一刻塚-(NO-11)
こうなったら隠すしかねえって、誰もが外へは漏らすまいと口を封印したんだにの。その後、その二人の遺骨は人知れず無縁仏として村の寺に埋葬したんじゃ。この話しは儂以外ではもう数人しか知らん。
孫の話しじゃその十二人の女学生と二人の男達の内の四人の女学生が殺されたって聞いたが、それは本当ずらか?・・・」。
「ええ。惨い殺され方でした。その事でお聞きに上がったんです、今時祟りとかどうのって言う人はいますがね。私は信じる方でして」。筒井は苦笑いを浮かべた。
「そうかね、だとしたらあの人達は儂の話を聞いて何人かはバカにして笑っておったからの。面白半分で社に踏み入ったかも知れんの。
踏み入った女性は一月に一人づつ殺される。なんてバカな事をしただか」。
老人は呆れた様に皆の顔を見ると写真を手にすると見ていた。
「お爺さん。その1923年に二人の男の人は翌日一人づつ殺されたのに。今度は一年経って五月から一人つづ殺されるの」。麻代は不思議そうに老人を見詰めた。
「それはね、塚に眠る霊の優しさなんだ。社に土足で踏み入った女性に体しては、
その女性が自分のした事を悔いて、社に詫びに来る猶予というか、改心の情を猶予した裁判で言うと執行猶予みたいな一年じゃな。男は極刑って所かの」。
「怖~い。じゃあその祟りを静める方法なんかもあるんですか?・・・」。
麻代の問いに老人は「う~んっ」と、唸る様な溜め息を吐くと麻代を見詰めた。
そして老人の目だけが動き、皆の顔を見て回った。
「爺さん、あるかないのかどっちなんだ」。息子の政伸は覗き込む様に見た。
「ない事もないがの、これは出来ない話しだ」。そう言うとゆっくり腰を上げた。
「お爺さん、出来なくても知っているなら話すべきです。それが塚を守って来た人の役目じゃないでしょうか。・・・アッ済みません生意気な事をいいました」。
麻代は腰を上げると老人に深々と頭を下げた。
老人は頷くと腰を降ろした。
「いえ、何も謝る事はないよ。その通りだの」。
「済みません、私の知り合いも殺されてるものですから」。
「そうだったのかね、それは気の毒な事だったの。偉い刑事さんも居るらしいが此れは決して出来る話しじゃない。
獣と幼子の霊を納め、祟を抑えるには。殺される残りの数の人間と同じ数の幼子を塚に生きたまま埋葬するしか方法はない。無理じゃろ」と、老人は席を立った。
唖然と老人の背中を見送る刑事達と猿渡と麻代だった。
「そんなッ!、じゃあ私達は何しに来たの。ただ原因を知っただけであの人達が殺されるのを黙って見守るしかないの」。麻代は愕然と腰を降ろした。
「麻代、みんなも同じ気持ちなんだよ。山田さん、それで供養祭っていつなんです。その日以外に社の中へは入れないんですか?・・・」
「いえ、供養祭は九月二十三日の秋分の日ですが、山田家の人間が一緒ならいつでも入る事は許されてます。その前に供養しなければなりませんが」。
「そうですか、それで山田さんが業々来てくれた分けですか」。
「ええ、そう言うことです。ただ午前六時前と午後六時以降は決して入るなと言い伝えられていまして、死霊が取り憑くと言われてます」。
「怖~い、そんな事って本当にあるんですか」麻代は心なし身震いしていた。
すると、山田刑事の父親の政伸がゆっくり顔を上げた。そして麻代を見た。
「奥さん、これは私が子供の頃に父から聞いた話しですがね。私には三つ違いの兄がいたんです。その兄が六つの時に村の友達数人とあの社で遊んでいたそうです。
その遊びと言うのは隠れん坊でした。
兄は六時過ぎに社の中へ隠れたんだそうです。友達は親から何があっても社には入ってはいけないと言われていましたから、いくら隠れん坊でもはいらなかったそうです。
その晩、廊下を走り回る音で起こされた父と母は、兄が犬や猫の様に四つ足で歩き回っていたのを見たそうです。
それで翌朝、一緒に遊んでいた友達に聞いたら。社の中へ隠れたと話したそうです。食事も座っては食べられず、皿に盛ると口を付けて食べていたそうです。
それから一日二日と経つに連れて顔付きも犬の様になり、歯も犬や猫の様に牙が突き出して来たそうです」。そう話すと暗く重苦しい表情を見せた。
「それで亡くなったんですか、元に戻ったんですか」麻代は真っ青な顔だった。
「いえ、それから父は兄を山にある炭焼き小屋に連れて行って隔離したそうです。
それで翌日、食事を持って行くと兄は壁を壊して逃げ出して消えていたそうです。
それから村の人を頼んで何日も山狩したそうですが、見付からなかったそうです。死んだのか、まだこの村の何処かで生きているのか分かりません」。
「ご主人、まさか?・・・」と、猿渡はその先を言おうか迷い言葉を飲み込んだ。
「ええ。夕べ息子から四人の女性の惨い殺され方を聞いて、もしかしたら犯人は兄の貴雄が生きているか死霊になって祟っているのかと」。
NO-11-20
