みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1263「ひそむもの」

2022-06-19 17:42:44 | ブログ短編

 あたしは友達(ともだち)に誘(さそ)われてひなびた温泉地(おんせんち)にやって来た。あまり有名(ゆうめい)なところではないようで、旅館(りょかん)に着くまで、誰(だれ)一人として観光客(かんこうきゃく)と出会(であ)うことはなかった。旅館はいかにも古(ふる)そうな建物(たてもの)で、築百年(ちくひゃくねん)はたっているようだ。みんなはいい感じだよねと口々(くちぐち)に言っていたが、あたしには寂(さび)れすぎていて…。何となく怖(お)じ気(け)づいていた。
 部屋(へや)に着くと、みんなはそそくさと温泉に行ってしまった。あたしはそんな気になれなくて部屋に残(のこ)ることにした。旅(たび)の疲(つか)れが出たのか、何だか身体(からだ)がだるくて…。一人でぼーっと座(すわ)っていた。
 しばらくすると、どこかから話し声が聞こえてきた。小さな声で、耳(みみ)をすませないと聞き取れないほどだ。私は気になって、その声に聞き耳を立てた。
「……まだ若(わか)いのに、もう長くはないなんて…可哀想(かわいそう)に…」
「……早くなおした方がいいのになぁ。ほうっておくと…余命(よめい)三カ月ってとこか…」
 あたしは思わず声をあげてしまった。すると、話し声はしなくなった。
 あたしは誰に言うでもなく、「これって…あたしのこと? 余命三カ月って…!」
 旅行(りょこう)から帰ると、あたしはすぐに病院(びょういん)へ駆(か)け込んだ。だが、どこにも悪(わる)いところは見つからなかった。あれはいったい何だったのか? 気になって、三ヶ月間(かん)は落(お)ち着かない日々(ひび)を過(す)ごした。三カ月たったとき、あたしの旅行鞄(かばん)が壊(こわ)れてしまった。
 あたしはほっとして鞄に呟(つぶや)いた。「あなたのことだったのね。ごめんなさい」
<つぶやき>あの話し声は何だったんでしょう? 精霊(せいれい)たちの声だったのかもしれません。
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