「えっ、あいつがいなくなったって? どういうことなんだ」
僕(ぼく)は、友人(ゆうじん)が失踪(しっそう)したと聞かされて思わず呟(つぶや)いた。まぁ、そんなに親(した)しかったわけでもないのだが、彼とは顔を合わせるたびにいろんな話をしたことを思い出した。ちょっと変わった奴(やつ)だったが、まさかこんなことになるなんて…。
彼と最後(さいご)に会ったのは三日前だった。学食(がくしょく)で遅(おそ)い昼食(ちゅうしょく)をしているときに僕の前に現れた。そういえば、そのとき妙(みょう)なことを言っていた。古本屋(ふるほんや)で面白(おもしろ)い本を見つけたと。詳(くわ)しいことは話してくれなかったが、時間旅行(じかんりょこう)ができるかもしれないと興奮気味(こうふんぎみ)に話していた。
数日後、僕はその友人の家に行ってみることにした。彼のことも心配(しんぱい)だったが、例(れい)の古本のことが気になっていたのだ。もしかしたら、彼の部屋(へや)にその本があるかもしれない。
何とか聞き出した住所(じゅうしょ)を頼(たよ)りに、とある家の前にたどり着(つ)いた。だが、表札(ひょうさつ)には彼のとは違(ちが)う名字(みょうじ)が記(しる)されていた。僕は躊躇(ちゅうちょ)したが、呼鈴(よびりん)を押(お)してみた。中から初老(しょろう)の婦人(ふじん)が出て来た。彼の話をしてみたが、「ここには五十年以上住んでいるが、そんな人は知らない」と言われてしまった。僕は、婦人に礼(れい)を言うとその家を後(あと)にした。
僕は、近くのバス停(てい)へ向かっていた。聞き出した住所が間違(まちが)っていたのか…、どうにもあきらめがつかなかった。バス停について時刻表(じこくひょう)を見ているとき――。ふと、どうしてここにいるのか分からなくなった。僕は、何をしにこんなところへ来たんだろうか?
<つぶやき>もしかしたら、失踪したその友人は過去(かこ)を変えてしまったのかもしれません。
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