ところで、未来はどうなるかわかりません。油が採取されると、油業者は砂糖を必要ではなくなりました。このような循環が無限に続きます。こういう循環は信用に裏打ちされますが、中には信用できない輩が生じます。これだけ社会が大きく複雑になると、小さな社会の中で流通していた貨幣をある人物では信じないとか、裏切るということが生じます。そのような矛盾を乗り越えるにはどうしたらいいでしょうか。
そこで国家が登場します。国家がその貨幣の信用を担保してあげればいいのです。これで、貨幣に信用が行き渡ることになります。裏切られると、その貨幣はまさに紙くずになります。紙くずにならないように最も信用できる機関があればいいのです。それが国家です。貨幣システムなので政府と中央銀行になります。
物々交換では負債は生じません。なぜなら物々交換ではその瞬間に成立します。先に貨幣は時間的存在であると言ったのは、交換が時間的な違いがある場合に、その時間的差異が存在しないかのような時間的飛躍を生むようなメカニズムを孕むからです。貨幣は物々交換の代わりであるというよりも、その本質は時間的な違いを乗り越える信用システムの実体化、モノ化なのです。
かなり難しい理論ですが、東大の安富歩先生がコンピュータ・シミュレーションで実証化しています。交換の時間的な違いをコード化すると、あるとき、貨幣がコンピュータ上に生み出されるというのです。(『貨幣の複雑性 生成と崩壊の理論』創文社2000)
さて、話を戻しましょう。これまでの話を強引にまとめると、貨幣を作ることは誰かに負債が生じるということなのです。それを国家が貨幣としての信用を保証する。そうすると、国民が米で税金を払わなくてもよくて、その信用された貨幣で納税することができるわけです。
そのため、国民は納税するために貨幣を手に入れなければなりません。賃労働に励むという包括的な経済社会システムが成立します。僕たちが賃労働するのは、あるいは賃労働をさせる資本家が資本を生み出すのは、実は納税するためにもなります。僕たちは紙切れで税金を払うというシステムを構築したのです。
さて、手元に貨幣があります。その貨幣を国に持って行ったら、何かを僕たちにくれなければなりません。貨幣は借用書です。負債です。借用書なのですから、借用書を持っていけば、何かと交換しなければなりません。何と交換しているのか?モノやサービスです。それは租税債務から発生します。
つまり、これが税金から生み出されます。僕たちは税金を払うという債務を政府に負っているわけです。税金は実はモノやサービスと交換されているわけです。ということで、税金を納めないということは政府への債務不履行です。ゆえに罰則が課せられます。納税義務はいくら払えない事情があっても逃げられません。よって憲法で規定されています。友達から借りた金は忘れてもらえるけれど、憲法に規定されているので税金を忘れてはくれないのです。
政府は憲法の規定を忘れているんじゃないかと思うことがしばしばあるんですが、納税の義務だけは忘れないようです。