こうなったら隠すしかねえって、誰もが外へは漏らすまいと口を封印したんだにの。その後、その二人の遺骨は人知れず無縁仏として村の寺に埋葬したんじゃ。この話しは儂以外ではもう数人しか知らん。
孫の話しじゃその十二人の女学生と二人の男達の内の四人の女学生が殺されたって聞いたが、それは本当ずらか?・・・」。
「ええ。惨い殺され方でした。その事でお聞きに上がったんです、今時祟りとかどうのって言う人はいますがね。私は信じる方でして」。筒井は苦笑いを浮かべた。
「そうかね、だとしたらあの人達は儂の話を聞いて何人かはバカにして笑っておったからの。面白半分で社に踏み入ったかも知れんの。
踏み入った女性は一月に一人づつ殺される。なんてバカな事をしただか」。
老人は呆れた様に皆の顔を見ると写真を手にすると見ていた。
「お爺さん。その1923年に二人の男の人は翌日一人づつ殺されたのに。今度は一年経って五月から一人つづ殺されるの」。麻代は不思議そうに老人を見詰めた。
「それはね、塚に眠る霊の優しさなんだ。社に土足で踏み入った女性に体しては、
その女性が自分のした事を悔いて、社に詫びに来る猶予というか、改心の情を猶予した裁判で言うと執行猶予みたいな一年じゃな。男は極刑って所かの」。
「怖~い。じゃあその祟りを静める方法なんかもあるんですか?・・・」。
麻代の問いに老人は「う~んっ」と、唸る様な溜め息を吐くと麻代を見詰めた。
そして老人の目だけが動き、皆の顔を見て回った。
「爺さん、あるかないのかどっちなんだ」。息子の政伸は覗き込む様に見た。
「ない事もないがの、これは出来ない話しだ」。そう言うとゆっくり腰を上げた。
「お爺さん、出来なくても知っているなら話すべきです。それが塚を守って来た人の役目じゃないでしょうか。・・・アッ済みません生意気な事をいいました」。
麻代は腰を上げると老人に深々と頭を下げた。
老人は頷くと腰を降ろした。
「いえ、何も謝る事はないよ。その通りだの」。
「済みません、私の知り合いも殺されてるものですから」。
「そうだったのかね、それは気の毒な事だったの。偉い刑事さんも居るらしいが此れは決して出来る話しじゃない。
獣と幼子の霊を納め、祟を抑えるには。殺される残りの数の人間と同じ数の幼子を塚に生きたまま埋葬するしか方法はない。無理じゃろ」と、老人は席を立った。
唖然と老人の背中を見送る刑事達と猿渡と麻代だった。
「そんなッ!、じゃあ私達は何しに来たの。ただ原因を知っただけであの人達が殺されるのを黙って見守るしかないの」。麻代は愕然と腰を降ろした。
「麻代、みんなも同じ気持ちなんだよ。山田さん、それで供養祭っていつなんです。その日以外に社の中へは入れないんですか?・・・」
「いえ、供養祭は九月二十三日の秋分の日ですが、山田家の人間が一緒ならいつでも入る事は許されてます。その前に供養しなければなりませんが」。
「そうですか、それで山田さんが業々来てくれた分けですか」。
「ええ、そう言うことです。ただ午前六時前と午後六時以降は決して入るなと言い伝えられていまして、死霊が取り憑くと言われてます」。
「怖~い、そんな事って本当にあるんですか」麻代は心なし身震いしていた。
すると、山田刑事の父親の政伸がゆっくり顔を上げた。そして麻代を見た。
「奥さん、これは私が子供の頃に父から聞いた話しですがね。私には三つ違いの兄がいたんです。その兄が六つの時に村の友達数人とあの社で遊んでいたそうです。
その遊びと言うのは隠れん坊でした。
兄は六時過ぎに社の中へ隠れたんだそうです。友達は親から何があっても社には入ってはいけないと言われていましたから、いくら隠れん坊でもはいらなかったそうです。
その晩、廊下を走り回る音で起こされた父と母は、兄が犬や猫の様に四つ足で歩き回っていたのを見たそうです。
それで翌朝、一緒に遊んでいた友達に聞いたら。社の中へ隠れたと話したそうです。食事も座っては食べられず、皿に盛ると口を付けて食べていたそうです。
それから一日二日と経つに連れて顔付きも犬の様になり、歯も犬や猫の様に牙が突き出して来たそうです」。そう話すと暗く重苦しい表情を見せた。
「それで亡くなったんですか、元に戻ったんですか」麻代は真っ青な顔だった。
「いえ、それから父は兄を山にある炭焼き小屋に連れて行って隔離したそうです。
それで翌日、食事を持って行くと兄は壁を壊して逃げ出して消えていたそうです。
それから村の人を頼んで何日も山狩したそうですが、見付からなかったそうです。死んだのか、まだこの村の何処かで生きているのか分かりません」。
「ご主人、まさか?・・・」と、猿渡はその先を言おうか迷い言葉を飲み込んだ。
「ええ。夕べ息子から四人の女性の惨い殺され方を聞いて、もしかしたら犯人は兄の貴雄が生きているか死霊になって祟っているのかと」。
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