皆様、こんにちは。応用言語学研究科M1の秋山裕耶です。
前回の記事から大分、間が空いてしまい申し訳ございませんでした。学外の仕事などがかなり多忙だったためです。これから少しずつ再開していこうと思いますのでよろしくお願いいたします。
前回は「安倍晋三は日本の総理大臣だ」の様な措定文と呼ばれる文をご紹介いたしました。今回はもう一つの文である「人間失格の作者は太宰治だ」を取り上げます。この文も前回の措定文と同様「AはBだ」と同じ構造をしていますが、名詞句AとBの性質は措定文と異なっています。
はじめに、「人間失格の作者は太宰治だ」はどのような意味でしょうか。恐らく日本語の母語話者であればほとんどの方が、
「誰が人間失格の作者かと言えば、それは太宰治がそうだ」
と答えるのではないかと思います。
前回の措定文「安倍晋三は日本の総理大臣だ」の意味の取り方とはかなり異なっていることがお分かりかと思います。措定文に関しては前回の記事をご覧ください。
では、なぜこのように意味の取り方が異なっているのでしょうか。それは先ほど申し上げたように名詞句AとBの性質が措定文のそれらと異なっているからです。
名詞句A「人間失格の作者」から見ていきます。「人間失格の作者」はどのような働きをしているのかと申しますと、「誰が人間失格の作者か。」という疑問文を表す働きをしています。これは砕けた説明で、もう少し言語学的な説明をしますと、「xが人間失格の作者だ」という「命題関数」と呼ばれるものを表しています。「関数」というくらいですので「変項x」が含まれているため、完全な命題にはなっていません。まだ不完全なのであり、変項xが満たされればめでたく命題として完成します。このような命題関数を表す名詞句を「変項名詞句」と呼びます。ではその変項xを満たす値はなんでしょうか。その答えは名詞句Bの解説へまわします。
名詞句B「太宰治」はどのような働きをしているのでしょうか。その答えは、先ほどの「誰が人間失格の作者か」の「誰」にあたる人、より厳密にいうと「xが人間失格の作者だ」の「x」の値そのものです。つまり名詞句Bは命題関数の変項xの値を指定する働きをしています。このような働きをする名詞句Bを「値名詞句」と呼びます。
つまり、この「人間失格の作者は太宰治だ」という文は「[変項名詞句]は[値名詞句]だ」という形になっているのです。このような文のことを「倒置指定文(inverted specificational sentence)」と呼びます。前回の措定文、「[指示的名詞句]は[叙述名詞句]だ」とは全く違います。
倒置指定文は名詞句AとBを入れ替えて「が」で結んだ指定文(specificational sentence)「BがAだ」と同じ意味を表します。試しにやってみましょう。
倒置指定文「人間失格の作者は太宰治だ」
指定文「太宰治が人間失格の作者だ」
その他の倒置指定文の例としては、
「犯人はあの男だ」
「この火事の原因は放火だ」
「遅刻の理由は電車の遅延だ」
などです。
全ての文が対応する指定文ができることをご確認ください。ちなみに措定文である
「このネクタイはフランス製だ」
「太郎は大学生だ」
「父は福祉施設の所長だ」
は対応する倒置形がないこともご確認ください。
(倒置)指定文の基本は以上です。次回は今回の補足としてもう少し(倒置)指定文を取り上げます。気になる方は次回もよろしくお願いいたします。最後までお読みいただきありがとうございました。
最後に、この記事の内容は西山佑司教授のご講義から学んだことをもとに書き上げました。西山教授には感謝を申し上げます。【秋山裕耶 M1】
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