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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(12)CG

2008-07-16 17:37:38 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(12)CG

すると美保は驚いて姿勢を正した。そして車を下りると声にならないような声で言うと頭を下げた。
「はい、遠いところお疲れ様。初めまして京平の母の良江です。疲れたでしょう。どうぞ。京平、美しい方ね。勿体ないわね貴方には」。
美保は玄関の明かりの下で真っ赤になっていた。そして、そっと私の手を取った。私は荷物を車から出すと肩を抱いて家に入った。
すると父が玄関に立っていた。
「お帰り、美保さんだったかな、良く来てくれました。どうぞ」。
「はい。初めまして、立花美保です。宜しくお願いします」。
美保はもうガチガチに緊張していた。
「美保さん、そんなに堅くならないでもっと気を楽にして、さあ寒いから早く入りなさい。京平」。
美保は突っ張って肩を抱いて押すと転びそうになっていた。
リビングに行くと暖房が入れられ、暖かかった。「今日はいつになく冷えてね、東京のお客さんが何組か泊まっているんだが寒さに驚いていたよ。ところで美保さん、本当に京平と一緒になってくれるのかね」。
「はい、私からお願いしたんです。お嫁さんにして下さいって。離婚したお話は全部聞きました。私一生懸命頑張りますから京平さんとの結婚を許して下さい。お願いです」。と床に両手を着いて両親に頼んでいた。すると、父は美保の手を持つと椅子に座らせた。
「美保さん、私達こそ宜しくお願いします。この通りです」。
父は美保に頭を下げた。すると母はお茶を入れにキッチンへ立った。
「はい、京平さん許して貰えた。嬉しい、どうしよう」。美保は大粒の涙をポロポロと流しながら笑っていた。
「京平さんったら嘘ばっかり、小さいペンションだなんて言って。こんなに大きいじゃない」。
「だってさ、大きくてシーズンに入ったら忙しくて大変だなんて言えないだろ」。すると美保はガンロッカーを見付けて見ていた。
「ねえ、あれは本物なの?・・・」
「本物だよ。父さんも自分も猟をするんだ。あれは強化ガラスで出来ていてね、ライフルの弾も通さないよ。時期が来たら一緒にキジを撃ちに行こうか」。

「美保さん、京平は大学の時にライフルクラブでね、国体にも出ているんですよ。ライフルの腕は私よりづっと上だ」。
「へ~っ凄いだね、お義父さん、京平さんったらそんな事ちっとも話してくれないんですよ。驚かされる事ばっかり」。
「そうかね、じゃあ今夜はもう遅いからゆっくり湯に浸かって休みなさい」。
「はい、本当に有り難うございました。宜しくお願いします」。
父と母はニッコリ頷いていた。私は美保を連れて自分の部屋に行った。そしてパジャマに着替えると風呂に入った。
「え~っ、此れって温泉じゃない」。
「うん、近くに源泉が涌いていてね、そこから引いているんだ。各部屋に風呂があって全部温泉だよ。地下にも露天風の風呂があって、明日見せてやるよ」。
「うん、でも凄いね。ペンションで温泉なんて。じゃあシーズンには忙しいんでしょうね」。
「まあね、最近じゃお年寄りも温泉のあるペンションはナウイとか言ってさ、随分増えてオフでも来てくれるようになったんだ。孰は継ぐ事になるけど、美保は大丈夫だよな」?
「うん。そうなったら私一生懸命頑張って仕事覚えるから。私幸せです。あんなに優しいお父さんやお母さんがいて嬉しい」。
ゆっくり温泉で身体を暖めてベッドに入った。昨日と今日の運転で疲れたのか、私は直ぐに眠ってしまった。
そして翌朝、起きると横には美保はいなかった。着替えて下に降りるとエプロン姿で従業員に交じって客の朝食の手伝いをしていた。
「京平さん、お早よう。どう似合うでしょう」。
「ああ。チーフ、皆さん、嫁さん宜しくね」。
「はいはい、またこんな奇麗な奥さん連れて来て。坊ちゃんも隅に置けないですね。手伝って貰えて助かっていますよ。奥さん、有り難うございます。こっちはもう結構ですから、旦那様の食事の用意をしてあげて下さい」。
「はいチーフ、ではそうさせて戴きます」。
「父さん達はもう食事は済んだの」?
「うん、もう食事を済ませてお客様のお相手をしています」。
「美保、もう今日からでも若女将ができそうだね」。
NO-12-24

