明海大学大学院応用言語学研究科

Meikai Graduate School of Applied Linguistics

「安倍晋三は日本の総理大臣だ」

2013年11月30日 | 日本語
皆様、こんにちは。応用言語学研究科M1の秋山裕耶です。
今回の記事を書く前に一言述べたいと思います。私は自分の研究テーマである二重コピュラ文に関する意味論的制約を主査の西山佑司教授にご指導いただきながら進めております。したがって、私の意味論の知識には西山先生の授業や個人指導で教わったことが多く含まれます。先日、西山先生にこのブログのことをお話しし私の研究テーマに沿う以上、私が執筆する記事に西山先生の理論がどうしても登場してしまうということをお伝えしました。すると、西山先生の授業で教わったことや西山先生の理論であることを明記してさえあれば良いという当たり前の条件だけで記事にすることを快諾してくださいました。本当にありがとうございます。

さて、私は前回の記事の最後に、
「安倍晋三は日本の総理大臣だ」
「人間失格の作者は太宰治だ」
という二つの文を書きましたが今日は最初の「安倍晋三は日本の総理大臣だ」という文を説明したいと思います。

日本語母語話者の方であれば恐らく、
「安倍晋三さんという人はどんな人かと言えば、日本の総理大臣だ」
「安倍晋三さんという人は日本の総理大臣を務めてるんだ!」
とか、このように意味を捉えたのではないでしょうか。
そのように意味を捉えた方、正解です。
と言いましてもここで終わってしまっては面白くないので言語学的な解説をします。

まず、主語の「安倍晋三」はどういう働きをしているかと言いますと、「安倍晋三」という名詞によって世界の中のある対象を指示しています。簡単に言いますと、この場合「安倍晋三」というのは人の名前ですから、世界の中のある一人の人間のことを指示しているということですね。このような名詞句のことを「指示的名詞句」と呼びます。名詞句と名付けられたのは「車」「パソコン」のような名詞だけではなく、「赤い車」「太郎のパソコン」のようなものも含むからです。

次に述語の「日本の総理大臣」はどのような働きをしているかを見ます。これは主語「安倍晋三」によって指示された対象に「日本の総理大臣」という属性(性質)を帰しています。名詞句ですが形容詞や形容動詞と同じ働きをします。つまり「太郎は賢い」の形容詞「賢い」と同じ働きをしています。このような名詞句のことを「叙述名詞句」と呼びます。なぜ名詞ではなく名詞句と名付けられたかと言いますと、先ほどと同じ理由です。

以上を整理すると「安倍晋三は日本の総理大臣だ」という文は「[指示的名詞句]は[叙述名詞句]だ」という形になっています。そしてこのような「[指示的名詞句]は[叙述名詞句]だ」で表される文のことを措定文(predicational sentence)と呼びます。

その他の措定文の例は、
「このネクタイはフランス製だ」
「太郎は大学生だ」
「父は福祉施設の所長だ」
など挙げるときりがありません。皆さんも自分で措定文を考えてみてください。

さて、いくら同じ「AはBだ」という構造をしていても「人間失格の作者は太宰治だ」は措定文でしょうか。ご興味のある方は、この文の意味と措定文の解説とを照らし合わせて考えてみてください。次回解説いたします。

最後までお読みいただきありがとうございました。【秋山裕耶 M1】



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1 コメント

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Unknown (Joe)
2013-12-01 16:40:30
今回も面白い記事をありがとうございます。

太宰治は「指示的名詞句」だと言えるかと思いますが、
「人間失格の作者」に関しては何かを指しているわけではないので「指示的名詞句」ではないと思います。また、叙述しているようにも見えないので叙述名詞句ではないと推測します。
名詞句には三種類目ってありますでしょうかね?"existential noun phrase”とか…

では、次の記事も楽しみにしています!
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