19世紀末の話です。
『アルプスの少女ハイジ』の物語の冒頭のシーンで、5歳のハイジが叔母さんに連れられて山小屋に登っていったときのこと。
「アルムおじさんは、小屋を背に、谷間のほうを見下ろす腰掛に座って、両手を膝においたまま、子供たちや山羊やデーテののぼってくるのをじっと見つめていました。」
ハイジを引き取ることになるアルムおじさんは、一年じゅう、ひとりで山小屋で生活する変わり者だったんです。
「あのおじいさんの山の生活はだれも知らないんだものね。
誰ともつきあいもしないし、それに一年じゅう教会に足を入れることもないしさ。
時たま太い杖をもっておりて来ることがあったって、みんな道をあけてこわがるわ。
あの濃い白い眉やもじゃもじゃした髭を見れば、まるで異教徒かインディアンみたいなんだから。
誰だってあの人に一人で出会っちゃ、あまりいい気持ちはしないでしょうよ」
というのは、デルフリ村の若いおかみさんが、アルムおじさんについて語ったことです。
本の細かい内容をすっかり忘れてしまった後で、
私はとぎとき、「山小屋の夜を一人っきりで、アルムおじさんは何をして過ごしていたんだろう」と思ったものです。
本を読むんだろうか?
作業をするのかしらん。
新聞でも?
ロビンソン・クルーソーのように、聖書を読むのかしらん?
今回、角川文庫の『アルプスの少女ハイジ』を読んで、納得しました。
ハイジが山小屋にやってきた日。
ハイジは晩御飯をすませると早々に、屋根裏部屋にこしらえた干草の別途に入って、寝てしまいました。
「それから少したってまだ明るいうちに、おじいさんも床につきました。
おじいさんは、朝は日の出の頃に起きる習慣になっていましたが、夏は太陽がずいぶん早くのぼるからでした。」
暗くなると寝て、夜明けとともに起きる。
それが、アルムおじさんの山の生活だったのです。
農業や牧畜、漁業を仕事にしている人たちは、こういう暮らしが当たり前なのかも。
東京に暮らしているせいで、とんでもなく、とんちんかんな疑問を抱いたものでした。
本を読めばすぐにわかるものを、私は何をずっと疑問に思っていたんでしょうね。
ちなみな維度の関係か、「ハイジの村」があるマインフェルトの夏は、夜の9時過ぎまで明るいらしいですよ。
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