みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

箕面の森の埋蔵金(2)

2021-04-21 | 第23話(森の埋蔵金)

箕面の森の小さな物語 

<箕面の森の埋蔵金>(2)

 杜夫は二人を前にもったいぶるように話し始めた。

 「台風による豪雨の中、各々が森の中の館に集まってきたそうな  姪の西谷夫婦はすでに<と<というキーワードをつかんでたんやけど、何のことやらさっぱり分からんかったんや そんで何とか富はんからそのヒントを聞きだそうと、耳元で喋り続けてたんや・・

  甥の孝太郎は、もう少しであの膨大な資料から、宝の山が目前に明らかになる期待でな ある一点だけのヒントを富はんに求めて同じように耳元に張り付いてはったんやそうな・・

 女中のオトはんは、今まで何十年もダンナはんの亡き後、息子・賢治へ遺したと思われる遺言書が、家のどこかに隠してあるはず・・ と仕事の合間合間に富はんに隠れて、広い館の隅々まで探してたんや そんでな それが地下室から箕面川にでる一角に 隠し通路が見つかってな  その先にある扉を見つけはったんや そんで 密かにその日も植木職人の息子を仕事にかこつけて呼んではってな その鍵を富はんに何とか聞こうと思てはったんや・・

  そんで医者の丸尾はんは別の目的で富はんを診てはったんや 何でもダンナはんを看取る前、ダンナはんにベットに呼ばれ、かすかに聞こえる声でな 「金・・ 富の背中・・ ホクロ・・ 姫・・ そこ・・」と、言い残して他界してはったんやと。 そんでな 診察のたびに富はんの背中を見ると、少し曲がった背骨の横に2つのホクロがあり、それが金塊の隠し場所を探るヒントやと確信してはったんやな・・

  集まった皆は、富はんのベットの横や前後に陣取ってな 各々の目的の為に、耳元で入れ替わり立ち代りささやきながら探ってたんや・・ と。

 

  館の外は、台風の影響でいつになく激しい風雨で荒れ狂ってたんや  森の樹木は左右に大きく揺れ、時折 その激しい嵐に悲鳴をあげるかのように折れる枝、舞う葉の音が聞こえてくる・・

 杜夫の話しが続く・・ 「その時、外の戸を激しくたたく音がしたんや オトはんが裏玄関に出ると、外はものすごい嵐に山が狂っていた。 訪ねて来た人は箕面警察の若い2人の警察官やったそうな <ここは危ない! 箕面川が氾濫してて早く下の安全な所へ避難してください。 緊急です。 今すぐお願いします・・> そう言い残すと、上流の家の方へ急いで走っていったんや・・と  富はんを囲むみんなは、その話を聞いても誰一人全くお構いなしにただ富はんから何か聞き出そうと必死やったんやな・・

 そんで7月11日の未明のことや・・ ものすごい山崩れの大音響と共に箕面川が暴れだした。 連日の大雨に加え、崩れ落ちた土砂や大岩が、濁流と共にものすごい勢いで山を駆け下った。 突然

ドスン バリバリ バリバリ

 と、大音響と共に、大きな岩がいくつも館にぶつかると同時に、根こそぎ倒れたり折れたりした杉の大木多数が館に突き刺さってきたんや   やがて数分後、次々と襲い掛かる大量の土砂、岩、木々を含む濁流に飲み込まれ、富はんの館は あっという間に粉々に壊れ一気に下流へと流されていったんや・・  富はんを含む7人もろとも、全てが根こそぎ激流のもずくとなり、後には何一つ残らんかったんや・・ と」 店の女将と健は う~ん とうなったままだった。

 

  杜夫の話が続く・・ 「今の箕面大瀧の少し下方にある河鹿荘別館の茶屋<ほととぎす>横手に、<箕面警察長 殉職の碑>があるやろ・・ その石碑に書き刻まれている文 読んだ事やるやろ・・

 <・・昭和26年7月11日 未明に・・ 集中豪雨により、箕面川は未曾有の増水となり、濁流うずを巻いて氾濫し、園内の飲食店、旅館などは押し流され・・ 云々> と今も刻まれているわ  お前 知っとるやろオレはその時の状況やと思てんねんけどな・・ ちょっと違うのは、あの時の館と7人のことは何一つ記録に無いし分からんのやそうや・・?

  そんで問題はこれからやねん・・ あれからもう60年以上も経った今年の夏のこっちゃ  昔 その館があった少し下の方、少し背骨のような所から右へ曲がった付近・・ そこは古場の修験場跡下で、姫岩の近くやな  そのあたりでなぜか砂金がよう採集されるんやそうな・・」 聞いていた健が口を挟んだ。

 「ちょっと待て その古場の<姫岩の< それは箕面川のあのちょっと曲がったとこやな  富はんのホクロの位置やないか?」 聞いてた女将も興奮気味に身を乗り出した。

  杜夫は話し続けた。 「最近のことやけどな  あるハイカーが風呂ケ谷で足を挫きはってな  そのせいでゆっくりゆっくり下りて来たんで、天狗道から姫岩に下りてきた頃にはもう日がとっぷり暮れ、真っ暗闇になってたそうや。 ところがな その姫岩の近くだけが ボー と明るく、何か光り輝くものが見えたんやそうや・・」  健が叫んだ・・

「そこや そこや! 埋蔵金 そこや!」

  杜夫の話を聞いていた女将は、もう発見したかのように・・ 「そりゃすごいわ! ええ話し聞いたわ その場所やったら大体分かるわ・・」 心の中でほくそ笑んだ。 「今日はええ話し聞いたさかい飲み代 タダにしとくわ! ついでにあんたのツケもみんなタダにしとくわ  それにこのレミーマルタンも一本サービスや! 飲んで 飲んで!」

  女将は早速 「明朝にでもスコップとツルハシ持って行かな・・」 と心の中で目論んでいた。

  健は健で はやる気持ちを抑え、こっそり夜明け前にでも一人で確かめに行く算段をたて、一人ほくそ笑んでいた。

  杜夫は杜夫でいつしか自分の妄想話しに酔いしれ、初めて飲む高級酒に存分に酔いしれ、大金持ちになった気分で、雲の上を歩くがごとく家路についた。

  箕面の森を月明かりがこうこうと照らしている。 秋の夜風が、色づき始めた紅葉の木を揺らし、フクロウかミミズクかが 一羽 啼いた・・・ホー ホー ホー アホー ホー ホホホホ ホ ホ・・

 (完)



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