9月9日に桐生祥秀が、日本学生対抗選手権の陸上100メートル決勝で、
日本人ではじめて9秒台の記録を達成した。
1・2・3・・・・・・・と数えている間に、あっという間にゴールを切る。
その美しい、弾丸のような走りを見て、
「そういえば、三浦しをんの『風が強く吹いている』をまた読んでみたいな」
と言った人間がいる。
走りとは、美しいものだ。
それを存分に書ききった小説。
すごく面白いよ、と勧められた。
箱根駅伝を扱った小説だ。
竹青荘に住む10人の個性あふれる学生たちが、箱根駅伝を目指して走り始める。
箱根駅伝の常連校でもなんでもない。
まったく無印の一大学が、箱根駅伝に出場する権利を獲得し、
さらに箱根駅伝を走りぬき、そして……。
それ以上は読んでのお楽しみだが、
走ることがメインの小説なのに、とにかくものすごく面白い。
お正月の箱根駅伝のテレビ中継も面白いが、
それよりもさらに「走る」ことに引き込まれる。
そして思い出した。
佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』も、むちゃくちゃ面白かった。
あちらは高校生が陸上短距離に挑む話。
最後に400メートルリレーでバトンをつなぐシーンは、
本当にワクワクしたっけ。
「走り」をあつかった小説はストイックだ。
なぜなら、「走る」こと自体がストイックな行為だからだろう。
2冊しか読んでないのに、そう決め付けるのもどうかと思うけど……、
いやいや村上春樹のエッセイ『走ることについて語るときに僕の語ること』も読んだゾ。
あのエッセイも村上春樹の走ることに対するストイックな気持ちが
前面にでているようなエッセイだった。
太宰治の『走れメロス』もある。
まるで太宰らしからぬ、友情と「走り」を謳い上げた力強い短編だ。
つまるところ「走る」という行為は自分の肉体を極限まで使う行為だからこそ、
ストイックにならざるを得ないということじゃないだろうか。
孤独で、躍動感があり、別の世界が開けてくるものであるらしい。
こればっかりはやってみないとわからない。
「走る」ことが好きな人種でないとわからないのかなー。
それでも100メートルを9秒台で走り抜けた桐生のレースを
YouTubeでくり返して見ていると、
なんて美しい! と感動を覚える。
どうやら、走る人間にとっては、走ることはとてつもなく素晴らしいことらしい。
走ることが得意でなくても、三浦しをんや佐藤多佳子の小説を読めば、
それを存分に追体験できる。
本ってほんとにありがたいと思う。