みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

サルの恩返し?(1)

2019-11-01 | 第11話(サルの恩返し)

箕面の森の小さな物語(NO-11) 

* これは私の小さな実話です>  

<猿の恩返し?>(1)

 それは12月下旬、初冬の1日の事だった・・ と 言っても今年は暖冬のせいなのか?  暖かい冬の始まりだ・・ その日は穏やかで、冬の寒い風もなく、まるでもうすぐ一気に春が来そうな気配の一日だった。

 私はこの日、箕面ビジターセンター駐車場に車を停め、前に続く自然四号路から東海自然歩道に入り、最勝ケ峰から北摂霊園、高山, 明ケ田尾山、梅ケ谷、と回り 鉢伏山へと向かっていた。 

 まだ残り紅葉が最後の色香を見せていたし、鳥の群れが木々から飛び立つごとに大量の落葉があって、それはまるで枯れ葉のシャワーのようだった。  何本かのカエデの木がありその紅葉が見事で、しばしそこで休憩をしようとしたが・・ どうせならもう少し奥の森に入ってみようと思い・・ 全く初めての森の中だったが、ごく細い獣道を分け入っていった。  しばらく歩くと急に開けたところに出た・・

  そこは余り人が来ないのであろうか?  何とも自然で気持ちのいいところだった。  私は休みなしでもう4時間ほど歩いていたので、このところで一休みしよう・・ とリュックを下ろし、中に入れていた折り畳みの小椅子を出して座り、残っていたコーヒーとチョコレートを食べながら私の好きな森浸りをしばし愉しんだ。 それは目を閉じて体を楽にし瞑想するような感じだが、実に心が穏やかになり癒されるものだ。

 小鳥のさえずり・・ 森の風の音、落葉の瞬間の音、時々風で揺れる木々が擦れ合う音、耳を清ませばいろんな音が共感し合い、それはそれは素晴らしいハーモニーとなって私の心に響き渡る・・ その内、少し疲れたのか、または鳥や葉音の奏でる森のコンサートに酔いしれたのか、眠たくなってきた私は小椅子を枕にして落ち葉の中で体を伸ばし再び目を閉じた。 

 どうやら眠ってしまったようだ・・ しかし、その時間は僅かだったように思うのだが、冬の日が落ちるのは早い・・ 気がつくと、もう西に太陽は沈みかけていたが、やがてそれが山裾に消えると、急に森の中が薄暗くなってきて私はあわてて帰り支度をした。  寝ぼけているのか、頭がぼんやりしながらも帰りを急いだ・・

 しかしどうも先ほどから道がおかしい?  さっき来た方面の景色と違う?  考えてみると、もともと獣道を辿ってきたので足元が薄暗くて、道を間違えたのかもしれない・・?   回りを見渡しても思い当たる景色は見当たらない・・ どうしよう・・?  一瞬このまま迷って夜になれば全く装備なしでは、いくら暖冬とはいえ冬の冷え込みには耐えられない。  困った・・!  どうするかな?  急に不安な気持ちが襲ってきた・・ 考えている間に益々森は暗くなってくる・・ 道が分からない・・ 恐い! 山歩きで初めて感じる恐怖感と焦燥感・・

  そんな時だった・・ どこからかそこへ一匹の猿が前から来たのだ・・ 箕面の森ではいつも見慣れている猿なのに、このときは恐さが先に走った。  

 朝や昼なら話は別だが、薄暗くなった森の中では不気味な出合いだ。 しかし、その猿は横へそれながら私の顔を見ると、私が来た逆の方へ歩いていく・・ そしてまた私のほうを振り返って私を見る・・ 2~3度続く。  私は何となく猿の後について、今までと逆の道を歩き始めた・・ 途中で右に入った・・ 大丈夫かな?  道なき道だが、そういえばさっき来るときに分け入った道に似ている・・  すると、まもなくあの最初に休もうかと思ったカエデの木々が、先方に見えてきた・・  助かった! よかった・・ は ホッ! とした安堵感でいっぱいなった。

  つかの間の恐怖と不安感を味わった後なだけに、カエデの木がどんなに美しかった事か・・ もし、あそこであの猿の後をついていってなければ全く逆方向に向かっていた事になり背筋が寒くなった。  お猿さんの道案内? なんて・・ 誰も笑うだろうな・・ と 思いつつ、今日まで誰にも話さなかった・・ 馬鹿笑いされそうでね. (実はこの体験話はこれから続きがあるのだが・・)

  もうすでに遠くを行く先ほどの猿を改めて見ようとしたとき、一瞬私の脳裏に衝撃が走った・・ まさか?  それは一瞬の思いだが・・ 急に心に浮かんだ・・ ひょっとしたら・・?  もう遠くにいたので思い違いかと思ったのだが・・?  

 あれから何度か心に確認してみたが、やっぱり 2年前の夏のあの時の猿に違いない・・!?  それは左足を引きずっていた障害をもつ猿だったが・・ 森で出会ったときは恐怖の方が先で、そんなことまではよく見ていなかったが・・ 去っていく少し先から左足を引きずっていたように見えたのだ。  そしてその数秒後には、もう薄暗い森の中に入っていって見えなくなっていたのだが・・ 思い出した!

