サラ☆の物語な毎日とハル文庫

『ボッティチェリ 疫病の時代の寓話』はコロナの時代に書かれた12本の掌編物語 byバリー・ユアグロー

 

バリー・ユアグローというニューヨーク在住の短編小説作家のことは

正直言うと、知らなかった。

 

7月に、こんな本が出ていると友達から現物を紹介され、

コピーを送ってもらって読んだ本。

 

いまはもう、危機感がすぐそこにあるように感じた

緊急事態宣言の真っただ中と比べると

随分と落ち着いた気がするけれど(わたしだけ?)

たしかに、4月、5月のころは、この短編の醸し出す雰囲気が切実に思える状況だったっけ。

世界的なパンデミック。

 

きっとコロナが終息した後に振り返ったときも、この物語のことを思い出すし

いつまでも物語の存在が心に残るに違いない。

 

まずは、翻訳を担当した柴田元幸さんの、あとがきより抜粋。

この本が出版された経緯がよくわかる。

ちなみに、Amazonで買うことはできないみたい。

 

★この本について……柴田元幸

 

ここに収めた十二本の物語は、二〇二〇年四月五日から五月十一日にかけて、

都市封鎖状態のニューヨークのクィーンズから届いた。

一本目の「ボッティチェリ」が端部されたメールには、

「正気を保つため」に書いた、とあった。

少しあいだが空いてから、二本目以降の作品が続々と送られてくるなかで、

どうやらこの非常事態が契機となって、作者が自分のなかの深い部分に

降り立っていることが伝わってきた。

もちろん日本で翻訳が出れば喜んでくれただろうが、

出版したいからというより、ただただ書かずにいられないから書いている

ことがよくわかった。

だからこそ、こちらとしてもぜひ日本の読者に届けたいと思った。

九、十本目が同時に届いた時点で、形が見えた。

十本あまりの寓話から成る、ある時期にひとつの場所を包んでいた、

だがほかの多くの場所でもある程度共有されていた

特殊な(と思いたい)空気を封じ込めた小さな本。

これを、すでにバリーの物語の翻訳原稿を包装紙にして、

オーナーがユアグロー・ファンである三軒茶屋のカフェ nicolasでサンドイッチを販売する

(むろん物語にはサンドイッチが出てくる)というアイデアを実現させていた

Ignition gallery の熊谷充紘さんに作ってもらいたいと思った。

デザインも、包装紙と同じく横山雄さんに依頼する。

五月十一日にメールで打診したところ、ぜひやりましょう、という電光石火の返事をもらった。

もちろんバリーも非常に喜んでくれた。

これを書いている今日は五月十五日だが、順調に進めばあと二週間くらいで

小さな本が出来上がる。……

 

というような経緯を経て、出版された本。

 

強く印象に残っている話は、冒頭の「ボッティチェリ」

「この病のグロテスクな皮肉は、感染した人物が、症状が悪化すればするほど

美しくなることだった。……」

という書き出しで始まる、不思議な物語で、2ページで構成される超短編。

12本のどの話も、コロナの空気が濃く漂い、意外な設定と展開が、心をとらえる。

 

今という時代を、ページを開くことで個人的にダイレクトに共有できる、

ちょっとばかり秘密っぽい読書体験。

印象深い44ページの小さな本です。

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