ウイルスとの戦いは、善と悪、敵と味方の対立じゃなくて、

ぼくらがどれだけ知恵を絞って、協力し合い、助け合い、それぞれをうまく保っていけるかという試練の場です。

殺し合うための力の戦いではなく、生かし合うための知恵の戦いです。

敵意や憎しみは、そこでは不要なものです。簡単に戦争にはたとえてほしくない。そうですよね?

 

 

大阪の山中伸弥さんからメールをいただきました。

「春樹さん。一生のお願いです。ボクにもラジオネームをいただけませんか? 山中」

しかしね、先生。ラジオネームごときを一生のお願いにしちゃっていいものですかねー。

ノーベル賞とは違いますから。

でもまあ、そこまで言われると、ボクとしても、無下に断るわけにはいきません。

わかりました。特別にラジオネームを差し上げます。

でも何しろ相手が山中伸弥先生ですから、超デラックス、超豪華なラジオネームにしましょうね。

♬ 山中伸弥さんのラジオネームは〝AB型の伊勢海老〟です。

ちょっと脱力感はありますけど、何しろ伊勢海老ですからデラックスですよね。

これからの人生、このラジオネームとともに生きてください。健闘を祈ります。

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