(2)へ続く


サルの恩返し?(2)

2019-11-01 | 第11話(サルの恩返し)

箕面の森の小さな物語

<猿の恩返し?>(2)

 あれは2年前の夏の暑い日だった・・  

 私は「EXPO90・みのお記念の森」から堂屋敷山を経て天上ケ岳一休みをして後 山伏の修験道箕面ビジターセンターへ向かって歩いているときだった。      

 山道の切り株の上に一匹の親ザルとまだ幼い小猿がちょこん! と 置物のように座っていた。  私は急に横にいるのを発見してビックリしたのだが、私を見ると2匹ともゆっくりと私の後を付いて来た。

  よく見ると2匹とも 何となくやせていて少し哀れな印象をもったが, 親猿の方は左足を引きずっていて少し気にはなっていた。  私が何となく後ろを振り返ると、ある一定の距離を保ちながらず~ と私の後ろをついてくる様子で・・ 群れを追われたはぐれ猿かな? と思ったりした。  何か理由があって群れの中におれないのかな・・?  群れで行動する大家族制の猿族だから、何か理由がありそうだ。  足が悪くて食料調達ができないのか?  小猿は可哀想に・・ いろいろ考えたり, 振り向いてそれとなく観察したりしていた。

  この森の西側には天上ケ谷があり、その谷には「箕面・野猿保護管理センター」(正式名称は? があって専門係官が常駐し、1日の決まった時間に餌をやっているので、ここに群れている限り飢えることはないはずだが・・?   一度私はこの谷を歩いたとき, 丁度餌やりの時間にぶつかった事があるが、約1kmの谷間をバイクに乗った係官が大きなバケツに(雑穀の米粒のようだったが・・)を撒きながらエサをやっていた。  その後を数百匹の猿たちが追いかけながら続いているのを目の前で見たことがある。  どこから出てきたのか?   餌の時間を知っているのか? とにかくすごい数だったが、それが谷間を埋め尽くすようにしていた。(私も一時、その大群の中に埋まってしまったが・・) 一粒一粒を拾って食べている姿は壮観だった。

  餌場があるのに、どうしてあの親子猿はそこにおれないのだろうか? そんなことを思い浮かべながらまた、振り返ってみたらまだ遠くからついてきている・・ 「分かった・・分かった! ちょっと待ってな」  私はリュックを下ろして何か食べ物を探した。  私はいつもお昼を二分して食べるので、まだ残っていたバナナとふかし芋、それに常備して持っているピーナツとチョコレートを全て出して、横の切り株の上に並べた・・ 「よし! これでいいや・・」 私はありったけの食料をだして、遠くから見ている親子猿に指さして・・ 「ここに置くとくからね・・」と指で合図をし、すぐに歩き出した。  しばらくして振り返ったら相変わらずのゆっくりした歩きだが、私の置いた所へ近づいていった・・

 それからの事は分からないし、私はもうとっくに忘れていたのだが・・  でも、あの母親の足の怪我の事は他の事故のことからしばしば思い出すことがあった。  それは、滝上の駐車場で見た悲しい光景だった。 ここには観光客の車から、猿達にお菓子などのエサをやる人々が絶えない・・(サルにエサを与えないで下さい・・)との看板があちこちに立てられているのだが・・ そこでエサに夢中になり、たまに車に轢かれてしまう小猿がいるのだ。 

 私はその日、いつものように沢山の猿群が観光客から餌をもらい、人も猿もワイワイ、キーキーといっている所に、一匹の母ザルの哀しい姿をみたのだった・・ それはもうとっくに皮ばかりになって干からびた小猿の亡骸を大事に抱えながら人間の投げるエサを探る母猿の姿だった・・ さらにそのエサを亡骸に食べさせようとしていたのだった。  私はこみ上げる涙を堪えながら強烈な衝撃を受けた事があった・・ その時に、あの左足を引きずっていた親子猿のことを思い出したのだが・・ そんなわけで余談が長くなったが・・ 話を元に戻すことにしよう。 

  思い出した・・ この迷った森の中で私に道案内をしてくれた? のは、あの時に出会った親子ザルの足の悪かった母猿なのか?  まさか?  普通に解釈すれば、たまたま通りかかっただけで、たまたまそのとき足を悪くしていただけの別の猿で、こじつけにしても程がある・・ と、笑われるのがおちだけれど・・ しかし、良いように解釈すれば、あの時の私を覚えていてくれて、道に迷った私を見て助けてくれたのか? 私は後者を今でも信じている。

 それにしても改めて思い出すと、あの時いた小猿はその後どうしたのかな?  生き延びたのか?  あれから2年を経て、もう立派な大人になって親離れしたに違いない・・ 母猿は子育てを終えて、今は一匹 悠々自適に森の中を駆け回っているのかもしれない・・?  そんなことを勝手に思いながら 時の移ろいを感じつつ、不思議な思いを胸に私はほのぼのとした思いで 箕面の森 を後にしたのでした。

 (完)