一刻塚-(NO-13)
山田刑事は腕の時計を見た。既に午後四時を回っていた。
山田刑事は筒井に時計を見せると首を振った。「これからじゃ無理です、六時を回ってしまいます」。
「うん、施錠して明日午前六時過ぎからにしよう」。
山田刑事は頷くとガチャッと音をさせて施錠した。そして言葉少なに引き上げた。
「ねえ啓太さん、あれは人なの?・・」麻代は猿渡の腕にしっかりつかまっていた。
「うん、たぶん行方不明になっている記者の馬場信雄とカメラマンの仁科孝司だろう。でもどうやって中に入ったんだ。回廊を見たけど扉は開いてなかったけど」。
「たぶん回廊の下の板を外して入ったんでしょう、スコップとツルハシがありました。あの二人は盗掘しに入ったんですね。バカな奴等です」。
そう冷たく死者を言う山田刑事の背中を見ていた猿渡は、冷酷な一面を見た様な気がしていた。筒井は何て言うのか黙って足を運んでいた。
「山田刑事、死んだ者は誰でも仏様だ。バカは止した方がいい」。そう言うと山田刑事の肩をポンと叩く筒井だった。
「済みませんでした。以後気を付けます」と、山田刑事は素直に詫びていた。そして、雑木林を抜けて駐車場に出ると帰った筈の大谷刑事がいた。
「筒井警部補、社に死体があった事を報告しました。直ぐに鑑識が来るそうです」
「バカ者ッ!貴様は同僚を殺す気かッ!直ぐに間違いだったと報告しろッ!」
その筒井の凄まじさは半端ではなかった。大谷刑事は蒼白すると後ずさった。
「山田刑事、すぐに報告を撤回したまえ」。山田は車のドアを開けると無線を持った。そして、大谷刑事の報告は未確認だった事を報告した。
「貴様ッ!誰の許可を得て報告した。貴様の様なワンマンな警察官は辞めてしまえ。この事は県警本部長に報告するからな。
大谷と言う刑事は自分の保身だけで同僚をいたわる心のない警察官だとな。証人は猿渡元警視正殿になって貰う」。筒井はそう言うと猿渡を見た。
エッ・・・猿渡元警視正・・・大谷はそう口にすると膝から崩れた。
「大谷さん、自分の自我だけで生きては行けないんですよ。筒井さんの言う事の方が正しい。あの二人はどうして死んだか考えなかったんですか。
迷信とか祟りで死んだのではないとしても、その可能性が少しでもあるのなら、危険な所へ同僚を呼び寄せる事は何を意味するか。それが分からない警察官は警察官としては不適格ですね」。
猿渡はそう言うと麻代を連れて宿に歩き出した。
そして三人の刑事も大谷刑事を見捨てる様に残して猿渡の後を小走りに追った。
そして宿に着くと。俺は絶対に信じないぞッ!と、大谷刑事の叫びにも似た声が薄暗くなった夕闇に響いた。猿渡は時計を見た、五時半を回っていた。
「筒井さん、もしかしたら彼は?・・・」。
「好きにさせろ、私達は言う事は言った。たとえ警視総監が話しても聴かないだろう、後は彼自身が決める事だ」と、筒井は振り向く事もなく玄関を入った。
「啓太さんどうするの?・・筒井さんの言う通り放っておいて本当にいいの」。
「俺も先輩の考えと同じだ、死にたい奴は死ねばいい。どっちにしても彼はこの先同僚を危険な目に合わせるだろう。人として警察官としては失格だからな」。
「自分もそう思いますよ、あの性格では一緒に仕事してきた山田刑事も大変だったでしょうね。その内に言われた事が彼にもきっと分かる時が来ますよ」
と、南田刑事からも言われ、返す言葉もなく麻代は猿渡の腕を取ると玄関を入った。ス~ッと涼しい空気が汗ばんだ重苦しい体を優しく包んだ。
部屋に戻ると浴衣を持って家族風呂に二人で入った。そして浴衣姿でラウンジへ。
そこには筒井と南田も浴衣で二人で待っていた。
「遅くなりました、夕食にしますか」猿渡はそう言いながら筒井の正面に座った。
「麻代さんの浴衣姿もいいね、いま篠ノ井署に電話したんだが大谷刑事は戻ってないそうだ。全くあの刑事は何を考えているんだ」。
筒井は心配そうに麻代から猿渡を見ると真っ暗な庭を見詰めた、そして不意に猿渡に視線を戻すと大きく目を見開いた。
「おい、まさか奴は」と、南田に視線を移した。麻代は筒井の背後に来た山田刑事を見ていた。
「警部補、いいじゃないですか。あれだけ話しても分からないんです、それで彼が納得するなら。もし行っていたとすれば手遅れですよ」。
筒井は驚いた様に振り返った。確かに山田の言う通りだと猿渡も小さく頷いた。
「しかしだな」と、筒井は動揺を隠せないまま立ち上がった。そして、ラウンジの時計を見ると、午後六時十五分、溜め息を吐くと静かに腰を降ろした。
「大谷もバカじゃありませんから心配要りませんよ、夕食の支度が出来ていますから」。山田刑事はそう言うと「どうぞ」と、皆を食堂に案内した。
行くと、こんなに客がいたのかと猿渡達は驚いた。しかも若い女性客が八割りを占めていた。「山田さん、こんな所と言っては失礼ですが。この人達は」。
NO-13-24
山田刑事は腕の時計を見た。既に午後四時を回っていた。
