どんな高く飛んでも、せいぜい平屋の屋根くらいだと思ってました。
ところが山もない、木もない、花もない。あるのは空気と、ずっと下に海の波があるだけ…、そんなところを飛ぶ蝶がいる。
海の上を何十キロと飛び続ける、その蝶というのは、アサギマダラ。
日本で唯一、「渡り」をする蝶なのだそうです。
春には北へ、秋には南へ。
じつに1600キロを移動する蝶もいるのです。
アサギマダラは、マダラチョウ科に属する、翅を開いても10センチくらいの可憐な蝶。
ナシュナルジオグラフィック2007年5月号の描写を借りると、
「黒と栗色に縁取られた翅脈の間が、その名の通り浅葱色(淡い水色)に透きとおり、まだら模様になっている。独特の優美な飛び方をする、なんとも美しい蝶」ということです。
最初にアサギマダラが移動をすることが確認されたのは1981年。
鹿児島県の種子島から飛び立った蝶が、福島県と三重県で発見されたのが発端でした。
それから多くの人たちがアサギマダラを捕獲し、翅に油性ペンでマーキングをし、また自然に返すという調査に参加しました。
いまでは毎年、全国で数万頭のアサギマダラにマークがつけられ、移動の実態が調査されているそうです。
アサギマダラの渡りのメインルートは、夏から秋にかけて東北地方から東海地方へ。そして、紀伊半島や四国を通って鹿児島県の喜界島、沖縄方面へと移動するというもの。
そのほか沖縄県の南大東島、与那国島、小笠原諸島の父島、中国、台湾など、さまざまな地方への移動も確認されています。
アサギマダラは何故「渡り」をするのでしょうか?
アメリカで「渡り」をすることで有名なオオカバマダラという蝶を例に考えてみましょう。
オオカバマダラは、毎年カナダからカリフォルニア州やメキシコに向けて何百万という数で大移動をすることで有名です。
こちらもマダラチョウ科の仲間です。
カナダなどで羽化したオオカバマダラは、冬の到来の前に移動を開始します。
少しでも旅立ちが遅れると死に絶えてしまうからです。
夏の間は、3~4週間しか生きていなくて、何世代か世代交代を繰り返すオオカバマダラですが、8月下旬に成虫になるオオカバマダラは別です。
蛹から羽化したあと、交尾をしないで南へと移動を開始するのです。
花の蜜を吸いながら栄養を蓄え、ひたすら南へと飛び続けるそうです。
そして、成虫のまま越冬し、3月下旬あたりでまた移動を始めます。
こんどは北へ。
移動を開始した蝶は、こんどはバラバラに行動し、交尾をしながら北上します。
オスは交尾をした後に、メスは食草を見つけて卵を産みつけ、そこでやっと長い一生を終えるのです。
その後は、子どもの蝶、孫の蝶、ひ孫の蝶というように世代交代をして発生を繰り返しながらカナダまで北上を続ける…。
アサギマダラも、同じ理由で越冬のために南へ移動するのでしょうか?
アサギマダラも、オオカバマダラの渡りと同じ形態で、渡りを展開しているのでしょうか?
テレビのドキュメンタリー番組では、アサギマダラは台風の通り過ぎた後に起こる強い気流に乗って、いっきに移動するのではないかと推測していました。
海の上を可憐な蝶がヒラヒラと翅を動かしながら飛んでいる、幻想的な光景が目に浮かびます。
多分何頭かは知らないけれど、集団で移動するのだとわたしは思います。
何故自分が海を越えて渡りをするのかなど考えることもなく、DNAに組み込まれた生存のプログラムにしたがって、ただひたすらヒラヒラと飛ぶ蝶。
生きることの不思議を感じないではいられませーん!
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