訳・土屋政雄
ハヤカワepi文庫
2017年10月 発行
解説・江南亜美子
481頁
舞台は4~5世紀頃、アーサー王亡き後のブリテン島
遠い地で暮らす息子に会うため、長年暮らした村をあとにした老夫婦は一夜の宿を求めた村で少年を託され、若い戦士を加えた4人で旅路を行きます
竜退治を唱える老騎士、高徳の修道僧ら、様々な人に出会い、時には命の危機にさらされながらも老夫婦は互いを気遣い進んでいきます
ファンタジーの要素が色濃くにじむ作品です
しかし、基本にあるのはカズオ・イシグロの常のテーマである『記憶の変容』
病のせいでも老いのせいでもなく、自分の記憶をかたっぱしから失っていく村人たち
それは人々を包み込む奇妙な霧のせいらしく、記憶を失うことは不安ではありますが、自分たちにとって都合の悪いことや辛かったこともすっかり忘れてしまうことができるのです
かつて熾烈な戦いを繰り広げたブリトン人とサクソン人が隣り合って暮らしている今、この霧のおかげで戦争も起こらず表面上は平和な日常が保たれています
しかし、どうしても記憶を取り戻したいと願う老夫婦の登場で物語は動き始めます
現代に至り、戦争や侵略の記憶を脇に置いておいて平和が保たれている地域は世界各地にありますが、何かのきっかけに『寝た子を起こす』状況が繰り返されているのが現実です
もうカズオ・イシグロは読むまいと思いつつ、期待から手にした本書
読みやすかったですが、ファンタジーや冒険譚としては物足りなさも
今回も文句なくカズオ・イシグロを絶賛できる作品には出会えなかったのが残念です
ブツブツ文句を言いながらきっとまた何かを手にするに違いありませんが…
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