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脚本・井上ひさし、演出・蜷川幸雄という、二人の巨匠がタッグを組み、
2009年の初演には藤原竜也、鈴木杏に加え、小栗旬という若手の実力派が集結した芝居。
2016年5月に亡くなった蜷川幸雄の三回忌追悼公演として、
2月にシアターコクーンにかかっていた。
芝居の冒頭は、あの超有名な「巌流島の決闘」のシーン。
勝ったムサシは、検死役の藩医に「お手当てを!」と叫んで、
舞台から走り去ってしまう。
えっ、このシーンが始まり?
と思っていると、
次のシーンは木々がざわめく鎌倉の小さな禅寺。
巌流島の決闘から6年後。
ここで静かに暮らしていたムサシの前に、生きていた佐々木小次郎が現れるという設定だ。
タンゴで踊るシーンがあり、五人六脚のシーンあり、
笑っているうちに 「えっ」という結末に。
「ムサシ」を観たのはこれがはじめてだけど、
「えっ、そうなの!?」という意外性が散りばめられいて、
とにかく面白かった。
きっと蜷川幸雄が生きていたときに上演されたものは、
さらに、もっとピリッと透明感があって、
頭のてっぺんまでぐるぐるしただろうな、と思われる。
井上ひさしは遅筆で有名だけど、
この芝居も、脚本がなかなか進まず、
数枚ずつ送られてきた脚本を元に稽古が続けられたらしい。
初日の二日前にやっとラストシーンの最終稿がきたというのだから、大変だっただろう。
それでも幕が開けば、観客にはそういうことは一切関係なく
大喝采のスタンディングオベーションだったそうだ。
脚本が滞って稽古が進まず、
鎌倉に気分転換に訪れた出演者たちを前に 井上ひさしは、
この「ムサシ」という芝居について、こんなふうに話している。
「生きているうちは命の大事さがわからずに
簡単に死んでしまった人たちが
死んでみると二度と輝いていた“生”というのは戻ってこないというのを
何とかして説こうとしといる。
それを聞いてもらわないと成仏できないところへ
日本最大の剣豪が二人来ちゃって、
皆が大仕掛けの芝居で
二人に生きてることの大事さを教えるために仕組んでいる芝居」
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2009年の講演がすべて終了したとき、
舞台裏で皆で祝杯を上げる乾杯の音頭を井上ひさしが取った。
このとき、井上ひさしは次のように挨拶をしている。
「皆さん、長い間ありがとうございました。
一観客として、これほど時間が短かった芝居はそうはないですね。
またお目にかかりましょう。再会を祝して、乾杯!」
でも、井上ひさしは、この1年後に亡くなる。
蜷川幸雄が2016年に亡くなったのだから、
言ってみれば 脚本家の巨匠と演出家の巨匠、そして才能ある実力派若手が集まった
伝説の舞台ということになりそうだ。
その4年ぶりの再演を観られて、ほんとによかった!
ただいま現在は、彩の国さいたま芸術劇場で上演されているようです。