山田刑事は筒井に時計を見せると首を振った。「これからじゃ無理です、六時を回ってしまいます」。
「うん、施錠して明日午前六時過ぎからにしよう」。
山田刑事は頷くとガチャッと音をさせて施錠した。そして言葉少なに引き上げた。
「ねえ啓太さん、あれは人なの?・・」麻代は猿渡の腕にしっかりつかまっていた。
「うん、たぶん行方不明になっている記者の馬場信雄とカメラマンの仁科孝司だろう。でもどうやって中に入ったんだ。回廊を見たけど扉は開いてなかったけど」。
「たぶん回廊の下の板を外して入ったんでしょう、スコップとツルハシがありました。あの二人は盗掘しに入ったんですね。バカな奴等です」。
そう冷たく死者を言う山田刑事の背中を見ていた猿渡は、冷酷な一面を見た様な気がしていた。筒井は何て言うのか黙って足を運んでいた。
「山田刑事、死んだ者は誰でも仏様だ。バカは止した方がいい」。そう言うと山田刑事の肩をポンと叩く筒井だった。
「済みませんでした。以後気を付けます」と、山田刑事は素直に詫びていた。そして、雑木林を抜けて駐車場に出ると帰った筈の大谷刑事がいた。
「筒井警部補、社に死体があった事を報告しました。直ぐに鑑識が来るそうです」
「バカ者ッ!貴様は同僚を殺す気かッ!直ぐに間違いだったと報告しろッ!」
その筒井の凄まじさは半端ではなかった。大谷刑事は蒼白すると後ずさった。
「山田刑事、すぐに報告を撤回したまえ」。山田は車のドアを開けると無線を持った。そして、大谷刑事の報告は未確認だった事を報告した。
「貴様ッ!誰の許可を得て報告した。貴様の様なワンマンな警察官は辞めてしまえ。この事は県警本部長に報告するからな。
大谷と言う刑事は自分の保身だけで同僚をいたわる心のない警察官だとな。証人は猿渡元警視正殿になって貰う」。筒井はそう言うと猿渡を見た。
エッ・・・猿渡元警視正・・・大谷はそう口にすると膝から崩れた。
「大谷さん、自分の自我だけで生きては行けないんですよ。筒井さんの言う事の方が正しい。あの二人はどうして死んだか考えなかったんですか。
迷信とか祟りで死んだのではないとしても、その可能性が少しでもあるのなら、危険な所へ同僚を呼び寄せる事は何を意味するか。それが分からない警察官は警察官としては不適格ですね」。
猿渡はそう言うと麻代を連れて宿に歩き出した。
そして三人の刑事も大谷刑事を見捨てる様に残して猿渡の後を小走りに追った。
そして宿に着くと。俺は絶対に信じないぞッ!と、大谷刑事の叫びにも似た声が薄暗くなった夕闇に響いた。猿渡は時計を見た、五時半を回っていた。
「筒井さん、もしかしたら彼は?・・・」。
「好きにさせろ、私達は言う事は言った。たとえ警視総監が話しても聴かないだろう、後は彼自身が決める事だ」と、筒井は振り向く事もなく玄関を入った。
「啓太さんどうするの?・・筒井さんの言う通り放っておいて本当にいいの」。
「俺も先輩の考えと同じだ、死にたい奴は死ねばいい。どっちにしても彼はこの先同僚を危険な目に合わせるだろう。人として警察官としては失格だからな」。
「自分もそう思いますよ、あの性格では一緒に仕事してきた山田刑事も大変だったでしょうね。その内に言われた事が彼にもきっと分かる時が来ますよ」
と、南田刑事からも言われ、返す言葉もなく麻代は猿渡の腕を取ると玄関を入った。ス~ッと涼しい空気が汗ばんだ重苦しい体を優しく包んだ。
部屋に戻ると浴衣を持って家族風呂に二人で入った。そして浴衣姿でラウンジへ。
そこには筒井と南田も浴衣で二人で待っていた。
「遅くなりました、夕食にしますか」猿渡はそう言いながら筒井の正面に座った。
「麻代さんの浴衣姿もいいね、いま篠ノ井署に電話したんだが大谷刑事は戻ってないそうだ。全くあの刑事は何を考えているんだ」。
筒井は心配そうに麻代から猿渡を見ると真っ暗な庭を見詰めた、そして不意に猿渡に視線を戻すと大きく目を見開いた。
「おい、まさか奴は」と、南田に視線を移した。麻代は筒井の背後に来た山田刑事を見ていた。
「警部補、いいじゃないですか。あれだけ話しても分からないんです、それで彼が納得するなら。もし行っていたとすれば手遅れですよ」。
筒井は驚いた様に振り返った。確かに山田の言う通りだと猿渡も小さく頷いた。
「しかしだな」と、筒井は動揺を隠せないまま立ち上がった。そして、ラウンジの時計を見ると、午後六時十五分、溜め息を吐くと静かに腰を降ろした。
「大谷もバカじゃありませんから心配要りませんよ、夕食の支度が出来ていますから」。山田刑事はそう言うと「どうぞ」と、皆を食堂に案内した。
行くと、こんなに客がいたのかと猿渡達は驚いた。しかも若い女性客が八割りを占めていた。「山田さん、こんな所と言っては失礼ですが。この人達は」。
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