Drマサ非公認ブログ

病院でのマナーの話

「ニーチェの道徳論からの雑感」は一度休むことにして、知り合いから聞いた話を。

 その知り合いが病院の受付で働いていたら、30前ぐらいの男性がやって来て、面会票を受付において、「返しておいて」と言ってきたという。何気ない風景のようにも思う。

 面会票というのは入院患者の面会に来た家族や友人などが病院内で着けておくものということだ。病院の出入管理の一環である。各病棟のナースステーションで配っているそうだ。ということは、この男性は面会に来た人物である。で、そこでのやりとり。

病院スタッフ「借りた病棟にご自身でお戻しください」
面会の男「えっ、オレが返すの」
病院スタッフ「そうしてもらっています」
面会の男「えっ、どうして」
病院スタッフ「皆さん、そうしていますよ」
面会の男「そっちでやってくれればいいじゃない、そんなこと」

 このような会話が延々と続いたという。どうも面会の男は、そのようなサービスを受けることを当然のことと思っているようであるという。じつは病院スタッフも時に受け取ってしまうこともあるらしい。こんなことがトラブルになって、攻撃的なことばを吐かれることがあるため、そのような不快を避けてしまうということのようだ。しかし、そのような場合でも「借りたものは借りた場所に返すの当たり前だろう」と心の中で思っている者も多いとか。この時も、このようなことを言ってやろうかと思ったらしいが、それはやめておいて、とにかく「当然のことでしょ」といった表情で(これは彼の半分冗談のようだ)、面会者が自分で戻すのに何の疑問もないような受け答えしたらしい。

 面会の男は不満を抱き、「あんたの名前なんていうの?」と聞いて来たという。こういう場面で、名前を聞く行為というのはちょっとした威嚇行為である。それでも平然として名前を答えたところ、男は面会票をもって戻っていったという。数週間後判明したのだが、このやり取りが不親切であると投書がなされていたという。この病院がまともなのかどうかはよく知らないが、この投書を誰も気にすることはなかったようだ。現場では。

 まあ借りたものは借りた場所に返すのは当然のことにすぎないけれど、そうすると、どうしてこの面会に来た若い男が不満を抱くのか意味不明である。おそらくはお客様意識があったということであるし、こまめにサービスをすることがよいサービス業という社会意識があるため、このような場面が生じたのではないかと思う。つまり、面会の男はこの場面で当然のことサービスを提供されると思っていたのであろう。もちろん、サービスとは面会票を窓口のスタッフが受け取ることである。ついで「ありがとうございます」ぐらい言われるとさえ思っているのかもしれない。付加価値を付けるなどといって、多くの、時によっては度が過ぎたサービスを提供して来た僕たちの社会のひとつの風景がここにある。

 病院という場所であるから、患者にはサービスが提供される。もちろん適正なサービスが。あるいは来客が当然ある。その人の協力も当然する。しかし、この面会の男はそのようなサービス提供の対象とはならない。彼は客であると思っている。しかし、彼は招いた客(guest)ではないし、お店の客(customer)でもないし、消費者(consumer)でもないし、単なる訪問客(visitor)である。病院に見舞いに訪れただけである。一昔前なら、病院に「お邪魔している」という意識であったので、迷惑かけないようにしようという行動をとっていたものだ。

 それが、いまはお客様意識というか消費者第一主義というか、そういう意識に支配されていて、あらゆる客がその施設の中で働く人間からサービスを受けることを当たり前のように思っているようだ。当然労働者は負担が大きくなる。時間が経ち、お客様意識というか消費者第一主義に人々の道徳が構成されれば、決して生きやすい社会となるわけではないと思う次第である。

 僕自身病院のことは結構知っている方なので、病院の話もしていこうかと思っています。今回は病院という場で起こるマナーの問題でした。






 

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