小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(11)CG

2008-07-16 17:34:34 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(11)CG

「ううん、私がお嫁さんにして欲しいって頼んだんだもの。それに父がいけないのよ、私を東京なんかの見ず知らずの資産家の家に嫁がせようとするから」。
「美保、まだ七時だから今から行こうか。四時間もあれば行けるからさ。一泊して日曜に帰ってくれば疲れないし」。
「本当に!、じゃあ支度するね。四駆の車買っておいて良かったね」。美保は嬉しそうに押入れから旅行鞄を出して衣類を入れていた。
「車見てくるから」と美保が支度をしているあいだ、物置のジェラルミンケースをトランクに積み込んだ。そして毛布で包んだ。
そして部屋へ戻ると美保は着替えていた。ジーンズに白いテーシャツ姿で待っていた「京平さん着替えは?・・・」
「俺はこれでいいよ。じゃあ隣に頼んで行こうか」部屋を出ると隣の住人に留守にする事を伝えて松本の実家に向かった。
「ねえ京平さん、松本の実家ってどんな所なの」?
「うん、エコーランドって知っている?・・・そこでエルボンって言うペンションをやってるんだ」。
「へえ~っ、エルボン、いらっしゃいか。ステキね」。
「良くフランス語なんて知っているね」。
「うん、私ね、京大でフランス語を専攻していたの。でも少ししか話せないけど。ペンションか、良いなあ」。
「でも、新幹線で美保と会った時はまだ十九か二十歳位だと思ったよ。若く見えるからさ」。
「うん、近所の奥さんにも良く言われるの。二十三だって言うと、え~って目を丸くするのよ、失礼よね」。
「でも良いじゃないか、女性は若く見えるって言うのは。俺なんか仕事で若く見られて損をする時があるよ」。
「そうね、京平さんとても29には見えないもん。私も初めて見た時は私より三つくらい上かなって思ったもん。でも名詞を貰った時、その若さで支社長はないかって、京平さんステキ、疲れたら運転代わるから言ってね」。
「うん、大丈夫だよ。美保こそ疲れたれ寝ていいからね」。
いつもは一人、今は愛する彼女と二人、両親に会わせるのが楽しみだった。
仕事の話し、将来の話し、色々と話しをしながらハンドルを握っていた。車は静清バイバスを興津で下り、国道52号線に入って二十分ほどで山梨県へと入った。耳にはしていたが大型トラックの多い国道だった。そして富沢町へ出ると富士川を右手に走り、身延町へと入った。
「美保、夕飯コンビニのお握りでいいかな」。
「うん、少しでも時間使いたくないから。言おうかなって思っていたの」。
身延のコンビニに寄り、お握りを買うと食べながら走り続けた。そして鰍沢町にはいると小雨が降り始めた。
すると六月の中旬だと言うのに外気が冷えてガラスが曇った。美保はダッシュボードから曇り泊めのスプレーをタオルに吹き掛け、フロントガラスを拭いてくれた。「有り難う、転ぶなよ」
「うん、大丈夫」そして後ろの席に行くと全面にスプレーして曇りを取ってくれた。「仕事のサンプル持って来たんだ」。
「もしかしたら使うかも知れないと思ってさ。多分無駄になると思うけど」。
「全く仕事熱心なんだから」。
美保はなんの疑いも持たず、私の言葉を信じていた。そして車は韮崎市に入り、須玉インターから中央自動車道に入った。
その時間になると降り続いていた小雨も上がり、走りは快適だった。そして諏訪、岡谷、塩尻、松本と過ぎて豊科で下りた。
少し飛ばした事と途中の道が空いていた事もあって、豊科インターを下りて車の時計を見ると十時半を少し回ったところだった。
そして国道147号線を北へ、信濃大町から国道表示が148に代わり、ふと隣の美保を見るといつの間にか眠っていた。
そして木崎湖、青木湖と左手に過ぎて飯盛町から左折して八方方面へ入り、見慣れたペンション村のエコーランドに入った。
そして我が家の前に車を止めた。すると玄関の明かりが付いて、ショールを肩に掛けた母が迎えに出てくれた。
「お帰りなさい。美保さんは」?
「うん、寝ているよ。いま起こすから。美保、着いたよ」。そっと肩をゆすると驚いたように目を明けた。
「いけないっ・・・私寝ちゃった、あとどれくらいなの」。
「フフフッ・・・もう着いたよ、母の良江だ」。
NO-11-22